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The Best of Earl Palmer その21

気がつけば、はや師走になりにけり、でありまして、いやまったくもって驚いたものです。21世紀が来たときも、予想よりずいぶん早かったと思いましたが、そこから先がまた超高速の早廻しで、これが映画だったら、チラチラと光と影が交錯するだけで、いったいなにが映されているのかさっぱりわからないのじゃないかと思います。ほら、映画『タイム・マシン』の時間跳躍シークェンス。

すこしでも時間の地滑り現象に歯止めをかけようという悪あがきではないのですが、去年のいまごろは、と思い起こしてみました。昔、FENで毎週土曜の午後に、ケイシー・ケイサムのAmerican Top 40 Coundownという番組が放送されていました。その中盤あたりに、The Time-Machineというコーナーがあって、たとえば、十年前の今日、この曲がナンバーワンだった、なんてんで大昔の曲をかけていました。あれと同じ気分で、去年の今日、当家ではどんな曲を取り上げていたかというと、テンプテーションズのRudolph the Red-Nosed Reindeerでした。

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去年は十一月の終わりから、大々的なクリスマス・ソング特集をやったのですが、その後に当家を「発見」されたお客様のほうがずっと多いので、そんなことはご存知ないむきもすくなくないのではないかと思います。思い起こせば、デパートのように「年内無休」を宣言し、歳末セールのごとく盛大に、楽曲およびヴァージョンをふりまいたものです。曲によっては60種以上のヴァージョンを聴いたのだから、気ちがい沙汰です。

今年はどうしようかなあ、と一応は考えたのですが、結論は五秒で出ました。あんな馬鹿騒ぎは二度とできない、です。そもそも、クリスマス・ソングの精華の七割ぐらいは、去年の特集ですでに「済」ハンコを押しました。今年、クリスマス・ソングを取り上げるにしても、ほんの数曲、もっと押し迫ってからのことにします。それも、「気が向いたら」とお断りしておきます。

で、思うのですが、下のリンクにクリスマス・ソング特集の楽曲リストがあります。今年はそれをご利用いただいたらどうでしょうか? いまは、ひところのように頻繁に更新できる状態ではないので、新しい記事がアップされたかどうかと確認にいらしたついでに、「去年の今日」のクリスマス・ソングなどご覧いただけたら、あのとんでもない苦行も報われるというものでしょう。

最近、ひととおりこのクリスマス・ソング特集を読み直したのですが、訂正するべきミスを放置していたりはするものの、おおむね、そんじょそこらでは読めない記事になっていると、おおいなる自信を得ました。胸を張って、古い記事をどうぞ、と申し上げるしだいです。なんなら、これから毎日、「去年の今日」へのリンクだけをアップしてもいいくらいです。

ということで、いちおう、今月の予定を申し上げておくと、まもなく、たぶん今週いっぱいでアール・パーマー特集は終わります。そのあとは、中断している二つの企画、映画テレビ音楽と、スティーヴ・ウィンウッド特集のどちらかを再開するのが筋でしょう。ウィンウッドはトラフィック時代に入るわけで、なにを書くかは自分で予想がついてしまい、気分が盛り上がらないので、映画テレビ音楽のほうを復活させる予定です。そのつもりでこのところ準備を進めています。

◆ The Righteous Brothers - (You're My) Soul and Inspiration ◆◆
この曲には、すでにThe Best of Earl Palmer その10のときに軽くふれています。その繰り返しになってしまいますが、これは一見するところ、典型的なフィル・スペクター・サウンドになっているものの、じっさいにはスペクターは無関係で、プロデューサーはライチャウスの片割れ、低いほうを歌っているビル・メドリーです。

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スペクターは、この曲がナンバーワンになったことにも腹が立ったようですが、一見するところ、スペクター作品にしか思えないサウンドになっていることのほうにショックを受けたようです。仔細に聴けば、なんとなく、ひと味足りない、または、煮込み時間が短い即席のように思えてくるのですが、それだって、ブラインド・テストされ、さあ、丁か半か、持ち金をみんな張れ、といわれたら、額にジワッと汗の玉が浮いてくるような、判断に苦しむ微妙なちがいです。

この曲がチャートトッパーになったのは、たぶんI-IV-V進行(キーに即していえばB-E-F#)のコーラスの力強さ、単純さのおかげではないでしょうか。ヴァースはそれほど面白いとは思えません。人海戦術とゴールド・スター・スタジオの深いリヴァーブによるドラマティックな盛り上げの勝利です。当然、その盛り上げにアール・パーマーも貢献していますが、どちらかというと、目立っているのはかなり口径の大きなハンド・シンバルのほうです。でも、例によって、チャートトッパーの実績は無視できない、ということでこの曲もリストアップしました。

◆ Ike & Tina Turner - River Deep, Mountain High ◆◆
(You're My) Soul and Inspirationとほぼ同時期に録音された、こちらは本家本元による正真正銘のスペクター・サウンドです。チャート・アクションがすべてとはいいません。しかし、金が人生のすべてではないにしても、「ほぼすべて」ではあるように、ポップ・ミュージックにとっても、チャート・アクションは「ほぼすべて」です。

どんなにくだらない曲でもヒットすれば勝ち、どんなに見事なサウンドでもフロップすればゼロです。「ヒットはしなかったけれど、いい出来だった」なんていう感傷的な世迷い言は、ファンだけがいうことであって、資本をかけてつくり、売っているほうにいわせれば、売れなかったものなんか、みんな地獄に堕ちやがれ、なのです。売れないというのは、まさに地獄そのものなので、そんなことをいわなくたって、すでに墜ちていますがね。

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スペクターが百万ドルだかなんだかでヴァーヴに下取りさせたライチャウスは、スペクターのスタッフとスペクターのスタジオの力によって、みごとにチャート・トッパーを得ました。それに対して、スペクターのほうは、コケもコケたり、これ以上みごとなコケ方はだれにもできないだろうという、惨憺たる失敗。ビルボード・チャートに関するかぎり、バブリング・アンダー・チャートにすらまったく痕跡を残さず、みごとにゼロだったのです。

イギリスではナンバーワンになったとかいう話ですが、あなた、そんなことになんの意味があるのか、そのへんをきちんと考えなさいな、というのですよ。アメリカ音楽界から見れば、ビルボード・チャート以外に、チャートと呼べるものはこの世界には存在しません。当たり前でしょ、そんなことは!

イギリスでナンバーワンになったなんて、ティンブクトゥーでナンバーワンになったのとたいした違いはありません。ただの残念賞、実質的価値はゼロです。3Aの選手が韓国に行って首位打者になったら、大リーグで大評判になりますか? 国内でそこそこまでいったのならともかく、ビルボード・チャートからみれば「まったく存在しなかった曲」が、イギリスくんだりでナンバーワンになろうが、せいぜい笑い話の種にされるのがいいところです。

ということで、いかにもスペクターにふさわしい、これ以上はないみごとな大コケをしたRiver Deep, Mountain Highは、よくあるように、勘違いが生んだフロップなのだと思います。

前々回のJust Once in My Lifeのところで書いたように、スペクターは自分のことを「天才」だと確信したのではないでしょうか。それも無理はないと思いますが、ヒット・チャートというのはそれほど甘いものではありません。スペクターはそういう下世話なことに気づくほどの所帯じみた感覚は持っていなかったのでしょう。

ポップ・ミュージックのリスナーというのは、天才なんかには洟もひっかけないものです。一般リスナーが上れる高さというのは青天井ではなく、じつはかなり低いところ、五合目すら怪しく、三合目ぐらいではないのでしょうか。これが抑止力となって、ポップ・ミュージックはお芸術への致命的堕落を免れているのです。これがないと、自称他称の「天才」がのさばって、クラシックやジャズのように、幻想の権威が幅を利かすことになってしまいます。売れなくても、いや、「売れないと」褒められるなんていう退廃的体質は、最悪の変質者を生む悪しき温床です。

スペクターは、自分が行くところなら、リスナーはどこまでもついてくると思ってしまったのでしょう。Lovin' Feelin'やJust Once in My Lifeぐらいまでなら、スペクター自身を満足させる高踏性、ハイ・ブロウな味わいと、一般リスナーの耳に魅力的に響く楽曲とアレンジが、うまくバランスをとっていました。それが、この二曲で「俺は天才だ」と思ったかなにかして、バランスが崩れたのだと感じます。

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フィル・スペクターが力を込めてつくったシングルだから、River Deep, Mountain Highは、上もののティナ・ターナーのヴォーカル・レンディションから、アール・パーマーを筆頭とするバンドのプレイにいたるまで、いずれも素晴らしい出来です。キャロル・ケイがいっていましたが、複数のベースがユニゾンでプレイするのはしじゅうのことだったけれど、この曲のベースは四本で、そんなことは後にも先にもこのときだけだったそうです。

たしかにすごいサウンドです。そして、わたしはすごいサウンドが大好きです。しかし、「すごいなあ」と圧倒される思いで聴いているときに、ふと、背中が寒くなるような感覚をおぼえるのはどういうことなのでしょう。

感覚的ないい方で恐縮ですが、フィル・スペクターは、いつだってリスナーを見下ろして音楽をつくっていたと思います。そこまでなら問題ありません。しかし、かつては、いかに人を見下ろそうと、音楽を見下ろすような態度はとったことがないのではないでしょうか。

ライチャウスの成功の結果、いろいろなことがバランスを崩したと感じますが、もっとも大きな変調は、スペクターがリスナーのみならず、音楽それ自体も自分より下にあるものと考えるようになったことではないか、などという妄想をしています。River Deep, Mountain Highのプロダクションには、「神の手つき」のようなものが見え隠れし、それが不快に感じられるのです。

いや、なんだかボロクソに貶しているみたいですが、そういうことではありません。フィル・スペクターの「人生最大の失敗作」ともなれば、たいていの人間の畢生の大成功作なんかよりよほど面白いし、音楽的な価値もあります。あらゆる分析に耐えうるものなので、イギリスではナンバーワンになった、などという世にも馬鹿馬鹿しいいいぐさで、この曲の失敗を簡単に片づける人間はみな正気ではないといいたいだけです。もう一度、スペクターがつくった音に向き合い、なにがあり、なにがないのか、微細に検討しなければいけないのです。

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再会したかつてのスペクターズ・アーミーの面々。右からアール・パーマー、ジャック・ニーチー、フィル・スペクター、ライル・リッツ、そしてハル・ブレイン。

いや、目下、当家はアール・パーマー特集のさなか、スペクターの畢生の大失敗のことはさておき、アールのプレイを見なければいけないのでありました。いや、基本的には、大ヒット曲の場合と同じで、音楽史に残る大失敗作のストゥールに坐っていたことそれ自体に「価値」があるのですがね。

And it gets higher day by dayとAnd do I love you my oh myのあいだのフィルインを筆頭に、これにつづくコーラスでのプレイは圧倒的です。こういう曲はやっていて楽しいでしょう。わたしは子どものころ、ロックコンボで叩いた経験しかありませんが、職業としてドラムを叩くなら、バンドの規模は大きければ大きいほど楽しいだろうと想像します。ドラムが活躍できること、という条件も導入すると、やはり理想はビッグバンドでしょう。「フィル・スペクター・オーケストラ」におけるアールは、プレイを楽しんでいると感じます。

最後に、じゃあ、イギリスではチャート・トッパーになったのはどういうことか、という説明をつけておきます。それは、日本でずいぶん遅れてヴェンチャーズがヒットしたように、フィル・スペクターのブームがくるのが、イギリスでは一歩遅れ、あのときがピークだったからです。ブームのピークにあるときは、クソもミソもいっしょに売れるものです。それだけの世にもくだらない単純なことなのだから、イギリスでのチャート・トッパーなんてことを持ち出して、River Deep, Mountain Highの歴史的大失敗の意義を読み取る努力を放棄する愚は、そろそろおしまいにするべきです。

◆ The Monkees - Tapioca Tundra ◆◆
右のリンクから行けるAdd More Musicには、モンキーズ・セッションの詳細なパーソネルがあるのですが、この曲は残念ながら不明とされています。AMMの木村さんが典拠とされたのはオリジナル・アルバムのストレート・リイシューのクレジットでしょうから、わたしは手元にあるボックスのパーソネルを見てみましたが、こちらもマイケル・ネスミスがリード・ヴォーカル(そんなことはいわれなくてもわかる!)と書いてあるだけで、バンドは不明になっていました。

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Tapioca Tundraはアール・パーマーの伝記のディスコグラフィーにはリストアップされています。こういう記録の空白を埋める証言はありがたいものです。アールがストゥールに坐ったということは、他のメンバーも、このアルバムのアールがプレイした他の曲と同じだと仮定してよいことになります(一回のセッションで複数の曲が録音される)。ということは、なかなか楽しいプレイをしているベースはマックス・ベネットなのしょう。ジョー・オズボーンにもキャロル・ケイにも聞こえないので、マックス・ベネットと措定してもわたしは矛盾を感じません。

アール・パーマーのプレイとしては、Sunshine, ragtime, blowing in the breezeあたりの全力疾走の16分の連打が聴きどころでしょう。テイク10ぐらいから、ふー、俺も年だぜ、とボヤきが入りはじめたのではないでしょうか!

◆ インターミッション変じて「アフターミッション」 ◆◆
このあいだ、数十年ぶりに『80日間世界一周』のオリジナルに再見したのですが、『2001年宇宙の旅』のように、「休憩」タイムがあって、ああそうだったっけ、でした。三時間を超えるような大作には、よくIntermissionがありました。90分というふつうの長さなのに、シャレで休憩が入るHelp!なんていう映画もありましたが!

スペクターのトラックを取り上げると、みなさんはどうか知りませんが、わたしはおそろしく消耗し、子どものころ映画館で見た「Intermission」の文字がよみがえります。あのころは元気いっぱいだったので、三時間だろうが、三時間半だろうが、画面を見つづけても一向に平気だったのですがね。

f0147840_2338390.jpgえーと、なんのための休憩かというと、休憩に目的があっては休憩ではなくなってしまいますが、それはさておき、お断りがあるからです。The Best of Earl Palmer その18に掲載したトラック・リスティングでは、ここにMission ImpossibleとIn the Heat of the Night、そして、ルー・ロウルズのDead End Streetがあったのですが、都合により、この三曲はオミットさせていただきます。

理由は複数あります。Mission ImpossibleとIn the Heat of the Nightに関しては、近々、べつの形で取り上げる予定なので、この特集からははずすことにしました。いや、どちらも非常に好きな曲なので、「現物」には予定通り収録します。たんに、記事としては別立てにするというにすぎません。重複を避けるための措置です。

ルー・ロウルズも「現物」には入れますが、ちょっとスピードアップして、今週中に終わるために、重要性の低いものは記事からカットしようという意図です。ルー・ロウルズ・ファンの方には、「どうかあしからず」と申し上げます。

あれ? 中途の休憩だったはずなのですが、もはやタイム・イズ・タイト、スペースもタイト、本日はこれにて擱筆と相成り候。残りは後日ということにさせていただきます。次回完結を目指してはいますが、はて、どうなることでありましょうか。


by songsf4s | 2008-12-03 22:06 | ドラマー特集