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The Best of Earl Palmer その20

よその国の施策をとやこういうつもりは毛頭ないのですが、ヴェンチャーズの「カルカッタ」のときに書いたように、地名変更というのには困惑します。独立から何十年もたって、なぜそんなことを思いたったのか、その理由は寡聞にして知りませんが、インドはイギリス人たちが使っていた地名を修正することに決めたようで、もはやわれわれが子どものころに習った地理が通用しない国になってしまいました。

Calcuttaほど有名な曲ではありませんが、ムンバイならぬボンベイをタイトルにした曲もあります。やはりヴェンチャーズもやっていますが、わたしとしては「シャドウズの」といいたい、Bombay Duckです。たいした出来ではないのですが、最初に買った、そして、数カ月後に友人に貸したら紛失されてしまったシャドウズのLPに入っていたので、いまだになんとなく気が残っている曲です。

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ちなみに、ボンベイ・ダックとはどんな鳥かと思ったら、魚だそうで、干し肉をカレーに入れるのだとか。こういうのもやはり改称して「ムンバイ・ダック」になっているのでしょうかね。不便なことです。

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名詞というのはむやみに変更してはいけないものです。小説家は名詞をいかに使うかが勝負なのだと、たしか、三島由紀夫がいっていました。最近、某BBSで、母親殺しのドラマーを大々的に褒めている人間もいるじゃないか、詐欺でパクられた人間の作品だからといって、盤の発売を取りやめるのは筋違いだ、などとダシにされたのですが、テロリストの小説家も、小説が面白いとはいわないものの、この百年ぐらいでいうなら、最高の日本語使いのひとりだった、と大々的に賞賛しておきます。三島の上を行くのはただひとり、久生十蘭あるのみ。

ついでにいうと、わたしも、あのリリース中止は愚の骨頂だと思います。犯罪と音楽の価値のあいだに、いったいどういう関係があるのか、教えてほしいものです。いや、わたしはあのライター/プロデューサーがつくった音楽がいいとか悪いとかいっているわけではありません。どんな曲をつくったのかまったく知らない(タイトルをひとつあげれば百万円といわれても、やっぱりひとつも知らない!)ので、褒めたり貶したりする資格ははじめからないのです。たんに、犯罪は犯罪、音楽は音楽、まったくべつのことであり、レコード会社はもっと音楽に対して尊敬の念をもたねばいけないといいたいだけです。人間に対する尊敬も軽蔑も一切無用、でも、音楽だけは尊敬するのが、音楽で食べている人間の道というものでしょう。

えーと、なんの話だったか、ボンベイとムンバイ、カルカッタとコルカタのことでした。まあ、インド人にいわせれば、旧宗主国の人間が、自分たちが勝手にねじ曲げた地名をタイトルに使ってくだらない曲を書いただけのことで、それこそ、殲滅するべき過去なのかもしれません。日本だって、占領が終わったら、「アーニー・パイル劇場」なんて、あっさり元に戻しましたものね(有楽座か、日比谷劇場か、それともさらにべつの劇場のことだったか、忘れてしまったが)。

考えてみると、過去の由緒正しい地名を復活させること自体は、賛成できる考え方です。わたしの本籍地は東京都中野区千光前町というところだったのですが、ある日、葉書が舞い込み、千光前町はなくなった、今後は中野区中野×-×-×となる、と言い渡されました。おいおい、勝手に独り決めで他人様の本籍地の呼び名を変えるんじゃないぞ>中野区。

戦後、東京には汚らしくて惨めったらしい地名がたくさん誕生しました。なかでも無惨なのは千代田区外神田です。わたしの家は、江戸時代、あそこに店をもっていたので(時代劇では悪役と決まっている、「フッフッフ、おぬしもワルよのう、越前屋」といわれるその越前屋さんと同業の両替商。ほら、美女の帯をつかんでクルクルクルという、あの廻し技を家伝としている家柄、って、そんなことをやっていたらおたなは潰れるので、あれはテレビだけのお話。代官の子孫たちと相談がまとまったら、訴えてやるからな、テレビ屋ども!)、由緒正しい地名に戻さなければいけないと思っています。うーん、今日の枕は腰砕け。ムンバイけっこう、コルカタけっこう、ボンベイもカルカッタもゴミ箱に叩き込んでやれ、ついでに、千代田区外神田と中野区中野は即刻元に戻せ!

あ、そうそう、ここは音楽ブログ、ボンベイにはもう1曲、イッツ・ア・ビューティフル・デイのBombay Callingなんていうのもありました。例の印象的なジャケットのデビュー盤に収録されたもので、よく聴いたアルバムだから、こちらもそれなりに思い入れがあります。嗚呼、懐かしき哉、ボンベイ夕照、カルカッタ帰帆、近江八景およびその写しの金沢八景4分の1パクリでした。

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◆ Lou Rawls - Girl From Ipanema ◆◆
LPを引っ張り出して確認すればいいのですが、たしか、このライヴのときのアールの相方はジミー・ボンドで、ドラムとベースが協力して、いいグルーヴをつくっています。ドラムとベースの入りのタイミングがきれいにそろっているのが、また嬉しい! こういうところをキメてくれないと、思いきりコケます。

聴きどころは、ピアノ・ブレイクの裏での派手なプレイでしょうか。ニューオーリンズ時代にはよく使った、すこし早めのタイムによるフィルインを、久しぶりに聴くことができます。

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ルー・ロウルズという人はむやみに声が太くて、低いところにいったときなど、うっとうしく感じますが、アール・パーマーやらキャロル・ケイやらジミー・ボンドやらがプレイしているという縁で、しばしば聴いているうちに、まあいいか、と、声のことはうやむやにしてしまいました。考えてみると、本気でトラックを聴けば、上ものは自然に聞こえなくなるものですしね。

◆ Jackie DeShannon - I Can Make It With You ◆◆
この人の歌も、好きなんだか嫌いなんだかよくわからない、ということはつまり、早い話が、その、なんですな、少なくとも「好きなシンガー」ではありません。でも、ソングライターとしてはそこそこの曲を書いていますし、ハリウッド録音だから、例によってハル・ブレインだったり、アール・パーマーだったりするわけで、歌のことは「まあいいや」と、この人の場合もうやむやにしています。

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この曲も、ジャッキー・デシャノンの過度にパセティックなスタイルが気になって、ちょっと乗れないタイプなのですが、アールはいいプレイをしています。それなら、歌はよかろうがわるかろうが関係ないのです。

◆ Brenda Holloway - Where Were You ◆◆
不得意なシンガーがつづきましたが、この人は大丈夫、とくにアップテンポのときは好きです。Every Little Bit Hurtsは、スティーヴ・ウィンウッドが歌ったほうがいいと思いますが、ブレンダ・ハロウェイの歌がいけないということではなく、ああいう曲調だから、それに合わせた歌い方をするのではなく、中和するように歌うべきだと考えるにすぎません。

この曲もベースはキャロル・ケイでしょう。こういうイントロ・リックはお得意なので、譜面自体も彼女のものではないでしょうか。アール・パーマーのプレイがどうこうというより、楽曲とベースに惹かれて、うっかりアールのベストに繰り込んでしまったのでありました。

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あちこちに書いたことなのですが、ブレンダ・ハロウェイはモータウンLAが契約した地元のシンガーであり、デトロイトとはまったく無関係です。だからなのでしょう、彼女については、LA録音であるとモータウンも公式に認めています。ただし、彼女が1964年にはすでにモータウンから盤をリリースしているということは、モータウンがこのときすでに、LA録音をしていたという証拠になります。このへんのことをデトロイト主義者たちはどう処理するのか、一度うかがってみたいものです。

◆ The Supremes - I Hear a Symphony ◆◆
モータウン問題を研究しているさなかに、アール・パーマーの伝記が出版されるというアナウンスがあり、これは面白いことになったとおおいに期待しました。ところが、いざ出版されてみたら、モータウンに関する記述はごく僅少で、あれえ、どうなってるんだ、とコケました。アール・パーマー自身または著者のトニー・シャーマン、またはこの両者が、モータウン問題に深入りすることに及び腰だったということぐらいしか、わたしには説明のしようがありません。アール・パーマーはモータウンの多くのトラックでプレイしているはずなのです。

ほとんど無視され、わずかに巻末ディスコグラフィーにリストアップされたモータウンのトラックは、このベスト・オヴ・アール・パーマーではすべて取り上げています。しかし、マーヴィン・ゲイのHello Broadwayも、ブレンダ・ハロウェイも、モータウンのメインラインにはほど遠く、こういう曲をリストアップされても困るなあ、でした。

でも、このI Hear a Symphonyだけは、まさにモータウンのメインラインであるスプリームズの曲、それも正真正銘のビルボード・チャートトッパーです。ドラムとベース(CKさんでしょう)はいうまでもなく、さらにはヴァイブラフォーンやバリトン・サックスの使い方(ふつうならテナーを使うところでバリトンを使うのがモータウン・スタイル)にいたるまで、これぞ「オーセンティック」なモータウン・サウンドです。

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オーセンティックで思い出しました。なにかのセッションでのダレた時間帯のことです。突然、トミー・テデスコが立ち上がり、「オーセンティックなモータウン・サウンド」といって、1弦だけで「チッ、チッ」と2&4をプレイしたので、一同、爆笑したそうです。

いわれてみると、その種の「チンク」(chinkは「カチ」というオノマトペで、彼らは2&4のようにシンプルなギターのカッティングを「チンク・プレイ」またはたんに「チンク」と呼んでいる)は、たしかにモータウンの曲ではありふれています。じっさい、このI Hear a Symphonyにも2&4のチンクが入っています。

ただし、現実には、1弦だけで、ということはありません。そこがジョークのジョークたる所以で、このトミー・テデスコによるモータウン・サウンドの極端な単純化、戯画化がスタジオ・キャッツに馬鹿受けしたにちがいありません。

以上、キャロル・ケイが教えてくれた逸話でした。もちろん、ハリウッドのプレイヤーのほとんどがモータウンの仕事を経験していたから、トミー・テデスコのジョークが受けたのだ、というのが、キャロル・ケイがいいたかったことなので、そのへんを読み取っていただかないといけないわけでして……。

あと1曲ぐらいは書く時間があるのですが、つぎの2曲はセットとして並べてあるので、1曲だけというわけにはいかず、2曲まとめて次回まわしとさせていただきます。いやはや今日は眠くて眠くて、もうなにを書いているのかわからなくなりつつあるのでした。


by songsf4s | 2008-12-01 23:54 | ドラマー特集