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The Best of Earl Palmer その19

写真を撮ってご覧に入れたら仰天なさると思うのですが、わがデスク付近は大正12年9月か昭和20年8月の東京のようなありさまで、まるで瓦礫の山、盤や本のありかは、もっぱらわたしの記憶力によってマッピングされているのですが、この記憶という代物が、近年、ひどい能力低下を来して、まったく頼りにならなくなりつつあります。

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寒くなったので、ヒーターのスウィッチを入れようとしたら、その付近にはボックスセットが数種と書籍が積み重なっていて、そいつをちょいとわきに寄せたと思いねえ、といきなり落語口調になってみました。寄せたおかげでヒーターのまわりにスペースができて、やれやれこれで凍え死なずにすむと安心したのもつかの間、このアール・パーマー特集でつねに参照していたアールの伝記が見あたらなくなってしまいました。

だから、整理整頓は敵だというのです。一度おいたら、動かさないことが肝要なのです。そこにあるかぎり、他人から見ればいかに混沌としていようと、いかに山が高くなろうと、当人は「その山の下にある」ことを知っているのです。でも、ちょっと動かした瞬間、震災か空襲にあったようなこの瓦礫の山では、二度とめぐり逢えない「君の名は」になっちゃうのでありましてな、いやまったくもって。

で、今日は64年から65年にかけての曲なのですが、どこから65年なのか、ちょっと自信がないので、まあなんだな、細かいことは抜きでな、だいたいそのあたりと思いねえ、なのですよ、ねえ八つぁん、およしよ半ちゃん、俺をだしにしねえでくれ。

◆ The Righteous Brothers - You've Lost That Lovin' Feelin' ◆◆
バリー・マンのWho Put the Bompみたいなもので、子どものころ、この曲のドラマーはいったいだれなんだろう、なんとしても名前が知りたい、この人に「あなたはすごい」と一言いいたいと思いました。それほど好きだったドラミングです。

いまのわたしは冷たい研究者なので、ゴールド・スター・スタジオの4本のEMI製プレート・エコーを、常識的限界を超えてジャブジャブに適用したからこそ、You've Lost That Lovin' Feelin'は圧倒的なドラミングに聞こえるのだということを知っています。

しかし、だからといってアールのプレイの印象が薄れるわけではありません。卓越したプレイヤーと、4本のエコーを直列で使える世に二つとない独特の録音環境(本家のアビー・ロードですら2本だったくらいで、狭いゴールド・スターに4本のエコーは分不相応だった。キャロル・ケイによると、1本はなんと婦人化粧室に食い込んでいたという。まあ、たしかにエコーというのは、水道管の親玉みたいな格好をしているのだが!)と、常識を弊履のごとく捨て去り、限界を超える強い意志をもった予見者的プロデューサーが揃ったとき、とんでもない音が誕生するのだ、とため息が出ます。

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アビー・ロードの2連プレート・エコー。ゴールド・スターにはこれが4本インストールされていた。

この曲こそがアール・パーマーの代表作だと考える人は多いことでしょう。マックス・ワインバーグもそのひとりらしく、アールへのインタヴューでこの曲におけるプレイについてきいています。

アールにとって忘れられないのは、ファースト・コーラスとセカンド・ヴァースのつなぎめのストップに、スペクターがなかなかオーケイを出さず、ものすごく時間がかかったことでした。You've lost that lovin' feelin', now it's gone, gone, gone, whoa, whoa whoaの直後、ストップ・タイムになり、ミューティッド・ギター(いや、ダンエレクトロか?)とベースが、Db-B-Ab-F#-E-Db-B-Abのスケールをまっすぐに降下していく箇所です。

この箇所についてスペクターが出した注文は、「テンポは変えずに、スロウダウンした感覚をつくれ」というものでした。うーむ、むずかしいことをいう……。てことは、バンド全体としては遅くなってはいけないのだから、あるパートだけを遅くすることによって遅延の感覚を生むしかないでしょう。

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そのつもりでギターをいっしょに弾くと、Db-B-Ab-F#-E-Db-B-Abの2音目のBは、異様にタイミングを遅らせていることがわかります。DbとBのあいだに16分休符をはさむぐらいのつもりで弾かないと、ものすごく早くBをヒットしてしまい、オッと、わたしとしたことがはしたない、とひとりで赤面することになってしまいます。

ほかには遅らせている箇所やパートはないので、この大遅刻のBだけで、レイ・ポールマンおよびもうひとりのベース(この曲ではキャロル・ケイはギターを弾いたといっているので、だれかべつのプレイヤー)はスペクターを納得させたのでしょう。詐欺みたいなものですな。まあ、駄々っ子のプロデューサーを黙らせるには、詐欺しかないでしょうけれど。

テンポを変えずに、といいますが、アール・パーマーがテンポを変えずに戻ってきたら、ベースがミスしたように聞こえるはずです。そうは聞こえないということは、アールのフロアタムは、本来のタイミングより微妙に遅く戻っているはずです。「はず」の連打などという無責任はやめて、断言したいのですが、繰り返しカウントしてみても、やっぱりよくわかりませんでした。たんに、ベースとドラムのタイミングが大きくズレれば、それとわからないはずがない、そう感じないのだから、アールも微妙に遅らせているのだ、と理屈をこねているだけです。

ともあれ、スペクターの重点はここにあったのであり、プレイヤーたちがいちばん苦労したのもこのストップなので、お持ちの方はそのつもりでもう一度お聴きあれ。楽器があるなら、ベースをなぞってみると、彼らがなにをしたかがよりいっそう明瞭になります。

f0147840_23563097.jpgマックス・ワインバーグは、So don't, don't, don't let it slip away以降の力強いI-IV-V進行のブリッジにおける、派手なフィルインの連発について、あれは譜面か、インプロヴか、と質問しています。アールのこたえは「もちろんインプロヴだ」でした。

たしかにここは素晴らしいフィルインの連続で、わたしが好きだったのも、このあたりの一連のプレイでした。いや、3:19あたりのストップにおける、タムタム、フロアタムのプレイ、このストップからの戻りのシンコペートした8分の3打の力強さも好きですが、この恐るべき響きは、アールのものというより、スペクターのサウンド・イマジネーション、ラリー・レヴィンの技術、ゴールド・スターの音響特性によるものというべきかもしれません。

アメリカ音楽史上もっとも重要な録音のひとつで、アール・パーマーは、わたしが終生忘れられないドラミングを展開しました。アールの曲をひとつだけあげなければならないのなら、わたしはYou've Lost That Lovin' Feelin'を選びます。

◆ Jan & Dean - Dead Man's CurveおよびThe Little Old Lady from Pasadena ◆◆
この時期、アール・パーマーとハル・ブレインは、世界でいちばん忙しいドラマーでした。ハル・ブレインによると、スケデュール表はびっしり埋まり、来週どころか、来月まで空きがないという状態だったそうです。したがって、ひとり押さえるだけでもたいへんなのに、ジャン・ベリーはつねに、アールとハルの双方をご所望でした。無理な注文のしからしむところで、通常の時間帯には不可能、録音はたいてい深夜から早朝の「時間外」になったそうです。

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結局、これが遠因となって、ジャン・ベリーはあの事故を起こしたのではないでしょうか。なんといっても、このとき、ジャンはまだUCLAの医学生で、大事な試験と仕事が重なることもあり、ハルは教科書をわたされ、ジャンに「模擬試験」をやってあげたこともあったといいます。当然、睡眠不足などいつものことで、それが「死者のカーヴ」での事故につながった可能性はあるでしょう。まあ、あんな歌をつくるからいけない、という験かつぎの方のご意見もございましょうが!

それはともかく、Surf City以来のハル・ブレインとアール・パーマーの「一心同体プレイ」も、パサディーナのおばあちゃんまでくると、いよいよ堂に入ってきます。あまり堂に入りすぎて、注意深く聴かないと、ドラマーが二人いることがわからないほどです。

それも道理で、ひょっとしたら、フロアタムのフィルインはハル・ブレインがひとりでやっているのかもしれません。明らかにアールのタイミングではなく、ハルのタイミングです。スネアのフィルは二人でやっていますが、フロアタムを重ねると響きが悪いと、ジャン・ベリーまたはドラマーたちが考えたのかもしれません。

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順番が逆になりましたが、「死者のカーヴ」のほうは、Surf City以上に深めのリヴァーブと人数の多さによるスケール感を追求したサウンドで、音のテクスチャーだけをいうなら、こういうスペクタレスクなほうがわたしの好みです。ドラムにも軽くリヴァーブがかかっていて、とりわけ、ダブル・キック・サウンドはけっこうな響きになっています。

ジャン・ベリーのためにいっておきますが、彼のこうしたサウンド作りがあったからこそ、ブライアン・ウィルソンのPet Soundsへの道が均されたのです。フィル・スペクターの強い影響下にあり、また、ボーンズ・ハウという傑出したエンジニアの協力があったとはいえ、それを差し引いても、ジャン・ベリーのサウンド・クリエイターとしての貢献は非常に大きいとわたしは考えています。

◆ Little Richard - Bama Lama Bama Loo ◆◆
ただの腐れ縁なのか、宗教と音楽を行ったり来たりして迷走していたリトル・リチャードが、また音楽の世界に復帰するにあたって、昔なじみがそばにいることによる安心感を求めたのか、この期におよんで、アール・パーマーはまたしてもリトル・リチャード・セッションのストゥールに坐ります。

それがリトル・リチャードの意思だったのだろうと思いますが、この曲でも基本的には1956年と同じ方向性、同じサウンドを目指しています。したがって、アール・パーマーも(きっと、「なんでいまさら」とボヤきつつ!)若いころのようなワイルドなドラミングを心がけています。

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けっして悪い出来ではなく、それなりに成功していますが(リズム・ギターのカッティングはジョン・レノンのサウンドを意識したのではないか?)、やはり、リチャードもアールも、あのときより年をとっているわけで、それがこういうタイプの音楽ではすこし邪魔になっているように感じられます。対象が自分自身であるとはいえ、所詮、コピーはコピーですし……。

しかし、わたしはあまり素直な人間ではないので、人がこのような苦しい状況に追い込まれたときこそ、見るべき価値のある何事かが起きる可能性が高いと考えます。この曲のアールについていえば、まじめに、真剣に若いときのプレイを再現しようとしていることに、プレイヤーとしてのアール・パーマーの美質を見ることができる、と感じます。

◆ The Beach Boys - Please Let Me Wonder ◆◆
マックス・ワインバーグに、あなたはビーチボーイズのトラックでプレイしたのか、と質問され、アールは、ほんの一握りだが、たしかにやった記憶がある、でも、どの曲かはきかないでくれ、覚えていないんだ、とこたえていました。

トニー・シャーマンによるアールの伝記のほうは、ワインバーグの本よりあとなので、AFMの書類を調べるか、アールのメモでも見つかったか、そういった事情のおかげでその後に判明したのでしょう、ディスコグラフィーにはこの曲がリストアップされていました。伝記を読んだときは、なるほどねえ、そうだったか、と思いましたよ。いわれてわかるんじゃ情けない、といつも思っているのですが、わからないときはやっぱりわからないのです。

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Please Let Me Wonderはビーチボーイズ・ファンのフェイヴァリットで、ファンダムの外ではあまり有名ではありませんが、この曲が好きだという年来のファンは多いでしょう。わたしは、ビーチボーイズ・ファンというより、ブライアンがリードをとる、きわめてプライヴェートでインティミットなロッカ・バラッドのファンなので、その方面の代表作であるこの曲は、当然ながら、ブライアンのベストテンに入れます。じつにもってチャーミングな小品です。

アール・パーマーとしては、あまり腕の見せどころのない曲で、しいていうなら、コーラスからインストゥルメンタル・ブレイクへのつなぎ目における、タムタムからフロアタムに流すフィルに「らしさ」が感じられるというあたりです。しかし、素晴らしい曲なので、大活躍しなくても、アールのベストに繰り入れてもまったく差し支えない、と強引に断じておきます。

バラッドというのは、こういう風にあっさり、軽やかに歌うことを理想とした時代にわたしは育ちました。その後、そういう精神はすっかり忘れられ、イヤッたらしく歌いあげるトンマなシンガーがのさばる時代になると、こういう曲はいっそう輝きを増します。

◆ The Righteous Brothers - Just Once in My Life ◆◆
ライチャウス・ブラザーズのフィレーズ移籍第2弾シングルで、これもトップテンに入りました。後年の目から見ると、アレンジ(前作同様ジーン・ペイジ?)とフィル・スペクターのプロデューシングはより精緻になり、仕上がりからいえば、こちらのほうを彼らの代表作とするべきかもしれません。

しかし、なんというか、Lovin' Feelin'のほうには、ある分野をはじめて切り開いたパイオニアとしての迫力、とでもいうしかないような、目に見えない力がこもっているように感じます。たとえば、Telstarのジョー・ミークによるオリジナルなどにも感じる、「評価」を超えたなにものかが音の向こうにあるのです。

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そういう前提のうえでのことですが、Just Once in My Lifeもやはり素晴らしいトラックです。コーラスでのリズム・トラックとヴォーカルとストリングスのからんだ響きなど、そんじょそこらで聴ける凡庸なサウンドとは、生まれつきリーグがちがいます。これだけのサウンドをつくってしまうと、つくった人はやはり、「俺は天才だ」と思うでしょうな。そう思ったときが瀬戸際なのです。いや、あと知恵でいっているだけなのですが。

楽曲としても、このJust Once in My Lifeのほうが、Lovin' Feelin'より好ましい出来です。Lovin' Feelin'は、スペクターのサウンドで聴かないと拍子抜けしてしまいます。つまり、カヴァー無用、カヴァー不可の曲です。それに対して、Just Once in My Lifeはカヴァーもそれなりに楽しめます。といっても、わたしは素直ではないので、アルバムPrice to Playに収録されたアラン・プライスのものすごく軽いレンディションとか、声がぜんぜん出なくなってしまったことに愕然とした、アルバム15 Big Ones収録のブライアン・ウィルソンのよれよれカヴァーとか、そういうのが面白いのですが!

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◆ Tim Hardin - Misty Roses ◆◆
エンディングは軽めの曲がよろしいでしょう。いや、スペクターに較べればの話で、けっして一山いくらの楽曲ではありません。ティム・ハーディンの代表作といえば、十人のうち六人はReason to Believeというでしょうが、二人ぐらいはこのMisty Rosesをあげるのではないでしょうか。わたしは少数派のほうです。いや、Reason to Believeも大好きなのですが、それ以上にこのMisty Rosesが好きなのです。

ドラムはサイドスティックでメトロノームをやっているだけで、これを「ベスト」といわれてもなあ、と泉下のアールが首をひねるかもしれません。でも、楽曲が好みだから、それでいいのです。たんなる文字だけの「ベスト」ではなく、「現物」をつくってお手元に届けるという趣旨の特集なので、こういう曲はチェンジアップとしても有効なのです。

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いま検索をかけたところ、わが家には、ヤングブラッズ、フィフス・ディメンション、サンドパイパーズ、ソニー&シェール、ジョニー・マティスのヴァージョンもありました。長年聴きつづけてきたからかもしれませんが、わたしがもっとも好きなのはヤングブラッズ盤です。

この曲が収録されたRock Festivalというライヴ盤は、地味なこのグループの盤のなかでもとくに目立たない、というか、だれからも相手にされていないアルバムのようですが、わたしはスクラッチだらけのLPをリップして、いまだによく聴いています。

ジェシー・コリン・ヤングの声に合った曲調ですし、ヤングのアコースティック・ギター、バナナのピアノ、ジョー・バウアーのブラシだけでも、サウンドが弱いとは感じないタイプの楽曲なので、この時期の彼らのよい面だけがあらわれ、弱点は露呈せずにすんでいます。

ヤングブラッズやジェシー・コリン・ヤングがお好きなら(そしてバナナのピアノが好きだという、わたしと同類の変わった趣味をお持ちなら)、世間の評判などは気にせず、この盤も入手なさるべきでしょう。出来の悪い曲も多いのですが、It's a Lovely Day、On a Beautiful Lake Spenard、そしてJosianeといった佳曲も収録されています。

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by songsf4s | 2008-11-27 23:56 | ドラマー特集