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The Best of Earl Palmer その15

また当家のお客様の話ですが、The Best of Earl Palmer その6にコメントを寄せられたkinoshitaさんが、そのときにお書きになっていたように、アール・パーマー伝を再開されました。

どちらかというとブラック・ミュージックのほうがお好みらしいkinoshitaさんが、ハリウッドの白いポップをどう扱われるかを楽しみにしております。ニューオーリンズR&Bを体現したドラマーが、ハリウッドでなにを見たかを追体験するには、わたしよりいい位置にいらっしゃるのではないでしょうか。

◆ Ray Charles - I Can't Stop Loving You ◆◆
本日は前回に引き続き、1962年の楽曲です。ここからの4曲は、アール・パーマーがハリウッドのドラマーの重鎮となったことを示すものといえるでしょう。

f0147840_0144445.jpg重鎮ともなるとアクロバティックなことはしない、というわけでもないのですが、ネーム・ヴァリューで仕事ができるようになるわけでして、この曲なんか、だれが叩いたってたいしたちがいはない、といいたくなるほど、ドラマーにとっては腕の見せどころのない代物です。しかし、このように、リリースのときからすでにクラシックの香りがしているトラックというのは、やはり若造にはうまくできないわけで、「そこにいてくれるだけでいい」重鎮の仕事にならざるをえないのです。

メトロノームかリズム・ボックスかというプレイで、ドラミングとしては面白くないのですが、大物シンガーの大古典というだけの理由で取り上げました。

(右の写真は、ライノから出たレイ・チャールズの5枚組ボックス、Genius and Soulの外箱。実物はきれいなのだが、スキャンすると、なにがなんだかわからなくなってしまう。ジュウェル・ケースも黒いプラスティックに金でピアノが描いてあるという凝りようで、なんなのこれは? だった)

◆ Nat King Cole - Ramblin' Rose ◆◆
これはわたしひとりのことではないと想像するのですが、前掲レイ・チャールズのI Can't Stop Loving Youと、このナット・コールのRamblin' Roseは、わたしの頭のなかでは、半分重なるほどのすぐ隣同士の場所にしまいこまれています。わたしがはじめて盤を買うのは1963年のことなので、この時期にはまだろくに音楽を聴いていませんでしたが、この2曲はどこにいっても流れていた大ヒット曲でしたし、どちらも「生まれたそのときから古典」でした。両者とも超がつくほどの大物ブラック・クルーナーであり、リズムも似ているということも、重なっています。

f0147840_0213648.jpgもっとも大きな違いは、Ramblin' Roseのほうは全編にギターのオブリガートが配され、その分だけ、いくぶんかモダーンな味わいがあることでしょう。記憶が薄れてしまい、今回調べなおしても、典拠を発見できなかったのですが、このギターをプレイしたのはビリー・ストレンジ御大でした。それを知ったときに聴き直そうとしたら、盤が見あたらず(いまだに発見できない!)、それきりで忘れてしまったのですが、その後、わきからファイルをいただき、まじめに聴いて、いわれなくてはわからないのでは情けないと思いつつ、なるほど、いかにも初期ヴェンチャーズのリードギタリストのプレイだと納得しました。ヴェンチャーズがこの曲をカヴァーしたら、ナット・コール盤と同じようなオブリガートを入れたにちがいありません。

いま、ボンヤリと記憶がよみがえってきたのですが、ビリー・ストレンジとRamblin' Roseの話は、ボスの70歳を記念してつくられた私家版DVDで紹介されていたものだったような気がします。それなら、文字の資料をひっくり返しても見つからなくて当たり前です。たしか、ビリー御大がアレンジの変更を提案した、といったエピソードだったように思います(ミニMLの諸氏にお願い。どなたかこの記憶を訂正するなりコンファームするなりしてください)。あいまいな記憶をもとにして書くと、最初はペダル・スティールでオブリガートを入れていたけれど、ボスの提案でギターに変更した、といったことだったのではないかと思います。

f0147840_023257.jpgわたしの記憶が合っているにせよ、間違っているにせよ、いま聴いて、このギターのオブリガートはじつに心地よく、同じような位置にあるクラシックとはいえ、I Can't Stop Loving Youより、Ramblin' Roseのほうが、わたしには数段好ましく思えます。

いろいろ書いたくせに、アール・パーマーのことが出てこないのは、もうおわかりであろうように、この曲でもアールは軽くブラシを入れているだけで、メトロノームに徹しているからです。I Can't Stop Loving YouとRamblin' Roseという、その年を代表するばかりでなく、時代を超えて二人の超大物シンガーの代表曲とされるものに、立てつづけに参加したという、その事実それ自体が、このときのアール・パーマーの地位を雄弁に語っているのです。そんなことはありえないのですが、仮にハリウッドの大物コントラクター十人を一堂に集め、来週、莫大な費用をかけた大セッションをおこなう、金に糸目はつけない、最高のメンバーを集めろ、とコンペをやったとすると、おそらく十人のうち七人までは、ドラマーはアール・パーマーとしたでしょう。まさにキングだったのです。

◆ Frank Sinatra - Goody GoodyおよびPick Yourself Up ◆◆
二曲とも、Sinatra and Swingin' Brassというアルバムからのものです。Goody Goodyはアルバム・オープナー、Pick Yourself Upはクローザーです。どちらかに絞り込もうと思ったのですが、迷いに迷っていまい、そんなことに時間を使うぐらいなら、両方とも取り上げて手間を省こうと思い直しました。

ここにこの曲をもってきたのは、すでにおわかりのように、超大物メインストリーマーの揃い踏みをやろうという意図なのですが、レイ・チャールズやナット・コールとは異なり、このシナトラの二曲には、ドラマーとしての「実質」があります。すごいプレイなのです。

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わたしの好みからいうと、モダン・ジャズのドラミングというのは退屈で、ロックンロール以前の時代では、ドラムが面白いのはビッグバンド・エラです。ハル・ブレインが典型なのですが、ビッグバンドを聴いて育った世代が、ロックンロール・ドラミングを生みだすわけで、ドラムに関するかぎり、豊かな時代はビッグバンドとロックンロール・エラで、モダン・ジャズは「鬼子」「継子」、ドラミング的には不毛の時代だったと思います。

で、ハル・ブレインなんか、ビッグバンド・スタイルでやらせると、待ってましたとばかりにド派手なプレイを連発するのですが(たとえばヴォーグーズのアルバム)、アール・パーマーも、やはりオーケストラでプレイするのが大好きだったのだということが、このシナトラのアルバムから感じられます。

ニール・ヘフティーが、ビリー・メイとはややニュアンスの異なるいいアレンジをしていて、その面でも楽しめるのですが、ビッグバンドのスターは、やはりドラマーで、アールはこの二曲にかぎらず、アルバム全体を通して非常にいいプレイをしています。ニューオーリンズにはないタイプで、アールが故郷をあとにしてLAにやってきたのは、こういうテイストフルな音楽がやりたかったからなのでしょう。水を得た魚です。

Goody Goodyは、後年、ライヴでの重要なレパートリーになりますが、じつに気分のいい曲で、ライヴのオープナーにも向いていたにちがいありません。アールのプレイは、ヴォーカルの裏ではいくぶん控えめなタッチ(といっても、いくつか強いアクセントはある)ですが、インストゥルメンタル・パートでは叩きまくりの楽しいプレイをしています。

偏った趣味かもしれませんが、わたしは一打だけのアクセントというのが好きで、そういうことをきちんとできることが、ドラマーとしての基本的な資質だと考えています。Goody Goodyの0:34に出てくる、タムタムの一打はきれいにキマっていて、うん、こうでなくちゃね、と思います。

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ニール・ヘフティーとフランク・シナトラ。1962年撮影ということなので、ひょっとしたら、まさしくSinatra and Swingin' Brassのレコーディングでのスナップかもしれない。

Goody Goodyと同じ1962年4月11日に録音された、アルバム・クローザーのPick Yourself Upは、楽曲自体がすごく変で、クレジットを見たら、ジェローム・カーンでした。カーンは、歌いにくくて、たいていのシンガーがやりたがらない曲というのを書いてみようと思ったのじゃないでしょうかねえ。聴いているだけでも頭がねじれてきて、頼むから、そういう変なところにコードをもっていかないでくれ、と思うくらいで、シナトラはこれも一発で歌えたのだろうかと首をひねってしまいます。これほどアクロバティックな曲というのは、あまりないでしょう。フランク・シナトラよりフランク・ザッパにふさわしい曲かもしれません。

こちらも、ニール・ヘフティーのアレンジは魅力的ですし、アールのドラミングも軽快かつ派手で、文句がありません。ただ、思うのは、このアルバムも、アールの「強さ」が出たプレイばかりで、これが、Sinatra and Stringsのようなアルバムだったら、アールは呼ばれなかっただろうということです。コントラクターがだれか知りませんが、よく適性を見ていたというべきでしょう。

◆ Bobby Vee - The Night Has A Thousand Eyes ◆◆
すでに取り上げたボビー・ヴィーの曲のところで書いたように、この時期の彼のトラックは、楽曲、プレイ、プロダクション、アレンジ、録音、バランシング、いずれもすぐれていて、惚れ惚れするばかりです。

以前、感傷的な意味合いから、ボビー・ヴィーの代表作はRubber Ballだと思っていると書きましたが、改めて聴くと、やはりTake Good Care of My Babyも、そしてこのThe Night Has A Thousand Eyesも、みなハイレベルな仕上がりで、どうにも序列のつけようがないと感じます。

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この曲はハル・ブレインのディスコグラフィーにもリストアップされていますが、トラップに坐ったのはアールで、ハルはティンパニーをプレイしました。ティンパニーはどこで鳴っているのかわからないくらいで、はっきりと聴き取れるのは、冒頭、00:14当たりぐらいでしょう。スタンダップ・ベースと区別がつかないくらいの薄いミックスにしてしまう楽器を入れておくのだから、なかなか贅沢です。

このあたりが、61、2年のスナッフ・ギャレットの特徴といえるかもしれません。方向性としてはフィル・スペクターに近いのです。つまり、多くの楽器を「煮込んで」しまうのです。スペクターは天下の非常識男なので、元がジャガイモだったのかニンジンだったのかわからないまでに煮込んで平気でいましたが、ギャレットはまだ常識人(まあ、スペクターに較べればたいていの人間は常識人だが)なので、なにがなんだかわからなくなるまでグズグズに煮込むことはなく、「ティーン・ポップ制作のスタンダード」を生みだしたといってもいいでしょう。

低音部の扱いにも特徴があり、ベースを2本、3本と重ねるスタイルは、スペクターが一般化したわけではなく、すでにギャレットが62年までにフォーマットとして確立していたとわたしは考えています。この曲のベースは非常に聴き取りにくいのですが、左にダンエレクトロ6弦ベースがあるのはまちがいなく、その下に、同じチャンネルでフェンダーかスタンダップを入れているのかもしれません。なんとなく、すこしずれたところでスタンダップが鳴っているような気もするのですが、うーん、何度聞いても断言できず。

アール・パーマーのプレイも申し分ありません。ニューオーリンズ時代からよく使っていた、シンバルを叩かず、両手ともスネアでプレイするロコモーティヴ・リズムですが、ハリウッド的バイアスがかかり、非常に軽快なものに変化しています。軽いスネアのサウンドとは対照的なタムの重いハードヒットも心地よく、ドラミングとはかくありたいもの、という理想的なプレイです。

話は音楽からずれますが、コーネル・ウールリッチ(ウィリアム・アイリッシュ名義かもしれないが)に「夜は千の目をもつ」という長編があります。同じタイトルの小説と楽曲があるということは、たとえば「壁に耳あり障子に目あり」のような、熟した言葉か俚諺なのかと思って調べたのですが、辞書にはそのような記述は見あたりませんでした。ウールリッチの小説は映画化され、そのテーマ曲はそれなりにカヴァーを生んだそうで、ボビー・ヴィーの曲は、そこからタイトルを拝借したのかもしれません。

うーん、またしても次回に持ち越しで恐縮ですが、1962年はアール・パーマーのヴィンティジ・イヤーなので、楽曲が多く、もう一回ねばらせていただきます。

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ウィリアム・アイリッシュ『夜は千の目をもつ』創元推理文庫、1962年。どうでもいいようなものだが、見つけるのに手間暇かかったので、いちおうスキャンしてみた。ウェブで見ると、これを探している人もいるらしい。

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ことのついでに、『夜は千の目をもつ』のあいだに挟まっていた広告もスキャンした。いにしえのミステリ好きのために、である。この「全集」と称するものは箱入りの変なサイズのものだったが、ほとんどがのちに文庫になっている。



by songsf4s | 2008-11-14 23:58 | ドラマー特集