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The Best of Jim Gordon その8

「とかく音楽好きの方は音楽的にものごとを考え、また評価する。しかし、音楽がめざすものは音楽ではない」

『からっぽの世界』を聴いていて、ふと、この早川義夫の言葉がよみがえり、引用のためにあちこちひっくり返してみました。

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若いころはおおいに共感したのですが、この年になると、待てしばしと再考したりします。たとえばですね、こういう風に言い換えてみましょう。「とかく料理好きの方は味覚的にものごとを考え、また評価する。しかし、料理がめざすものは味覚ではない」

べつにふざけてまぜっかえすわけではありませんが、でもやっぱり、「じゃあ、まずくてもいいのか」といいたくなります。わたしは芸術家的資質がゼロの人間なので、身も蓋もない実質主義的世界観を述べているだけですが、飯はまずいより旨いほうがいいと思うのです。

たしかに、音楽がめざすものは音楽それ自体ではなく、その向こうにある彼岸なのかもしれません。しかし、音によってそこに到達しようというとき、多くの人間はやはりストレートな快不快原則にしたがって行動します。それは勘違いなのだと信じた少数派は、かつて栄光あるものだったのかもしれませんが、これだけの月日がたってみると、妥協的多数派もろとも、まるごといっしょに、つかみどころのない靄のなかに飲み込まれてしまったと認めざるをえないなあ、と老いた60年代小僧はボヤくのでありました。

ということで、腰をふらつかせても詮ないことなので、今日もわたしは「音楽好き」として、「音楽的にものごとを考え、また評価する」ことにします。たぶん、早川義夫はまちがっていて、音楽がめざすのは、音それ自体の十全なる実現なのだ、と信じて。

◆ Traffic - Hidden Treasure ◆◆
巡り合わせにすぎませんが、このところ毎回、トップバッターは地味なのばかりです。どういう経緯でジム・ゴードンがトラフィックに加わることになったのかはよくわかりませんが(考えられるのはデイヴ・メイソン経由か、クラプトン経由)、ライヴのWelcome to the Canteenと、スタジオのThe Low Spark of High-Heeled Boysの2枚のアルバムで、ジミーはストゥールに坐っています。このHidden Treasureは後者のトラックです。

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ジム・ゴードンのプレイがアルバム2枚分もあれば、スーパープレイの二つや三つ、あっさり見つかるはずなのですが、どういうわけか、トラフィックでのプレイはみな控えめです。ジャンキーの帝王エリック・クラプトンが潤沢に最高級品を供給したであろうドミノーズとちがって、スティーヴ・ウィンウッドはあまりそういうことを好まなかったのではないか(いや、ウィンウッドがハメをはずさなかったというのではない、若いころからとんでもない酒量だったという)、だから、ジミーもものすごくしらふなプレイばかりで、悪魔が降臨したようなビートは出現しなかったのではないか、といったような、あられもない妄想をしています。

でも、ウィンウッドのファンとしては、1曲は入れたいわけで、となると、このHidden Treasureが適当ではなかろうかと思います。これは、地味なわりには、ジム・ゴードンの特徴がすべてそろっている不思議なトラックなのです。すなわち、すばらしいチューニングのタム類、キレのよいサイドスティック・プレイ、美しいライド・ベルの三つです。

どういうパートと表現するべきか迷うのですが、たぶん、ブリッジでいいのでしょう、Message in the deep from a strange eternal sleepではじまる部分での、シンコペートしたサイドスティックのプレイが、この曲のハイライトでしょう。ジミーのタイムのよさが、この一見なんでもないプレイを魅力あるものにしています。サイドスティックとくれば、シンバルはライド・ベルに切り替えるのがルールってぐらいで、ここでもきれいなライド・ベルで魅了してくれます。

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順序が前後しますが、低めの深いフロアタムも魅力で、これはイントロからすでに鳴っています。上述のブリッジ部分でも、サイドスティックからフロアタムへというプレイがあり、これまた地味ながら、うーむと唸ります。

残念なのは、ベースがスティーヴ・ウィンウッドではなく、リック・グレッチだということです。わたしはこういうタイプのベースが好きではないのですが、ジミーのグルーヴとも合っていないように感じます。カール・レイドルとは相性がよかったんだなあ、といまさらのように納得するのでした。せめて、ウィンウッドがベースをやっていた時代にトラフィックで叩いてくれたらなあ、と残念でしかたありません。

◆ Mike Post - The Rockford Files ◆◆
沈鬱とすらいえる静かな曲のあとには、やはりノーテンキなのがほしいという単純な理由から、このドラマ「ロックフォードの事件簿」のテーマとなりました。典型的な「ハリウッドのスタジオ・プレイヤーの日常業務」という感じで、トラフィックとは正反対の匿名的プレイです。でも、お気楽で派手なのも、それはそれで楽しいものです。

f0147840_014791.jpgマイク・ポストはハリウッドのアレンジャー・コンポーザーで、アール・パーマーやハル・ブレインの話をしているときに登場するような世代より、ちょっとあとに出てきた人で、ジム・ゴードンとそれほど年齢が離れているわけではありません。すでにこの特集で取り上げた、メイソン・ウィリアムズのアルバム、Phonograph Recordはポストがアレンジしたものです。「ヒル・ストリート・ブルース」「特攻野郎Aチーム」以下、TVサントラは無数にやっているので、検索をかければいくらでも引っかかるでしょう。

ハリウッドのスタジオ・ドラマーというのは、こういうタイプの仕事も無数にやっているのがつねで、調べるとゾロゾロ出てくるものなのですが、ジム・ゴードンはやはり時代と世代がちがうのでしょう、それほど大量にはやっていません。彼がロックバンドとツアーに出なければ、たくさん残されたであろうタイプのプレイのサンプル、という意味でこの曲を入れました。

◆ Harry Nilsson - Together ◆◆
ハル・ブレインは創意工夫の人だったので、あちこちに奇妙なプレイを残していて、あとから研究するわれわれを楽しませてくれます。しかし、ジム・ゴードンは、そういう意味ではハルの後継者とはいえず、いたって端正かつストレートなプレイばかりが残されました。フランク・ザッパのSt. Alfonzo's Pancake Breakfastをこのベスト・セレクションに入れたのは、ジミーのスペクトルの紫外線や赤外線、すなわちもっとも尋常でないプレイのサンプルという意味もあります。

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ジム・ゴードンはニルソンのRCAからのデビュー以来、末期のFlash Harryにいたるまで、多くのアルバムでプレイしています。たとえば、Everybody's Talkin'や、I Guess the Lord Must Be in New York Cityのようなヒット曲でも彼はプレイしているのですが、ドラマーのアンソロジーに選ぶには、こうした有名曲は、あまりにも地味すぎる歌伴の極北なのです。

ニルソンという人は、考えてみると、ドラマーの暴走を許さなかったと思われます。派手なドラミングの曲はないのです。しかし、わたしはニルソンのファンなので、一曲はとりたいと粘りに粘ってみると、このTogetherが浮上してくるのです。

いや、地味なのですが、じつに異例のプレイをしていて、それがこの曲をとった理由です。なにをしているかというと、ライド・ベルならぬ「ハイハット・ベル」なる代物を使っているのです。いや、これはわたしが捏造したもので、「ハイハット・ベル」などという名称や、それが指し示すプレイが一般的なわけではありません。

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初期の2枚のアルバムをリミックスしたこのAerial Pandemonium BalletにもTogetherは収録されている。しかし、なんと、ジム・ゴードンのトラックは抹消された、ドラム抜きのヴァージョンなのである。

「ライド・ベル」というのは、その名が示すとおり、ライド・シンバルのベル状の中心部分と、それを叩くプレイを指します。ジム・ゴードンはニルソンのTogetherで、ライド・シンバルの中心部分ではなく、ハイハットの中心部分を叩くという、じつになんとも風変わりなプレイをしているのです。しかも、閉じたまま叩くと音が死ぬので、叩くタイミングで開くという面倒なことまでやっています。

世間は広いし、音楽の歴史も長いので、きっと、どこかに同じことをやった例はあるでしょう。しかし、わが家にある曲のなかで、こんなことをやっているのは、たぶん、これ一曲だけです。なんでこんな変なプレイをしたかというと、たぶん、強いられたシンプルなプレイに退屈し、シンガーの邪魔にならないところで、ちょっといたずらをしてみたのでしょう。ハイハットはライドより径が小さいので、当然、ピッチが高く、なんだか笑ってしまうようなサウンドで、ジミーもクスクス笑いながらプレイしたのではないかと想像してしまいます。

◆ Bread - Friends And Lovers ◆◆
f0147840_0201834.jpgこれまた純粋なスタジオのプロとしての歌伴の仕事です。しかし、なんとも派手な歌伴で、やはりもう60年代ではないと感じます。イントロからヴァースへの移行におけるフィルインで、さっすがーとうなったあとは、ただただジミーのソリッドなビートに聴き惚れるというだけの曲です。タムタム、フロアタム、ともに重く深いいい音で録れています。

それにしてもなんです、ブレッドは60年代でいえばアソシエイションあたりに相当するグループでしょう。アソシエイションがハル・ブレインだったのに対し、ブレッドはジム・ゴードンでスタートした(あとのアルバムはジム・ゴードンではないらしいが)のは、「王位継承」の結果かもしれないなあ、とちょっと感傷的になります。

◆ Johnny Rivers - Life Is a Game ◆◆
すでにとりあげたRockin' Pneumonia, Boogie Woogie Fluと同じL.A. Reggae収録の曲で、Rockin' Pneumoniaがオープナーなのに対し、このLife Is a Gameはクローザーです。

多数派の共感は得られないかもしれませんが、ゆったりとしたテンポで、すこしうしろに重心を載せたグルーヴに対する偏愛というのがわたしにはありまして、このアルバムはそういうノリの曲がたくさん収録されています。リプリーズかアンコールのような役割で最後に置かれた曲なので、わたしもその役割の拝借を含めて、この曲をベスト・オヴ・ジム・ゴードン第2部のクローザーとしました。

もう何度も同じことを繰り返していますが、この曲でもやはりタム類、とくにフィルインの最後の一打になっているハイタムのサウンドと使い方が印象的です。こういうテンポでこういうノリというのは、聴いてよし、やってよし、なんともいいものだなあとしみじみします。

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by songsf4s | 2008-09-26 23:58 | ドラマー特集