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The Best of Jim Gordon その4

◆ ファイアフォックス・ダウン ◆◆
クレイグ・トーマスという作者の『ファイアフォックス』という、ロシアの戦闘機を盗む話はなかなかよくできていて、クリント・イーストウッド監督・主演で映画化もされました。しかし、現実にロシアの新鋭戦闘機が亡命してきてみたら、電子機器に真空管を使っていたというので笑いものになり、そんな国の戦闘機を命を張って盗む『ファイアフォックス』のほうも、リアリティーが薄れてしまったものでした。

The Best of Jim Gordon その4_f0147840_23595582.jpgいや、真空管を使ってもコンピューターは動きますが、動作は遅いは、故障が多いは、ゴジラとキングギドラのあいだに生まれた子どもみたいに重いはで、非現実的です。あのころだって、ENIACは遠くなりにけりだったのです。兵器、とりわけ空を飛ばすものに載せるのは固体回路、というのはすでにあの時代でも常識だったので、ミグの機体を解体してみて、「こりゃ、考古学者の仕事場かよ?」てえんで、技術者は仰天したわけですな。最新オフィスビルだと思って入居したら、構内交換機が設置されていず、交換台を呼んで手動で外線に接続するものだった、とか、クレムリンはベニヤ板にペンキを塗っただけの張り子の虎だった、というぐらいの、ズルッとなるサゲでした。

で、その続篇が『ファイアフォックス・ダウン』てえんで、うちのFirefoxがまたしてもダウンしたのです。いや、クレイグ・トーマスの小説はもちろん戦闘機、こっちはブラウザーの話でありまして、いやはや、どうも失礼。しかし、FireとFoxがつながった言葉が熟しているとは思えず、わたしは、ブラウザーがこのような名前を持つに至った背景には、戦闘機の名称またはクリント・イーストウッドによる映画があるとみなしています。

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で、Firefoxを開いているときにウィンドウズがクラッシュすると、ときにひどいことになる(開いていたタブや履歴は疎か、ブックマークまでがすべて消える完全な記憶喪失)ケースがありますが、最悪は、ダウンロード・マネージャーが壊れ、画像とHTMLのダウンロードができなくなることです。これが起きちゃったのです。

症状から考えて、プロファイルが壊れたにちがいないのだから、プロファイルを消すか、再インストールすれば正常になる、とふつうは考えますよね。残念ながら、再インストールでは解決できません。どこになにを書いているのやら、じつに強固にプロファイルがこびりついていて、再インストールしても、以前の状態が復元されてしまうのです。ということは、つまり、ダウンロード・マネージャーの不具合も「正しく」保持されちゃうのです! バーロー、なんのための再インストールだ! リセットしたいからやってるんだろうが! 責任者出てこい! ですよ。

The Best of Jim Gordon その4_f0147840_0222845.jpgそれではというので、Firefox大撃滅作戦、たとえわが国土を荒廃させても、敵を殲滅せずにはおくものか、死なばもろとも、地獄へ行け、てえんで、regedit.exe起動、「パリは燃えているか? パリは燃えているか? 翼よ、あれがパリの火だ、あ、ちがった、あれは『翼よ、あれがパリの灯だ』だったっけ」てえんで、完璧にヒトラー的逆上、核兵器の使用もいとわないぞ、でしたねえ。いや、つまり、もう一度、Windowsの再インストールからやったろーじゃねーか、です。

ありとあらゆるFirefoxの痕跡をOSパーティションから削除してみました。それでわかったのです。Firefoxはプロファイルを二重に書き込んでいるようなのです。だから、ふつうにAppllication Data下のFirefoxフォルダーを削除しただけでは、予備のプロファイルを使って不具合を復元してしまうのです。そんなもん、復元するなっていうのに!

呆れました。アポロ宇宙船のときにいわれた「リダンダンシー」(「冗長性」と訳したりする)による安全性の確保みたいなもので、一見、強固につくってあるように見えますが、じつはまったくそんなことはないのです。たとえるなら、ドロボーはフリーパスで侵入できる(ウィンドウズのクラッシュに対してはきわめて脆弱で、あっさり道連れになってプロファイルが壊れる)けれど、現場検証に来た鑑識はぜったいに侵入できない(再インストールによるプロファイルの書き換えは断じて拒否する)大馬鹿な金庫室みたいなものです。泥棒を捕らえてみてから縄をなうならともかく、泥棒にやられてみてからナヴァロンの要塞化するのです。

最近、ヴァージョン3になって、このへんが改善されたのかどうか知りませんが(いちおう入れてみたが、どういうわけか、世評とは正反対に、うちではひどい速度低下に襲われ、使いものにならず、2に戻した)、Operaにはこういう脆弱性はまったくなく、どんなにクラッシュしても、一度もプロファイルが壊れたことはありません。Operaではエクサイトにログインできないので(Operaではなく、エクサイトに問題がある)、Firefoxとの併用は避けられないのですが、釈然としないものがあります。

そもそも、これだけ時間をかけて原因を究明し、正常な状態を復元したその直後に、またウィンドウズがクラッシュして、またしてもダウンロード・マネージャーの不具合が起き、またまたしても、二重のプロファイルを削除したのでした。うーん、シジフォスの神話、賽の河原の石積み、どこまでつづく泥濘ぞ、八甲田山死の彷徨でんがな。まあ、やり方がわかれば、短時間で処置できるのですが(二つの事故プロファイルを消すだけでよく、再インストールは不要)、当然ながら、あちこちのログイン名やパスワードなどもすべて消えるので、これを復元するのがむちゃくちゃに面倒です。

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うーん、この枕のタイトルは『ファイアフォックス・ダウン』ではなく、クロード・シャブロールの『二重の鍵』だったかもしれませんなあ。何十年も前に見たきりですが。いや、わたしがやったような粗雑な解決策ではなく、プロファイルを部分的に修正する(つまり、ログイン名やパスワードなどは保持する)方法をご存知の方がいらっしゃったら、ぜひぜひご教示いただきたいものです。ホント、手を焼いとります。

◆ Joan Baez - Children And All That Jazz ◆◆
さて、ベスト・オヴ・ジム・ゴードン。そろそろスピードアップしないと、永遠にこのシリーズを完了できないような気がしてきましたが、果たしてどうなることやら。

ジョーン・バエズが好きかといわれると、口ごもってしまうのですが、それは、あのギター一本で歌うフォークというのがものすごく不得手なためです。わたしの胞衣(えな)を埋めた上を最初に通ったのは、ムカデかフォークミュージックだと思います。

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70年代のジョーン・バエズは、あのWe Shall Overcome的世界とは、すくなくともサウンド面では完全に縁を切っていて、じつはかなり楽しめる音作りをしています。まあ、わたし同様、あのストレート・ロングヘアのようなとっかかりのない、素直すぎる美声が苦手、という方もいらっしゃるでしょうねえ。これはどうにもなりません。ボビー・ジェントリーやジュリー・ロンドンのファンとしては、こういうバエズ声はいかんのです。しかし、快川禅師もおっしゃっています、心頭滅却すれば火もおのずから涼し、グルーヴに意識を集中すればヴォーカルは消滅する、と。

で、この曲のジム・ゴードンは如何にというと、これが微妙なんですなあ。微妙なところが、ただ純粋にすぐれているトラックとはちがうので、やっぱり、参考資料として押さえておきたいわけです。なにがちがうかというと、なんといっても、チューニング、サウンドですが、プレイ・スタイルも異なっています。

The Best of Jim Gordon その4_f0147840_0353983.jpg個人的にもっとも気になるのは、チューニングのちがいで、こういう低いのはどんなものかねえ、と首をかしげます。時代の好尚というのがあり、ポピュラー音楽はまさに流行廃りが支配する世界、プロデューサーは時代にこびへつらうものですから、おれはこういうチューニングは嫌いだ、なんて意固地になっていると、仕事がなくなっちゃったりするわけで、時代に合わせて自分を変えていかなければならないのが、客商売のつらいところです。

で、結局、そのようにして変質していったドラムのチューニングとサウンドが気に入らず、わたしは、ピーンといえばカーンというような青空に似た、パシーンとした60年代チューニングのスネアに頑固にこだわり、変貌を続ける同時代の音楽と縁を切りました。こっちは音楽で飯を食っているわけではないので、そういう音はでえっきれえだ、性に合わねえ、と啖呵を切ることができるわけですな。

そもそも、というほどのことじゃござんせんが、うまいドラマーというのは、つまりは耳がすぐれているわけで、当然ながら、チューニングにおいても、凡庸なドラマーとはちがうのです。たとえば、すでに取り上げたB.W. StevensonのMy Mariaの冒頭で派手に鳴るハイ・タムとスネアがありますな。あれがなぜ強く印象に残るかというと、タムとスネアをつづけて鳴らすと、そのピッチの落差のせいで非常におもしろい響きが生まれるように、「意識してチューニングしている」からにほかなりません。

これはハル・ブレインが「ドップラー効果」と呼んだものです。その効果が最大に発揮されたものとしてもっとも有名なトラックは、アルバート・ハモンドのIt Never Rains in Southern California、すなわち「カリフォルニアの青い空」の冒頭のタム2打です。これはピッチの異なるタムを二つ、フラムの要領で「ほぼ同時に」すなわち「わずかにずらして」ヒットすることによる効果をねらったもので、リスナーの心を一瞬にしてつかむみごとなフックとなり、この曲の大ヒットに貢献しました。ただボケッとチューニングしていたのでは、こういう歴史に残るほど鮮やかなフックは生まれません。注意深く二つのタムをチューニングしたからこそ、あのように印象的なサウンドが生まれたのです。

The Best of Jim Gordon その4_f0147840_0362371.jpg音楽は音によってつくられるので、どのような音色であるか、ということは死活的に重要です。しかし、花の色は移ろいやすく、一世を風靡したサウンドは、やがて、「古い」といわれることになる運命を背負っています。流行ったからこそ飽きられてしまうのです。そのようにして、ハル・ブレインへの依頼は減少し、ジム・ゴードンやジム・ケルトナーの時代がやってきますが、ものごとは順繰り順繰り、ジム・ゴードンが生来もっていたキレのよいスネアのサウンドは時流からはずれ、こういう、モンモンモコモコの入道雲なんです、みたいなこもった音を好む一派があらわれたようです(と頼りないが、75年ともなると、わたしはもう音楽に興味を失いはじめていたので、じつはよく知らない)。

では、なんでこのトラックをベストに入れるのだ、といわれるでしょうが、どれほどイヤなサウンドだろうと、やっぱりすばらしい一瞬があるのです。後半、ピアノの間奏(たぶんハンプトン・ホーズのプレイ)があるのですが、ここでやはり、すばらしいタイミングでヒットしているビートがいくつかあるのです。とくに2:07から08秒にかけての連打は、やっぱりジム・ゴードン、襤褸は着ても心は錦(カンケーないか)、腐っても鯛、すごい、とうなります。こういうふうに、ほとんどおもしろくないのだけれど、一瞬だけすごくいい、というのは、それはそれで楽しいものなのです。ハルが叩いたブライアン・ウィルソンのCaroline Noにおける、エンディング直前の一発だけのフィルインを想起されよ。

◆ Art Garfunkel - Travelin' Boy ◆◆
アート・ガーファンクルの最初のソロ・アルバム、Angel Clareのオープナーで、作者はポール・ウィリアムズとロジャー・ニコルズ。このアルバムからシングル・カットされ、大ヒットしたジミー・ウェブ作のAll I Knowを選択してもよかったかな、と思うのですが、ドラムの見せ場が多いほうの曲をとりました。セッション・プレイヤーである以上、ヒットは重要なので、大ヒット曲のほうを重視するという方針も「あり」だと思います。

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前述、ジョーン・バエズのChildren And All That Jazzの2年前の録音ですが、スネアはまだピッチが高く、録音も、同じハリウッドでありながら、こちらのほうが納得のいくドラム・サウンドをつくっています。いや、My MariaやBorder Townのほうがはるかに派手なサウンドですが、まあ、歌伴はこんなものでしょう。

気がつくと、ボビー・ウィットロックの2曲のバラッド、Song for PaulaとThe Scenary Has Slowly Changedによく似たドラミング構成をとっています。バラッドはそうなりがちなのかもしれませんが、エンディングにかけて盛り上げに盛り上げるので、勢い、ドラムもそのあたりに大量にフィルインを投入することになります。これがあるから、バラッドでのドラミングも捨てがたく、ハルが自分の代表作にバラッドを選ぶのでしょう。セッション・プレイヤーは歌伴ができてナンボですが、歌伴とは詰まるところ、バラッドでのプレイの謂いなのです。

◆ Bobby Whitlock - Where There's a Will There's a Way ◆◆
ボビー・ウィットロックのソロ・デビュー盤のオープナーで、アップテンポのストレート・ロッカー。以前にも書いたように、わたしは、ボビー・ウィットロックのソロなら、きっとジム・ゴードンが叩いているにちがいない、というギャンブルでこの盤を買いました。

The Best of Jim Gordon その4_f0147840_042655.jpgパーソネルはないので、音で判断するしかなかったのですが、この1曲目に針を落としたとたん、うん、大丈夫、ジム・ゴードンまちがいなし、とニッコリしました。やっぱり、こういう曲になると、ドラマーはほとんど主役、いいプレイをしています。しいて難癖をつけるなら、もっと明るい音で録ってほしかったと思いますが、これだけ派手に叩いていると、リミッターかハイ・パス・フィルターをかけなければ、冗談ではなく、ドラマーが大主役、ヴォーカルは脇役になってしまうので、やむをえなかったのでしょう。

最大のお楽しみは、テナー・ソロの直後、1:50前後のストップ・タイムにおける短いフィルインでしょう。むちゃくちゃにカッコいいですなあ。

◆ Delaney & Bonnie & Friends - Where There's A Will There's A Way ◆◆
この曲も、ディレイニー&ボニーによるライヴ・ヴァージョンがあります(楽曲自体が、ウィットロックとボニー・ブラムレットの共作)。イントロで一カ所ミスをしていますが、それはそれで、ジム・ゴードンでもライヴではこういうことがあるんだよねえ、とニヤッとします。

The Best of Jim Gordon その4_f0147840_0423461.jpgこのOn Tourというアルバムのなかでは、イントロのミスをのぞけば、もっとも楽しいドラミングといえるでしょう。バシバシとバンドの「ケツを蹴り上げ」るジム・ゴードンが中心になって展開しますが、ここでもまた、「走らず突っ込まず」の懐の深いグルーヴをつくっているのが、ほんとうにすごいものだなあと思います。

一般論としては、派手に盛り上げるときは、いくぶん走ってもオーライだったりするのですが、ジム・ゴードンの場合、テンポは一定のままで、熱く盛り上がる感覚をつくっているのだから、たいしたものです。やっぱり、ジョン・グェランだのラス・カンケルだのといった、タイム・キーピングも満足にできなければ、チューニングもひどいマイナー・リーガーとは、一桁も二桁も違う巨人、真にすぐれたプレイヤーでした。


by songsf4s | 2008-09-18 23:46 | ドラマー特集