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We're Lookin' by Steve Winwood
タイトル
We're Lookin'
アーティスト
Steve Winwood
ライター
Steve Winwood, P. Goodwin
収録アルバム
Nine Lives
リリース年
2008年
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「神童も二十歳すぎればただの人」といいます。たんにほかの人間より成長が早かっただけにすぎず、特別な才能をもっていたわけではない、という凡人のひがみ丸出しの警句です。

ポップ/ロック/R&Bの世界にも、神童といわれた人間はそれなりにいます。ビリー・プレストン、フランキー・ライモン、リトル・スティーヴィー・ワンダー、マイケル・ジャクソンなんてあたりが一般的に想起されるのではないでしょうか。わたしにいわせると、このなかで「神童に近い」のはビリー・プレストンだけ、あとは「才能のあるお子さまタレント」といったあたりでしょう。

エルヴィス以降のロック・エラにおいて、ほんとうに「神童」の名に値するのは、スティーヴ・ウィンウッドただひとりでしょう。そして本日は、その1948年生まれの神童が、還暦後にリリースした最初のアルバムのお話です。

◆ You're sixteen and now you're sixty! ◆◆
十六歳のスティーヴ・ウィンウッドではなく、六十歳のスティーヴ・ウィンウッドを聴く日がくるとは、じつにもって驚天動地、意外千万です。長く生きると、人間、いろいろな目に遭うものですなあ。六十歳のスティーヴ・ウィンウッドですよ、これに呆れなくて、なんに呆れるというのですか。ウィンウッドに夢中だった中学生時代のことを思うと、なんともはや、いうべき言葉を失います。

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スティーヴ・ウィンウッド、六十歳!

呆れてばかりいてもしようがないから、スペンサー・デイヴィス・グループ時代、芳紀十六歳の神童がうたうEvery Little Bit Hurts(ブレンダ・ハロウェイの曲のカヴァー)を久しぶりに聴いてみました。うーん、やっぱり、十六歳の少年のピアノと歌である、といわれるよりは、六十歳の大ヴェテランの歌とピアノである、といわれるほうがまだしも納得いくかもしれません。なんたって神童ですからね、とうてい子どもとは思えないことをやっていたのです。

歌もすげえもんですが、ピアノも老成しています。ギターだって、大人になってからより子どものころのほうが面白かったような気がしていたのですが、改めてデビュー盤のI'm Blue(アイケッツの曲のカヴァー)の間奏なんか聴くと、やっぱり、時代の尖端を行くプレイをしていたことが確認できます。ちょっと歪ませるところがコンテンポラリーなのです。

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スペンサー・デイヴィス・グループ。もちろん、左端の少年がスティーヴィー。

で、六十歳のウィンウッドはどうかというと、うーむ、言葉の選択がむずかしいのですが、「悪くない」し、「不快な」音でもありません。じっさい、たとえば、Higher LoveだのRoll with Itなんかにくらべれば、ずっといいのではないかと感じます。近ごろのミック・ジャガーのような老醜無惨にはほど遠いし、「いつまでもギラギラしていたい」なんていう惨めったらしい望みはまったくもっていないことがよくわかる、ほうっておいたら自然にこうなった、という雰囲気の穏やかな「枯れ」ぐあいはけっこうだと思います。

しかし、ここが神童だった人らしいところだと思うのですが、十六歳と六十歳のあいだに極端な落差がないのです。なるほど、神童の還暦は、やっぱり凡人とはちがうな、と感銘を受けます。なんにも知らない人に、バックトラックを消して、声だけを聴かせたら、十六歳のI Can't Stand Itは三十歳の録音、六十歳のWe're Lookin'は三十七歳の録音ぐらいに思うのじゃないでしょうか。それくらいのささやかなちがいに感じられます。

◆ For old times' sake ◆◆
声だけ聴いていると、十六歳と六十歳の区別が不明確なシンガーですが、アルバムNine Livesには、十六歳と六十歳の区別をはっきりさせたいというファンのために(まさかね)、DVDが付いています。うーん、たしかに年をとったなあ。これなら十六歳とまちがえる憂いなしと保証できます。

しかし、歌やプレイより、しゃべり方のほうに年齢を感じます。昔はそんな風には感じなかったのですが、もろのジョンブルのしゃべり方で、おいおい、です。ファン気質ゼロの人間なので、音しか聴かず、芸能誌的話題にまったく興味をもたないために知りませんでしたが、いつのまにかナッシュヴィルからイギリスに戻っていて、そのためによけいにそう感じるのでしょうが、BBCのアナウンサーのしゃべりをきいているようで、イギリス人のアクセント丸出しに感じます(まあ、イギリス人だから、当たり前なのだが!)。年をとると、どこかに地が出るものですが、ウィンウッドの場合、話し方のアクセントだったようです。

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地が出るといえば、サウンドにもそれは感じます。Higher Loveがヒットしたとき、ものすごくイヤな気分になり、ウィンウッドとの長い縁もこれまでと見切り、以後、遠ざかりました。自分固有の音ではなく、その時代の音でつくった音楽、市場に合わせたサウンドだと感じたのです。

彼がそういうタイプのミュージシャンなら気にしませんが、ウィンウッドほど市場を無視したシンガーはいないといっていいほどで、スペンサー・デイヴィス・グループ時代をのぞけば、ヒットをほしがったことは一度もなかったという印象をもっています。どんなときにも、つねに自分がやりたい音楽をやっていたのです。それが、あのダンス音楽ですからねえ、なんだってスティーヴ・ウィンウッドが時代に媚びなきゃならんのだ、と大立腹でした。

じつは、それっきり盤は買っていません。最近になって、その後のアルバムをひととおり聴き、前作、2003年のAbout Timeから持ち直していたことがわかりましたが、まあ、そのへんはどうでもいいのです。ファン気質とは無縁なので、かつて好きだったからというそれだけの理由で、興味を感じないものまで義理で聴いたりはしないのです。

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しかし、六十歳のウィンウッドともなれば、さすがにいくぶんか心が動きます。中学時代、スティーヴ・ウィンウッドとリック・デリンジャー(あのころはまだゼーリンガーという苗字だったが)の二人は、自分に年齢が近いという理由で、特別な存在に感じていたのだから、年をとると、やはり、そのことを思いだすのです。

Nine Livesのサウンドづくりには、60年代育ちの地が出ています。低音部が薄いのです。いまどきのお子さんたちは、なんでもかんでも厚ければいいと考えているらしく、わたしのような60年代育ちには、低音部が不必要なまでに、いや、不快なまでに厚くつくられていますが、かつては、物理的にむずかしかったせいもあって、現在のように極端に低音を持ち上げることはありませんでした。

Nine Livesの低音部は、フット・ベースを使っているせいもあって、60年代的な薄さ、軽さになっていて、われわれのような年寄りも安んじて楽しむことができます。ベースのみならず、ドラムのバランスも、スネアが他のすべてを圧するような現代的なものではありませんし、キック・ドラムやフロアタムが爆音をたてることもありません。昔のように、控えめなバランシングになっているのです。

全体としてのサウンドの印象、わけても低音部のバランスに気を遣わないミュージシャンはぜったいにいないので、これはウィンウッドが意識的に選択した軽さにちがいありません。そして、彼が意図したであろうとおり、60年代育ちのわたしは、「ああ、昔の音だ」とストレートに反応したというしだいです。六十歳になったプレイヤーにふさわしいサウンドだと感じます。

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◆ Back in the High Life (of the 60s) ◆◆
とはいうものの、スティーヴ・ウィンウッドがすごかった時代の盤と同じ平面で比較して、このNine Livesをどのへんにランクするかというと、やっぱり圏外、着外、順位つかず、でしょう。半世紀近い義理があるので、いくぶんは聴く意味があるかもしれないけれど、それ以上のものではなく、親戚友人およびわたしのようなアホ馬鹿ファン以外は聴かなくてもいいアルバムでしょう(それにしては、アメリカでのリリース直後の売れ行きはすばらしかったそうで、現代アメリカ音楽の低迷ぶりが如実にうかがわれる。有力者不在の繰り上げ当選)。

A cat has nine lives「猫は九つの命をもつ」といいます。高いところから落ちても、転びもせず、すっくと立ってケガひとつしないあたりから、猫はどんな危険な目にあっても無事に切り抜けると考えられたのでしょう(じっさい、わが家で昔飼っていた三毛は、仔猫のときに二階の窓から下の歩道に落ちたが、まったくなんともなく、あれには当人、いや、当猫も含めて、うちじゅうビックリ仰天した。なにが起きたのかわからなくて、呆然自失している猫の顔というのは、後にも先にもあのとき一度しか見たことがない)。「好奇心は猫をも殺す」という諺は、九つの命をもつ猫ですら命を落とすほど、好奇心は危険だということをいっているわけです。

DVDを見るかぎり、現在のスティーヴ・ウィンウッドが猫を飼っている様子はなく、二匹の犬と田園地帯を散歩しているショットが出てきました。猫にこだわったアルバム・タイトルではなく、しぶとく生き延びるよ、という宣言なのでしょう。

中学のときから聴いていて、いまも現役続行中なのは、レイ・デイヴィーズ、ヴァン・モリソン、スティーヴ・ウィンウッドの三人だけになってしまった(いや、ポール・マッカートニーやリンゴ・スターもあげるべきかもしれないが、この数十年、なにをしているのか知らない。また、もう引退したと思っていたフィーリクス・カーヴァーリエイレイも、最近復活したそうだが、音はまだ聴いていない)ので、このへんの人たちは、面白くてもつまらなくても、最後まで見届けようかという気に最近はなっています。

還暦のウィンウッドかあ、といくぶんか感慨があったので、チラッとその話を書いておしまいと思ったのですが、やっぱり、聴くべきは六十歳のウィンウッドではなく、十六歳のウィンウッドだという感を深くしました。よって、あといくつか、もっとずっとすごかった時代のウィンウッドの曲を取り上げようと思います。次回は神童ぶりを遺憾なく発揮したスペンサー・デイヴィス・グループ時代の曲です。

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スティーヴ・ウィンウッド(右)のホーム・スタジオを訪問したかつてのSDGのドラマー、ピート・ヨーク。Nine Livesもこのスタジオで録音された。

by songsf4s | 2008-08-22 23:17 | スティーヴ・ウィンウッド