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Batman Theme by the Marketts
タイトル
Batman Theme
アーティスト
The Marketts
ライター
Neal Hefti
収録アルバム
The Batman Theme
リリース年
1966年
他のヴァージョン
TV OST, Neal Hefti, Nelson Riddle, Billy May, Ray Martin, Al Hirt, the Ventures, David McCallum, the Astronauts
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今日の曲、Batman Themeに関するキャロル・ケイのメモが見つからなくて、昨日は図らざるも休みとせざるをなくなりました。おかげで、とんでもない勘違いをしていたことに気づき、Out of Limitsからつづく、このマーケッツ2連打は、なかったことにしてしまったほうがいいことがわかったのですが、一度、公表した記事を削除するのも穏やかではないので、綻びを適当に縫い合わせて書きつなぐことにします。

ともあれ、一日の休業も辞さずに、家中ひっくり返して、ようやく発見した「CKファイル」のこの曲に関するくだりを、まずはご覧いただきましょう。

他に忘れられないセッションとしては、まず(ユナイティッド・レコーダー、スタジオAにおける)マーケッツのBatman Themeがある。この曲のときは、朝の4時にたたき起こされ、スタジオに駆けつけて、この“ホット”なシングルを録音するハメになった。われわれのヴァージョンは、録音したその日の朝10時ごろには、LAじゅうの局で流されていた(わたしはバックアップ・エレクトリックで、あのダブルストップのラインを弾いた。リードはトミー・テデスコだった)。テレビ・ショウのテーマの優位に対抗し、リードを奪うために、とてつもないスピードでリリースしなければならなかったのだが、その作戦は功を奏し、このシングルはおおいに売れたのだった。

録音の数時間後に放送されたヴァージョンは、もちろん製品ではなく、ラフ・ミックスのアセテート盤でしょう。しかし、ここで重要なのは、いちばん最初に電波にのったヴァージョン、という実績です。

具体的に、この「早さの勝負」はどういう経過をたどったかというと、マーケッツ盤Batman Themeは、1966年2月5日付けでビルボードにチャートインします(85位赤丸)。それに対して、作曲者のニール・ヘフティーによるヴァージョン(OSTではなく、レコード・リリース用のリレコーディング・ヴァージョン)は、1週間遅れて、2月12日にチャートインします(86位赤丸)。

この2月12日の時点でマーケッツ盤はどうなっているかというと、69位赤丸です。結局、この差は縮まることなく、マーケッツ盤Batman Themeが最終的に3月19日付けで17位に到達したとき、ニール・ヘフティー盤は35位、両者ともこれがピークで、あとはいっしょに降下していきました。いつもそうだとはいえませんが、Batman Themeに関するかぎり「早い者勝ち」だったのです。

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◆ 名前の所有権 ◆◆
さて、わたしがなにを勘違いしていたかというと、マーケッツ盤Batman Themeのプロデューサーは、いつものようにジョー・サラシーノだとばかり思っていたということです。じっさいには、ディック・グラーサーだそうです。これだけで「サラシーノのキャリアとテレビドラマのテーマ」というわたしのシナリオは崩れてしまったのです。

でも、この勘違いは、弁解じみますが、起こって当然の勘違いで、グラーサーとはどういう意味だよ、説明しろ、説明を、とまだ腹を立てています。なぜかといえば、マーケッツというのは実在しないバンドであり、どこかに存在しているとしたら、それはジョー・サラシーノの頭のなかだけなのです。

サラシーノがバルボアのボールルームで聴いたビートをもとに、Surfer's Stompという曲を書き、こいつで一稼ぎしようとスタジオに入ったときに、マーケッツは誕生しました。このときの録音メンバーは、エドワード・“シャーキー”・ホール=ドラムズ、プラズ・ジョンソン=テナー・サックス、ルネ・ホール=ギターなどで、みなスタジオのプロ、その日だけの「マーケッツ」にすぎません。

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Surfer's Stomp誕生の地、バルボア岬のランデヴー・ボールルーム。

マーケッツによるつぎの大ヒットがOut of Limitsで、ここでもサラシーノのクレヴァーな商売人ぶりが成功の鍵になっています。このときのメンバーは、Surfer's Stompのときとはまったく異なります。ハル・ブレイン、トミー・テデスコ、ジミー・ボンド、リオン・ラッセル、スティーヴ・ダグラスなどのメンバーだと考えられます。

サラシーノは、ライヴのマーケッツは、「その日、プレイできる人間」だったといっています。つまり、寄せ集めのバンドをプロモーション用に放送局やクラブなどに送り出したということです。

ここから読み取れることはなにか? それは、「ザ・マーケッツ」というアーティスト名の法律的所有者は、創造者であるジョー・サラシーノだということです。だから、彼の判断で適宜、マーケッツの名前を使用できたのだ、と考えたのですが、Batman Themeはディック・グラーサーがプロデュースしていることから、この想定は怪しくなりました。マーケッツの所有権は、サラシーノの所属会社にあるか、または、ワーナー・ブラザーズに移っていたのかもしれません。このへんに関する証言は見あたらないのですが、うちにあるもので見るかぎり、Batman Theme以降のマーケッツの盤はすべて(といっても、Tarzanなど、ほんの一握りだが)グラーサーのプロデュースなのです。

ハリウッド音楽界を見渡して、機を見るに敏といって、サラシーノほどうまく立ちまわった人間はいない、という話をするはずだったのですが、なんたることか、Batman Themeのプロデュースはディック・グラーサーだったために、前提が崩れてしまい、その話はTボーンズやラウターズ(ともにサラシーノの創造物)やヴェンチャーズ(一部のアルバムをサラシーノがプロデュースした)とともに雲散霧消してしまったのでした。

◆ 単純化の行き着いたぎりぎりいっぱいの断崖絶壁 ◆◆
すっかり気が抜けてしまい、他のヴァージョンを聴く気も失せました。そもそも、Batman Themeという曲自体、それほど「いい曲」というわけでもありません。ただ、いろいろな意味で重要性はあります。

まずなによりも、その究極のシンプリシティーは特筆に値します。コードは三つ、リフの音も三つ(マーケッツ盤の場合、G-G-F#-F#-F-F-F#-F#をストレートな8分でプレイするのが1小節分、一巡で、これをときおり3度、5度に移動するだけ)、これ以上単純な曲を書くのはむずかしいでしょう(いま思いつくのはMemphis UndergroundとLouie Louieの2曲だが、どれがいちばんシンプルとはいえず、いずれが菖蒲か杜若という実力伯仲の勝負。コード・チェンジがない、ということでMemphis Undergroundがハナの差で勝利か?)。

思いだすのは、ヘンリー・マンシーニのPeter Gunn Themeです。Peter Gunn Themeは、リフ・オリエンティッドなスパイ/クライム・ミュージックの嚆矢となりましたが、この方向を継承したのがJames Bond Themeであり、Secret Agentmanでした。Batman Themeは、この路線を究極まで推し進め、到達したエクストリームといえるでしょう。ここから先はもうないのです。

当然、ギターを手にした中学一年生のわたしは、Secret Agentman同様、この曲のリフも(1音ずらしてオープンAからはじめたが)弾いてみました。世の中には思ったより簡単に弾ける曲もあるのだと思いましたねえ。あの時代の世界中の子どもが、たとえばSatisfactionのリフと同じように、Batman ThemeやSecret Agentmanを弾いたにちがいありません。

◆ 他のヴァージョン ◆◆
この分野のオリジネーターとなったPeter Gunnが、ジャズ系の作曲家、アレンジャーだったヘンリー・マンシーニの作だというのもやや皮肉なことでしたが、その方向を極限まで押し進め、アナーキーなまでに単純な、ほとんど幼児向け音楽のようなものをつくったのもまた、ジャズの作曲家、アレンジャーだったニール・ヘフティーだったのだから、世の中、よくわかりません。

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まあ、「ロック系作曲家」なんていうのはいなかったのだから仕方ないといえばいえますが、つまるところ、テレビや映画の音楽を依頼されるのは、ジャズ系の作曲家だったから、ということでしょう。ゴーフィン=キングとかマン=ワイルとか、そっちの系統の作曲家は、映画テレビの製作者の眼中になかったのだとしか解釈しようがありません(いや、待てしばし、1966年はバットマンの年でもあったけれど、あの番組の年でもあったじゃないか、という意見がございましょうなあ。あれを取り上げるかどうかは、今晩、よーく考えてみます)。

ニール・ヘフティー盤Batman Themeのドラマーはアール・パーマーです。ということは、ほかのメンバーも、いわゆるレッキング・クルーのプレイヤーである可能性が高いということを意味します。これが、「早い者勝ち」のひとつの理由なのです。同じようなプレイヤーの演奏を、同じスタジオで、同じエンジニアが録音する、なんてことになるのだから、上手い下手、録音の善し悪しで差がつく可能性は低く、勝負は早い者勝ちになってしまうのです。だから、マーケッツ・ベンチは「朝まで待てない」と、夜中に強行録音し、数時間後にはLAのDJたちにアセテート盤の配布を終わっていたのです。

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Hefty in Gotham Ciry タイトルからして当然、これもニール・ヘフティーによるバットマン関係盤なのだが、Batman Theme自体は収録されていない。

こういうことはそれほどめずらしいわけではないのですが、各ヴァージョンを眺めると、ハリウッド録音ばかりなことに気づきます。ビリー・メイ、ネルソン・リドル、ニール・ヘフティーというシナトラのアレンジャーたちは、いうまでもなくハリウッド・ベースです。ジャン&ディーン、デイヴィッド・マッカラム、ヴェンチャーズなどもハリウッド、アストロノウツだけは、公式にはアリゾナ録音ということになっています(あまり信用できない。すくなくとも後年になるとまちがいなくハリウッド録音)。

がんばってひととおり聴いてみたのですが、そりゃまあ、ちがうヴァージョンなのだから、ちがうのですが、やっぱり、同じ曲だから同じ、ともいえる、といったあたりで、どれがいいの悪いのとあげつらうほどのちがいはありません。

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曲調からいって、テンポを落とすわけにはいかず、「うちはスロウ・バラッドでやってみました」なんていう頓狂なヴァージョンもありません。みなアップテンポで、どの程度速いかというちがいしかありません。ネルソン・リドル盤だけは、途中で4ビートを入れているのが目立ちますが、とくにすぐれたアイディアというわけではなく、むしろ、陳腐なアイディアというべきで、他との比較で変わり種であるとはいえるけれど、すぐれているとはいいかねます。

グルーヴのちがいでもあれば話が単純化できるのですが、アール・パーマーが3種類、ハル・ブレインもおなじぐらい、という感じで、上手い人たちがやっているので、とくにひどいものもありません。

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で、結局、「早い者勝ちだ!」というマーケッツ・ベンチの判断は正しかった、ということが証明されたと感じます。実力のちがいでもあればまだしも、しばしばメンバーはダブっていて、ちがいがないのだから、しかたありません!

いま、検索結果を眺め直して思ったのですが、この際、ディッキー・グッドマンのBatman and His Grandmotherなんていうのを聴いてみるのはどうでしょうかね。これがいちばん変わり種のBatmanであることは間違いありません。去年から、なんとかディッキー・グッドマンを取り上げようとしているのですが、チャンスがないまま、ここまできてしまったので、もう理由も必然性もなく、ただやりたいからやるということで取り上げちゃおうかと思わなくもありません。

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by songsf4s | 2008-08-08 23:54 | 映画・TV音楽