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The Third Man Theme by Anton Karas
タイトル
The Third Man Theme
アーティスト
Anton Karas
ライター
Anton Karas
収録アルバム
The Third Man
リリース年
1949年
他のヴァージョン
Jack Marshall, Ruth Welcome, Billy Strange, Al Caiola, Chet Atkins, Don Costa, Esquivel, Enoch Light, Herb Alpert & the Tijuana Brass, Guy Lombardo & Orchestra, Si Zentner, Jack Costanzo, the Band
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本日のThe Third Man Themeは、もちろんグレアム・グリーン原作、キャロル・リード監督、ジョゼフ・コットン主演、オーソン・ウェルズ共演の映画『第三の男』のテーマです。

そんなことは予定していなかったのですが、聴いているうちに好奇心が湧いてきて、このテーマを奏でている楽器、チター(ツィター)について調べたので、いちおう、どんなものかを書いておきます。たんに、ああいう音がどのような構造と奏法から出てきているのか、という好奇心を満たそうと調べただけにすぎないので、ちゃんと知りたいという方は、専門サイトや信頼できる書籍などをご覧ください。

では、自己流三分間クッキングをやりますが、楽器の腑分けなんかにご興味のない方は、飛ばしてください。簡単にやりますが、楽器を弾かない方にはやはり面倒だろうと思います。使用したソースは、You Tubeにある、アントン・カラスのプレイの様子、楽器の外部構造がわかる写真と、内部構造の図解、そして百科事典の記述です。では、三分間クッキングに付き合ってみようかという方は、まずカラスの演奏をYou Tubeでご覧ください。

もちろん、チターにもいろいろなタイプがあるようですが、ここではアントン・カラスが弾いている、一般的と考えられるタイプの構造と奏法を述べます。動画をご覧になったら、こんどは以下の写真とアントン・カラスのチターを照合してください。

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写真左側に、ギターに似たフレット付きのフィンガーボードがあります。ペグの数でわかるように、ここには5本の弦が張られていますが、これはメロディー用です。弦はスティール製だそうです。残りのハープのような部分は伴奏用弦で、これはガットまたはナイロン弦です。ハイブリッド楽器なのです!

アントン・カラスの上記動画を見ていて、最初のうちは、絵と音が同期していないのかと思いました。ギターからの類推で、親指でベース、残りの指でメロディーとコードを弾いていると思って見ていたからです。じっさいにはギターとは反対で、親指でメロディーを弾き、薬指でベースを入れ、人差指と中指でコードないしはオブリガートを入れています。カラスは右手の親指に「プレクトラム」というサムピックのようなものをつけて弾いていますが、これは必須ではないようです。

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ギター同様、チューニングはいろいろなタイプがあるようですが、「ウィーン式」というものは、A4-D4-G4-G3-C3だそうです。オクターヴ離れたGが並んでいるのはなんのためなのか知りませんが、この2本を同じフレットで押さえ、同時に弾けば、12弦ギターと同じ効果が得られることになります。

装飾音用のガットまたはナイロン弦の部分は、フィンガーボードやフレットがないことでわかるように、開放で弾くようになっています。百科事典には「伴奏弦は四度もしくは五度間隔で調弦する場合が多い」と書かれています。

なんだか、オートハープみたいな形だと思ったら、そういうタイプのもの、つまり大正琴のようにボタンで押さえるものもあるようです。

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◆ The Third Man Themeのエキゾティズム ◆◆
『第三の男』をスパイ/クライム・ストーリーの先行形態などと位置づけたら、あちこちから石だのミカンの皮だの腐った卵だのが飛んでくる恐れがありますが、結果的に、キャロル・リードの意図とは関係なく、この映画は、後年のスパイ/クライム・ストーリーに甚大な影響をあたえたと思います。

また、日活アクション、なかんずく、後期の「ムード・アクション」にも強い影響をあたえ、しばしば直接の引用がおこなわれました。もっとも有名なのは『赤いハンカチ』のラスト・シーンですが、『カサブランカ』の丸ごといただきと片づけられている『夜霧よ今夜もありがとう』にも、しばしば『第三の男』的なシーン、戦前の表現主義の遠いこだまのような映像が登場します。だいたい、日活アクションの夜間シーンは「そのけ」が強いのです。いや、当家は映画ブログではないので、ここらで視覚的なことからは撤退します。

映画『第三の男』はわたしが生まれる前につくられたもので(1949年は昭和24年、小津安二郎はこの年、『晩春』を撮った。わたしが生まれた年につくられた『東京物語』までまだ4年もある)、もちろん、あとからテレビで見たのですが、それ以前にテーマ曲(Harry Lime Themeの別名もある)は知っていました。

今月は、「なんらかの意味で季節に関連した曲を選ぶ」という、当ブログ発足当初からの枠組をはずし、連想のおもむくままに楽曲を選んでいます。『第三の男』のクライム・ストーリーとしての側面から、Peter Gunnの流れで、その付近にある曲としてThe Third Man Themeを選んだわけではありません。わたしの頭のなかでは、The Third Man Themeは、2週間ほど前に取り上げたCalcuttaの付近にある曲なのです。

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「そしてスイス五百年の平和はなにを生んだか? 鳩時計さ」

Calcuttaは、どことなく南国的な明るい響きのある曲ですが、映画を見る以前は、The Third Man Themeにも、わたしは同じような印象をもっていました。映画を見て、テーマ曲から連想する絵柄とはかけ離れた雰囲気なので、ちょっと驚きました。しかし、こういう異化効果というか、対比の妙は外国映画ではよくあることで(どういうわけか、日本映画にはすくない)、とくに異とするほどのものではありません。

(『第三の男』には関係ないが、思いだしたことがあるので書いておく。ヒチコックの、たしか『逃走迷路』Saboteurだったと思う。夫が死んだことを妻が知らされるシーンがあった。テレビで見ていたら、吹き替えのほうは、しめやかな音楽を流していたが、原語に切り替えると、チャールストンを踊れそうなアップテンポの曲だった。どちらが正しいかは明らかである。この日本語版がつくられたとき、日本人の視聴者は幼稚だから高級な演出は理解しないと、日本語版制作者は判断したのだろう。不当な評価のような、正当な評価のような……)

The Third Man Themeという曲からは、映画『第三の男』のムードは想像できませんでしたが、両方とも非常によくできているので、結局のところ、みごとに相互補完することになったのでしょう。わからないのは、アントン・カラスの音楽になぜ南国的な響きがあるのか、あるいは、べつの言い方をすれば、なぜわたしがThe Third Man Themeに南国的なもの、エキゾティカの従兄弟のようなものを感じ取るのか、ということです。それについては、他日、また考えてみたいと思います。

◆ アントン・カラスとルース・ウェルカム ◆◆
ヴァージョン数が多いと、すぐに二日に分けてしまうのもいまや習慣化していますが、今日はがんばって一回で終わろうと思っています。

オリジナルのアントン・カラス盤、ないしはOST盤については、なにもいうことはありません。もはやこの分野の大古典でしょう。いま不思議に思うことは、全編にわたってカラスの演奏が流れるだけであって、いわゆるスコアがないことですが、それはカラスのThe Third Man Themeの出来とは無関係なことです。

クリスマス・ソング特集のSilver Bellsのときに取り上げたのですが、ルース・ウェルカムというチター奏者がいて、彼女のThe Third Man Themeもあります。ただチターを弾いているからというそれだけの理由で、こういう曲をカヴァーするようにいわれたのじゃないか、だとしたら可哀想だな、と思ってしまうのですが、まあ、そういうことも商売のうちでしょう。

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同じ曲を同じ楽器でやっても、当然、プレイヤーの個性のちがいは音にあらわれます。ルール・ウェルカムは構成も変え、あの有名なフレーズが出てくるまでに、長いインプロヴのようなものを入れています。全体の印象としては、アントン・カラス盤のほうがパセティックで、ルース・ウェルカムのほうはスリックな印象を受けます。カラスのほうがヴィブラートが強いからかもしれません。

◆ ジャック・マーシャルとアル・カイオラ ◆◆
f0147840_23473736.jpgこういう曲ですから、カヴァーは必然的にギターものが多くなります。こりゃうまい、と感じるのがジャック・マーシャル盤。この人のことを知ったのはごく最近のことですが、ジャズ出身のギタリストにしては意外なプレイで、かなり興味をそそられました。ギブソンじゃなくて、アコースティック・ギターでやっているところが非常に魅力的なのです。アップライト・ベース(ジョー・モンドラゴンまたはマイク・ルービン)もグッド・グルーヴです。まあ、あの時代のハリウッドですから、下手な人にあたるほうがむずかしかったのですが。

マーシャルは50年代から60年代はじめにかけて、キャピトル・レコードのインハウス・プロデューサーだったそうで、ハワード・ロバーツのアルバムをプロデュースしたり、バーニー・ケッセルとギター・デュエット・アルバムを出したこともあるそうです。ロバーツやケッセルを集めている方はいらっしゃるでしょうが、ジャック・マーシャルを軸にしてこのあたりの盤を捉えている方は非常に少なかろうと思います。「つぎのターゲット」の候補ですぜ>ハリウッド研究者諸氏。

f0147840_2334169.jpgアル・カイオラは、どういうわけかストレートな8ビートで、まるでPeter Gunnでもやるようなリズム・アレンジです。使用楽器もいつもとちがう12弦、トーンもノーマルなサウンドではなく、ディレイをかけ、さらになにか加工したと思われる妙なサウンドでやっています。意図するところは明らかです。もともとそういうタイプではなかった曲に、それらしいサウンドをあたえることで、The Third Man Themeもスパイ/クライム・ミュージックの文脈においてみようというのでしょう。成功したヴァージョンとはいえませんが、意図はわかるし、そういうことは失敗を恐れずに試してみるべきだと考えます。

◆ ビリー・ストレンジ ◆◆
ビリー・ストレンジのThe Third Man Themeは、リズム隊は例によってハル・ブレインとキャロル・ケイではあるものの、サウンドはいつものビリー・ストレンジ・スタイルとはいくぶん異なります。いつもは前に出るハル&キャロルが背景に引っ込み(それでも、CKさんのベースは「署名」がはっきりと読めるプレイだが!)、左右二本のギターを前面に出しています。

このThe Third Man Themeが収録されたMr. Guitarは1964年のリリースです。まだテープ・マシンは3トラックか、せいぜい4トラックだったはずです。そこから、ビリー・ストレンジ盤の録音プランをリヴァース・エンジニアリングすると、まず、ドラム、ベース、エレクトリック・リズム、パーカッションによるベーシック・トラックを2ないしは3トラックを使って録音し、これを1トラックにミックス・ダウンします。

これですくなくとも2つの空きトラックができました。この空いたトラックにギターを一本ずつ録音し、最終的に2トラックにミックス・ダウンしたのが、リリースされたものでしょう。なぜこんなことをゴチャゴチャ書いているのかというと、この2本のギターは両方ともビリー・ストレンジのプレイなのか、それともだれかとのデュエットなのか、ということを考えているのです。これがなかなか難問なのですよ。

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かつて、そのへんのことをボスに質問したことがあります。リードをとるギターが複数聞こえるトラックが相当数あるが、そういう場合、あなたが自分でオーヴァーダブしたのか、それとも、グレン・キャンベルやトミー・テデスコたちとデュエットしたのか、とうかがってみたのです。しかし、答は予想通りでした。ケース・バイ・ケースだというのです。

そりゃそうですよ。こういうくだらない質問をするほうが野暮天のコンコンチキなのです。録音の現場はプラグマティズムが支配しています。つまり、ミュージシャンひとりを3時間押さえればそれだけの金がかかり、スタジオを3時間使用すれば、それだけの費用を払わなければなりません。そのときの状況(その場にいるギタリストの人数、残り時間、オーヴァータイム料金を支払う予算の余裕があるか否かなど)しだいなのです。

だから、自分で判断しなさい、とこのトラックは主張しています。同じアルバムに収録されたMaria Elenaは、ガットがトミー・テデスコ、フェンダーがビリー・ストレンジというデュオの一発録りだと思いますが、The Third Man Themeはボス自身によるオーヴァーダブだと考えます。

理由はふたつ。だれかべつのギタリストといっしょに一発で録音するなら、先にドラム、ベースなどのベーシック・トラックを録音し、それをいったんトラックダウンして音質を犠牲にしたりせず、全体を一発で録るはずだ、ということが一点。つまり、ひとりでオーヴァーダブをするために、どうしても2つの空きトラックが必要であり、それを3トラックのテープ・マシンで実現するために、音質を犠牲にしたのではないか、ということです。

f0147840_2352237.jpgもうひとつは、無心にこの曲の左右のギターを聴くと、脳裏に双子の顔が浮かんでくるからです。この左右両チャンネルに分配された二人は、同じタイミングで弾くギタリストです。ピッキングに個性のちがいを感じないのです。よって、比較的稀な、ビリー・ストレンジ自身のオーヴァーダブによるギター・デュオだろうと結論します。

で、出来はどうなんだ、というあたりは、ご自分でお確かめください。右のリンクからAdd More Musicにいらっしゃり、「Rare Inst. LPs」ページを開き、No.11のMr. Guitarをダウンロードなさればいいだけです。ビリー・ストレンジはスパイ/クライム・ミュージックがいい、という方もいらっしゃるでしょうから、そのへんはお好みですが、わたしはこのアルバムをよく聴いています。

◆ エディー・コクランのパスティーシュ ◆◆
f0147840_23543087.jpgチェット・アトキンズ盤は、例によって、なにもいうべき言葉がありません。いくらチェットでも、The Third Man Themeはひとりでやっているはずがなく、2本でやっていると思いますが、考えてみると、チターの弾き方というのは、チェット・アトキンズ奏法に近く、彼がこの曲をカヴァーしたのはごく当然のことなのでしょう。チェットにしては、ハイ・テクニックの大洪水というタイプのトラックではなく、比較的のんびりと弾いています。

そろそろバテてきたので、先を急ぐことにします。これは、The Third Man Themeではないのですが、エディー・コクランがThe Fourth Man Themeという曲をやっています。The Third Man Themeに雰囲気は似ているけれど、メロディーラインは微妙に異なるのです。はじめてこの曲を聴いたときは、いろいろ考えてしまいました。

エディーがギタリストとしてすごいことは以前から知っていました。しかし、それはロック的インプロヴのすごみであって、まさかこんな「規定演技」のような端正なプレイをするタイプとは思っていなかったので、うーむ、そうなのか、うーむ、そうだったのか、と考えこみました。

f0147840_23545677.jpgエディー・コクランはプロダクション指向の強いアーティストで、じっさい、ジーン・ヴィンセントやアル・ケイシーをはじめ、プロデューサーとしての録音もたくさん残しています。だから、生きていれば、そちらの方向にいっただろうということは容易に想像できます。しかし、このThe Fourth Man Themeでのプレイを聴いて、セッション・ギタリストとしても、カントリーやロカビリーの狭い分野に閉じこめられる才能ではないことがよくわかりました。生きていれば、50年代よりもっと広い分野に出て、さまざまな方面でセッション・ギタリストとして活躍した可能性もあっただろうと思いました。

で、例によって、繰り言になるわけですわ。あたら若い命を、ああ、もったいない、です。ベスト盤ぐらいでは収録されない曲ですが、チャンスがあったら、ぜひエディー・コクランのThe Fourth Man Themeをお聴きになるように、ギター好きの方にはお奨めします。

◆ ドン・コスタほか ◆◆
f0147840_23592673.jpgオーケストラものでは、ドン・コスタ盤が、イントロからもうサウンドに広がりが感じられ、いい出来です。50年代終わりから60年代はじめのハリウッドのオーケストラは、非常にハイレベルな競争をやっていて、この時期なら、まずひどいものにはあたりません。いやまあ、同じようなメンバーが、同じようなスタッフで、同じスタジオで録音していたりするので、競争もハチの頭もないだろうが、というご意見もありましょうが。

サイ・ゼントナーのThe Third Man Themeは、スパイ・ミュージックの勃興期である1964年に録音されているので(Goldfinger以前にこの手のものをリリースするのは、「便乗」というにはちょっと早すぎる)、ベースがエレクトリックになっているのが耳立ちます(タイミング的には微妙なのだが、キャロル・ケイの可能性もある)。しかし、基本的にはビッグバンド・ジャズの残響が色濃く、アイディア不足に感じます。

f0147840_011248.jpgニューヨーク録音では、エスクィヴァル盤が、いつものように、なんだかよくわからないままに、前後の脈絡なくペダル・スティールが飛び出してくるところが楽しめます。どう転んでも、ノーマルなアレンジにならないところがこの人の取り柄でしょう。イーノック・ライトは他のトラックで見られるようなアレンジのひらめきがなく、残念ながら平板な出来です。

さて、スパイ・ミュージックに戻れとか、マカロニ・ウェスタンをもっと追求しようとか、ご意見は多々あろうかと思いますが、あと何曲か、小学生のわたしの心をとらえた、「なんとなくエキゾティカ」、「そこはかとなく南国」、「微妙にトロピカル」な映画音楽をつづけようと、いまのところは思っています。
by songsf4s | 2008-07-24 23:58 | 映画・TV音楽