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Peter Gunn その2 by Billy Strange
タイトル
Peter Gunn
アーティスト
Billy Strange
ライター
Henry Mancini
収録アルバム
Goldfinger
リリース年
1965年
他のヴァージョン
別掲
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一昨日のつづきで、今日はPeter Gunnの各種ヴァージョンのなかから、いくつか面白いものを拾い出してみます。

じつは、以下のテキストは、昨日できあがっていて、更新しかけたのですが、いくらなんでも、あれだけ多くのヴァージョンがありながら、三種類しか取り上げないのは愛想がなさすぎるか、と思い直し、一日寝かせてみたのです。しかし、これ以上、Peter Gunnのどんなヴァージョンも聴く気がせず、無駄なインターヴァルでした。

今日は音楽は聴かず、クモの巣で拾った、川の音だの鳥の声だのといった自然の音を採取した盤(10枚組!)というのをチラチラ流していました。残念ながら、わが家の周囲のカラス、ミンミンゼミ、アブラゼミ、ヒヨドリ、シジュウカラなどの鳴き声のほうがオンにミックスされ、トロピカルな鳥の声はミックスト・アウトされてしまうので、エキゾティカな気分にはなりませんでした。

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題材に合わせてカヴァーもエキゾティカ風。ただし、そういうのはこの巻だけで、あとはおおむねナショナル・ジオグラフィックの表紙のごとし。

以前、ちょっと「枯れた」ことに手を出して、そんなことをやっていると、いまに石をいじるようになるぜ、と友人にからかわれました。たしかに、石いじりというのは、趣味の極北でしょうが、川のせせらぎ、エキゾティック・バーズの啼き声というのも、サウンド趣味の極北かもしれません。なんたって、音楽としてつくられたサウンドはいっさいないのに、それを音楽的に楽しもうというのだから、これを究極といわずして、なにを究極というかです。

しかし、ほんとうに枯れるにはまだ早すぎます。以前、MIDIでBaiaをコピーしたとき、鳥の啼き声なんていうのがあると、ぐっと盛り上がるのだが、と思いました。このライブラリー音源なら、BaiaにふさわしいSEが見つかるかもしれない、というスケベ根性で12枚、24ファイル、2GB弱をダウンロードしたわけで、ほんとうは枯淡の境地にはほど遠いのです。

◆ ビリー・ストレンジ ◆◆
いつもいつもボスばかり取り上げて恐縮なのですが、聴いた瞬間、こいつは、と唸ったPeter Gunnは、なんといってもビリー・ストレンジ盤です。例によってうちにあるもの(国内盤ベストCD)にはクレジットがないのですが、いつものようにドラムはハル・ブレイン、ベースはキャロル・ケイであることは、冒頭の数小節を聴いただけでわかります。それくらい、頭からビシッとしたグッド・グルーヴなのです。

そんなことをいったら、CKさんが笑うかもしれませんが、ビリー・ストレンジ盤Peter Gunnのベースはちょっとむずかしいことになっています。一昨日書きましたが、Peter Gunnのリフは、Cに移調すると、G-G-A-G-Bb-G-C-Bbです(一昨日はこのリフをまちがえて書いてしまったことに翌日気づいた。すでに修正済み)。この8つの音をストレートに8分音符で弾くだけなので、いたってシンプルです。適性のある人なら、ギターを弾きはじめたその日に、もう弾けるようになっているかもしれません。

ビリー・ストレンジ盤では、このリフをキャロル・ケイのフェンダー・ベースがプレイしているのですが、彼女はラインを微妙に変更しています。このささやかな変更の結果、ベーシストは多少汗をかかなければならないことになりました。ビリー・ストレンジ盤Peter GunnのリフをCに移調して書くと、G-G-A-G-Bb-G-C-C-Bbとなります。終わりのほうにCがひとつ増えただけなのですが、この2つのCだけは16分音符で弾きます。

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Peter Gunnも収録されているビリー・ストレンジ『The Hit Parade』 この盤はもはやわが家にはなく、ナッシュヴィルのストレンジ家にある。あのころ、ビリー・ストレンジのCDは非常にすくなく、日本ではあなたのCDが2枚出ているということを申し上げたら、興味津々のご様子だったので、自分にはCD-RとカヴァーのJPEGを残し、本物はボスに謹呈した。

ほんのささやかな変更ですが、これだけで、ミスをする確率はドーンと跳ね上がります。これをアップテンポで、連続的に、2分30秒のあいだ、ノーミスで弾き通したら、莫大な財宝をやる、といわれても、わたしなら、あっさり、それは無理、とあきらめます(まあ、24時間の猶予を与えられれば、死にものぐるいで練習してみるが!)。8分のあいだに16分を2つ挟み込んだだけで、単純きわまりない譜面にもとづく、単純きわまりないピッキングだったはずのものが、突然、アイガー北壁に化けてしまうのです。

のちにキャロル・ケイの教則ヴィデオを見て、そうだ、このピッキングだ、ビリー・ストレンジ盤Peter Gunnのベースは、この人にちがいない、と納得しました。ハリウッドにはうまいベースがほかにもいましたが、このプレイを最初から最後まで完璧にやりとげられるのはCKさんただひとりだと思います。彼女のスパルタ的高精度ピッキングが実現した「微妙に高度な」リフだと思います。

ご存知ない方がいるといけないので、念押しをしておきますが、この時代には、「パンチイン」による部分的修正などできませんでした。複数のテイクの出来のよい部分だけをつなげるという、いまでは当たり前の手法が生まれるのもずっと後年のこと。テープ編集はしていましたが、それ以外に方法がないときだけの話で、ふつうは回避されました。ミスをしたら、もう一度はじめからリテイクだったのです(または放置する、という選択肢もある。じっさい、放置されたミスはたくさん聴くことができる!)。

この16分への変更をしたのは、キャロル・ケイ自身だとわたしは考えています。ただストレートに8分を並べるだけでは、単純すぎて面白くないと、ボスにリフの変更を提案したにちがいありません。そういう人なのです。

◆ アニタ・カー ◆◆
これだけ数が多いと、変わり種、それも極端なものが得です。そういう意味で、なんといっても目立つのはアニタ・カー・カルテットのものです。コーラス・グループなのだから、もちろん、ヴォーカル・カヴァーです。ふつう、そういう企画のことをきけば、そりゃやめたほうがいいだろう、と思うのではないでしょうか。ヴォーカル向きにはできていない曲だという先入観があります。

しかし、アニタ・カーのこの4ビート・アレンジは、ヴォーカル、トラック、どちらのアレンジも、わが家にある多数のPeter Gunnのなかで最上位近くにくる出来です。女性パーフォーマーにしては稀なことですが、アニタ・カーが、アレンジ、プロダクション面に深く関わっていたおかげでしょう。シンガーといえども、そして、女性といえども、いわれるままにただマイクの前に立つのではなく、「どのように立つか」を自分自身でコントロールするべきなのです。

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たまたま、セヴンスを使った曲だからということもありますが、アニタ・カーのヴォーカル・アレンジは甘みが強くないし、この曲に関しては、ホーン・アレンジとの噛み合わせも非常にうまくいっていると感じます。そう考えれば、なぜ彼女がトラックのアレンジや、さらにはプロダクションにまで関与するようになっていったか、その理由が明快にわかろうというものです。

コーラスの響きを追求すれば、トラックのアレンジまでトータルで考えるしかありません。本気でサウンドを考えれば、ブライアン・ウィルソンのように、ベース・ラインもヴォーカル・アレンジの一部とみなして、自分で書くしかなくなるのです。ヴォーカル・ハーモニーの動きとベース・ラインは、われわれの耳には一体のものとして響くからです。

◆ ジャック・コスターンツォー ◆◆
一昨日、さんざんリフの話をしておいて、このヴァージョンを取り上げるのはどんなものかと思うのですが、「ミスター・ボンゴ」ジャック・コスターンツォーのPeter Gunnも、やはり目立つヴァージョンです。スピード感、勢い、華やかさがあって、なかなか楽しいのですが、あのリフは脇に押しのけられてしまい、Peter Gunnなのやら、ほかのなにかなのやら、よくわからない曲になっています。

f0147840_2315362.jpgモダン・ジャズの世界では、リフは脇役、テーマもその場しのぎの仮普請、だいじなのはインプロヴだけ、いや、もっと正確にいえば、個々のプレイヤーのエゴがすべてで、楽曲も客も、なくてすむものなら、なしですませたい、天上天下唯我独尊、天と地のあいだには我と我の音あるのみ、という気分なのだろうと思いますが、主としてそのジャズ方面で活躍してきたコスターンツォーのPeter Gunnも、だいじなのはグルーヴのみ、楽曲はなんでもかまわない、というタイプです。モダン・ジャズの非楽曲指向、プレイヤーの唯我独尊は、子どものころから心底不快に感じてきたものですが、このヴァージョンはグッド・グルーヴです。グルーヴさえよければ、まあ、ほかのことはどうでもいいのです。

もうすこし取り上げるつもりだったのですが、二日も同じ曲を聴きつづけて疲れたので、そろそろ切り上げます。個人的には、ビリー・ストレンジのPeter Gunnだけあれば、ほかのヴァージョンは存在しなくてもいっこうに差し支えないと思います。

ヘンリー・マンシーニのPeter Gunnは、楽曲として、レコーディングとして、この分野の後続の曲に甚大な影響をあたえたということと、マンシーニがつくったリフが、具体的にどのようなものであったかを押さえておけば、後年のこの分野の展開を理解するための基礎知識としては必要十分でしょう。
by songsf4s | 2008-07-23 23:06 | 映画・TV音楽