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The Big Valley(「バークレー牧場」)by unknown artist (TV OST)
タイトル
The Big Valley
アーティスト
unknown (TV OST)
ライター
George Duning
収録アルバム
N/A
リリース年
1965年
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だんだん時代が下ってきたので、そろそろ「あれ」が登場するだろうと予想を立てた方もいらっしゃると思いますが、そぞろ歩きにも多少の方向性というのはあるもので、こちらにも都合があるため、「あれ」を取り上げるのは今週中のいつかになります。今日は「あれ」と同じ年に熱心に見たウェスタン、「バークレー牧場」のテーマです。

テレビ西部劇というと、このあいだもちょっとふれた「ローハイド」が最大のヒットでしょうし、「カートライト兄弟」(原題のまま「ボナンザ」で放送された時期もあった)もあります。この2作は音楽も有名です。音楽にこだわらなければ、「ララミー牧場」も大ヒットでしたし(ただし日本だけで)、「ライフルマン」や「バット・マスターソン」や「ガンスモーク」なども見ていました(いったい、いつ宿題をやっていたのだろうか?)。

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「ボナンザ」別名「カートライト兄弟」 テーマ曲は、アル・カイオラのカヴァーでヒットした。カイオラ盤に馴染んでいると、OSTはちょっと違和感がある。また、主役のひとり、ローン・グリーン(写真手前)がうたった(いや、語ったというべきか)Ringoは、1964年暮れにビルボード・チャートトッパーになった。この曲のドラムは、そう、またしてもハル・ブレイン!

しかし、テレビ西部劇を一作だけあげるなら、わたしとしてはなにがなんでも「バークレー牧場」なのです。たとえだれも見なかったとしても、たとえだれも覚えていないとしても、やっぱり「バークレー牧場」しかありません。

◆ 三つ子の魂 ◆◆
熱心に見ていたのだから、音楽だけが気に入っていたのではありませんが、でも、このテーマは大好きでした。しかし、うちにあるのは、記憶しているものとはちがうのです。ショボイのです。ぜんぜんカッコよくないのです。

わたしの頭のなかでは、「バークレー牧場」のテーマはかなり派手な曲になっていて、スタッカートをきかせ、ドラムがビシビシ「オーケストラのケツを蹴り上げる」(ハル・ブレインの表現)、とまあ、そういうサウンドになっているのです。

それなのに、うちにある「TV OST」と書いてあるものは、ドラムなんかどこにもないのです。わたしの頭のなかでは、豪快なオーケストラ・ヒットにまで成長しているスタッカートも、わが家にあるヴァージョンでは、コンダクターが脳溢血を起こしそうなほどショボい、なんとも締まりのない音になっていて、スタッカートなんてものではありません。

あれは幻だったのか、たんに長い年月のあいだに、ささやかなサウンドにすぎなかったものが、わたしの頭のなかでモンスターに成長してしまっただけなのか?

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しかたがないので、You Tubeで検索しました。ありました。これです。ほら、ティンパニーが叩きまくりじゃないですか。いや、頭のなかではドラムに化けちゃっていましたが、でも、スネアもあざやかなロールでがんばっています。

久しぶりにホンモノを聴くと、さすがにいろいろ感慨があります。まず第一に、小学校高学年ともなると、テーマ音楽の趣味も大人になるのだな、ということです。ほんのちょっとまえまではよく見ていた子ども番組を、このころには見なくなっていました。番組そのもののみならず、テーマ音楽も子どもっぽくないものに惹かれるようになったようです。まあ、幼児のころに見ていたドラマは、ビッグバンド・スタイルのテーマばかりだったのですが。

それから、こういう曲(というより、アレンジ、サウンドのほうに力点はあるが)を好んだということは、音楽的な派手好みは小学生のときにはもうはじまっていたのだ、ということを改めて感じました。ティンパニーはいまでも大好きですし(ぜひ一度プレイしてみたい楽器の筆頭)、そして、フレンチホルンの音に抵抗できない体質も、すでにこのころにはじまっていたこともわかりました。

◆ わが家のパチもんの正体 ◆◆
久しぶりにホンモノのほうを聴き、いやあ、やっぱりカッコいいなあ、盛り上がるなあ、てえんで、馬鹿みたいに繰り返し聴いてしまいました。おかげで、わが家にあるダサいヴァージョンの正体も、判明とはいかないまでも、想像がつくぐらいのところまではきました。

わたしは1シーズンしか見なかったのですが(第2シーズンは放送自体されなかったのだと思う)、アメリカでは第2シーズンがあり、そのとき、テーマのアレンジが変更されていたのです。これがヴァージョン2です。

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ヴァージョン1より地味になったかわりに、スケール感が増し、上品というか、テイストフルなアレンジに変更されています。ヴァージョン1に馴染んでいると、ヴァージョン2には違和感がありますが、しかし、公平にいって、これはこれで悪くない出来です。

でも、うちにあるヴァージョンに近づいたとはいえ、まだちがうのです。最大の相違は、うちにあるものにはティンパニーなんか入っていないということです。ただし、アレンジとしてはセカンド・ヴァージョンに近いので、おそらく、セカンド・ヴァージョンのデモか、オルタネート・テイクだろうと思います。弦の人数もうちにあるもののほうが少ないようで、なんとなく、完成一歩手前のサウンドに聞こえます。

パイロット版をつくる習慣があることでわかるように、大きなテレビ番組には、重役会承認用とか、スポンサー試写用とか、さまざまな版が必要になるであろうことは容易に想像できます。テーマについても、ひとつだけしか録らないなどということはありえません。複数のヴァージョンがつくられ、それでもダメで、リメイク、リメイク、さらにリメイクというケースもめずらしくなかったであろうことは、先日取り上げたTwilight Zoneのテーマをめぐるすったもんだからも読み取れます。

わたしがスポンサーだったら、うちにあるドラムレス、ティンパニーレスのショボショボなThe Big Valleyなんか聴かされたら、その場で、スポンサーを降りる、と大立腹しますよ。ヴァージョン1のポイントは、フレンチホルンの使い方とティンパニーに尽きます(ヴァージョン2は、ストリングス・アレンジの変更が際だっている)。その片方が丸ごと抜けているのだから話になりません。

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うちにあるものは、おそらくは初期テイク、というよりデモ・ヴァージョンだろうと思います。「だいたいこんな感じ」というものをつかんでもらうためのラフ・スケッチです。リイシューのときに、まちがったテイクがリリースされるのは、まま起こる事故です。そのたぐいの事故商品をつかまされてしまったのだと思います。

◆ 西部の石坂洋次郎 ◆◆
毎度、お世話になっている乾直明著『ザッツTVグラフィティ』には、「バークレー牧場」は、1965年にリリースされた番組の一本としてデータが記載されているだけで、内容紹介はありません。この年は「あれ」の大ヒットで明け暮れしたので、そのスペースがなくなったようです。

展開は忘れてしまったのですが、設定は記憶しています。未亡人のバーバラ・スタンウィックと、その息子である二人の兄弟が大牧場を経営していて、そこに、亡くなった夫がよその女に生ませた息子がやってくる、という発端でした。

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こういうサントラLPが発売されたらしい。ということは、日本ではあたらなかったが、アメリカではそこそこヒットしたということか。

この腹違いの息子の「ヒース」という名前は強く記憶に残りました(翌年、『嵐が丘』を読んだときに、「ヒースの丘」といわれて、「バークレー牧場」を連想してしまった!)。しかし、そのヒースを演じたのが、あのリー・“600万ドルの男”・メイジャーズだったとは、ついさっき、タイトル・シークェンスを見るまで知りませんでした。「バークレー牧場」と「600万ドルの男」とのあいだには、だいぶ時間があいているので、同じ俳優だと認識できなかったようです。

ドラマは、この降って湧いた腹違いの末弟と、上の兄弟二人とのあいだに起こる、反目、確執を中心にして運んだと思います。こういう設定にはよくあったように、反目はやがって和解につながっていきます(石坂洋次郎のおかげで当時の日本人にもおなじみの設定だった。『陽のあたる坂道』『乳母車』である。映画では、前者は石原裕次郎と川地民夫、後者は裕次郎と芦川いづみだった)。

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田坂具隆監督『乳母車』 問題の乳母車と問題の赤ん坊と、例の裕次郎と例の芦川いづみ。スティルをスキャンしていて、ストーリーを思いだした。本文には裕次郎と芦川いづみが腹違いの兄妹のようなことを書いたが、裕次郎といづみは赤の他人。芦川いづみとこの赤ん坊が腹違いの姉妹という話だった。裕次郎は、芦川いづみの父(宇野重吉)の愛人(新珠美千代)の弟という役柄。

印象に残っているのは、バーバラ・スタンウィックの西部の肝っ玉母さんぶりです。日本の肝っ玉母さんは太っていますが、スタンウィックはちがいます。いかにも、昔は美女だったのだろうなあ、大牧場の跡取り息子の嫁にふさわしい乙女だったのだろうと、おおいに納得のいくキャスティングでした。アメリカ映画、とくに西部劇がしばしば描く、ひとつの祖型的な女性像だったと、いまふりかえって思います。

しかし、小学生が、いったいなにを思って、そんな血の絆の物語を熱心に見ていたのか、いまになると、想像のほかです。西部版『陽のあたる坂道』だと思っていたのか? いや、ついこのあいだまで、「ライフルマン」や「ガンスモーク」のドンパチを好んでいたのに(いまでも好んでいる!)、突然、『陽のあたる坂道』はないだろうと思うのですが……。

◆ 作曲者について少々 ◆◆
なにも知識などないのですが、義理が悪いので、作曲のジョージ・ダニング(デューニング、ないしは、ドゥーニングかもしれないが、発音辞典にもエントリーがなく、仮に通行の表記を採用しておく。しかし、DunningとNがダブルレターならダニングと読むが、この作曲家のスペルはDuningなので、おおいに問題がある)について、少々書いておきます。

Duningのもっともよく知られた仕事は、ウィリアム・“ワイルド・バンチ”・ホールデン主演の映画『ピクニック』のテーマと、『地上[ここ]より永遠[とわ]に』のスコアです。

『ピクニック』のテーマは、盤としてはMoonglow and Theme from 'Picknic'としてリリースされてヒットし、カヴァー・ヴァージョンもみなこのタイトルを使っています。じっさい、わたしはひとつの曲だと思っていたのですが、調べると、Moonglowはモーリス・ストローフ作曲、Theme from 'Picnic'はDuningの作曲ということのようです。でも、どこで接続されている、というか、どこで切れるのか、わたしにはいまだによくわかりません。前半の、メロディーのないバッキング・トラックだけみたいな部分がMoonglow?

The Big Valley(「バークレー牧場」)by unknown artist (TV OST)_f0147840_046997.jpgDuningは、戦前、NBCラジオからスタートし、戦争中はAFRS(まだテレビがなかったので、AFRTSではない。FENではかならず「エイ・エフ・アール・ティー・エス」という女声コーラスのジングルが流れていたので、Tがないと落ち着かない!)に配属され、除隊後、コロンビア映画に入社し、ここでの16年の勤務のあいだに、代表作をつくります。わたしのように、退社後のテレビでの仕事を重視する人はいないのでしょう、バイオには「バークレー牧場」は出てきません!

このときのコロンビア映画音楽部のボスがモーリス・ストローフだったそうで、それでビルボード・チャートに記録された、Moonglow and Theme from 'Picknic'のアーティスト名がストローフになっている理由がわかりました。映画の音楽監督はストローフであり、Duningはその下でじっさいの譜面を書いたのでしょう。

この時代のコロンビアの音楽部がどれほどすばらしかったかということは、Duningをはじめ、数人の証言があり、ちゃんと読んだのですが、時間切れなので、ここらで店仕舞いとします。Duningはストローフを賞賛し、さらにその後輩たちはDuningの人柄と仕事ぶりを賞賛しています。50年代にハリウッドのスタジオ・システムが崩壊しなければ、みな、いつまでも「幸せな家族」として、音楽をつくりつづけることができたでしょうに、時の流れは無慈悲です。
by songsf4s | 2008-07-15 23:37 | 映画・TV音楽