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Deep Purple その2 by the Shadows
タイトル
Deep Purple
アーティスト
The Shadows
ライター
Mitchell Parish, Peter De Rose
収録アルバム
The Sound of the Shadows
リリース年
1964年
他のヴァージョン
Nino Tempo & April Stevens, Billy Strange, the Ventures, Santo & Johnny, Screaming Jay Hawkins, Bea Wain
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◆ 半、半、半、半、半音進行! ◆◆
忘れないうちに書いておきますが、昨日、Deep Purpleのような構造の曲はほかにはないだろうといってしまいました。しかし、シャドウズを聴いているうちに、ひとつだけほかにも例があることを思いだしました。ディミトリー・ティオムキンのThe High and the Mighty、すなわち「紅の翼」のテーマです。ティオムキンのほうがずっと複雑ですが、大胆さにおいてDeep Purpleと近縁関係にあると感じます。

どこが大胆かというと、「てめえなんざあ昨日の天ぷらだ」という、「上げっぱなし」「下げっぱなし」の利用です。The High and the Mightyは、上下両方を使っていますが、Deep Purpleは「下げっぱなし」、それも、半音ずつズルズルと下げっぱなしにするという、とんでもないシークェンスがあるのです。

f0147840_23565819.jpg今日はDeep Purpleの話なので、The High and the Mightyのことはとりあえず棚上げにします。で、Deep Purpleの「In the mist of a memory」のラインのメロディーは、ニーノ・テンポ&エイプリル・スティーヴンズ盤の場合、F(low)-G-F(high)-E-Eb-D-Db-Bbとなっています。FからDbまで半音で下げてくるこのシークェンスが、強い印象を残し、一聴三嘆、脳裏を去らずとなるわけです。

しかし、この程度で驚いていると、シャドウズ・ヴァージョンは心停止ものです。同じシークェンスをハンク・マーヴィンがどう弾いているかというと、キーが異なるのですが、転調の手間を省いてそのまま書くと、C(low)-D-C(high)-B-Bb-A-Ab-Gと弾いているのです。

これだけでも冗談みたいですが、この直後も、G-F#-F-E-Eb-Dと、やはり、ただ半音ずつ下げていくだけなのです。さらにこの直後も、D-Db-Cとやっています。なんのことはない、1オクターヴのあいだにある音をまったく省略せず、すべての音をたどって半音ずつ下がってきただけなのです。

このようにやっているのは、うちにあるDeep Purpleのなかでは、シャドウズ・ヴァージョンだけです。おそらく、ハンク・マーヴィンのアイディアでしょう。どうせ半音進行なら、徹底的にやってみよう、てえんで、高いCから低いCに下げていってみたら、なんと、コードと矛盾しなかった、ラッキー、てなものではないでしょうか。

◆ ふたたびニーノ&エイプリル ◆◆
話の都合で、ニーノ&エイプリル盤とシャドウズ盤が入れ込みになってしまいましたが、Deep Purpleに関しては、わたしはこの2種がいちばん好きで、両方ともよく聴きましたし、シャドウズ盤は何度もプレイ・アロングしました。

f0147840_23594839.jpgニーノもエイプリルも、ピッチのいいほうではありません。そういうデュオが、こういう半音進行のある曲をうたうと、なかなかもって、妙なぐあいになります。でも、ピッチの善し悪しというのは、コンテクストしだいのところがあって、この曲の場合は、二人のピッチの不正確さが、かえってフックになり、チャート・トッパーになるひとつの原動力となったと感じます。

ニーノの回想によれば、この曲はセッションの最後に、その場の思いつきでやったのだそうです。まあ、こういう手柄話というのは、尾鰭とまではいわないまでも、多少は色がついていたりするものです。最後の15分で録音したというのは、そのまま受け取るわけにはいきません。でも、たいした手間をかけていない、ほんの1、2テイクでやったというのなら、そうだろうと感じます。非常にシンプルだけど、グッドフィーリンのあるトラックになっています。ドラムはアール・パーマーで、活躍はしませんが、リラックスしたグルーヴをつくっています。

わたしの耳を捉えたのは、半音進行の箇所、in the mist of a memory, you wonder back to meの、尋常ならざる響きでしたが、ニーノの特徴ある鼻にかかった声と、そういってはなんですが、ピッチの悪さも寄与した、不思議な浮遊感があります。ナンバーワンになったのも、わたしと同じように感じたリスナーが大勢いたからでしょう。

◆ インスト・バンドの工夫 ◆◆
シャドウズ盤Deep Purpleが収録されたThe Sound of the Shadowsは、Dance with the Shadowsと並ぶ、彼らの代表作といっていいでしょう(たまたま、両方ともフェンダーではなく、バーンズを使っていた時代の録音)。Deep Purpleのほかにも、かのBossa Rooが入っていますし、Santa AnaやWindjammer、そして、Brazilなどもよくプレイ・アロングしました。

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ハンク・マーヴィンとバーンズ

シャドウズというか、ハンク・マーヴィンのプレイには、ひとつの型があります。よくやるアレンジ・スタイルは、低音弦ではじめて、つぎのヴァースはオクターヴ上げ、最後は元のキーに戻る、というものです。

Deep Purpleは、このパターンのヴァリアントになっています。4ヴァースやるのですが、まず最初は恒例によって低音弦でやります。そして、上述のように、ストレートに上のCから5弦のCまで半音ずつ降下します。

つぎのヴァースも低音弦でのスタートは変わりません。しかし、途中はパターンを変えています。上のCから降下してきてきたラインを途中で遮り、オクターヴ上げてからまた降下させているのです。曲の構造から導きだされたアイディアでしょうが、さすがはハンク・マーヴィン、と唸っちゃいます。こういうインスピレーションをもっていないと、インスト・バンドのギタリストを長年つづけることはできません。

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1967年のシャドウズ。全員がバーンズだった。日本に来たのもこの年だったが、やはりバーンズを使っていた。アコースティックはたしか、6弦も12弦もギブソン・ハミングバード。

つぎのヴァースへ移行する直前に、全音転調をします。インスト・バンドにとって、転調は変化をつけるための必須の道具です。しかし、ここでは、「オクターヴ上げて高音弦に移動」というパターンと、転調というふたつのパターンを重ねて使うことで、さらにこのチェンジ・オヴ・ペース感覚を強めています。プレイ・アロングするほうとしても、運指が大きく異なるので、最初のヴァースで記憶した指の動きは、ここでチャラにしなくてはなりません。このあたりが、プレイ・アロングしていて楽しいところです。シャドウズの曲に共通する楽しさです。

このサード・ヴァースのプレイは、またファーストと同じパターンに戻り、ストレートに1オクターヴの階段を、半音ずつ一段一段降下していきます。たんに、ファースト・ヴァースより1オクターヴと1音分高いところで弾くだけです。ただし、こんどは主として12フレットに人差し指をおいてのプレイなので、運指パターンはまったく異なりますが。

最後のヴァースは、サード・ヴァースより1オクターヴ下で弾きます。ただし、こんどはストレートな降下は使わず、セカンド・ヴァースと同じように、降下を途中で打ち切って、いったんオクターヴ上げてから、また再降下するというパターンです。

というようにして、メロディーが変わるわけではないのに、4つのヴァースすべてが異なる、変化に富んだプレイになっているのです。インスト・バンドのチェンジアップ手法にはさまざまなパターンがありますが、そういうことをだれかが学校で教えるなら、教科書にぜひとも採用するべき曲が、シャドウズのDeep Purpleです。

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Dance with the Shadows これまたThe Sounds of the Shadows同様、プレイ・アロングして楽しいアルバムで、やはりバーンズ独特の中音域の響きを楽しむこともできる。

◆ ビリー・ストレンジ盤 ◆◆
アルバムMr. Guitarに収録されたビリー・ストレンジ・ヴァージョンもなかなか楽しい出来です。これまたビリー御大の代表作といえるアルバムで、ほかにも楽しい曲が入っているのですが、まあ、それはべつの話。

ビリー・ストレンジのアルバムには、しばしば管が使われ、「ビッグバンド・ギターインスト」とでもいいたくなるようなアレンジが施されているのですが、Deep Purpleはコンボによるものです。ドラム(ハル・ブレイン。きれいなサイドスティックをやっている)、アップライト・ベース、アコースティックとエレクトリックのリズム・ギター、ピアノ、そして御大のフェンダーによるリードというシンプルな編成です。

f0147840_017434.jpgドラム、ベース、アコースティック・リズムのつくりだすグルーヴが軽快でグッド・フィーリンがあるのが、ビリー・ストレンジ盤Deep Purpleのなによりの美点といえます。アップライト・ベースを使ったことがみごとにはまったと感じます。

御大のプレイがまたすばらしいのです。いや、高速ランなどまったく登場しません。その正反対といっていいでしょう。いかに「きれいに遅く」弾くかの勝負なのです。細部での遅らせ方、日本的にいえば「間の取り方」でどれほど豊かなニュアンスを生むか、なのです。

ビリー・ストレンジより速く弾けるプレイヤーは、多士済々のハリウッド・ギタリスト陣には、トミー・テデスコを筆頭に、いくらでもいました。しかし、タイミングのコントロールによって、音に豊かな表情をもたせることにかけては、ビリー・ザ・ボスの右に出るプレイヤーはいませんでした。わたしは、シャドウズ盤のみならず、ビリー・ストレンジ盤も何度もプレイ・アロングしていますが、どうしても待ちきれず、打者でいえば躰が「泳いだ」状態になり、ボスの「球もちのよさ」を何度も痛感させられました。

残りのヴァージョンは明日以降に。
by songsf4s | 2008-06-28 00:06 | Moons & Junes