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I Only Have Eyes for You その2 by Mary Wells
タイトル
I Only Have Eyes for You
アーティスト
Mary Wells
ライター
Harry Warren, Al Dubin
収録アルバム
Sings My Guy
リリース年
1964年
他のヴァージョン
別掲
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◆ メアリー・ウェルズとモータウンLA ◆◆
今日は、昨日ふれられなかった、I Only Have Eyes for Youの他のヴァージョンです。I Only Have Eyes for Youは、わたしの頭のなかではつねにフラミンゴーズの曲であり、それ以外のヴァージョンは、文字通り「その他」でしかないので、看板をどれにするかむずかしかったのですが、テンポが速く、もっとも軽いメアリー・ウェルズ盤にしておきました。

これもまた「その他」なので、たいした意味はありません。シナトラはしょっちゅう看板に立てているから、できれば避けたい、といって、ほかにシナトラに匹敵するほどのものはない、では、当ブログではつねにマイノリティーの地位にある属性、「黒人」「女性」という条件にかなったシンガーを、という選択です。

フラミンゴーズのI Only Have Eyes for Youも、過去のヴァージョンに訣別するアレンジでしたが、メアリー・ウェルズ盤はさらにスタンダードから遠ざかったものになっています。ミディアム・シャッフルでやっているI Only Have Eyes for Youなんて、わが家にはこのヴァージョンしかありません。

メアリー・ウェルズのI Only Have Eyes for Youは、1964年のアルバム、Sings My Guyに収録されたトラックです。多少ともモータウンを聴かれる方なら、タイトル・トラックのMy Guyはご存知でしょう。確認せずに記憶だけで書いてしまいますが、これはモータウンにとって、最初のビルボード・チャート・トッパーです。R&Bチャートではありません、ポップ・チャートのナンバーワンです。

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地方都市の小さな独立レーベルにとって、これは決定的な意味をもちました。この曲がハリウッドで録音されたものだったからです。わたしは、モータウンがハリウッド録音に主力を移す決断をつけた大きな理由は、My Guyがチャート・トッパーになったことだとつねづね考えています。ハリウッドのサウンドは売れるという、たしかな感触を得たのです。そして、同じ年に、それまでなかなか芽が出なかったスプリームズが、ハリウッドで録音されたBaby Loveで、やはりナンバーワン・ヒットを得たことで、この方向は引き返しようのないほど決定的になったのです。

My Guyのセッションは、キャロル・ケイ自身にとって、最初期のモータウンの仕事だったそうです。まだ、彼女がギターばかりプレイしていた時代の仕事です(この直後ぐらいからベースも弾きはじめる)。My Guyでも、彼女はギターをプレイし、ベースはアーサー・ライトがプレイしたといっています(ただし、これは彼女の記憶ちがいではないかと最近は考えている。ジミー・ボンドあたりではないか)。ドラムはアール・パーマーでしょう。

タイトル・カットがハリウッドで録音されたからといって、自動的にアルバム・トラック全体がハリウッド録音ということにはなりませんが、わたしの感触では、I Only Have Eyes for Youもハリウッド録音です。同じグルーヴが感じられるので、My Guyと同じメンバーではないかと考えます。デトロイトの泥臭い音とは異なる、ハリウッドらしい軽快な味のあるトラックです。

50年代までのスロウ・バラッドとしてのI Only Have Eyes for Youに馴染んでいる方には、メアリー・ウェルズ盤は違和感があるでしょうが、ほとんど赤の他人みたいな曲になっているので、わたしは、これはこれで楽しいヴァージョンだと思います。

◆ アート・ガーファンクル盤 ◆◆
ソロになってからのアート・ガーファンクルのキャリアを眺めると、ちょっと息苦しくなってきます。ポール・サイモンという座付きソングライターを失い、楽曲選択が迷走するからです。新作で出来がいいのは、極論すると、ジミー・ウェブのAll I Knowだけといえるのではないでしょうか。

結局、ろくな楽曲が手に入らず、When a Man Loves a Woman(パーシー・スレッジ)とか、What a Wonderful World(サム・クック)といった、古い曲のカヴァーに活路を見いだすところへと「追い込まれた」のだと考えています。積極的な選択ではなかった、ということです。

わたしは1960年代に育った人間なので、古い曲をうたうというのはあくまでも特例であり、それを習慣にすることには否定的考えをもっています。ニルソンのように、古い曲だけを集めた盤を録音しても、それはそれだけのことであり、つぎからはまた自分の作品を録音していくというのが「正しい」あり方だと思います。ポップ/ロックはアクチュアルでなければいけないのです。古い曲に過度に依存するのは「退行」でしかありません(その延長線上で、現代のシンガーが「わたしの時代」の曲をうたうのも大嫌い。いまのシンガーはいまの曲をうたっていればいいのである。わたしの時代に属す曲はほうっておいてほしい!)。

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アート・ガーファンクルのI Only Have Eyes for Youは、明らかにフラミンゴーズ盤を下敷きにしたものです。イントロのギター・コードからして、フラミンゴーズ盤からもってきたものです。こういうカヴァーの仕方は、あまり褒められるものではありません。「インスパイア」などという詐欺的婉曲表現を使わないで、はっきり言えば、たんなるコピーです。

ただし、ギターには魅力があります。フラミンゴーズ盤のギター(ライノのベスト盤のライナーによると、フラミンゴーズのメンバー自身によるプレイらしい)の方向性を受け継ぎながら、それをさらに発展させたプレイです。わが家にあるこの曲はベスト盤収録で、プレイヤーの名前がわからないのですが、サウンド、トーンはディーン・パークスを想起させるものです。パークスのサウンドは非常に独特のものなので、たぶん、この推測は当たっているのではないかと思います。

ドラムも、Angel Clare同様、ジム・ゴードンである可能性があるでしょう。ただし、とくに注目するほどのプレイではなく、ジム・ゴードンでなくても、ほかのドラマーでもできるようなプレイです。

◆ フランク・シナトラ盤2種 ◆◆
セッショノグラフィーによると、フランク・シナトラはI Only Have Eyes for Youを3回録音しています。1943年、1945年、1962年です。このうち、わが家にあるのは、45年と62年のものです。どちらも魅力があります。

45年盤についていえば、これはもうシナトラの声の魅力に尽きます。この時期のシナトラは、歌い方がどうこうなんていう前に、声だけで圧倒されてしまいます。アレンジとコンダクトはアクスル・ストーダール。

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62年ヴァージョンは、カウント・ベイシー・オーケストラとの最初の共演盤です。この特集のトップ・バッターにしたFly Me to the Moonもカウント・ベイシー・オーケストラとの共演ですが、あちらは1964年の録音、二度目の共演です。

しかし、グルーヴは共通しています。ベースが同じプレイヤーなのだろうと想像します。毎度おなじことをいっていますが、フランク・シナトラはミディアムからアップで、軽快にグルーヴに乗ってうたっているときがすばらしく、62年盤I Only Have Eyes for Youもそのタイプなので、おおいに楽しめます。

そんなことをいったら、シナトラとそのファンに張り倒されるかもしれませんが、45年盤と62年盤を並べて聴くと、やはり年をとると、歌がすごくうまくなるんだな、と感じます。45年のシナトラには、62年のようなグルーヴはありません。やっぱり、シンガーもグルーヴなのだと、改めて実感しました。

62年盤のアレンジはニール・ヘフティー。プレイヤーのクレジットはありませんが、ベースのみならず、途中から活躍するドラマーもなかなか好みです。

◆ スパイク・ジョーンズ盤 ◆◆
変わり種もあります。まずはスパイク・ジョーンズ盤。ジョーンズのI Only Have Eyes for Youは2種類あります。ひとつは1946年録音のもので、これはまっとうなスタイルのオーケストラもので、シティー・スリッカーズのコミカルなサウンドではありません(名義もSpike Jones & His Orchestraとなっている)。

もうひとつは、これもシティー・スリッカーズ時代ではないのですが、プリではなく、ポスト・スリッカーズで、1959年のリリースです。Spike Jones In Hi Fi: A Spooktacular in Screaming Soundというタイトルにもあらわれていますし、ジャケットをご覧になればはっきりしますが、これはホラー・ミュージックのパロディーです。テレミンの使用も、その点を強調するのに役立っています。

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I Only Have Eyes for Youは、ドラキュラ伯爵と女吸血鬼ヴァンパイラとのデュエットという趣向です。ゲスト・シンガー(というかゲスト俳優)は、ポール・フリーズとルーリー・ジーン・ノーマンという人だそうですが、寡聞にして知りません。

当然、歌詞も替え歌になっています。ファースト・ラインからして、Are the stars bright tonightではなく、Are the bats out tonight=今夜はコウモリが飛んでいるのか、となっています。Maybe millions of people passing byのくだりは、Maybe millions of zombies go byとなり、最後は、ドラキュラが'Cause I just want a neckといって、ヴァンパイラから血を吸う効果音が入り(ここだけシティー・スリッカーズを思いださせる)、つぎにヴァンパイラも同じラインをうたい、お返しにドラキュラの血を吸う、とまあ、そんな展開です。

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アメリカでは1950年代終わりにステレオ・ブームがあったことは何度か書いていますが、タイトルがIn Hi-Fiとなっていることでわかるように、この盤もステレオ・ブームに当て込んだものです。最初のうちは、ドラキュラは左、ヴァンパイラは右に配されているのですが、最後に足音(のつもりの効果音)が左から右に動き、ドラキュラがヴァンパイラに噛みつくという趣向です。古くさいといえばそのとおりですが、ステレオが珍奇なガジェットだった時代が忍べて、ちょっと楽しくもあります。

◆ モーリン・オハーラとドリス・デイ ◆◆
スパイク・ジョーンズ盤は妙な効果を発揮します。これを聴いたあとだと、みんなホラー音楽のつづきのような気がしてくるのです。モーリン・オハーラなんて人の歌も、なかなかお見事なうたいっぷりなのですが、どうもヴァンパイラのような気がしてしかたありません。

わたしは女性ジャズ・シンガーというのはあまり好かないので、こういう盤は理論的に無関係なのですが、でも、この盤のアレンジャーはボブ・トンプソンなのです。となると、やっぱり聴いてみたくなるわけで、そういう狙いは大失敗に終わるときもあるのですが、モーリン・オハーラについては正解でした。やはり、トンプソンという人はもっと評価されてしかるべきではないかと、この盤を聴くと感じます。

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ドリス・デイ盤は1950年のリリースで、アレンジとコンダクトはアクスル・ストーダールです。わたしはヴォーカルよりインストゥルメンタルのほうに強い興味があるので、どうしても、上ものではなく、スタッフのほうで盤を選んでしまい、当然、聴き方も、ヴォーカルより、サウンドが中心になります。アクスル・ストーダールのアレンジはごく控えめで、女性シンガーに合わせた甘いストリングスを楽しめるかどうか、というところでしょう。まあ悪くはないと思うのですが、とくにすぐれているともいえません。

若いころのドリス・デイはいい声をしているので、I Only Have Eyes for Youにおける彼女のヴォーカル・レンディションも悪くないと思います。

◆ レターメンとレイ・コニフ ◆◆
今日は順番がメチャクチャになってしまいましたが、つぎはレターメン盤。毎度申し上げているように、わたしはコーラス・グループというのを大の苦手にしています。同様に子どものころに嫌いだったオーケストラ・ミュージックは、年とともに面白く感じられるようになってきたのですが、コーラス・グループはいまだに不得手です。とりわけレターメンは、昔から、なんだかなあ、でした。

ビルボード・トップ40ヒッツ完全蒐集を目指した80年代に、レターメンもいちおうベスト盤を買い、そのなかにこのI Only Have Eyes for Youも入っていました。でも、とくに面白いと思ったわけではありません。以前、わたしが参加している小さなMLで、I Only Have Eyes for Youを特集したときも、このヴァージョンは褒めなかったような気がします。

しかし、古いものまで十把一絡げに並べて聴いてみると、やっぱり、ハル・ブレインのドラミングがいちだんと引き立って聞こえ、今回の聞き比べで、このヴァージョンの順位はかなり上に移動しました。いや、レターメンなんか、まるっきり聴いちゃいませんよ。嫌いなんだから、当たり前じゃないですか。ハル・ブレインのドラミングはつねに魅力的だといいたいだけです。

やや判断しづらいのですが、ベースもたぶんキャロル・ケイでしょう。ストリング・アレンジも好みです。盤にはアレンジャー・クレジットがあったような気がするのですが、探している時間がないので略します。

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わが家にあるもっとも「新しい」(といってもかなり古い)I Only Have Eyes for Youは、1975年のレイ・コニフ盤です。いやはや、これがなんとも、呆れた代物で、The Hustleとのメドレーなのです。あの「ドゥー・ザ・ハッスル」ですよ。

しかし、こういうのをメドレーというのは、ちょっとちがうでしょうね。まあ、とにかくThe Hustleではじまります。で、途中からI Only Have Eyes for Youになるのですが、男声コーラスがI Only Have Eyes for Youをうたうのに対して、女声コーラスの合いの手はThe Hustleなのです。だから、「Are the stars bright tonight」という男声ラインに対して、女声コーラスは「Do the hustle」とレスポンスするのでありますよ、これが。だから、メドレーというより、ハイブリッドというべきでしょう。

さあて、こういうのはなんといえばいいのかわからず、困惑します。まあ、ちょっとは笑えます。しかし、「可笑しいから座布団一枚」ではなく、「おもしれえや、座布団全部とっちまえ」というタイプでしょうね。

◆ エスクィヴァル、ポール・ウェストン、エトセトラ ◆◆
もう残り時間僅少なのに、まだふれていないヴァージョンの数はかなりあって、ありゃあ、です。エスクィヴァルは、いつもほど珍なところはありません。だいたい、このOther Worlds Other Soundsというアルバムは、タイトルとカヴァーからは、珍なものを想像するのですが、音のほうはかなりストレートです。ただし、後半、ストリングスが盛りあがるところは、たしかにOther Worldsという感じがします。

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ポール・ウェストンは、例によって、ストレートなラウンジ・ミュージックというか、オーケストラ・ミュージックです。この人のアレンジは、歌伴のときのほうが面白いような気がします。自己名義のインストは直球が多すぎて、あまりハッとさせられません。

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ダイナー・ショア盤を試聴してみましたが、なかなかけっこうな出来だと思います。サウンドに奥行きもあり、アレンジも好みなのですが、クレジットが見あたりませんでした。

うちにある最古のI Only Have Eyes for Youは、ルー・シャーウッドという人の1934年のヴァージョンですが、この人についてはなにも知らず、いま調べている時間もありません。だいたい、これくらいの時期になると、わたしには、いいも悪いもつかないのです。昔風の味わいは感じますが(昔の録音なんだから当たり前!)、それ以上の感想はありません。

ひとつだけいえることは、この段階では、50年代の各ヴァージョンのように、テンポを遅くして、しっとりとなんかうたっていないということです。この大甘の歌詞からいって、軽く歌ってバランスをとるほうが、わたしには正解に思えます。

50年代のスタンダード・アルバムを聴いていて疲れるのは、スロウで情緒纏綿たるレンディションが圧倒的多数派だからです。60年代育ちとしては、感情移入は控えめに、さらっとあっさりうたってくれたほうが、尻がむずむずせず、安心できます。だから、われわれの世代は、50年代は飛ばして、30年代や40年代を聴くほうがいいのではないか、とおもうこともしばしばです。子どものころは、昔の音楽はスロウでだるい、と思っていましたが、いまでは、それは間違いで、そういう現象は50年代の特殊なものだったのではないかと考えています。
by songsf4s | 2008-06-20 23:55 | Moons & Junes