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Moon Moods by Les Baxter with Samuel J. Hoffman
タイトル
Moon Moods
アーティスト
Les Baxter with Samuel J. Hoffman
ライター
Harry Revel
収録アルバム
Music Out of the Moon
リリース年
1947年
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当地では今夜はいくぶん靄がかかり、なかなか味わいのある、しかし、見ようによってはやや不気味な月が見えます。狂気を喚びそうな月だなと思い、moonというキーワードで検索をかけただけで、lunarというキーワードではやっていないことを思いだしました。でも、moonだけで、十二カ月はもちそうなくらいの曲数がすでにあるんです。

ついでに、子どものころよくうたっていた、月が昇るというラインの出てくる曲(炭坑節じゃありませんぜ!)を思いだしたのですが、これは歌詞がちょっと面倒なので、またの日ということにして、今夜はまたしても、曲が決まらないうちにタイムリミットが迫ってきたので、インストです。それも、そろそろ出てしかるべきエキゾティカです。

◆ エキゾティカ・オリジネーター ◆◆
そもそも、エキゾティカはどこからはじまったかというと、本日の主役、レス・バクスターのQuiet Villageからなんです。この曲はバクスター自身の作で、彼の1951年のアルバム、Ritual of the Savageに収録されています。

Quiet Villageという曲は、どちらかというとマーティン・デニーのヴァージョンで知られているのではないかと思いますが、オリジナルはレス・バクスターです。デニーのヴァージョンは、コンボによるものですが、バクスターのヴァージョンはフルオーケストラです。

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マーティン・デニーやアーサー・ライマンの有名なトラックは、ほとんどコンボによるものですが、バクスターは基本的にはオーケストラ・リーダーで、これだけでも、同じエキゾティカとはいえ、味わいは大きく異なることになります。マーティン・デニーやアーサー・ライマンのヴァージョンでしかQuiet Villageをご存知ない方には、レス・バクスターのオリジナルもお聴きになるようにお奨めします。このストリング・アレンジを聴いていると、まさにエキゾティカの原点はここにあると感じます。

レス・バクスターのプロとしてのスタートは、メル・トーメのバンドのサックス・プレイヤーだったそうで、へえ、調べてみるもんだねえ、でした。ナット・コールのかのMona Lisaのオーケストレーションも、バクスターによるものだなんて、ついさっきまで知りませんでした。まあ、バクスターはキャピトル所属のオーケストレーターなのだから、キャピトルのアーティストであるナット・コールのセッションで、オーケストラをコンダクトしても、なんの不思議もないのですが。

◆ 驚異の録音 ◆◆
わがHDDのエキゾティカを収めたフォルダーを検索して、月の曲を抜き出してみると、なかなか興味深いリストになったのですが、やはり数が多すぎて、あと1時間でこれをどうするんだよ、とゲシュタルト崩壊を起こしそうになりました。よって、以前からよく聴いていて、いまさら考える必要もない、レス・バクスターのMoon Moodsにしました。

当ブログでは何度もご紹介してきた、キャピトルのラウンジ・ミュージックを集めた、Ultra Loungeというオムニバス・シリーズがあります。クリスマス・ソング集も非常に出来がいいと思いますが、いちばん好きなのは、Autumn in New York by Felix Slatkinと、Skylark その1 by Tak Shindoで、すでに二度にわたってご紹介した、第3集Space Capadesです。

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こういうタイトルの盤が編まれるくらいで、50年代に、エキゾティカのすぐ隣で、というか、エキゾティカのサブ・ジャンルというべきかもしれませんが、スペース・サウンドのブームがありました。といっても、わたしが生まれる前から幼児期にかけてのことですから、まさか、当時のことは知りませんがね!

レス・バクスターのMoon Moodsという曲も、そういうブームのなかで生まれたものなのだろう、ぐらいに甘く考え、そういう先入観をもって、そのままこの原稿を書きはじめてしまったのです。で、泥棒を捕まえてから縄をなってみた、というか、泥棒に遭ってから納屋に鍵をかけたというか、調べみて、ひっくり返ってしまいました。Moon Moodsは、1947年リリースだというのです。

モノーラル録音なので、ハリウッドのオーケストラ・ミュージック(そのど真ん中にレス・バクスターがいた)を中心に起きた、1950年代終わりのステレオ・ブーム以前の録音だということは簡単にわかるのですが、音を聴いてのわたしの推測は1955年前後でした。1947年なんて、10年近く外しちゃっているわけで、ウッソー、ですよ。

それくらいに感じるほど録音がいいのです。1947年のキャピトルは、まだ、最初のスタジオを使っていたはずで、のちにエンジニアを泣かせた、現在も建っている(どころか、ハリウッドのランドマークになっている)キャピトル・タワーにあるスタジオではありません。もとラジオ放送局だったものを改造したスタジオでの録音です。

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メルローズ・アヴェニュー(サンタモニカ・ブールヴァードの一本南の道)5515番地にあった、キャピトルの最初の社屋。スタジオもこのなかにあった。

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メルローズ時代の録音機材(1940年代末)。現代の72トラック・マシンなどにくらべれば原始的もいいところだが、注目すべきはコンソール。ノブの列の数がほぼインプット数に等しいはずで、どうやら8インプットのコンソールらしい。この時代に8インプットは最先端で、これくらいはないと、Moon Moodsのサウンドはつくれない。右側はアンペクスのテープ・マシンだろう。3000か?

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エンジニア泣かせだった、キャピトル・タワーの新しいスタジオでの最初のレコーディング・セッション。こちらに背を向けているコンダクターはフランク・シナトラ!

なるほど、エンジニアたちが、タワーに引っ越してから、以前を懐かしんだというだけあって(そして、タワーの新しいスタジオはひどい鳴りで、竣工後に大改装せざるをえなくなった)、この古いスタジオの鳴りは非常によかったのであろうことが、レス・バクスターのMoon Moodsを聴くと実感できます。

◆ サウンドのフロンティア ◆◆
以前、レス・ポールのことを調べたとき、最初の多重録音による盤であるLoverが、1947年の録音だということを知って、なんとまあ、と呆れました。いったい、あんな未来的サウンドを、当時のリスナーはなんだと思って聴いたのだろうかと、考えこみましたよ。

しかしですねえ、同じ1947年のレス・バクスターのMoon Moodsだって、負けず劣らず未来的サウンドなのです。この盤のアーティスト名は、レス・バクスター・ウィズ・サミュエル・J・ホフマンとなっています。このホフマンという人がなにをしたかというと、テレミン(テルミン、セラミン、いろいろな表記があるが、ここではリーダーズ英和辞典の表記にしたがっておく。Thereminというスペルと、ロシア人の名前であるということから表記が面倒なことになっている)をプレイしているのです。

初期のテレミンの録音を聴くと、アヴァンギャルド・ミュージックみたいなものなのですが、ここではまともなラウンジ・ミュージックのコンテクストでプレイされています。ただし、男声コーラスのアレンジなんか、非常に現代的で、フォー・フレッシュメンのようなスタイルではありません。テレミンのスラーする音に合わせたヴォーカル・アレンジをしたのでしょう。

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テレミン博士とその発明

Moon Moodsが収録されたMusic Out of the Moonのアナログ・リップを配布しているところがあったので、アルバム全体(といってもオリジナルはSP盤のセット、その後、ミニLPとして1952年にリイシューがあり、わたしが聴いたのはこのリイシューのリップらしい)を聴いてみました。しかし、おおむね保守的なラウンジ・ミュージックで、やはり、Moon Moodsがもっとも出来がよいと感じます。

繰り返しますが、エキゾティカのはじまりが、レス・バクスターの1951年のQuiet Villageです。Moon Moodsはその4年前、レス・バクスターのキャピトルでのデビュー盤です。ということは、スペース・ミュージックは、エキゾティカの支店というわけではなく、むしろ、本店はスペース・ミュージックのほうであり、南国的エキゾティカのほうがその支店なのではないか、という気がしてきました。

SFをご存知の方なら思いだすことがあるはずです。かつてSFの多くは宇宙を舞台にしていました。エドガー・ライス・バローズとか、ああいうものです。それが、1960年代にJ・G・バラードの登場によって、「内宇宙」、イナー・スペースということがいわれるようになります。ほんとうのフロンティアは、「外宇宙」、アウター・スペースではない、人間の内面である、というのです。

エキゾティカも、ひょっとしたら、外宇宙の探求からスタートし、地球へと舞い戻ったのかもしれません。なーんて、妙なことを考えてしまうほど、1947年録音ということと、エキゾティカの巨匠、レス・バクスターがスペース・ミュージックでデビューしたことに驚いた、おぼろおぼろな満月の夜でした。

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Les Baxter

by songsf4s | 2008-06-18 23:55 | Moons & Junes