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Without Her by Blood, Sweat & Tears
タイトル
Without Her
アーティスト
Blood, Sweat & Tears
ライター
Harry Nilsson
収録アルバム
Child Is Father to the Man
リリース年
1968年
他のヴァージョン
Nilsson, Glen Campbell, Herb Alpert & the Tijuana Brass, George Tipton, Telly Savalas
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Moons & Junesの曲となると、スタンダードが多いことはくどくくりかえしていますが、スタンダード曲のなにより困る点はヴァージョンの多さです。30種もあったりすると、聴くだけでひどく骨で、書く前に力尽きてしまいます。

そうはいっても、避けられない曲というのはあるので、まあ、あと半月弱のあいだに、追々そういう大物も取り上げていくことにしますが、今日はスタンダードではなく、それなりにヴァージョン数はあるけれど、見ただけでたじろぐほど多くはない、という60年代の曲にしました。

f0147840_23271384.jpgニルソンの最大のヒットは、Everybody's Talkin'とWithout Youでしょう。すぐれたソングライターだったのに、シンガーとしての代表作がいずれも他人の曲とは、なんとも不運な人だなと思いますが、それはべつの話。いまいおうとしているのは、またべつのことです。ニルソンにはNilsson Sings Newmanというすぐれたアルバムがあり、このなかにLiving without Youという曲が収録されています。

で、もうおわかりでしょうが、Without Youとも、Living without Youとも、今日の曲は関係ありません。今日はWithout Herです。そこをお間違えのないように。ニルソンのWithout三部作(なんてものは存在しない。いまでっち上げた。そもそも、作者はそれぞれ別人)はどれもいい曲で、ときおり混乱してしまい、コーラスをうたって、どれがどういうタイトルだったか確認しちゃったりするのです!

◆ 月行き気球 ◆◆
それでは歌詞を見ていきます。ファースト・ヴァース。

I spend the night in a chair
Thinking she'll be there
But she never comes
And I wake up and wipe the sleep from my eyes
And I rise to face another day without her

「彼女がやってくるような気がして、椅子に坐ったまま一夜を過ごすが、来るはずがないのだ、そして目覚め、目をこすって眠気を払う、そして、また彼女なしの一日に立ち向かうために起きあがる」

字句通りに解釈していくと、thereがものすごく引っかかるのですが、なんとも判断しかねるので、頭を低くして通過することにします。

It's just no good anymore
When you walk through the door of an empty room
You go inside and set a table for one
It's no fun when you have to spend a day without her

「だれもいない部屋のドアを抜けて、中に入り、ひとり分のテーブルをセットするのは、もう楽しくもなんともない、彼女なしに一日を過ごすなんて面白くない」

anymore「もう~ではない」とある以上、一時的には楽しかったということなのでしょう。ひとりになってせいせいした、という気分をいっているのだろうと思います。

ブリッジ。

We burst the pretty balloon
It took us to the moon
It's such a beautiful thing
But it's ended now
And it sounds like a lie if I said
I'd rather die than live without her

「ぼくらは二人を月まで連れていってくれた美しい気球を破裂させてしまった、すばらしいことだったけれど、もう終わってしまった、彼女なしに生きるくらいなら死んだほうがましだ、なんていったところで、嘘に聞こえるだけだろう」

ブッキッシュに英語を学んだ人間としては、balloonのあとにthatかwhichがあってくれたほうが安心できるのですが、どのヴァージョンを聴いても、itがあるか、なにもないかのように聞こえます。しかし、意味としてはそういうこと、つまり、関係代名詞があった場合と同じなのだろうとみなしました。天にも昇る気分になる気球を手に入れたのに、それをダメにしてしまった、ということです。なにをしたのか知りませんが、おおかた気球をウォーターベッドとまちがえ、暴れすぎたのでしょう!

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サードにして最後のヴァース。

Love is a beautiful thing
When it knows how to swing
And it moves like a clock
But the hands on the clock tell the lovers to part
And it's breaking my heart
To have to spend a day without her
Can't go on without her

「うまくいっているあいだは、恋はすばらしいが、やがて時は巡り、時計の針は恋人たちに別れの時を告げる、また彼女なしに一日過ごさなければならないのかと思うと胸も張り裂けそうだ」

◆ BS&T盤のギタリスト ◆◆
タイトルからして当然ですが、ご覧のように、歌詞はちょっとしたダウナーです。いや、曲だって、明るく元気いっぱいというタイプではないのですが、なかなかきれいな曲だし、看板にしたアル・クーパー盤、じゃなかった、ブラッド・スウェット&ティアーズ盤のアレンジは軽快で、楽しげといってもいいようなサウンドです。

久しぶりにBS&TのWithout Herを聴いて、あれっと思いました。ギターがすごくうまいのです。コードしか弾きませんが、それでもうまいのです。ほら、チャーリー・バードとかローリンド・アルメイダとか、ああいう感じです。

BS&Tのギターは、悪名高きスティーヴ・カーツ(スペルはKatz。今回は不精せずに辞書を見た。カッツでもなければキャズでもなかった。やっぱり辞書は引いてみるものである)ですからね、まさかあ、ウッソー、ありえなーい、なのです。なんたって、このバンドに愛想を尽かした理由のひとつは、ギターのアホらしさなんですから(もうひとつはデイヴィッド・クレイトン・トーマスの声)、こんなに弾けちゃったら、スティーヴ・カーツに謝らなければならないことになります。

いままで、どこで、何回、スティーヴ・カーツを罵倒したっけなあ、いまさら、あれは間違いでした、なんていえないぜ、と焦りつつ、頼んます、と十字を切ってから(ウソ)、クレジットを確認しました。セーフ! この曲のギターは、ゲストのアル・ゴーゴーニ、と書いてありました。

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Alはもちろんアル・クーパー、Randyはランディー・ブレッカー、Fredはフレッド・リプシアス、ジョン・サイモンの「メンデス・ピアノ」というのは、楽器の種類ではなく、セルジオ・メンデス・スタイルのピアノという意味である。

そりゃそうですよ(と、スティーヴ・カーツじゃないとはっきりしたとたん、居丈高になった)、Without Herのようなプレイができる人が、You've Made Me So Very Happyの、なにをもたもたやってんだ、間奏が終わっちゃうぞ、といいたくなるプレイをするはずがありません。

しかし、これほど無惨なまでに弾けない人が、ソロなんか弾くのは、はずかしくて、つらくて、居ても立ってもいられなかっただろうなあ、よく4枚も耐えたものだと、いまになると、感心しつつ、同情しちゃいます。って、たんに鉄面皮だっただけか。

◆ アル・ゴーゴーニ・マイクロ・バイオ ◆◆
えーと、なんの話でしたっけ。そう、アル・ゴーゴーニのギター。やっぱり、ほんもののギタリストのプレイは気持いいなあ、と思ってから、あれ? アル・ゴーゴーニって、ソングライターじゃなかったっけ? てえんで、またあわてました。ホリーズのI Can't Let Go(オリジナルはエヴィー・サンズ)の人のはずです。

調べてみて、わたしの認識不足だったことがわかりました。セッション・ギタリストとしてスタートしたと、オフィシャル・サイトのバイオにちゃんと書いてあったのです。ヴィニー・ベルのバイオも、NYのことをよく知らないわたしには面白かったのですが、ゴーゴーニのバイオもなかなか面白いので、長くなりますが、すこし彼のキャリアについて見てみます。

最初は、アル・ネヴィンズ(オールドン・ミュージック)と知り合い、デモ・セッションの仕事をもらったそうです。スタートはデモというのは、ハリウッドでも同じです。当時、NYで本番のセッションをやっていたファースト・コール・プレイヤーは、Tony Mottola、Al Caiola、Barry Galbraith、Billy Butler、Al Casamenti、Bucky Pizzarelliとあります。このうち、わたしが知っているのは、トニー・モトーラとアル・カイオラのみ。やっぱりNYシーンには無知ですわ。ガルブレイスなんていわれても、受験のときに読まされた、ジョン・ケネス・ガルブレイスの英語はむちゃくちゃにむずかしかった、なんて、ぜんぜん関係ないことを思いだすだけです。

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これもハリウッドと同じなのですが、やがて、こうしたヴェテランたちのプレイが、時代にそぐわないと感じられるようになり、プロデューサーたちは、若いギタリストを登用するようになります。こちらも名前をあげておくと、アル・ゴーゴーニのほかに、もちろんヴィニー・ベル、そして、ヒュー・マクラケン、エリック・ゲイルらだそうです。こちらはおなじみばかり。やっぱり世代的な問題ですな。モトーラやカイオラは50年代派、ゴーゴーニやベルは60年代派というところでしょう。

アル・ゴーゴーニがプレイした曲としては、以下のようなものがあげられています。

"The Name Game" by Shirley Ellis, "Solitary Man" and "Cherry Cherry" by Neil Diamond, "Sherry", "Big Girls Don't Cry", "Walk Like a Man" and "Dawn" by Four Seasons, "Our Day Will Come" by Ruby & the Romantics, "My Boyfriend's Back" by The Angels, "Leader of the Pack" by The Shangri-Las, and "Chapel of Love" by The Dixie Cups

f0147840_23542342.jpg有名曲ばかりですが(久しぶりにシャーリー・エリスが聴きたくなった)、いずれもギターが活躍する曲とはいいかねます。60年代中期、ギターとドラムがサウンドの中心になったときに、NYの音が古めかしく感じられるようになるのは、こういうところにもあらわれているような気がします。プレイヤーより、プロデューサー、アレンジャーのセンスの問題でしょうが。

チップ・テイラーと知り合ったことから、ゴーゴーニはソングライティングにも手を染め、ここでやっとI Can't Let Goになるわけですが、その後もセッション・ワークはつづき、こんどは以下のような楽曲がリストアップされています。

"Brown Eyed Girl" by Van Morrison, "I'm a Believer" by The Monkees, "At Seventeen" by Janis Ian, "The Sound of Silence" by Simon & Garfunkel, "Brand New Key" by Melanie, "1-2-3" by Len Barry, and "Sugar Sugar" by The Archies

またまた有名曲がぞろぞろですが、このへんになると、リアルタイムで聴いたものばかりです。ジャニス・イアンのAt Seventeenといわれて、そういえば、この曲のギターは、Without Herに似ているな、と思いました。

◆ もう一度BS&T盤 ◆◆
本題に入る前に長い道草をしてしまったので、あとは急ぎます。Without Herには、いくつかのヴァージョンがありますが、やはり、最初に聴いたBS&T盤がいちばんしっくりします。

フレッド・カテーロのボサ・ノヴァ・アレンジがアイディアの勝利ですし、ドラムのボビー・コロンビーとベースのジム・フィールダーのグルーヴもけっこうなものです。そもそも、BS&Tのいいところは、ボビー・コロンビーが、あの当時のバンドのドラマーとしてはタイムがよく、テクニックにも問題がなかったことでしてね。

アル・クーパーのヴォーカルを褒める人はあまりいないでしょうが、この曲については、べつに違和感はありません。I Love You More Than You'll Ever Knowのような曲には(アル・クーパー自身の作だが!)不向きな人ですが、Without Herのように、つぶやくようにうたうのが正解の曲は、ボロが出ません。

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だいぶお年を召してからのハリー・ニルソンとアル・クーパー。アル・クーパーは、Without Herのみならず、I Stand AloneではOneもカヴァーしている。

アル・クーパーはソングライターとしても魅力のある人ですが、いや、自身がソングライターだから、というべきか、カヴァーのセンスもすぐれていました。このWithout Herが収録されたBS&Tのデビュー盤は、アル・クーパーのオリジナル曲より、カヴァーの曲のほうが楽しめます。ランディー・ニューマンのJust One Smile(オリジナルはたぶんジーン・ピトニー盤)、ティム・バックリーのMorning Glory(ヴォーカルはスティーヴ・カーツ)も取り上げていますし、ゴーフィン=キングのSo Much Loveもなかなかいい曲で、この曲は、わたしはBS&T盤しか知りません。

Without Herが終わると、気持はつぎのJust One Smileのイントロへの準備ができていて、それが出てこないと、あれっとコケます。それくらい、子どものころによく聴いた盤だったということです。

So Much LoveはBS&T盤しか知らないと書いてから、自分がもっているものをすべて把握しているとはかぎらないことを思いだし、検索したら、あらら、やっぱりありました。ベニー・キング盤(これがオリジナルか)とダスティー・スプリングフィールド盤。これだから、だれも信用してはいけないというのです!

◆ 他のヴァージョン ◆◆
ニルソン盤は、ソースが異なる4種類のWithout Herをプレイヤーにドラッグしてあるのですが、微妙に異なっていて、面倒なことになっています。基本的なアレンジ、ムードは同じなのですがねえ。

4種の内訳を書いておくと、New Nilsson Songbook(楽曲売り込み用のデモLP)、Pandemonium Shadow Show、Aerial Pandemonium Ballet(初期の2枚のLPをベースにした、いわばリミックス・アルバムのようなもの)、そしてWithout Her: Without You - The Very Best Of Nilsson Vol. 1です。おおむね、マスタリングが異なっている程度なのですが、Aerial Pandemonium Ballet収録ヴァージョンだけは、テイクも異なるようです。ギターが入っていて、ニルソンがヴォーカルを重ねているこのヴァージョンが、わたしにはもっとも好ましいものに思えます。

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Gentle on My Mind収録のグレン・キャンベルのカヴァーもなかなかけっこうです。グレンの声に合っている曲ですし、ギターを中心としたベーシック・トラックのアレンジも(ガットがうまい!)、ブリッジのストリング・アレンジも、録音も、すべてがいいぐあいに収まっています。プロデューサー/アレンジャーはアル・ディローリー。

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アル・ディローリー(手前)とグレン・キャンベル

初期のニルソンのアルバムでアレンジャーをつとめた、ジョージ・ティプトンのヴァージョンはインストゥルメンタルです。オーケストレーターであり、映画音楽の作曲家でもあるので、ティプトンの1970年のニルソン・ソングブック、Nilsson by Tiptonはイージー・リスニングないしはオーケストラ・ミュージックです。WBのリリースなので、当然、ギターもドラムも、そこはかとなく、馴染みのサウンドです。確信はもてないので、だれとはいいませんがね。こういうのは好みが分かれるでしょうが、年をとると、この種のサウンドに抵抗がなくなるので、いまでは悪くないと感じます。ギターとドラムを筆頭に、当然、うまい人ばかりですしね。

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ハーブ・アルパート&ザ・ティファナ・ブラスのヴァージョンは、インストゥルメンタルではなく、This Guy's in Love with Youのような、ハーブ・アルパートによるヴォーカル・ヴァージョンです。ピッチのいい人ではないし、いかにも素人丸出しでうたうので、こういうつぶやくような曲は合っています。

しかし、このアレンジはどうでしょうかねえ。ベース、ギター、パーカッション、ヴォーカルだけの部分と、かなり大きなオーケストラによるフォルテシモのパートが交互に出てくるのです。静かなヴォーカル部分はけっこうだと思うのですが、派手なオーケストラ・パートはいらないように思います。

f0147840_0142699.jpgブリッジは、ハーブ・アルパートの不安定なピッチが悪いほうに出た印象で、頭から尻尾まですべてが素人にうたいやすい曲というのは、そうそうあるものじゃないからなあ、と思います。この曲でもドラムはいつものようにハル・ブレインでしょう。

ほかに、テリー・サヴァラス(そう、コジャックのサヴァラス)のヴァージョンをはじめ、トリビュート・アルバムのヴァージョンなど、いくつか試聴してみましたが、特筆すべきものはありませんでした。
by songsf4s | 2008-06-17 23:54 | Moons & Junes