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Moonlight Serenade その2 by Glenn Miller Orchestra
タイトル
Moonlight Serenade
アーティスト
Frank Sinatra
ライター
Glenn Miller, Mitchell Parish
収録アルバム
N.A. (78 release)
リリース年
194?年
他のヴァージョン
Frank Sinatra, Santo & Johnny, Chicago, George Melachrino, Henry Mancini, Ray Conniff, the Modernaires, Los Indios Tabajaras, the Ventures, Ray Eberle
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本日は昨日はふれられなかったMoonlight Serenadeのインスト・ヴァージョンです。

f0147840_23291825.jpgどう考えてもほかのものにするわけにはいかなかったので、看板にはグレン・ミラーを立てました。でも、この曲はどなたもご存知で、いまさら書くべきことなんかありません。改めて聴きなおして思ったのは、曲としては、ディミニシュなどを使った半音進行に特徴があり、半音進行につきもののパセティックな、あるいはメランコリックな味わいが決め手なのだということです。

Moonlight Serenadeにかぎったことではありませんが、グレン・ミラーの魅力は、サックス(と、たぶんトロンボーン)のアンサンブルの上に、クラリネットが載る、独特のサウンド・レイヤーがもつ響きに尽きます。トランペットは付け足りであって、本体ではありません。その木管主体サウンドと、Moonlight Serenadeの半音進行がじつによく馴染んだおかげで、この曲は古典になったのでしょう。以上、すでに、先人が百万回くりかえしたであろうことを、またくりかえしたにすぎない無意味な贅言でした。

◆ ギターものカヴァー2種 ◆◆
1959年のビルボード・チャートトッパー、Sleepwalkで知られる、ペダル・スティールとギターのデュオ、サント&ジョニーもMoonlight Serenadeをカヴァーしています。

f0147840_23304296.jpgSleepwalkという曲は不思議なムードをもっていて、なぜ不思議に感じるのか、その理由が知りたくなり、コピーしたことがあります。ひっくり返りましたね。C-Am-Fm-G7というコード進行だったのです。C-Am-F-G7なら、ノーマルもノーマル、クリシェと化した循環コードですが、そのFをFmにしただけで、ひどくアブノーマルな印象になっていたのです。

C-F-Fmという進行なら、昔はよくあったパターンです。C-Fmでもノーマルです。でもねえ、C-Am-Fmはないですよ。すくなくともわたしは、ほかに例を知りません。ポップ・ミュージックではきわめて稀なパターンです。

で、思ったのですが、Moonlight Serenadeは、コード進行はそれほどアブノーマルではないものの、どことなく、Sleepwalkに似たムードがあるのです。だから、一見、ギター・デュオには不似合いなこの曲をサント&ジョニーがやっても、ごく自然に感じられるのではないかと思います。もちろん、グレン・ミラーのゴージャスなアンサンブルの対極にあるミニマリズムですが、これはこれでいいのではないかと感じます。

f0147840_23315064.jpgギターに不似合いなのに、まだギターものカヴァーがあります。ロス・インディオス・タバハラスです。冒頭からいきなり高速ランで、うるさい小姑リスナーを黙らせておいてから、おもむろに本題に入るという構成にニヤニヤしてしまいます。

Moonlight Serenadeは、音の伸びる楽器でプレイしたときにもっとも魅力的に聞こえる曲である、という考えに変わりはありませんが、タバハラス盤Moonlight Serenadeも、これはこれで魅力があります。タバハラスというのはサント&ジョニーに似たところがあって、ヴィブラートないしは削ったフレットを利用したピッチの揺れによって、パセティックな味わいを出したデュオなので、メロディーラインとしては、彼らのスタイルに合っているからなのだと思います。

なお、ロス・インディオス・タバハラスのMoonlight Serenadeは、右のリンクからいけるAdd More Musicの「Rare Inst LP's」ページで聴くことができます。No.44がタバハラスです。

◆ Our Man in Hollywood ◆◆
ヘンリー・マンシーニは、やはりハリウッドを代表するオーケストラ・リーダーだなあと、これまでに何度も繰り返し確認したことを、Moonlight Serenadeでもやはり強く感じます。けっしてマンシーニひとりでできたことではなく、プレイヤーやスタジオやエンジニアなども重要なのですが、これはもう、ポップ・オーケストラ・サウンドの極北というしかありません。

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まず第一に、やはり録音とアレンジのみごとな融合をあげなければいけないでしょう。ヘンリー・マンシーニも、広がりが生まれるようにうまくアレンジしていますし、ハリウッドのRCAのスタジオAの鳴りもすばらしいから、こういうスケール感のあるサウンドになるにちがいありません。

管楽器のレイヤーによるアンサンブルを「リヴァース・エンジニアリング」するのは、かなりむずかしく、まったく自信がないのですが、たぶん、右チャンネルの主力は複数のホルン(クレジットによると四人)とトロンボーン(クレジットによると三人、さらにベース・トロンボーンが一人)だと思います。この響きがすばらしいのです。

ヘンリー・マンシーニ盤Moonlight Serenadeは、グレン・ミラー盤に親しんできたリスナーが、強い拒絶反応を起こさず、すんなり馴染めるようにつくってあります。それでいながら、グレン・ミラーのサウンドの物真似ではなく、明確にヘンリー・マンシーニ独自のサウンドになっています。ここがマンシーニのすごいところなのですが、その独自性がもっと明白にあらわれているのが、ホルンのサウンドです。

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Henry Mancini "Uniquely Mancini" credits プラズ・ジョンソンやジーン・チープリアーノをはじめ、おなじみのメンバーが並んでいるが、注目はドラムのジャック・スパーリングとギターのボブ・ベインか。

以前にも書きましたが、ヘンリー・マンシーニは、作曲するときは、つねにリード楽器をイメージしていたそうです。それどころか、Pink Pantherのプラズ・ジョンソンのように、しばしば特定のプレイヤーまでイメージしたといっています。歌手に「当てて」書くように、プレイヤーに当てて曲を書いたというのです。

アレンジも本来的に楽器に「当てて」書くものです。Moonlight Serenadeのアレンジの場合、マンシーニは、リード楽器よりも、まず先にホルンのサウンドをイメージしたのではないかと想像します。そう感じるほど、背景のホルンが全体を支配しています。ホルンという楽器が本来もっている、はろばろとした味わいが、サウンドに広がりと奥行きをあたえ、スタジオの鳴りやエンジニアの技術と相まって、最初の小節から豊かな響きに陶然たる気分になることができます。

◆ 新旧の蛇足 ◆◆
1950年代に一世を風靡したイギリスのオーケストラ・リーダー、ジョージ・メラクリーノのMoonlight Serenadeは、ストリングス・アレンジです。当然、甘みの勝った仕上がりです。

f0147840_23384227.jpgかつてはクリシェのかたまりに聞こえ、ダサい音の代表だった、こういうイージー・リスニング・ストリングスも、いまではレッド・データ・ブックに載りかねない絶滅危惧種となってしまったので、逆に、いくぶん珍奇な変わり種に聞こえなくもありません。とくに冴えたアイディアが投入されているわけではなく、安全第一のアレンジに思えますが、ということはすなわち、嫌味のない音だということです。いや、わざわざ聴くほどのものでもなく、BGMにすぎませんが。

聴くほどのものでもない、などといって笑ってすませられないのが、ヴェンチャーズのMoonlight Serenade。あろうことか、あるまいことか、ディスコ・アレンジです。チェンジアップではすみません。たんなるゲテ。シャレになりません。気がふれていたのでしょう。

Moonlight Serenadeは、やはりインストゥルメンタル曲です。シナトラがうたえば、それはそれでヴォーカル曲として成立してしまいますが、これはシナトラ特有の「万物シナトラ化」現象にすぎず、あくまでも例外です。

グレン・ミラーのオリジナルがいいのは当然で、いうまでもありませんが、ほかに聴くべきヴァージョンは、ヘンリー・マンシーニです。はじめから予想できた結論ですが、でも、いつものように、じつにいい仕上がりなので、これはどうにもならないのです。
by songsf4s | 2008-06-08 23:45 | Moons & Junes