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Magic Is the Moonlight by Julie London
タイトル
Magic Is the Moonlight
アーティスト
Julie London
ライター
Maria Grever, Charles Pasquale
収録アルバム
Latin in a Satin Mood
リリース年
1963年
他のヴァージョン
Nat 'King' Cole, Dean Martin, Cliff Richard, Jerry Vale, Los Indios Tabajaras, the 50 Guitars, Martin Denny, Esquivel
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今月のMoons & Junes特集は、その性質からいって当然ながら、スタンダードが多くなりそうな気配がひしひしとします。いえ、ロックンロール時代になると、月の歌が少なくなるなどということはありません。たんに、月はかならずしもロマンティックなものではなくなるだけです。まして、ジューン・ブライドなどというものが登場する可能性は、いちいち曲に当たってみるまでもありません。

まあ、わたしだって、ロマンティックな月の歌なんてものを、それほど好んでいるわけではないし、ジューン・ブライドの曲なんていうのものが面白いと感じることもありません。たんに、伝統には相応の敬意を払うべきだと考えているにすぎません。

当然、変化球を中心にしたいと思っていますが、ファンシーが成立する大前提は、オーソドキシーが存在していることです。順序からいって、先にオーセンティックな月と六月の歌というのを見ておかないと、変化球が変化球でなくなってしまうので、本日は、メインラインの曲がどんなものかを見るために、Magic Is the Moonlightを取り上げることにします。

◆ 正調ロマンティカ ◆◆
どのヴァージョンを看板に立てるか決めずに書いているので、ジェンダーをどちらにしたらいいのかもわからないヘルマフロディテ状態なのですが、いちおう男を想定して、歌詞を見ていきます。原曲はスペイン語だそうで、ナット・コールやクリフ・リチャードのように原詞でうたっているヴァージョンもありますが、わたしにはさっぱりわからないので、当然、英語詞でいきます。

Magic is the moonlight
On this lover's June night
As I see the moonlight
Shining in your eyes

「この恋人たちのための六月の夜、きみの瞳に月の光が輝いているのを見ると、月の光は魔法」

六月という設定になっているのは、夜でもあたたかく、そぞろ歩きにはふさわしい時季だということもいくぶんかはあるでしょうが、ジューン・ブライドを前提としているにちがいありません。

セカンド・ヴァース。

Can't resist their power
In this moonlit hour
Love begin to flower
This is paradise

「この月の輝くとき、その力にはあらがえず、恋が花開く、ここはパラダイス」

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ブリッジ。

Living in the splendor
Of your kiss so tender
Make my heart surrender
To your love divine

「きみのやわらかいキスの歓びとともにあると、きみのすばらしい愛に降参せずにはいられない」

内容のせいもあるかもしれませんが、このヴァースの紋切り型の脚韻には、どうなんだろうねえ、こういうのは、と思ってしまいます。書かれた当時はこれでもよかったのかもしれませんが、60年代にはすでに古くさく感じられたでしょう。韻というのはむずかしいものだと思います。韻のための韻に堕すのは、避けなければいけないことでしょう。

最後のヴァース。

Magic is the moonlight
More than any June night
Magic is the moonlight
For it made you mine

「月の光は魔法、六月のどんな夜よりも、月の光は魔法、そのおかげできみはぼくのものになったのだから」

◆ スペイン語ヴァージョン ◆◆
なんだか、昔風の歌詞の典型を見たような気分になってしまいましたが、この歌詞がいいのか悪いのかはさておくとして、この曲が忘却の淵に沈んだ理由が歌詞にあるのはまちがいないと感じます。甘み一辺倒では、60年代の疾風怒濤には耐えられなかったにちがいありません。

いまになると、こういう曲を男がうたっていたのが不思議に感じられますが、わが家にあるこの曲の女性シンガーによるものは、ジュリー・ロンドン・ヴァージョンのみ、あとは男ばかり。たしかに、As I see the moonlight shining in your eyesのラインは、女性シンガー向きではありませんが、全体のムードとしては女性シンガー向きです。まあ、昔は男が歯の浮くようなセリフで女性をくどくことは、ダサいとは思われていなかったのだと受け取っておきます。

f0147840_01171.jpgナット・コールは全編スペイン語でうたっています。Spanish is a loving tongueだからなのかなんだかよくわかりませんが、ラテン音楽のみならず、スペイン語でうたうこと自体が流行した時代があったように思われます。スペイン語圏のブログを見ると(あくまでも見るのであって、読むわけではない)、英語を母語とするシンガーのスペイン語による盤というのは、うんざりするほど取り上げられています。ということはつまり、それだけスペイン語圏が有力な市場だったということを示しているのかもしれません。

しかし、ナット・コールのMagic Is the Moonlightは、自然な歌いっぷりに聞こえ、かならずしも市場価値だけのために、スペイン語でうたっていたようには思えません。スペイン語でうたうことそれ自体を楽しんでいたのではないでしょうか。

f0147840_061779.jpgそれに対して、クリフ・リチャードのスペイン語版Magic Is the Moonlightは、明らかに市場を意識しただけのものなのが聴き取れます。スペイン語などさっぱりわからないわたしの耳にさえ、ぎこちなく響きます。ラテン語的なやわらかい響きではなく、英語的な硬い響きです。じっさい、英語ヴァージョンを聴くと、トラックは使いまわしだったことがわかります。

f0147840_092343.jpgしたがって、出来は英語ヴァージョンのほうがずっといいと感じるのですが、ただし、うちにあるもので比較すると、モノ・ミックスのスペイン語版のほうがずっとマスタリングがよくて、これだから聴いてみないとわかりません。63年ですからねえ、この時代のイギリスはステレオ・ミックスを想定していないので、モノのほうがずっとマシに聞こえるのです。

Fly Me to the Moonでは、アレンジ、サウンドがよろしくないとくさしましたが、Magic Is the Moonlightはけっこうなバッキングです。まだシャドウズが全員参加のころでしょうか、アコースティック・ギターのリードがなかなか印象的です。

◆ ディノとジュリー・ロンドン ◆◆
ディーン・マーティンは英語でスタートし、最後のほうはスペイン語にスウィッチしています。ということは、とくにスペイン語圏市場に向けたものではなく、あくまでも英語圏向けであり、スペイン語はアクセサリーだということを示しています。レス・ポールのVaya Condiosのようなものです。

f0147840_02045100.jpgディノのMagic Is the Moonlightを収録したDino Latinoは、1963年、リプリーズ移籍直後のリリースで、アレンジャーはドン・コスタです。クリフ・リチャード盤と同じ年なので、米英の技術レベルの格差が如実にわかります。ディノのMagic Is the Moonlightはすばらしい録音なのです。

録音の善し悪しを云々するとき、わたしは全体のサウンドのことばかり考えているのですが、ふと、ヴォーカルの録音のことを思いました。ディノはうまいとか下手とかいったことを超越したシンガーです。「ディノというキャラクター」をうたったのです。それは、細部のニュアンスに表現されるわけで、やはりエンジニアリングに大きく依存することでしょう。こういうタイプのシンガーは、うまく録音しないことには、魅力が伝わらないにちがいありません。

もちろん、Magic Is the Moonlightでも、サウンドは素晴らしいものです。ドン・コスタのアレンジもまた、エンジニアの手腕なくしては魅力半減でしょう。奥行きと広がりのある美しいサウンドです。

そういう意味ではジュリー・ロンドンも同じです。声質そのものに大きな魅力のあるシンガーですから、録音は重要です。いい声だなあ、と感じるということは、エンジニアがいい仕事をした証拠です。歌詞からいうと男がうたうべきと感じる曲なのですが、全体のムードはいたって女性的、メロドラマ的なので、女性がうたったほうが、尻がむずむずしないですみます。ただし、ジュリーは男のように低いキーでうたっていますが。

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ディノ盤同様、ジュリー・ロンドンのMagic Is the Moonlightを収録したアルバム、Latin in a Satin Moodも63年のリリースで、こちらのアレンジャーはアーニー・フリーマンです。Fly Me to the Moonもフリーマンのアレンジでしたが、このLatin in a Satin Moodでフリーマンははじめてジュリーのアレンジをしたようです。なかなか悪くないのですが、Fly Me to the Moonのように、数小節聴いただけで、これはいい、と坐り直すほどではありません。

それにしても、63年リリースが多いというのは、なんだか象徴的に感じます。翌年、ビートルズがアメリカでセンセーションを起こして以降、こういう曲はうっちゃらかされてしまうわけで、なんだか、予感の産物のような気がしてきます。

◆ インスト4種 ◆◆
インスト・ヴァージョンはどれも楽しめます。やっぱり、わたしはこういう歌詞は苦手なのです。

インスト盤は年代がいくぶんばらけています。うちにあるもっとも古いものはエスクィヴァル盤で1958年のリリース。派手なトランペットもピアノもどうでもいいのですが、毎度ながら、ペダル・スティールの不思議なオブリガートにはニコニコしてしまいます。

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ハワイアンでもなく、カントリーでもなく、ジェリー・ガルシアがたまにやったような、「スペーシー」なペダル・スティール・サウンドのオリジネイターは、ひょっとしたらエスクィヴァルなのかもしれません。いや、ジェリー・ガルシアとはまったく異なるプレイなのですが、サウンドのなかで果たしている役割という意味では、いくぶんかの近縁性があるのです。

50ギターズは、セカンド・アルバムの50 Guitars Go South of The Border Vol.2で、Magic Is the Moonlightを取り上げています。2枚目までのリードはローリンド・アルメイダです。最初の2枚はこのところ聴いていなかったのですが、久しぶりに聴くと、いかにも50ギターズらしいというスタイルは、まだ完成していなかったのだと感じます。あれはやはり、トミー・テデスコのリードとアーニー・フリーマンのアレンジの力だったことが、逆によくわかりました。

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だからといって、50ギターズのMagic Is the Moonlightは出来がよくないということではありません。Add More Musicの50ギターズのページでキムラさんがお書きになっているように、このプロジェクトの大きな特徴のひとつである、独特の音の奥行きはすでにできあがっていて、ハリウッドの録音に馴染んだ人間には、じつに気持のいいサウンドです。

なお、十年ほど前にリリースされた、50 Guitars Go South of The Border Vol.2のCDをお持ちの方にご注意申し上げると、あの楽曲表示はメチャクチャです。正しくは、トラック8がMagic Is the Moonlightです。

マーティン・デニーのMagic Is the Moonlightも、同じ1961年のリリースです。エキゾティカの命脈は尽きたと読んだのか、このアルバムはすでにエキゾティック・サウンドではなく、ストレートなラウンジ・ミュージックになっています。録音もハリウッドでしょう。エキゾティック・バーズの啼き声が入った、コンボによるエキゾティカを期待すると、肩すかしを食らいます。ここにいるのは、ラウンジ・ミュージックのピアニストとしてのマーティン・デニーです。パーカッションの扱いに、わずかにエキゾティカ風味が残されているだけです。

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いつまでも同じ音を求められても困るでしょうが、やっぱり、マーティン・デニーには「変なサウンド」を期待してしまいます。べつに悪い出来ではないのですが、「なんだかふつうすぎるなあ」と感じます。オーセンティックなエキゾティカ(オーセンティシティーを否定したところにエキゾティカが成立する基盤が生まれるので、むちゃくちゃに矛盾した表現だが)でなくてもいいから、エスクィヴァルのように「変なオヤジ」に徹してほしかったと、無い物ねだりをしてしまいます。

どん尻に控えしは、わが家にある「最新の」Magic Is the Moonlight、ロス・インディオス・タバハラスのヴァージョンです。1966年の録音で、不思議なピッチの揺れ方をする箇所があるので、例のフレットを削ったギターによるプレイなのでしょう。

f0147840_0314696.jpg冒頭は、おっと、ちがう曲をドラッグしてしまったのか、と思ったほどで、ほかのヴァージョンでは聴かれないメロディーをプレイしています。ということは、原曲には前付けヴァースがあることを示しているのかもしれません。残念ながら、わが家にあるヴォーカルものは、みな同じメロディーではじまっているので、確認はできないのですが。

Magic Is the Moonlight一曲だけでも、ロマンティカにはめげそうになっていますが、もうひとつふたつ、「オーセンティックな」月の曲というのを並べてみようと、いまの段階では思っています。
by songsf4s | 2008-06-05 23:55 | Moons & Junes