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Santana by Nelson Riddle
タイトル
Santana
アーティスト
Nelson Riddle
ライター
Riddle, Rowles, Satterwhite
収録アルバム
Love Tide
リリース年
1961年
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今日は晦日なので、先月の馬鹿ソング特集のように、店ざらしになった曲を列挙しようかと思ったのですが、今回はちょっと多すぎて、ダブりをとったりといったリスト作りが面倒でやめました。かわりにインタールードのようなインスト曲を取り上げます。

いま、晦日と書いて、なぜ「晦」を使うのだろうかと、数十年前に思うべき疑問を遅まきながら感じました。「気持を韜晦する」などという韜晦と同じ字じゃないですか。月の最後の日を「みそか」というのは、三十日の訓であることはわかりますが、当て字にせよ、なぜ「晦」なのか?

漢和字典を見たら、あっさりわかりました。「晦」の字義は「みそか。つごもり。陰暦の月末で、月のないやみ夜。〈対語〉→朔(ついたち)」とあります。字訓としては「くらし」(暗し)もあるということで、隠れていること、暗いことをいうわけです。本心を隠す「韜晦」という言葉にこの字がある理由も、これでよくわかりました。

月の最後の日を「晦日」というのは、太陰暦であるべきだということになりますが、こういう生活に根ざした言葉というのは簡単には消えないという、これもまた一証左なのでしょう。つぎの新月、太陰暦の「晦日」は6月4日で、だいぶずれています。考えてみると、季節についてなにかいうのなら、太陰暦にしたがうべきなのかもしれません。右側のメニューにあるカレンダーが太陽暦しか使えないに決まっているので、そんなことをやって遊ぶことはできませんが。

◆ フェーン風 ◆◆
さて、本日の曲は、ネルソン・リドルのSantanaです。Santanaといったって、あなた、カルロス・サンタナといった人名じゃござんせん。この曲を風の歌特集のフェイドアウトに持ってきたについては、ちゃんと理由があるのです。

どこかで手があがっていますね。はい、そちらのあなた、どうぞおこたえになってください。そうです、正解です。ビーチボーイズのKeepin' the Summer AliveにSanta Ana Windという曲が入っていましたが、あれと同じ風のことを、Santanaと略すことがあるのです。

ビーチボーイズのSanta Ana Windの冒頭は以下のようになっています。

Here in Sothern California there is a weather condition known as the Santa Ana Winds

Fire wind, oh desert wind
She was born in a desert breeze
And wind her way
Through Canyon Way
From the desert to the silvery sea

In every direction
See the perfection
And see the San Gabriel Mountain scene

Santana by Nelson Riddle_f0147840_23424728.jpgfire windであり、desert windだというのだから、乾燥した熱風なのは明らかです。南カリフォルニアのフェーン風を、土地では「サンタ・アナ」と呼んでいて、リエゾンが起こり「サンタナ」と略称されるようになったわけです。サンタ・アナは地名で、六甲颪、筑波颪に近い風の命名法です。ただし、サンタ・アナ山地(そういうものは存在しない)からの颪ではなく、モハーヴェ砂漠などの北東の砂漠地帯からの風で、主としてサンタ・アナ一帯に吹く、ということのようです。

気象事典にはサンタ・アナはフェーン風であると書いてあるので、山を越える間に乾燥するわけで、サンタ・アナの場合、サン・ゲイブリエル山地を越えてくるそうです。だから、ビーチボーイズのSanta Ana Windにサン・ゲイブリエルが出てくるのです。

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サン・ゲイブリエル山地とロサンジェルス市街 右上、すなわち北東が砂漠地帯、中央の山地がサン・ゲイブリエル、左下寄りがLA。砂漠地帯からの北東風がサン・ゲイブリエル山地を越えて乾燥し、フェーンとなってLAに吹きつける。

十数年前、仕事で世界のさまざまな風について調べたとき、この「サンタ・アナ」という風を知り、フェーンだと書いてあるので、嫌な風じゃないか、どうしてビーチボーイズはそんなものを歌にしたのだ、と不思議に思いました。で、歌詞をちゃんと聴いてみると、つまり、セイリングには好都合だということなのですね。日本だって、サーファーは、台風が近づくと上機嫌になるわけで、それと同じです。

◆ ベースの扱い ◆◆
さて、ネルソン・リドルのSantanaです。リドルといえば、50年代なかごろから60年代にかけてフランク・シナトラのアレンジャーをつとめたことで有名です。Santanaが収録されたアルバム、Love Tideは1961年リリースで、まさに「ネルソン・リドルのシナトラ時代」(あるいは、「シナトラのネルソン・リドル時代」)の真っ最中につくられたものです。

Santana by Nelson Riddle_f0147840_23551644.jpgしかし、さすがにシナトラに重用されたアレンジャーだけのことはあります。シナトラのムードを、自分のアルバムに投影したりはしていません。じっさい、このアルバムにはシナトラもうたった、ハロルド・アーレンとテッド・ケーラー作のIll Windも収録されていますが、1955年のフランク・シナトラ盤(こちらのアレンジャーもリドル)と、1961年のネルソン・リドル盤では、まったく異なったアレンジをしています。そういってはなんですが、歌手に気を遣わないですむぶん、リドル盤のほうがムードのあるストリングス・アレンジで、わたしの好みはこちらのほうです。

Santanaは、楽曲としては比較的シンプルですが、なかなかいい曲です。映画のテーマに使ってもいいくらいです。アレンジ面では、ひとつ、おや、と思うことがあります。ベースの扱いです。アップライトが入っていることはまちがいないのですが、そのラインの上にダンエレクトロ6弦ベース、いわゆる「クリック・ベース」を載せて、輪郭をつけたのかと思いました。

アップライトまたはフェンダーといった「ほんもののベース」の上に、ダンエレクトロを載せてベースラインに輪郭をつけ、同時に厚みをあたえるのは、ロック系のハリウッド産ポップ・ミュージックで盛んに利用された手法です。ひょっとしたら、ネルソン・リドルがその手法に先鞭をつけたのかと、ちょっと緊張しました。

Santana by Nelson Riddle_f0147840_23562785.jpgしかし、よく聴くと、ダンエレクトロではなく、ギターの低音弦でベースラインをなぞっているようです。なーんだ、そうだったのか、と思ったのですが、よく考えると、これだって「先鞭」にはちがいありません。ベースラインに輪郭をつける楽器が、ギターであっても、ダンエレクトロ6弦ベースであっても、同じことだからです。考え方の方向性は同一であり、たんに実現方法がすこし異なるだけです。じっさい、同じ手ざわりのサウンドになっています。

この低音部の作りを聴いて、「定説」、いや、それほど大げさなものではなく、このことを声を大にしていっているのは、わたしをはじめ、仲間内のことにすぎないので、てめえで勝手に定説化しただけの「観察にもとづく仮説」ですが、そいつを自分で壊す必要があるかもしれないと感じました。いずれ、この手法の出現例を時間軸に沿って並べ、きちんと検証するつもりです。

オーケストラ・リーダーとしてのネルソン・リドルは、ヘンリー・マンシーニやビリー・メイほどすごいとは思わないのですが、このLove Tideというのは、ちょっとエキゾティカ風味もあって、なかなか好ましいアルバムです。これからの季節にちょうどいいのではないでしょうか。

◆ シャドウズのSanta Ana ◆◆
おまけとして、べつのサンタ・アナ風をもう一吹き。シャドウズにも、Santa Anaという曲があります。この曲が収録されたアルバム、The Sound of the Shadowsは彼らの代表作で、選曲もよく、プレイもサウンドもけっこうで、いろいろな曲をプレイ・アロングしました。Bossa Rooなんか、いまだにちゃんと弾けないのですが、でも、弾いて楽しい曲です。

いまこの曲を流して、弾いてみたのですが、手が自然に動くというわけにはいかないし、キーも忘れていたので、Bossa RooやDeep Purpleほどよくプレイした曲ではないのは明らかですが、ある程度は覚えていました。

Santana by Nelson Riddle_f0147840_2358480.jpgこのアルバムにはWindjammer(帆船)という曲も入っています。風というのは、やはり、さわやかなイメージがあるので、曲のタイトルに使われるのではないでしょうか(Ill Windのような例外ももちろんありますし、暴風の歌もありますが)。

歌詞のある曲では、内容と関係なく、windだのbreezeだのといった言葉を使うわけにはいきませんが、インストは、好きなようにタイトルを付けることができます。だから、風の歌特集をやろうと思い、HDDを検索したら、ほかのキーワードにくらべ、インスト曲の含有率が異常に高かったのだと思います。windやbreezeがタイトルに使われていると、なんとなく、いい曲のような気がするのではないでしょうかねえ。しませんか?
by songsf4s | 2008-05-31 23:55 | 風の歌