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El Paso その1 by Marty Robbins
タイトル
El Paso
アーティスト
Marty Robbins
ライター
Marty Robbins
収録アルバム
The Essential Marty Robbins 1951-1982
リリース年
1959年
他のヴァージョン
The 50 Guitars, Grateful Dead
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なんとかの歌と題して特集を組むたびに、なにかしら「汚い手」を使って、その曲をそこにもってくるのは無理だろう、というものまで強引に繰り込んでしまうのが、当ブログの恒例となっております。しかし、ざっと見渡して、今月の「風の歌」特集では、まだそういうことはしていないようです(いつも汚い手を使っているので、ちょっと考えたぐらいでははっきりとしない!)。

ということはすなわち、そろそろ、このワイルド・カードを使ってよいタイミングだということで、本日は一枚目を切ります(すくなくとももう一枚は握っている)。いや、いちおう、風という言葉は出てきます。でも、ヒチコックの登場シーンのように、注意していないと見落としてしまうぐらいの「端役」なのです。ヒチコック同様、わりに「浅い」ところに登場するので、お見落としなきよう。いや、見落としたって、いっこうに差し支えないのですがね!

f0147840_23282394.jpgマーティー・ロビンズは、すでにBeyond the Reef(Ghost) Riders in the Skyの2曲を取り上げていますが、いずれも他人の曲で、ロビンズ自身の曲を取り上げるのは、本日のEl Pasoがはじめてです。しかも、これはロビンズの代表作であるのみならず、カントリー・ミュージックのオールタイム・クラシックなのです。

You Tubeにはテレビ・ライヴおよび動画なしのスタジオ録音ヴァージョン(ただし、ヴァースがひとつ切られている短縮版)がありますので、よろしかったらお聴きになってみてください。

もうひとつ、フル・ヴァースのスタジオ録音ヴァージョンもあるのですが、これはあとでご覧になるほうがいいでしょう。歌詞のストーリーをほぼ忠実にドラマ化しているのですが、なんせ主役がスティーヴ・マーティンとくるので、「忠実」の中身が問題なのです。わたしはゾウが出てきたところで爆笑してしまいました。

ついでに、これは明日の分という感じですが、グレイトフル・デッドのEl Pasoもあります。デッドヘッズとしてはちょっと驚きのヴァージョンです。なにしろ、ボブ・ウィアが……いや、くわしいことは、デッドのヴァージョンにたどり着いてからにします。

おそろしく歌詞の長い曲なので、枕はこれくらいにして、歌詞にとりかかります。悪くない曲ですが、曲と歌詞、どちらがヒットに貢献したかといえば、歌詞のほうにちがいないのです。

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エル・パソの位置。中央の緑の矢印。テキサス州の西端に位置する、リオ・グランデ河北岸の国境の町で、すぐ南はもうメキシコ、北はニューメキシコ。エル・パソからほぼ真西に移動して太平洋岸まで行くとサンディエゴにたどり着く。その北はLA。

◆ ファム・ファタールに恋して ◆◆
なにがヴァースやらコーラスやらブリッジやら、よくわからないので、適当に切っていくことにします。

Out in the West Texas town of El Paso
I fell in love with a Mexican girl
Night-time would find me in Rosa's cantina
Music would play and Felina would whirl

Blacker than night were the eyes of Felina
Wicked and evil while casting a spell
My love was deep for this Mexican maiden
I was in love but in vain, I could tell

「ウェスト・テキサスのエル・パソという町で、俺はメキシコ女に恋をした、夜な夜な俺は『ローザの店』に入りびたった、音楽がかかるとフェリーナはくるくると踊りまわったものだ。フェリーナの目は闇夜よりも黒く、みだらで邪な光りで、男に魔法をかけた、俺はすっかりこのメキシコ女の虜になってしまった、だが、この恋が成就するはずがないこともわかっていた」

f0147840_23461841.jpg酒場の名前は、わたしにはRose'sまたはRosie's、つまり「ロージーズ」という音に聞こえるのですが、さまざまなソースによると、正しくはRosa'sなのだそうです。どうやら、テキサスではありふれた店名のようです(ということは、国内盤The Essential Marty Robbinsの歌詞カードはまちがっていることになるが、地元の人間にしかわからないたぐいのことなので、やむをない。デッド歌詞サイトのウェブ・マスターもRosie'sだと思いこんでいたと書いている)。

つぎは起承転結の「承」と「転」の部分。

One night a wild young cowboy came in
Wild as the West Texas wind
Dashing and daring, and drink he was sharing
Wicked Felina the girl that I love

So in anger I challenged his right
For the love of this maiden
He dived with his hand for the gun that he wore
My challenge was answered in less than a heartbeat
The handsome young stranger lay dead on the floor

「ある夜、テキサスの吹き荒れる風のように、荒くれカウボーイが威勢よく店に入ってきて、俺が惚れてるあの邪なフェリーナといっしょに飲みはじめた。俺は腹立ちのあまり、どっちがあの女にふさわしいかとカウボーイに迫った、俺の挑戦に、奴は電光石火で腰の拳銃に手をやることで応えた、つぎの瞬間、ハンサムな見知らぬ若者は床に倒れて死んでいた」

どの節がどこにかかっているのか、修飾関係が微妙なところもありますが、映画なら90分、落語でも20分はかかろうという話を、わずか4分40秒でエンディングに持ち込まなければならないので、すべて棚上げして、先を急ぐことにします。つぎは「転」の後半。

Just for a moment I stood there in silence
Shocked by the foul evil deed I had done
Many thoughts raced through my mind as I stood there
I had but one chance, and that was to run

Out through the back door of Rosa's I ran
Out where the horses were tied
I picked a good one, he looked like he could run
Jumped on his back and away I did ride
Just as fast as I could
From the West Texas town of El Paso
Up through the badlands of New Mexico

「自分がしでかした惨事に呆然として、しばらくのあいだ、俺はその場に立ちすくんでしまった、いろいろな考えが頭を駆けめぐったが、できることはひとつしかなかった、逃げるんだ。ローザの店の裏口を抜けて馬をつないである場所にいき、足の速そうなのを選んで一目散に逃げだした、ウェスト・テキサスのエル・パソから、ニューメキシコのバッドランドを抜けて」

一目山随徳寺を決め込んだ、といいたくなるところですが、それじゃあスティーヴ・マーティンのお笑い版El Pasoになってしまうので、グッとこらえておきます。badlandには「悪地」という訳語があるようですが、熟していなくて据わりが悪いので避けました。「荒れ地」では休耕田みたいですしね。西部劇によく出てくる、ぺんぺん草も生えないような場所をご想像あれ。

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こんなところを逃げていった? エル・パソに近いフランクリン山地。ニューメキシコへ行ったということは北上したことになる。

Back in El Paso my life would be worthless
Everything's gone, in life nothing is left
It's been so long since I've seen the young maiden
My love is stronger than my fear of death

I saddled up and away I did go
Riding alone in the dark
Maybe tomorrow a bullet may find me
Tonight nothing's worse than this pain in my heart

「エル・パソに戻ったら俺の命はないも同然、すべてを失った、もう俺の人生にはなにもない、でも、彼女の姿を見てから長い時がたち、命の危険よりも彼女への想いのほうが強いことがわかった、俺は馬に鞍を乗せ、暗闇のなか、ひとり出発した、明日には弾丸を喰らうかもしれないが、今夜は胸の痛みのほうがはるかにひどい」

And at last here I am on the hill overlooking El Paso
I can see Rosa's cantina below
My love is strong and it pushes me onwards
Down off the hill to Felina I go

Off to my right I see five mounted cowboys
Off to my left ride a dozen or more
Shoutin' and shootin', I can't let them catch me
I've got to make it to Rosa's back door

「ようやくエル・パソを見下ろす丘にたどり着いた、眼下にはローザの店が見える、強い愛に衝き動かされ、フェリーナを目指して俺は丘をくだりはじめた、右手には馬に乗った5人のカウボーイたちが見えた、左手からは、1ダース以上の連中が、叫び声を上げて撃ってきた、奴らに撃たれるわけにはいかない、ローザの店の裏口にたどり着かなくてはならないのだ」

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エル・パソ郊外のランチ

残りは一気に最後まで行きます。

Something is dreadfully wrong for I feel
A deep burning pain in my side
Though I am trying to stay in the saddle
I'm getting weary, unable to ride

But my love for Felina is strong
And I rise where I've fallen
Though I am weary I can't stop to rest
I see the white puff of smoke from the rifle
I feel the bullet go deep in my chest

From out of nowhere Felina has found me
Kissing my cheek as she kneels by my side
Cradled by two loving arms that I'll die for
One little kiss and Felina, good-bye

「まずい、脇腹に焼けるような痛みを感じる、なんとか鞍にしがみつこうとするが、もう力がない、俺は馬から落ちた、だが俺のフェリーナへの愛は強い、なんとか立ち上がる、もう力は残っていないが、立ち止まるわけにはいかない、そのとき、ライフルから白煙が吹き出るのが見え、俺の胸に弾丸が深く撃ち込まれたのがわかった、どこからともなくフェリーナがあらわれ、駆け寄ってきた、フェリーナは俺の頬にキスして、かたわらにひざまずいた、このためなら死んでもいいと思うほど恋いこがれた腕に抱かれて俺はいった、もう一度キスしてくれ、そうしたらお別れだ、フェリーナ」

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◆ カウボーイ・ブーム ◆◆
あんまり長すぎることもあり、また、現在形で押し通すのは日本語に馴染まないので、最後のほうは横着な書き方になってしまいましたが、ストーリーだけはおわかりいただけたと思います。こういう歌詞の場合、細部の表現より、ストーリーテリング、ナラティヴのほうにウェイトがあるので、大ざっぱな日本語ですが、つまるところ、大ざっぱに捉えていただければ十分なのです。

El Pasoがヒットしたあとになっていいだしたことかもしれませんが、テキサスの隣、アリゾナ出身のマーティー・ロビンズは、もうすこし早く生まれていたら、カウボーイになっていたと思うといっています。じっさい、ロビンズの母方の祖父はカウボーイだったのだそうです。20世紀になっても、まだキャトル・ドライヴなんてものをやっていたのでしょうか。

しかし、それよりも大きな動機は、どうやらテレビの西部劇ブームのようです。こちらのほうが、わたしにもわかりやすい動機です。たしかに日本でも、テレビ草創期には、アメリカ製西部劇がたくさん放送されていました。

「ローハイド」「ガンスモーク」「ワイアット・アープ」「カートライト兄弟」「バット・マスターソン」「名犬リンチンチン」(現代なら、リンティンティンと書くだろう!)「ローン・レンジャー」、そして、El Pasoのヒットよりあとになるでしょうが、「ライフルマン」「ララミー牧場」などというのもありました。調べればこの倍はあるでしょう。60年代中期に放送していた「ワイルド・ウェスト」なんていう、ジェイムズ・ボンドと西部劇が合体したみたいな、むちゃくちゃにぶっ飛んだドラマも大好きでした(ずっと後年、ウィル・スミス主演で大仕掛けな本編になったが、テレビ版の小さなトリックやガジェットのほうが面白かったように感じる)。

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上から「ガンスモーク」「名犬リンチンチン」「ローン・レンジャー」「ワイルドウェスト」

ロビンズはこの曲の出来に自信をもっていて、はじめから会社(CBS)に、シングル・カットしたいと申し入れたものの、いくらなんでも4分40秒は長すぎると拒否され、El Pasoは当初、アルバム・カットとしてリリースされたのだそうです。結局、シングル・カットの要求が高まり、59年秋にリリースされ、1960年最初のビルボード・チャートトッパーになりました。カントリー・チャートとのダブル・クラウンです。

f0147840_0111915.jpgマーティー・ロビンズの盤は、いつもみごとなギター・プレイがフィーチャーされていて、それがお楽しみのひとつになっています。El Pasoのギターも立派なプレイですが、残念ながら、このトラックのパーソネルは不明です。録音場所すらわかりません。The Essential Marty Robbinsの、El Pasoの直前の曲はハリウッド録音(ギターはビル・ピットマンとクレジットされている!)、直後の曲はナッシュヴィル録音で、推測も困難です。

ただ、ハーモニーをつけたシンガーはナッシュヴィルの連中(ひとりは、バーズがグランド・オール・オプリーに出演したときのMCである、あのトムポール・グレイザー!)なので、たいした傍証にはならないものの、ナッシュヴィル録音の可能性のほうが高いかもしれません。

いま、いくつかのサイトを見たところ、この曲のギターはグレイディー・マーティンだといっているところがありました。たしかに、マーティンならこれくらいは弾くだろうというプレイです。だとすると、ナッシュヴィル録音ということになります。

どちらの録音にせよ、すばらしいギター・プレイであることに変わりはなく、デッドが数百回にわたって、ライヴでこの曲をプレイした理由のひとつは、ジェリー・ガルシアがこの曲を弾くことを好んだからではないかと推測します。

ということで、グレイトフル・デッドと50ギターズのカヴァーがある理由はおわかりいただけるでしょうが、この2種のヴァージョンについては明日以降に書かせていただきます。

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エル・パソのダウンタウン。住みやすい町だそうだが、たしかに、写真を見ていると、そうだろうなあ、という気がしてくるたたずまい。

by songsf4s | 2008-05-19 23:54 | 風の歌