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Hickory Wind その1 by the Byrds
タイトル
Hickory Wind
アーティスト
The Byrds
ライター
Gram Parsons, Bob Buchanon
収録アルバム
Sweetheart of the Rodeo
リリース年
1968年
他のヴァージョン
Gram Parsons, Emmylou Harris
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今日のHickory Windは、五月のトップバッターにしたヤングブラッズのRide the Windと並び、五月は風の歌特集にしようと決めた動機のひとつです。この2曲はちょうど同じころにリリースされていますが、わたしが聴いたのはRide the Windが先でした。先月、グラム・パーソンズの$1000 Weddingでふれたように、Hickory Windが収録された、アルバムSweetheart of the Rodeoの日本でのリリースが遅れたからです。

f0147840_2326123.jpgなにしろ、グラム・パーソンズの伝記もこの曲をタイトルにしたくらいで、いまではGPといえばHickory Windと、だれでも思うほどの象徴性をもつにいたっています。当然、そこにはさまざまな「物語」が付与されることになります。グラムを取り上げられるのはこれが最後になるかもしれないので、できるだけそうしたエピソードを拾うつもりでいます。

そのまえに、やはり曲を聴いておいていただくほうがいいでしょう。You Tubeには、肝心のグラムのヴォーカルによるものは、バーズ・ヴァージョンも、GPのソロ・ヴァージョンも動画付きはありません。しかし、バーズ・ヴァージョンの音だけは聴けますし、キース・リチャーズエミールー・ハリスのものも、こちらは動画付きであります。

以前、You Tubeでグラム・パーソンズを検索したときは、ろくなものがありませんでしたが、その後、質、量ともにずいぶん充実したことがわかりました。なによりもうれしい驚きは、グラムのアマチュア時代のバンド、ザ・レジェンズの音をついに聴けたことです。リトル・リチャードのRip It UpやエヴァリーズのLet It Be Meをやっています。1962年のライヴ録音だから音質は悪いものの、なるほどねえ、と納得のいくパフォーマンスです。

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The Legends 左からジム・スタフォード、ケント・ラヴォア(ロボ)、ひとりおいてグラム・パーソンズ。ドラマーの名前はどのソースを見てもわからない。あるいは、のちにグラムのISBでプレイすることになる、ジョン・コーニールである可能性もゼロではない。

グラムの声ははっきりわかりますし、バンドとしてもなかなかです。グラム、ジム・スタフォード(Spieders and Snakes、My Girl Bill)、ロボ(=ケント・ラヴォア、You and Me and a Dog Named Booh、I'd Love You to Want Me)という三人のシンガーが輩出したバンドなので、ヴォーカルは当然しっかりしていますし、プレイだって、バーズなんかめじゃないほどです(リード・ギターはだれだろう? 3人のリズム・ギタリストしかいない変なバンドと思っていたが、だれかがちゃんとしたプレイをしている)。この音質でも、もしもそれなりの分量があるならば、十分にリリースに値するでしょう。

グラムの没後リリースのなかには、Cosmic American Music: The Personal Tapes 1972のように、最後まで聴けないほどひどいものもありますが、そんなものにくらべれば、このレジェンズのテープは、はるかに価値のある音源だと感じました。十代のグラムが、リトル・リチャードとエヴァリーズを歌っていたことがわかっただけでも大収穫です。

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◆ 松、オーク、ヒコリー ◆◆
Hickory Windがグラム・パーソンズの代表作とみなされるようになった理由のひとつは歌詞にあります。コーラスもブリッジもないシンプルな3ヴァース構成です。まず、GP自身が書いたと伝えられているファースト・ヴァース。

In South Carolina there are many tall pines
I remember the oak tree that we used to climb
But now when I'm lonesome, I always pretend
That I'm getting the feel of hickory wind

「サウス・キャロライナには背の高い松の木がたくさん生えている、みんなでよく登ったオークの木のことを覚えている、でも、さびしくなるといつも、あのヒコリーの風を感じているふりをするんだ」

花尽くしの曲ならありそうな気がしますが(といっても、具体的な例は思い浮かばない)、木尽くしの歌というのは、めずらしいのではないでしょうか。調べてみると、意外なことに、松の種類が世界でもっとも多いのは北米だそうで、60ないし65種が記録されているとあります。アジアにはわずか25種ほどしかないそうです。

当然、北米には、われわれがイメージする松とは、ずいぶん樹形の異なるものがあります。まあ、三蓋松(あるいは「黒板塀に見越しの松」!)は植木職人がつくるものだし、能や歌舞伎の背景に出てくるのはもちろん様式化されているわけで、あれをもとにしてはいけないのですが、浜辺に植林されたものとくらべても、「これがほんとうに松なのかい?」といいたくなるようなものもあります。

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ロッキーマツ(limber pine)

オークについてはトム・ジョビンのThe Waters of Marchのときにふれました。ポイントは、「樫」と訳してしまうと誤解を与えることになると植物学者はいっている、ということでした。近縁の樹木名をあてるのではなく、オークはそのままオークというべきだというのです。

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サウス・キャロライナの沿岸地方に特有のエンジェル・オーク。木登り遊びに向いていそうな樹形。

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こちらは人工植林のノーマルなオークの林。これも木登り遊びにはよさそうに見える。

ヒコリーは、われわれにとっては家具などの材としての名前であり、木として立っているものはなじみがありません。庭園、植物園、低山を歩くことを趣味としているので、ずいぶんといろいろな木を見てきましたが、まだどの種類のヒコリーも実物を見たことがないと思います(まあ、見たのに忘れてしまうことも多いが)。小石川植物園あたりにはあるのでしょうか。

ヒコリーはクルミ科に属すそうですが、たしかに実の写真を見ると、クルミのような形をしています。当然、果樹は食用になるそうですが、なかでもペカン・ヒコリーが美味とあります。そういわれて、ずいぶん昔にペカンのことを調べたのを思いだしましたが、仕事で調べたことは片端から忘れていくので、調べたということ以外、もうなにも覚えていません! 写真では高さがわかりにくいのですが、とにかく、いくつかご覧いただき、イメージをつくっていただきましょう。種類によってはとてつもなく高く伸びるようです。

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テキサス・ペカン・ヒコリー。地面の黒い点は牛。かなり大きな木である。

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これもペカン・ヒコリー。下に立っている人物とくらべていただきたい。

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どれか特定の樹木と風が結びつくとしたら、われわれの文化では松でしょう。源氏物語の昔から松風という熟語があるほどなのだから、松と風は確固とむすびついています。海浜の景色のよいことをいう白砂青松(はくしゃせいしょう)という熟語があるくらいで、松はしばしば海辺に植えられるため、海風と結びつくからにちがいありません。ほかに特定の木と結びつくことがあるのでしょうか? 桜風とか桃風とか楓風とか、そういう言葉は聞いたことがありません。熟しているのは「松風」だけではないでしょうか。

◆ 遠きにあって ◆◆
セカンド・ヴァース。くわしくは後述しますが、ここは共作者のボブ・ブキャナンが書いたといわれています。

I started out younger at most everything
All the riches and pleasures, what else could life bring?
But it makes me feel better each time it begins
Callin' me home, hickory wind

「ぼくはたいていのことはごく若いときからやっている、富と快楽のことをいっているんだ、この世にほかになにがあるというのだ? でも、ヒコリーの風が故郷へと誘う声が聞こえてくると、もっといい気分になる」

ボブ・ブキャナンが後年語ったところによれば、グラムがファースト・ヴァースで故郷での少年時代を書いたのを受けて、セカンド・ヴァースは現在のLAの音楽業界暮らしを描いたのだそうです。all the riches and pleasureが指しているのはそのことでしょう。

最後のヴァース。ここはどちらともつかず、グラムとボブがいっしょに書いたヴァースだそうです。

It's a hard way to find out that trouble is real
In a far away city, with a far away feel
But it makes me feel better each time it begins
Callin' me home, hickory wind

「遠く離れた町で、遠く離れた気分でいると、トラブルが深刻だということはわかりにくいものだ、でも、ヒコリーの風が故郷へと誘う声が聞こえはじめると、いつも気分がよくなる」

ここはやや考えこむところです。it's a hard wayのitは、(to be) in a far way city with a far away feelなのだとみなしておきました。グラムは家族の問題を抱えていたので、わたしはこのヴァースはそのことをいっているのではないかと考えています。つまり、ハリウッドの音楽業界で暮らしていると、故郷の問題を実感できなくなる、といっているのではないでしょうか。

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Gram Parsons with the Byrds GPがいた時期のバーズ。左からグラム・パーソンズ、ケヴィン・ケリー、ひとりおいてロジャー・マギン、クリス・ヒルマン。インタヴューを受けているマギン以外は全員ダレきっている。ということはラジオ出演時の写真か? この写真ではわからないが、プレイ中の写真では、グラムは坐ったまま、ギターを寝かせてボトルネックで弾いたらしいことがわかる。

◆ 過去と現在 ◆◆
アメリカの松やオークやヒコリーのことを調べるだけで力尽きてしまった感じですが、すこしだけこの曲の背景を書いておきます。

1968年、グラムはフロリダのココナット・グローヴへフレッド・ニール(Everybody's Talkin'、Dolphin)に会いに行きました。そこで、旧知のボブ・ブキャナン(ニュー・クリスティー・ミンストレルズ)にばったり会い、ふたりはいっしょにサンタフェ鉄道でLAに帰ることにしました。

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Fred Neil

アメリカの長距離列車だから、たぶん個室だったのでしょう、車中でグラムはギターを取り出し、書きかけた曲を仕上げるのを手伝ってくれないかと、ブキャナンに持ちかけました。ブキャナンはサード・ヴァースについて、「あそこがこの曲のテーマだ。ビジネスだなんだといったタワゴトが山ほどあるせいで、町でなにかを成し遂げるのはおそろしくむずかしい」といっています。

しかし、これはあくまでも作者の片割れ、それも生き残ったほうの意見です。わたしはむしろ、ファースト・ヴァースのほうに強い印象を受けました。ブキャナンのほうは、音楽界での現在の悪戦苦闘に心がいっていたのでしょうが、グラムは少年時代の記憶を呼び覚ます「いい気分」のほうに心がいっていたような気がします。

もちろん、グラムも、ブリトーズ時代の代表作、Sin Cityで、都市で暮らす憂鬱をうたっていますが、Sin Cityには虚飾に対する嫌悪感しかないのに対し、Hickory Windには、ヒコリーの風の記憶がもたらす気分への肯定があります。たとえ過去の記憶という後ろ向きなものであるにせよ、このポジティヴな気分が、この曲を時の流れとともにクラシックに押し上げたのだと、わたしは考えています。

各ヴァージョンの検討は明日以降に持ち越しとさせていただきます。

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by songsf4s | 2008-05-15 23:56 | 風の歌