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Winds of Barcelona (a.k.a. El Presidente) by Herb Alpert & the Tijuana Brass
タイトル
Winds of Barcelona (a.k.a. El Presidente)
アーティスト
Herb Alpert & the Tijuana Brass
ライター
Sol Lake
収録アルバム
Volume 2
リリース年
1963年
他のヴァージョン
remake and retitled version of the same artist, Wes Montgomery, the Mexicans
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グレイトフル・デッドの曲というだけでも十分に疲れるのに、あろうことかUncle John's Bandなどやってしまったので、消耗がはげしく、本日は息抜きのインストです。

インストだとばかり思っていたら、ヴォーカル・カヴァーがあった、なんていう曲は山ほどあります。Telstarなんて、歌ものにするのは無理だろうと思う曲にまでヴォーカル・ヴァージョンがあるのだから、じつに油断がなりません。ソニー・ジェイムズのApacheとか、キャシー・カービーのSpanish Flea(タイトルからして珍だから当然だが、歌詞もなかなか珍、仕上がりもよい)なんてえのもあります。で、やむをえず、かなりしつこく検索してみましたが、Winds of Barcelonaはインストと断定して(すくなくとも現在のところは)大丈夫でしょう。

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バルセロナの海。帆を張ってくれないと風があるのかないのかわからない。

さきまわりしていっておくと、allmusicのエントリーは、ハーブ・アルパート&ザ・ティファナ・ブラスとウェス・モンゴメリーのヴァージョンのみです。メキシカンズのヴァージョンはエントリーがありません。

近ごろ、海外のブログなどで、平気でallmusic(AMG)のレヴューを引用しているところがありますが、どういう神経なのかと思います。最近は多少はマシになったのかもしれませんが、ウィキペディア以下の信頼性しかありませんぜ、あそこは。大昔、AMGを見つけたころ、いくつかレヴューを読みましたが、耳が聞こえないだけでなく、音楽と音楽史の知識もないと腹ばかり立ったので、最近は作曲者データとうちにないヴァージョンの確認だけに利用しています。要するに電話帳レベルだということです。

電話帳に載らない電話番号があるように、AMGに載らない曲や人も多いので、この面でも過度に信頼するのは危険です。いや、そもそも、なにかを書くときにだいじなのは自分自身だけであって、他人の意見なんかどうでもいいことです。

Uncle John's Bandに出てきたギャズデン・フラグのモットーは、Don't Tread on Meかもしれませんが、わたしのモットーは、稲垣足穂がいった「誰にも似ないように」です。いや、当ブログのモットーではなく、わが人生のモットーという意味です。

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◆ ソル・レイク・ソングブック ◆◆
さて、本題。本日の曲、Winds of Barcelonaの作者であるソル・レイクは、The Lonely Bull(オリジナル・タイトルはTwinkle Starだったが、ハーブ・アルパートが改題した)やThe Mexican Shuffleを書いた人です。日本ではBitter Sweet Sambaもよく知られています。

f0147840_0501856.jpgキャリアはよくわかりませんが、ハーブ・アルパート関係の資料には彼の友人と書かれています。ほかでは見かけないので、アルパートの周辺で音楽活動をしていた人と考えています。アルパート同様、The Lonely Bullの大ヒットで人生が一変したのではないでしょうか。ほかに資料がないので、iMDbの短い記述を引用しておくと、1911年シカゴ生まれ、91年没、本名Solomon Lachoffとなっています。裏をとれなかったので、参考程度に受け取っておくように願います。

泥縄で、いまTJBのアルバムからソル・レイクの曲だけ抜き出してみました。1962年のThe Lonely Bullから1968年のThe Beat of the Brassまでの10枚のアルバムで、15曲を取り上げています(シングルのみのリリースで、ベスト盤に収録されたものも含む)。ソル・レイクの資料は少ないので、参考までにタイトルを列挙しておきます。

The Lonely Bull
Winds of Barcelona
Marching Thru Madrid
More And More Amor
The Mexican Shuffle
El Presidente (Winds of Barcelonaの改作)
Salud Amor Y Dinero
Green Peppers
Bittersweet Samba
Memories Of Madrid
Cantina Blue
Mexican Road Race
Bo Bo
Cowboys and Indians
A Beautiful Friend
She Touched Me

さらに追求なさりたい方は、ハーブ・アルパートの詳細な45回転盤ディスコグラフィーなどを参照されるとよろしいでしょう。

ハーブ・アルパートのアレンジと、TJBのサウンドというフィルターを通ったあとなので、判断がむずかしくなりますが、概して好きなタイプの曲が多く(いちばん有名なThe Lonely Bullがいちばんつまらないかもしれない)、TJB以外のソル・レイクの曲を探してみたくなります。

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ハーブ・アルパートとティファナ・ブラス。ということらしいが、このバンドがこの世に出現したのは盤デビューから4年もたった1966年のこと。それ以前はたんなるスタジオ・プロジェクトにすぎず、ツアー・バンドは存在しなかった。A Taste of Honeyの大ヒットがTJBを実体化させたのである。

◆ TJBのオリジナルとリメイク ◆◆
この曲には短い歴史しかありません。1963年のハーブ・アルパート&TJBのセカンド・アルバムVolume 2(なんともインスピレーショナルな命名!)で、Winds of Barcelonaとしてデビューし、つぎのアルバム、South of the Border(1964年)で、異なったアレンジとサウンドに改作され、El Presidenteと改題されています。

カヴァーは後述するとして、まずTJBの2作のみについて。シンプルなコード進行ながら、なかなか印象的なメロディー・ラインの曲で、Winds of Barcelona、El Presidente、どちらもけっこうだと思います。

f0147840_114056.jpgWinds of Barcelonaのほうがテンポが速く、パーカッションが活躍するリズミックなアレンジですが、ドラムはミックスト・アウトされています。この時期はまだハル・ブレインではなく、The Lonely Bull同様、アール・パーマーがトラップに坐っているはずですが、むしろ、ボンゴのビートのほうが印象的で、アールはこちらをプレイしたような気すらします。しかし、ハル・ブレインもThe Lonely Bullのときから、パーカッションで参加しているので、ボンゴはハルの可能性もあります。どうであれ、ソリッドな素晴らしいグルーヴのボンゴです。

f0147840_131879.jpgEl Presidenteは、最初の大ヒットであるThe Lonely Bullのフォーマットに回帰したアレンジで、またしても闘牛場ムードというか、スペイン・ムードというか、そんな方向になっています。テンポはWinds of Barcelonaより遅く、パーカッションではなく、トラップ・ドラムが中心になっています。しかし、このドラマーはだれでしょうか。アール・パーマーにもハル・ブレインにも聞こえません。

大ヒットのフォーマットに忠実であろうとすることに否定的な考えはもっていませんが、シングル・カットするなら、El Presidenteではなく、Winds of Barcelonaのほうだったような気がします。El Presidenteはスネアのチューニングが低すぎるせいもあって、グルーヴがやや鈍です。この2種の比較でいうなら、El Presidenteも悪くないものの、どちらかというと、Winds of Barcelonaのほうが好みです。

◆ ウェス・モンゴメリーのカヴァー ◆◆
Winds of Barcelonaはウェス・モンゴメリーの曲だと思っている方もけっこういらっしゃるのではないでしょうか。アルバムCalifornia Dreamingのなかで、もっとも印象的なトラックでした。

f0147840_161941.jpgうまいギタリストというのは掃いて捨てるほどいますが、わたしにとってウェス・モンゴメリーは、チェット・アトキンズと並んで、人間には思えないプレイヤーです。全編オクターヴ奏法で通すということ自体、どうかしているとしか思えませんが、Winds of Barcelonaは、そのなかでも、もっともありえないプレイです。ただオクターヴで弾くだけでも面倒なのに、TJBヴァージョンよりずっと速いテンポで、この忙しい曲をあわただしく弾いているのですからね。しかも、いくつめのテイクか知りませんが、ノーミスの完璧なプレイです。

こうなっちゃうと、わたしにいえることはひとつしかありません。「うまければいいってものじゃない」です!

しかし、よくしたもので、アレンジも録音もバックのプレイもダサダサで、中学生のとき、友人のを脇から聴いて、ケッと馬鹿にしたのも無理はないと、いま聴いても思います。とくにドラムがヘボ。ちょっとタイムが速く、突っ込み気味なのは、ジャズ・ドラマーの不正確なタイムに鑑みて目をつぶるとしても、あのフィルインはなんですか。あそこはドラマーの見せ場なのに、見得の切り方ひとつ知らないのだから呆れます。

だから、ポップ・フィールドのセッションがほんの一握りのプレイヤーの一手販売になってしまったのでしょう。ポップでは正確さと「演出」が必要なのです。ジャズ・プレイヤーの大多数はタイムが不正確で、演出を苦手とするか、または嫌っていたように思います。もっといいアレンジャー、もっと腕のいいプレイヤーたちでやれば、このアルバムはずっとよくなったでしょう。中学生にナメられるようなドラマーを使っちゃいけませんぜ。

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ウェス・モンゴメリー。ピックは使わず、フィンガリングだったのだから、唖然とするしかない。まあ、あのやわらかいサウンドはピックでは出ないが、それにしてもねえ……。

ウェスがポップ(当時はイージー・リスニングといっていた)にシフトしたこと自体は、わたしはジャズ・ファンではないので、べつにどうとも思いません。人間は食べなければなりませんからね。でも、そっちの方向に行くのなら、もっときちんとやるべきだったと思います。いま聴くと、アルバムとしてはみな中途半端な出来に感じます。

◆ イギリスを徘徊する謎のメキシコ人 ◆◆
もうひとつ、ウェブで見つけたザ・メキシカンズというグループのヴァージョンもあります。これは1966年のThe World Of Tijuanaというアルバムに収録されたものだそうです。正体不明なのですが、英デッカの盤で、要するに、イギリス人によるTJBサウンドのコピーのようです。

f0147840_1114013.jpgそういう性質のものですから、馬鹿馬鹿しいといえば馬鹿馬鹿しく、またイギリス人の贋造癖が出たか、といいたくなります。しかし、イギリス製模造品はどれもよくできていて、噛んでみないと真贋がわからなかったりします。このところ、イギリス人=贋金作り説を展開していますが、この盤もその有力な補強になってくれます。

しかし、なんでイギリス人はそれほどアメリカ音楽の模造品を必要としたのか、そこのところがよくわかりません。日本製模造品は、しばしば日本的バイアスがかかっているので、国内向けの「翻訳」ということで理解できますが、イギリス人の場合、そんなものが必要とは思えず、わけがわかりません。たんにアメリカ製品に市場を席巻されたくないということでしょうか。これは今後の課題とさせていただきます。

TJBのWinds of Barcelonaと、ウェスのカヴァーだけあれば、この曲については十分だろうと考えます。
by songsf4s | 2008-05-13 23:55 | 風の歌