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Why Do Fools Fall in Love by the Beach Boys その1
タイトル
Why Do Fools Fall in Love
アーティスト
The Beach Boys
ライター
Franky Lymon, Morris Levy
収録アルバム
Shut Down Vol. 2
リリース年
1964年
他のヴァージョン
Frankie Lymon & the Teenagers, the Happenings, Benn Zeppa & the Four Jacks, the Diamonds, Linda Scott, the Four Seasons, Gale Storm, the Teeners, Joni Mitchell, California Music
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この特集で何度か「三大馬鹿ソング」のことを書きましたが、本日のWhy Do Fools Fall in Loveも三大馬鹿ソングのノミネーです。

Why Do Fools Fall in Loveは、ジェリー・リーバーとジョニー・マーサーという、定冠詞付き、大文字の「アメリカの大作詞家」の作品(Fools Fall in LoveFools Rush In)と同じバッグに入れられるほど、楽曲に「格」があるとはいえませんが、ポップというのは、こういう駄作すれすれの佳作のほうが好まれる世界で、むしろ、こういうもののほうが三大馬鹿ソングにふさわしいかもしれません。

ポップ・ソングというのは、きわめて知的な表現形式というわけではなく、どちらかというと、お馬鹿なところを売りものにする傾向があるので、馬鹿馬鹿しい歌詞もまたショウのうちとあきらめて、以下の歌詞が頭の上を通りすぎる須臾の間をご辛抱願います。人生はうたたの夢、馬鹿歌詞ぐらい、瞬きするあいだにすぎていきます。

◆ 根源的疑問の提示 ◆◆
それでは、乗り物酔い予防として、深呼吸などやらかしてから、ファースト・ヴァース。

Why do birds sing so gay
And lovers await the break of day
Why do they fall in love

「どうして、鳥たちはあんなに陽気に歌い、恋人たちは夜明けを待つのか? どうして愚か者は恋に落ちてしまうのだろう?」

フランキー・ライモン&ザ・ティーネイジャーズのオリジナルをはじめ、多くのヴァージョンでは、ヴァースの直前に「Why do fools fall in love」といっていますが、これはゲーム前の気合みたいなものなので、省きました。

読んで字のごとし、なにもいうことはありません。無理になにかいうなら、愚か者は恋に落ちる、というコンセプトがこれほど広範に、かつ、一点の曇りもない人生の真実であるかのように語られていることからして、デカルト、カント、ショーペンハウエルがどのような著作をものしようとも、これこそが、たぶん、われわれにとって、もっとも重要な形而上学的問題なのであろうということが、このヴァースから読み取れます。書いている本人も馬鹿馬鹿しいと思っているパラグラフを読んでくださり、感謝に堪えません。

セカンド・ヴァース。

Why does the rain fall from up above
Why do fools fall in love
Why do they fall in love

「どうして天から雨が降ってくるのだろう、どうして愚か者は恋に落ちるのだろう、どうしてみんな恋に落ちるんだ?」

書きようがなくなって、いつもは省くクウェスチョン・マークなど付けてみましたが、あまり効果はないようですな。ここもまた読んで字のごとし、いまだ解の得られない深遠な形而上学的問題と、比較的研究が進んでいる分野の科学的問題に関する、根源的疑問の提示です。教室にはかならずひとりは、こういう疑問を口にする子どもがいて、教師が立ち往生したりします。

チリのアリカというところでは、1903年10月から1918年1月まで、丸14年以上にわたって、一滴の降水もなかったそうです。ということは、1917年には、アリカには雨というものを知らない中学生がいたことになります。きみは子どもだから知らなかっただろうが、世界には、「なぜ雨が降るのか」ではなく、「なぜ雨は降らないのか」と思った子どももいるのだよ>フランキー。クイズに出る気象学豆知識でした。

尾流雲(ヴァーガ)というものがあります。砂漠地帯などの高温低湿の場所では、地表にたどり着く前に雨が蒸発してしまうことがあり、遠目には雨のカーテンが見えるのに、その下に入っても、雨は降っていないのです。まるで足のない幽霊。砂漠地帯版Why Do Fools Fall in Loveでは「なぜ雨は消えるのか?」とうたうべきでしょう。地球上にはいろいろなことの起きる場所があるものですなあ。

◆ Lose-Lose理論にもとづく歌詞 ◆◆
つぎは最初のブリッジ。ここをうたわないヴァージョンもいくつかあります。

Love is a losing game
Love can be a shame
I Know of a fool, you see
For that fool is me
Tell me why, tell me why

「恋はかならず負けるゲーム、面目丸つぶれになることもある、ぼくは愚か者のことならよく知っている、ぼくがそうだからさ、どうしてなんだ、教えてくれ!」

エクスクラメーション・マークなんかも(勝手に)使ってみましたが、あまり変わり映えせず。しかし、ここはゲーム理論の先取りみたいで、ちょっとだけ興味深くはあります。Win-Win戦略なんてえのもありましたが(え、まだあるって? そのへんはよく知りませんが)、恋は勝者のいないLose-Loseゲームだと主張しているわけです。この世界自体がLose-Loseゲームに変貌しつつあるように見える昨今、なかなか意義のあるブリッジだと思います。社会ないしは政治に関する歌だと思って読み替えてみてはいかがでしょう。

このあと、すでに見たヴァースをくりかえすだけなので、セカンド・ブリッジへ。

Why does my heart skip a crazy beat
For I know it will reach defeat
Tell me why, tell me why

「どうしてぼくのハートは気違いじみた速さで鼓動を打つのだろう、失敗することがわかっているからだ、どうしてなんだ、だれか教えてくれ」

ハートがスキップするなんていうと、不整脈か、と思うのは年寄りだけで、若い人は「ハートがドキドキ」(ハーマンズ・ハーミッツ!)のこととわかるはずです。

以上、排斥しなければならないほどの歌詞でもありませんし、いくぶんかの愛嬌はありますが、つまるところ、アメリカ大衆音楽史に残る記念碑的傑作の、180度反対側に近いところにあるといえるでしょう。まあ、これこそが大衆音楽の歌詞である、という立場もあるでしょうが。

◆ いきなり他のヴァージョン ◆◆
この曲に関するかぎり、わたしはビーチボーイズ盤がベストだと思うのですが、ハル・ブレインがどういうプレイをしたか、詳細に検討する必要があるので、それはあとまわしにし、今日は順番を変えて、先に他のヴァージョンを片づけます。それも思いきり全力疾走、火渡りをやっても、この速度ならヤケドひとつしないってな調子で駆け抜けます。

f0147840_014221.jpgもちろん、いちばん有名なのはオリジナルのフランキー・ライモン&ティーネイジャーズ盤です。ロニー・スペクターがヴィデオGirl Groupsのなかで、あの声! と叫んでいましたが、たしかに、このときのフランキー・ライモンの声はすばらしく、マイケル・ジャクソンもリトル・スティーヴィー・ワンダーも目じゃありません。その手のお子様シンガーとしては、ディアナ・ダービンとどっちがすごいかというレベルで、モータウン勢など、たんなる真似しっ子というべきでしょう。サウンドは古びてしまいましたが、フランキー・ライモンの声はいつまでも新鮮です。

黒人市場で大ヒット曲が出ると、目にもとまらぬ早業で白人市場に輸入されます。「カヴァー」という言葉を、当今はくそみそいっしょに見境なく使いますが、本来の意味は、このような「レイス・ミュージック」市場から、一般白人市場への「技術移転」を指すものでした。だから、そういう狭義の意味でなら、日本には「カヴァー」など一曲も存在しません。

f0147840_016314.jpgで、この曲にも当然、純正なる意味での「カヴァー」があります。それも複数。まずゲイル・ストーム盤。べつに悪いものではありませんが、ティーネイジャーズ盤がそこにあるときに、このヴァージョンをわざわざ聴くのは、当時の白人だけじゃないでしょうか。つまり、そういうヴァージョンを必要とするラジオ局、レイス・ミュージック(黒人音楽)をいっさいかけない、白人局が多数あったということにすぎません。しかし、ドラムはうまい! You Tubeにゲイル・ストーム盤もあります。

f0147840_0175063.jpg同じ年にダイアモンズもこの曲をやっています。ダイアモンズというのは、グループそのものがドゥーワップのカヴァーで、こんなことばかりやっています。あの時代にはいくぶんかの意味があったのかもしれませんが、彼らのWhy Do Fools Fall in Loveは時の試練に耐えられるものではなく、いまでは完全に賞味期限切れ。

56年にはもうひとつ、グローリア・マンという人のものがチャート・インしていますが、これは聴いたことがありません。ぜんぜん知らない人ですが、おそらく白人女性でしょう。フランキー・ライモン盤が6位、ゲイル・ストーム盤が9位、ダイアモンズ盤が12位、ここまではトップ40に届きましたが、グローリア・マン盤は59位。いやまったく、屋台も出る騒ぎで、チャート圏外にはこれに数倍する屍が累々と横たわったであろうことが想像されます。

その屍たちの骨を拾ってやろうと、クモの巣を這いまわって、50年代のものと思われるヴァージョンをふたつ試聴してみました。サーフでも、サイケデリックでも、ほかのサブジャンルもそうですが、ドゥーワップというのも間口の狭いわりには奥が深いうなぎの寝床で、探りはじめると困惑します。

f0147840_0213867.jpgベン・ゼッパ&ザ・フォー・ジャックスというグループについては、うちにある資料ではなにもわかりませんでした。The Billboard Book of American Singing Groupsにも、ラルフ・ティーのWho's Who in Soul Musicにも、The Guiness Who's Who of Fifties Musicにも、その60年代版にも、まったくエントリーがありません。ディスコグラフィートップス・レコードのマトリクス番号からの推測ですが、ベン・ゼッパ盤も56年録音に思われます。

ということで、音だけでいいます。ストレート・カヴァーなので、物真似にすぎず、それ以上のものではありませんが、出来自体は悪くありません。バッキングはこちらのほうがグルーヴがよく、ティーネイジャーズ盤よりはるかにいい出来です。それにしても、声からは黒人とも白人ともいえず、困ったものです。冒頭のヘイ・ドゥーマッパ、ドゥーマッパは黒人に聞こえ、リード・ヴォーカルは黒人少年に聞こえたり、白人成人女性に聞こえたりします。ヴォーカルに、フランキー・ライモンほどドライヴする力がなく、フロップもやむをえないでしょう。

f0147840_02157100.jpgティーナーズという、グループ名までいただいちゃったみたいなカヴァーもあります。もう時間がないので、このグループについては調査もしません。こちらのバッキングもティーネイジャーズ盤よりずっと上出来。ドラムはタイムがよく、ベース(スタンダップ)のグルーヴはなかなかです。これも50年代録音と思われます。

60年代はじめになると、リンダ・スコット盤があります。ドゥーワップ色は一掃され、オーケストラ付きの軽いノリのアレンジになっています。ピジカートではなく、弓弾きでシンコペートしたラインをプレイする弦がなんとも摩訶不思議ですが、凡庸よりは摩訶不思議のほうがずっとマシなので、これはこれでけっこう。リンダ・スコットはもっと可愛くうたったときのほうがいいように思いますが、アップテンポだからこんなものでしょうかね。

f0147840_024878.jpg66年のアルバム、Looking Backでフォー・シーズンズもこの曲をカヴァーしています。タイトルどおり、古い曲ばかりの企画盤です。こういうことをやって成功した例は稀で、フォー・シーズンズも不発。アルバム自体の出来がよくありません。いや、わたしはシーズンズのファンなんですよ。

41位と、トップ40には届きませんでしたが、久しぶりにビルボードにチャートインしたのがハプニングズ盤。なんだか耳慣れない前付けヴァースがついています。しかたないので、聴いてみましょう。この忙しいときに!

People think I know it all
And I 'm doin' fine
But still I have so many doubts
And questions in mind like...

f0147840_026168.jpgといって、Why do birds...へとつなげています。時間がないので訳しません。肝心なのは前付けヴァースじゃなくて、本体です。これまでのヴァージョンとはまったく異なる、ミディアム・ロッカ・バラッドに仕上げたところが、とにもかくにもヒットした理由でしょう。やっぱり、いくぶんかのプライドがあれば、こういう大ヒット曲をそのままカヴァーするわけにはいきません。45回転盤にカットするとしたら、なおのことです。ずらっと並べてみると、かなり目立つヴァージョンです。ベンチの作戦の勝利。

f0147840_0284959.jpgジョニ・ミッチェル盤は困りましたねえ。いちおう、わたしは彼女のファンなのですが、これはライヴのお遊びでやったカヴァーで、どうこういうようなものではありません。ローラ・ニーロの秀作カヴァー・アルバムGonna Take a Miracleとは、志そのものがちがい、軽くやっただけのものですが、案外、そういうときに実力が出るものです。ファンとしては、こういうことをいうのは残念ですが、なんだ、たいしたシンガーじゃねえな、この深みのないチンケはグルーヴはなんだよ、です。しょせん、フォーク出身、ヴァーサタイルなシンガーではないのでしょう。

f0147840_0302236.jpgカリフォルニア・ミュージックは、悪くもないけれど、とくにいうべきこともなし。これだけ時代が下ったら、なにか工夫が必要だと思うのですが、手をこまねいてはいなかったものの、とくに名案も思い浮かばず、という雰囲気で、ハプニングスの工夫のほうがよほど好感がもてます。こういう、「幻のなんとか盤」(名盤とは口が裂けてもいえませんやね!)がお好きな方だけが聴けばいいものでしょう。ただ、時代が変わると、脳天気にやろうとしても、ピーカンにはならず、どうしても薄曇りになっちゃうんだなと、ささやかな悲しみを感じるところが、面白いといえば面白いかもしれません。

ハル・ブレインのプレイを解析する余裕をつくろうと思ってがんばったのに、文字数のうえからも、時間的にも、もはや余裕なし。骨折り損のくたびれもうけでした。ビーチボーイズ盤の詳細と、ハル・ブレイン畢生の名演については、次回へ繰り越しとさせていただきます。
by songsf4s | 2008-04-20 23:54 | 愚者の船