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The Waters of March (Aguas de Marco) その1 by Sergio Mendes & Brazil 77
タイトル
The Waters of March (Aguas de marco)
アーティスト
Sergio Mendes & Brazil 77
ライター
Antonio Carlos Jobim
収録アルバム
Vintage 74
リリース年
1974年
他のヴァージョン
Antonio Carlos Jobim and Elis Regina, Jongo Trio
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本日も「日本の雪の歌」特集再開までのつなぎとして、レギュラープログラムをお送りします。今度の週末ぐらいには再開できる見込みです。

◆ 一衣帯水、水は世界をめぐる ◆◆
本日はアントニオ・カルロス・ジョビンの登場です。同じトム・ジョビンの「水の曲」でも、うちにあるものでは、Agua de Beber「甘い水」のほうが圧倒的にカヴァーが多く、Aguas de Marco「三月の水」のほうはわずか2種類しかありません。しかも、Agua de Beberのほうに、The Waters of Marchというまちがった英訳タイトルを入れているものまであったりして、おいおい、です。

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アントニオ・カルロス・ジョビン(右)とセルジオ・メンデス(中央)。左端はスティーヴィー・ワンダー。

このあいだのYounger Girlの記事では、文法問題で×をもらったばかりなのですが、羮に懲りて膾を吹く殊勝な人間ではないので、この複数形のwatersについて書いておくと、「水」といっては誤訳に近く、「海」「河川」「湖沼」などを指します。しかし、日本語にはこのすべてを包含する適当な言葉がないので(いや、あるのだろうか?)、結局、「水」とでもいっておくしかないことになります。「春の海」「春の小川」は日本にもあるんですがねえ……。

ちなみに、これはまったく知りもしないことを当てずっぽうで書くのですが、aguaというのは、形から見て、ラテン語のaquaに対応するものに思えます。ここから、aqualung(字句どおりには「水中の肺」という意味で、こりゃまたずいぶんとごつい造語)、aquarium(水族館または水槽)、aquarius(水瓶座)などをはじめとする、水に関係するさまざまな言葉が生まれたのはご案内のとおり。

しかし、リーダーズ英和辞典でaquaを引いたら(このあいだ、チョンボをやったばかりなので、慎重になっている!)、仰天するようなことが書いてありました。末尾に「L=water; 「閼伽(あか)」と同語源」とあったのです。これにはひっくり返っちゃいました。

「閼伽」とはなんだという方もいらっしゃるでしょうから(そもそもATOKはこれを変換しない。現代日常語の知識しかない困ったFEPだが、これはATOKにかぎらない)、広辞苑の定義を以下にコピーします。

あか【閼伽】〔仏〕(梵語 argha; arghya)貴賓または仏前に供えるもの。特に水をいう。また、それを入れる容器。

梵語、つまり、サンスクリット語だというのだから、インドから東西両方向に流れ出ていった結果、地球をグルッと廻ってしまったのでしょう(以上の定義からすると、「閼伽棚」「閼伽井」「閼伽桶」などはいいとして、「閼伽水」というのはトートロジーに近いことになる)。それにしても、まさか、閼伽とaquaが同根とは、あ、お釈迦様でも知るめ~な~。

◆ 矢でも鉄砲でも ◆◆
では歌詞を見ていきますが、ほとんど単語の羅列で、センテンスはあまりないので、必要なところだけ、辞書がわりをするだけにして、日本語には移しません。わが家にあるものでは、セルジオ・メンデス盤は英語詞、トム・ジョビン盤はポルトガル語詞なので、以下はセルジオ・メンデス盤に依拠しています。また、切れ目もよくわからない金魚のフン状態ですし、ヴァースもコーラスもイワシの頭もヘチマもないようなので、テキトーに切ります。

A stick, a stone
It's the end of the road
It's the rest of a stump
It's a little alone

It's a sliver of glass
It is life, it's the sun
It is night, it is death
It's a trap, it's a gun

stickとstoneが並んで出てくるのは、Sticks and stones may break my bones, but names [words] can never hurt meというフレーズからきているのでしょう。意味は「(棒っきれや石じゃなし)口で何と言われてもへっちゃらだ」だそうで、「子供のけんかの文句」と注釈があります。

「矢でも鉄砲でも持ってこい」みたいなもので、こういうときは、強調のために、あるいは口調を整えるために、ひとつではなく、ふたつのものを並べるというのは、洋の東西を問わないようです。「やあやあやあ、ここで会ったが百年目、盲亀の浮木、優曇華の花、いざ尋常に勝負せよ」みたいなもので、盲亀の浮木だけではかっこうがつかず、どうしたった優曇華の花も出てこざるをえず、いきおい、われわれもこのふたつをセットにして記憶するのですな。芝居作者というのは人情の機微に通じているだけでなく、言葉のリズムにも敏感ですなあ。

stumpというのはあまり見かけない名詞ですが、「切り株」「基」「幹」「軸」「付け根」「断端」「義足」などと辞書には書いてあります。わたしの狭い読書経験でいえば、じっさいに見たことがあるのは「切り株」と「義足」と(腕、脚を切断した)「断端」という使用法です。でも、ここではそういうことをいっているとは思えません。

a rest of a stumpのrestは「残余部分」という意味だとすると、切り株の残り、なんていうトートロジーになってしまうので、これはちがうでしょう。となると、restは「休憩」というほうでしょうか。これに合わせてstumpの意味を見ていくと、「(義足のような)重い足取り」という字義にぶつかります。このフレーズの直前は「道の終わり」となっているので、「疲れた足を休めるとき」といったあたりに受け取っておけばいいのではないでしょうか。

sliverは、細長いもののことで、草のsliverというのだから、笹や菖蒲のような、細長い葉をいっているのでしょう。sunとgunの韻はちょっとしたものですねえ。

◆ オークの花咲くころ ◆◆

The oak when it blooms
A fox in the brush
A knot in the wood
The song of a thrush

The wood of the wind
A cliff, a fall
A scratch, a lump
It is nothing at all

オークの花など見たことがないので、調べてみましたが、2種の百科事典には、花や花期のことはでていなくて、ウェブでも葉や材のことが多く、花の写真は一握りしかありませんでした。「なんとかオーク」という名前だからといって、オークの仲間とはかぎらない(たとえば、グレイトフル・デッドの曲にあるSugar Magnoliaを調べたら、マグノリアの仲間ではなく、それどころか木本ですらなく、草本のアイリスの仲間とわかった)ので、たとえば、きれいな花のred oakというものは、無視しました。

百科事典の記述で、へえ、と思ったのは、文学作品などでは樫と訳すことが多いが、これは不適切で、しいていうならブナだろう、とあったことです。樫はアジアにしかないものなのだそうです。つまり、オークはオークなのだ、ということです。

オークはおおむね春に咲くようで、果たしてきれいな花といえるかどうか微妙(花だけのクロースアップと、樹全体では印象がまったく変わる)なのですが、いただいてきた写真を貼りつけます。

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これが一面に咲くなら、黄色いナンジャモンジャ(ヒトツバタゴ)といった感じで、きれいかもしれません。でも、パラパラと咲くのなら、印象は薄いでしょう。bloomは、辞書には「《特に観賞用植物の》花」あります。これに対して、blossomは「果樹の花」、flowerは「草本の花」とあり、桜の花はblossom、菖蒲の花はflowerということになります。

オークの花期が気になったのは、ジョビンがブラジル人だからです。タイトルには三月とありますが、南北で季節が逆転するので、三月が春とはかぎりません。しかし、北米のオークの花期は春とあるので、英語詞のThe Waters of Marchは、春の歌といってよいことになります。ポルトガル語はわかりませんが、たぶん、秋の歌になっているのでしょう。

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こちらはvalley oakという最大級のオークの花。ふつうのオークの花は、辞書の説明どおり、尾状花序になっているが、こういうのも尾状というのだろうか。

つぎのライン、fox in the brushのbrushは「ブラシ」「刷毛」のことではなく、「藪」「低木林」のことでしょう。knotはふつう結び目のことですが、森だというのだから、木の「こぶ」のことでしょうか。thrushはツグミ。fallは、この場合は滝でしょう。scratchとlumpはなんでしょうね。「ひっかき傷」と「かたまり」ではなんのことかわかりません。つぎのラインでは「まったく意味なんかないんだよ」といっているので、考えないことにします。

◆ 山鳥のしだれ尾の…… ◆◆

It's the wind blowing free
It's the end of the slope
It's a beam, it's a void
It's a hunch, it's a hope

And the river bank talks
of the waters of March
It's the end of the strain
The joy in your heart

最初の2行はいいとして、3行目のvoidは「虚無」「虚空」「空隙」のこと、hunchは「予感」という意味です。後半はセンテンスなので、いちおう訳すと「川の土手は三月の流れのことを語る、緊張の終わるとき、心に生まれる喜び」といったあたりで、つまり、つらい冬が終わるといいたいのでしょう。

ここまでずっと見てきた感じでは、要するに、春のスケッチないしはフラッシュ・イメージといったあたりで、目にするもの、連想するものをつぎつぎに列挙しているのでしょう。これが歌詞といえるかどうか心もとない気もしますが、俳句に近いものと考えればいいのかもしれません。

この歌詞は鉄道唱歌のように永遠につづき、最後までやると一週間がかりになってしまいそうです。よって、ちょうどタイトルも出てきたことなので、これで打ち切りとします。残りの部分を以下に貼りつけておきますので、気になる方は、そして根気のある方はご自分でお読みください。

The foot, the ground
The flesh and the bone
The beat of the road
A slingshot's stone

A fish, a flash
A silvery glow
A fight, a bet
The range of a bow

The bed of the well
The end of the line
The dismay in the face
It's a loss, it's a find

A spear, a spike
A point, a nail
A drip, a drop
The end of the tale

A truckload of bricks
in the soft morning light
The shot of a gun
in the dead of the night

A mile, a must
A thrust, a bump
It's a girl, it's a rhyme
It's a cold, it's the mumps

The plan of the house
The body in bed
And the car that got stuck
It's the mud, it's the mud

Afloat, adrift
A flight, a wing
A hawk, a quail
The promise of spring

And the riverbank talks
of the waters of March
It's the promise of life
It's the joy in your heart

A stick, a stone
It's the end of the road
It's the rest of a stump
It's a little alone

A snake, a stick
It is John, it is Joe
It's a thorn in your hand
and a cut in your toe

A point, a grain
A bee, a bite
A blink, a buzzard
A sudden stroke of night

A pin, a needle
A sting, a pain
A snail, a riddle
A wasp, a stain

A pass in the mountains
A horse and a mule
In the distance the shelves
rode three shadows of blue

And the riverbank talks
of the waters of March
It's the promise of life
in your heart, in your heart

A stick, a stone
The end of the road
The rest of a stump
A lonesome road

A sliver of glass
A life, the sun
A knife, a death
The end of the run

And the riverbank talks
of the waters of March
It's the end of all strain
It's the joy in your heart

呆れたことに、歌詞をペーストしただけで、文字数制限をはみ出しそうになってしまったので、音楽的な検討などは、明日以降に持ち越しとさせていただきます。
by songsf4s | 2008-03-06 23:43 | 春の歌