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Younger Girl by the Lovin' Spoonful
タイトル
Younger Girl
アーティスト
The Lovin' Spoonful
ライター
John Sebastian
収録アルバム
Do You Believe in Magic
リリース年
1965年
他のヴァージョン
The Critters, the Hondells
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本日も「日本の雪の歌」特集再開までのつなぎとして、レギュラープログラムをお送りします。

たとえば、春の歌を取り上げる場合、ほとんどはキーワードによってタイトル検索をおこなうか、記憶しているタイトルのなかにキーワードが含まれているものを並べてみて、そこから選択しています。しかし、ふと、歌詞がよみがえって取り上げることもあります。

もちろん、以前から好きで、どの季節をあつかったものかは承知していて、その時季を手ぐすね引いて待ち受けていた、という曲も、少数ながらあります。今日のYounger Girlはそのタイプ、昔から好きで、よくシングアロングしていたので、歌詞も記憶していた、というものです。わたしにとってはもっとも春らしい春の歌、昔からもっとも好きだった春の歌が、本日のYounger Girlなのです。

◆ 春にしてこの世にあらわれいづる ◆◆
どのような構成だと考えればいいのか迷う曲なのですが、そのへんのことはあとで検討することにして、ここでは冒頭に出てくる部分を仮にヴァースとし、そのつぎの部分をコーラスとみなして、そのように呼んで歌詞を見ていきます。では、ファースト・ヴァース、かもしれない部分。

She's one of those girls
Who seems to come in the Spring
One look in her eyes
And you'll forget everything
You have ready to say
And I saw her today

「彼女は、春になるとあらわれるように見える女の子、ひと目彼女の瞳を見たら、口にしようとしていたことなんかみんな忘れてしまう、ぼくは今日は彼女に会ったんだ」

わたしは、この曲のすべてはファースト・ラインにあると思っています。ファースト・ラインは、イントロやコーラスと同等に、あるいはそれ以上に重要です。われわれは多くの場合、ファースト・ラインかコーラスを頼りに、楽曲をアイデンティファイするからです。人間でいえば顔にあたるのが、ファースト・ラインといえるでしょう。そして、無数のファースト・ラインのなかで、Younger Girlの冒頭は、わたしにとっては五本指に入るほど印象深いものでした。

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Find That Tuneというソング・ファインダー本(上)と、この本のファースト・ライン・インデクスのサンプル(下)。われわれは、ファースト・ライン、イントロ、コーラス、そして音によるフック・ラインなどによって曲を記憶し、あとでアイデンティファイするので、タイトルを忘れた曲を見つけだそうとすると、こういうものが必要になることもある。いまではウェブがあるのだから、オンラインのソング・シソーラスをつくればいいのにと思うが、そういうものはほとんどない。グレイトフル・デッドの曲については、歌詞の全文検索ができるサイトがあるが、ほかにそういうものがあるのだろうか。

those girls who seems to come in the spring「春になると出現するように感じる女の子」なんてものが、一般的な了解事項であったり、フレーズとして熟していたりするとは思えません。でも、このように歌詞にされると、うん、たしかにそんなタイプの女の子というのはいるな、という錯覚が起きます。

アソシエイションのWindyに、And Windy has stormy eyes「ウィンディーは嵐のような目をしている」というフレーズが出てきますが、これまた、「嵐のような目」というのがどういう意味なのかわからないまま、なんとなく、そんな女の子がいそうな気がしてきます。そういう意味で、Younger GirlとWindyは似たような印象をあたえる曲です。

こういうことは感覚的に捉えておけばいいことですが、野暮を承知であえて贅言を弄します。人間は冬眠しないのだから、春になって突然、湧いて出てくるなんてことはありえません。だからseem toといっているのですが、なぜ「そう見える」かといえば、とりあえず思うことは、コートや上着を脱ぎ、軽装になるから、また、動きも軽やかになるから、というあたりでしょう。

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ラヴィン・スプーンフルとソニー・ボノ(左から二人目)

you have ready to sayというラインもイレギュラーで、気になるのですが、文法問題は煩瑣になるので、深入りせずにおきます。

(2008年3月5日追記 コメントでのキムラさんのご指摘にしたがって、わたしのまちがった文法知識にもとづく、one of those girls who seemsというラインをめぐる、関係代名詞のあとの単数形と複数形の扱いに関する記述を削除しました。)

◆ 少女にとっての「トラブル」 ◆◆
つづいて、コーラスのように思われる部分。

A younger girl keeps a-rollin' 'cross my mind
No matter how much I try
I can't seem to leave her memory behind
I remember her eyes, soft dark and brown
Said she'd never been in trouble, or even in town
A younger girl keeps a-rollin' 'cross my mind
No matter how much I try
I can't seem to leave her memory behind

「あの年下の子の面影が揺曳する、どうしても彼女の記憶がまとわりついてくる、彼女の濃い茶色をしたやさしい目が忘れられない、彼女はいままでトラブルになんかあったことがない、それどころか街にいったこともないといっていた」

f0147840_22402436.jpgコーラスというなら、A younger girlからher memory behindまでと考えるのが適当かもしれませんが、そのあいだにはさまった部分がなんなのかわからない(じつはこれがヴァース?)ので、全体をコーラスとみなしました。ただ、あとになると、a youngerからbehindまでを分離してうたっているので、いかにもコーラスといえるのは、この部分だけでしょう。

Said she'd never been in trouble, or even in townの"or"は、ラヴィン・スプーンフル盤では聞こえません。この文脈で、orがあるとないでは、解釈も変わってしまうのですが、意味をよくよく考えると、orがあるのに、うたわなかっただけと思えます。他のヴァージョンはorを発音しています。

この「トラブル」が指し示すものはボーイフレンド、もっとはっきりいうなら、色恋沙汰です。つまり、彼女は「経験」がない、「うぶ」だということを婉曲にいっているのだと考えます。

◆ 少女と女のあわい ◆◆
冒頭と同じメロディーに戻るので、仮にセカンド・ヴァースとみなせる部分。

And should I hang around
Actin' like her brother?
In a few more years
They'd call us right for each other
But why?
If I wait I'll just die

「彼女のそばにいて、兄のようにふるまうべきなのだろうか? ほんの2、3年もすれば、ぼくたちは似合いの二人だといわれるようになるだろう、でも、どうして(待つのだ)? そんなに待ったら死んじゃうよ」

ということはつまり、恋愛対象とするには、彼女はちょっと若すぎるということですね。いくつぐらいを想定すればいいのでしょうか。十四五歳あたり? この年になると、そういえば、そんなこともあったなあ、と思うだけですが、かつてはリアリティーを感じた一節です。

いまどきのことはよく知りませんが、似たようなナイーヴな感情をもって、ミドルティーンの女の子に接する若者も、まだいるのではないでしょうか。残念ながら、相手は男の子たちが信じたがっているほどナイーヴではない、というのは、現代のティーネイジャーにかぎった話ではなく、昔からそうだった、とくだらない証言をしておきます。

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しかし、現実のすったもんだはどうあれ、このヴァースは、ハイティーンぐらいの男の子の心のありようを確実に捉えていますなあ。劫を経て、甲羅に苔が生えるようになると、このような恋のありようには赤面しなくもないのですが、でも、ポップ・ソングがときに表現するこういう叙情性こそが、かつて自分の心を捉えたものだったこともたしかです。

以下、コーラスを繰り返し、冒頭に戻ってフェイドアウトします。

◆ 交叉神経系のような構成 ◆◆
歌詞のところでは棚上げにしてしまった構成の問題から片づけます。仮にヴァースと呼んだ冒頭部分のコード進行は、

Dm-Em-F-G-Dm-Em-F-G-Dm-Em-F-G-Bb-G

それに対して、仮にコーラスとした部分のコード進行は、

C-G-C-D-G-Am-D-C-G

となっています。キーはなにかというと、Cではないかと思います。つまり、ヴァースとコーラスが逆だと感じるのです。それでも、仮に冒頭をヴァースとして、つぎの部分をコーラスとしたのは、歌詞のせいです。二番目の部分の歌詞が繰り返しになっていて、これはコーラスの特長を備えています。冒頭部分のメロディーは、後半では異なる歌詞を載せられていて、これはヴァースの性質なのです。

整理すると、「本来ならヴァースに使うべきメロディーをコーラスに使い、コーラスに使うべきメロディーをヴァースに使うという、逆転した、または、交叉した構成をとった異例の曲である」ということです。音としては、この曲の冒頭部分は、たとえばShe Loves Youのように、コーラスから入っているように聞こえるのですが、歌詞はそうなっていないのです。なんとも不思議な感じのする曲です。

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1971年にリリースされたThe Lovin' Spoonfulの2枚組ベスト盤、24 Karat Hits。じつによく聴いた盤だが、おそろしくノイジーになってしまったので、とうの昔にお役御免にし、ホコリをかぶっていた。しかし、ウェブではこのジャケット写真が見あたらなかったので、飾りとして復活させてみた(黄ばみがひどかったので、大々的にレタッチを施すハメになってしまったが)。決定版に近い選曲だったが、She's Still a Mysteryがもれているのは大きな欠陥。

◆ 秀作「濫造」の異常期 ◆◆
Younger Girlは、ラヴィン・スプーンフルのデビュー盤に収録されたアルバム・トラックで、シングル・カットはされていません。なんでそんなもったいなことを、と思いますが、デビューからのシングルのラインアップを見ると、Do You Believe in Magic、You Didn't Have To Be So Nice、Daydream、Rain On The Roofというように、代表的ヒットがつづくのだから、カットするチャンスがなかったのだと考えるしかないようです。

f0147840_2381280.jpgでも、Younger Girlだけでなく、Did You Ever Have to Make up Your Mind(デビュー盤収録)も、Didn't Want to Have to Do It(Daydream収録)もシングルにならなかったというのは、やはり、なんという浪費だ、と思います。クリエイティヴィティーのピークにあるとき、才能あるソングライターは、不必要なほどたくさんいい曲を書いてしまうのでしょうね。そして、ひとたびヒットが止まったら、たいていの場合はそれっきりなのだから、ヒット・チャートというのはじつに恐るべき戦場です。

Younger Girlにかぎっていえば、Dm-Em-F-Gという冒頭のコード進行が、デビュー・ヒットのDo You Believe in Magicと同じだったことも、シングル・カットの障碍になったのかもしれません。サウンドから受ける印象は異なるのですが、同じ進行だということはいかんともしがたいですから。

f0147840_23115950.jpgジョン・セバスチャンは、この曲ではオートハープを弾いていて、ドラムレスであることもあって、これが支配的な楽器になっています。とくに、冒頭部分では四分三連のストロークを使っているのが印象的で、オートハープのリズムが変わるだけで、全体のグルーヴと色合いが大きく変化します。All My Lovingで、ジョン・レノンがヴァースは四分三連のストロークを弾き、コーラスでは「チンク」に切り替えて、ヴァースとコーラスがまったく異なる色合いをもつようにしていますが、あれと同じです。

オートハープという楽器は弾いたことがないのですが、基本的には大正琴を和音化したようなものと理解しています。ボタンを押し、どの弦を弾くか考えずに、ジャランと全部の弦をストロークすれば、ボタンに対応する和音が出る、という仕組みです。したがって、メロディーを弾くには向かない楽器だと思っていましたが、世の中には、変なことにあえて挑戦したがる人もいるので、これでインストをやることもあるのだそうです。

また、マウス・ハープと同じように、使える音がかぎられているので、いくつかのタイプがあり、キーによって使い分けるようです。つまり、(じっさいにそういうものがあるというのではないが)たとえばC、G、F、Am、Dm、Emといった系統の和音は出せても、Bb、Eb、Ab、Cm、F#mなどは無理、というタイプがある、といったようなことなのでしょう。あらゆるコードを弾けるようにしたら、ボタンの数は非現実的なまでにふくれあがってしまうのだから、当然でしょう。また、弦の数は36本というのが主流だそうです。

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下のほうに見えるボタンのひとつひとつがコードに対応していて、これを押すと、向こう側に隠れたメカニズムが、指の代わりに弦を押さえるようになっている、のだと思うが、ひょっとしたら、マイナーやセヴンスに切り替えるボタンもあるのかもしれない。

◆ クリターズとホンデルズ ◆◆
ヒット・ポテンシャルのある曲を、オリジナル盤のアーティストがシングル・カットしないと、カヴァー・ヒットのチャンスが生じます。この曲には、ニューヨークのクリターズと、LAのホンデルズの二種類のカヴァーがあり、どちらも66年春にシングルとしてリリースされ、ともにホット100には入りましたが、トップ40には到達しませんでした、それぞれ42位、52位ですが、出来からいって、妥当なところに落ち着いたと感じます。ラヴィン・スプーンフルのオリジナル盤なら20位台は確保できたでしょうが、クリターズ盤やホンデルズ盤には無理だったでしょう。

f0147840_23222533.jpgこの二者の比較なら、ビルボードの順位どおりで、クリターズ盤のほうがよいと感じます。テンポを変えたりなどの大きな変更のしにくい曲(やりたければ、どんなアレンジでもできるが、やはり曲の生き死にには配慮しなければならない)なので、使用楽器は異なっていても、印象としては、ラヴィン・スプーンフル盤とそれほど大きく変わりません。わたしがもっているLPでは、ベースのミックスがうるさいのが難ですが、ラヴィン・スプーンフル盤の代用品としては、まずまずの出来でしょう。ということはつまり、ラヴィン・スプーンフル盤があれば、クリターズはいらない、ということですが!

ホンデルズ盤は、妙に間の抜けた歌い方をしていて、なんだよ、これは、と思います。しかも、セッション・メンバーは以下のようになっているのです。

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貼りつけてみたら、やっぱり読めなかったので、ヴォーカルについては飛ばし、楽器に関する部分だけ書き写すと、Randy Thomas: keyboards, Richard Burns: bass, Glen Campbell: guitar, Al Ferguson: guitar, Bill Cooper: guitar, Wayne Edwards: drums, Charles D. Britz: unknownとある。

ファースト・コール・プレイヤーはグレン・キャンベルとチャールズ(チャック)・ブリッツ(楽器は不明となっているが、ストリング・ベース・プレイヤーなので、フェンダー・ベースとのダブルで、アップライトをプレイしたのではないか)のみで、あとは、「だれだよ、そいつ」という名前ばかりです。

ドラムなんかひどいもので、サイドスティックの最初の一打をミスり、むちゃくちゃに遅れていますし(どこに耳をつけてるんだ>プロデューサー。リテイクだろうが!)、その後もずっと遅れ気味で、乗り物酔いにかかったみたいになるバッド・グルーヴです。

f0147840_23323177.jpgこういうスタジオ・プロジェクトというのは、その日によってメンバーが替わるので、いいトラックはいいけれど、ダメなのは箸にも棒にもかからないものと相場は決まっています。52位というホンデルズ盤Younger Girlのスロットは、セバスチャンの曲のよさに助けられたところが多分にあったのでしょう。まじめにつくれよな、だれも知らないドラマーなんか呼ぶな>ゲーリー・アシャー、てえんで、ちょっと不機嫌になる出来です。

まあ、アシャーというのは、こういう安上がりの粗製濫造盤を無数につくって稼いだ人だから(そして、60年代とはそういう時代であり、ハリウッドとはそういう土地だった)、いってもはじまりませんがね。ゲーリー・アシャーほど、かつての過小評価の反動がいきすぎて、ウルトラ過大評価をされている人もそうはいないでしょう。わたしは、アシャーは二流の人と考えています。ひどい盤が多すぎるからです。一流の人は、得点が多いだけでなく、失点も少ないものなのです。
by songsf4s | 2008-03-04 23:40 | 春の歌