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Spring Mist by Glen Campbell
タイトル
Spring Mist
アーティスト
Glen Campbell
ライター
Glen Campbell
収録アルバム
The Big Bad Rock Guitar of Glen Campbell
リリース年
1965年
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本日も、ゲストライターTonieさんによる「日本の雪の歌」特集に割り込んで、レギュラープログラムをお送りします。Tonieさんからはつぎの記事が届いているのですが、Tonieさんの記事とわたしの記事を交互に掲載するというのは避けたいので、もうすこし記事がそろうのを待とうと考えています。特集の再開を待ち望んでいる方には恐縮ですが、もう数日、お待ち願えればと思います。遅くとも週末ぐらいには再開したいと考えています。

◆ スター誕生以前 ◆◆
さて、本日はインストゥルメンタルなので、歌詞はありません。今日取り上げたグレン・キャンベルのSpring Mistを収録したアルバム、The Big Bad Rock Guitar of Glen Campbellは、ときおりご紹介しているキムラセンセのサイト、Add More MusicでLPリップのMP3を試聴することができます。ご興味のある方は、右のリンクからAMMのほうにいらして、「Rare Inst. LP's」というページを開き、5番目のジャケットをクリックしてください。

グレン・キャンベルには、By the Time I Get to Phoenixでスターになる以前に、長いキャリアがあります。主としてスタジオ・ギタリストとしてすごしてきたのですが、同時に、ヴォーカル、インスト、両方のアルバムを数枚リリースしています。ブライアン・ウィルソンがプロデュースしたGuess I'm Dumbなんてシングルも、一部方面では有名でしょう。Spring Mistも、そうした雌伏時代に録音されました。

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ハル・ブレインだか、キャロル・ケイだか忘れてしまいましたが、スタジオ仕事の最中にも、ダレた時間帯に、グレンは突然立ち上がって、大声でなにかを歌ったりした、後から考えたら、はじめからシンガーになろうという気があったのだろう、といっていました。

もちろん、シンガーとしてのグレン・キャンベルにも魅力がありますし、いくつか好きな曲もあるのですが、そのへんはいつか折りを見て、強引にこじつけてでも取り上げるつもりでいるWichita Linemanのときにでも書くことにして、今日はあくまでもギタリストとしてのグレン・キャンベルの話です。

◆ グレン・キャンベル・ア・ラ・ビリー・ストレンジ ◆◆
グレン・キャンベルの名前を知ったのは、もちろんBy the Time I Get to Phoenixがヒットして以後のことです。したがって、当時は、グレンがエース・スタジオ・ギタリストだったことなど知りませんでした。

f0147840_2257781.jpgギタリストとしてのグレンのキャリアに注目するようになって以来、仲間内では発掘調査がはじまり、ずいぶんといろいろなアルバムを出していたことがわかってきました。その成果のお裾分けのなかで、このThe Big Bad Rock Guitar of Glen Campbellは、なかなか印象的なアルバムでした。グレンのプレイとしては、バンディッツというスタジオ・グループの名義でリリースされた盤などもなかなかけっこうですが(このLPもAMMで試聴できる)、アルバムとしての仕上がりは、The Big Bad Rock Guitarがいちばんまとまっているように思います。

The Big Bad Rock Guitar of Glen Campbellのプロデューサーはスティーヴ・ダグラス、アレンジとコンダクトはビリー・ストレンジです。当然、プレイヤーたちもいわゆるレッキング・クルーの面々で、もちろんドラムはハル・ブレイン。

アルバム・タイトルが示すように、概してロッカーの多い盤ですが、チェンジアップとして、バラッドも少々入っています。その1曲がグレン自身の作によるSpring Mistです。「春霞」なんてものがアメリカにもあるとは思いませんでしたねえ。グレンの故郷であるアーカンソーでは、春になると日本のように湿度が上がって、ほかの季節には見られない、特有の靄がかかるのでしょうか。ひょっとしてspringは春のことではなく、「温泉の靄」という意味だったりしたら赤っ恥ですが、とりあえず、春のことではないという証明は、グレン本人を含め、だれにもできないはずだと見切っておきます。

グレン・キャンベルの12弦ギター各種
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Hamer

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Mosrite

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Ovasion Viper

グレン・キャンベルは譜面が読めなかったそうで、たとえば、サイト・リーディングにかけては右に出るものがなかったというトミー・テデスコが、わきから譜面を読んでやったりしたことがあったということですが、それはイントロ・リックとか、そういうものの場合で、いつもいつもそうしていたわけではないでしょう。

グレンの仕事は「ワイルドなソロ」だったとハル・ブレインがいっています。つまり、勝負はインプロヴなのだから、たいていの場合は譜面が読めないことは問題にならなかったにちがいありません。60年代中期からは、そういうギター・プレイがさまざまな場面で必要とされるようになったので、譜面が読めないというマイナス・ポイントは、相対的に重要ではなくなっていったと考えています。

f0147840_23274135.jpgとまあ、グレン・キャンベルというスタジオ・プレイヤーをそのように捉えていたのですが、それがまちがっていたとはいわないまでも、Spring Mistは、そのイメージを裏切る曲であり、プレイです。

ビリー・ストレンジの盤に収録されていてもおかしくない曲調ですし、なによりも、ていねいに、かつ、ジェントルにメロディー・ラインを奏でるだけ、というところが、なんともビリー・ストレンジ風なのです。このアルバムのアレンジャーは、ほかならぬビリー・ストレンジその人なのだから、それも当然といえなくもありません。でも、じつは、そのせいばかりでもないと考えています。

◆ いずれがアヤメかカキツバタか ◆◆
The Big Bad Rock Guitar of Glen Campbellには、ビリー・ストレンジ作のSassyという曲が入っています。スタジオにおけるヴェンチャーズの真のギタリストを発見しようとする過程で(わたしにはいまだ特定できないのだが、グレンもヴェンチャーズの相当数のトラックでプレイしたものと考えられる)ビリー・ストレンジと知り合ったとき、彼のアルバムと、ヴェンチャーズのアルバムを、神経をとぎすませて聴いていたので、たまたまグレンのCDに収録されたSassyをかけたら、なんだかビリー・ストレンジのプレイのように聞こえました。

f0147840_23304274.jpgたまたま、ビリー御大との対話の真っ最中だったので、「Sassyは、グレンというより、あなたのプレイに聞こえる、スタイルもサウンドもそっくりだ」と書き送ったら、「Sassyのギターはわたしだ、グレンはあの曲では12弦を弾いた」という回答が届きました。

これはちょうど、そういうことがおこなわれていた可能性も排除できない、と考えはじめた時期でした。「そういうこと」というのは、スタジオ・プレイヤーのリーダー・アルバムでも、かならずしもそのネーム・プレイヤーが弾いているとはかぎらない、ということです。たとえば、ビリー・ストレンジのアルバムを聴いていて、このパートのギターは、ビリー・ストレンジではなく、トミー・テデスコのプレイではないか、と感じたことがあります。

あなたはあの曲ではギターをプレイしなかったのではないか、などとむくつけに尋ねるのもなんなので、遠回しな質問をしてみました。「複数のリード・ギターがからむトラックがあるが、そういう場合、あなた自身がオーヴァーダブしたのか、それとも、トミーやグレンといった他のプレイヤーといっしょに、一回で録ったのか」とうかがってみたのです。回答は、ケース・バイ・ケースである、とのことでした。

それはそうだろうなという、当然の回答です。要は、時間と予算の制約のなかで、最善の結果を得ることが最終目標なのだから、必要とあれば、ビリー・ストレンジ名義の盤であっても、他のギタリストがリードをとるのは、まったく不思議でもなんでもないのです。

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ディーン・マーティンのセッションでのグレン・キャンベル(右端)

だから、グレンのアルバムでも、ビリー・ストレンジがリードをとり、グレンがオブリガートにまわる、ということもあったのでしょう。ビリー・ストレンジ自身がセッションにきていたのだから、彼がつくった曲は、彼自身が弾いたほうが手っ取り早い、というように、いたって合理的、実際的判断を下しただけだと感じます。

とはいうものの、Spring Mistでも、グレンにかわって、ビリー・ストレンジがリードをとったと考えているわけではありません。いや、その可能性もゼロといえないところが苦しいのですが(ライター・クレジットは証拠にならない。楽曲の権利譲渡はしばしばおこなわれていた)、いまのところは、グレンも、ときには穏やかなプレイをやってみることがあったのだ、と考えています。

それにしても、だれが弾いたかを確定するのは、結局のところ、きわめて困難なのだ、という前提でこのアルバムを聴くと、キムラセンセが「レア・インスト」のレヴューに書いていたように、だんだん、なにがなんだかわからなくなり、足下の地面が溶け出したような気がしてくるトラックがあるのも事実です。

こういう「なにが起こるかわかったものではない」という気分のせいで、かつて、50年代から60年代にかけてのハリウッド研究に血道をあげることになってしまったのを、グレンのSpring Mistは思いださせてくれます。

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テネシー・アーニー・フォードとの共演盤"Ernie Sings & Glen Picks" これは70年代のもので、スタジオ・プレイヤーとしての仕事ではなく、新旧カントリー・スターの共演という企画盤。タイトルどおり、歌はフォードにまかせ、グレンはもっぱらギターを弾いている。すべてアコースティックだが、やっぱりすごいな、と感じ入る、みごとなプレイが詰め込まれている。

by songsf4s | 2008-03-03 23:43 | 春の歌