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American Pie by Don McLean その3
タイトル
American Pie
アーティスト
Don McLean
ライター
Don McLean
収録アルバム
American Pie
リリース年
1971年
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◆ バディー・ホリーとデッド ◆◆
昨日は、体調を崩したのはバディー・ホリーの呪いか、なんて書きましたが、今日は目覚めたら、温暖な当地にはめずらしい「豪雪」で(なんていったら雪国の人が笑い死にするであろう、10センチにも満たない積雪)、こりゃAll My Trialsになってきたな、なんて馬鹿なことを思いました。いや、山中鹿之助の「われに艱難辛苦を与えたまえ」か。

当ブログをよく訪れる方はご承知でしょうが、わたしは古くからのデッド・ヘッドです。グレイトフル・デッドがショウのエンディングやアンコールで、しばしばバディー・ホリーのNot Fade Awayをやったことは、ヘッズにとっては常識中の常識で、クイズの1問目にもならないほどです。

録音も山ほどリリースされています。ヴィデオ類も併せると、正規リリースだけで40種類を超えます。ヴァージョンの多いのがあたりまえのデッドのレパートリーにあっても、とりわけ多い曲で、もっとも重要なレパートリーのひとつでした。なんたって、信じがたいことですが、「フリ」までつくのです。I wanna tell you how it's gonna beで、ガルシアとウィアがそろって、右腕を前に突き出し、人差し指で客を指さすんですからねえ。はじめて見たときはひっくり返りました。

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I wanna tell you how it's gonna be

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My love is bigger than Cadillac

盤としてのデビューは、71年のダブル・ライヴ・アルバムGrateful Dead(通称Skull and Roses)です。しかし、近年になって、Skull and Rosesのボーナス・トラックとして、Oh Boyが追加されたのには、またまた驚きました。これはNot Fade Awayとは対照的に、このヴァージョンのみ、1種類しかリリースされていません。リハーサルなし、その場の思いつきでやったのじゃないかと思うほどの出来です。

American Pie by Don McLean その3_f0147840_0253178.jpg幸い、クルーズマン=レッシュが絶好調のときですから、不揃いな出だしを切り抜けたあとは、なかなかけっこうなグルーヴで、それが救いになっていますが、一回だけで、二度とやらなかったのも、そうだろうなと納得してしまいます。とくに、ボブ・ウィアのハーモニーがボロボロです。いや、つまり、いつも以上にひどい、という意味ですが。

Not Fade Awayはともかくとして、バディー・ホリーのOh Boyという曲とデッドのスタイルをご存知の方なら、聴かなくても容易に想像がつくであろうように、これほどデッドに不似合いな曲もそうはないだろうというほどです(Words of Loveよりは「似合う」でしょうが!)。それでも、ちょっとやってみるか、と思ったのは、どういう意味なんだろうと思います。

もっとも短絡的な解釈は、要するに、デッドもバディー・ホリー・フォロワーだったのだ、ということです。ガルシアも子どものころは、バディー・ホリーを聴いて、いいなあ、と思っていたのじゃないでしょうか。デッドには不似合いなもう1曲のカヴァー、エヴァリーズのWake Up Little Susieのことも考え合わせると、そういう単純なことと思っていいような気がします。

意外にも、バディー・ホリーを介して、グレイトフル・デッドとボビー・ヴィーとトミー・ローとボビー・フラー、そしてドン・マクリーンは「同類」だったという馬鹿馬鹿しい枕でした。デッドをずっと流しながら、この記事を書いているというだけなんですが。

◆ 悪魔の友は天使の敵か? ◆◆
さて、本題。例によってコーラスをはさんだのち、つぎのヴァースへ。

Oh, and there we were all in one place
A generation lost in space
But no time left to start again
So come on, Jack be nimble, Jack be quick
Jack Flash sat on a candlestick
Cause fire is the devil's only friend

「あそこでぼくらは一カ所に集まった、空間のなかに失われた世代、でも、はじめからやり直している時間は残されていない、だから、ジャックよ、さっさとやれ、ジャックよ、急げ、ジャック・フラッシュは燭台の上に坐った、火は悪魔の唯一の友だから」

American Pie by Don McLean その3_f0147840_0285837.jpg60年代に、一カ所にみながまとまったことがあるとするなら、やはりウッドストックでしょう。spaceはたんなる空間ではなく、宇宙空間でしょうか。ウッドストックの年である1969年は、アポロ宇宙船の月着陸の年でもありました。宇宙などという、あらぬ空間に迷い込んでしまった世代、という解釈が成り立ちうるでしょう。ドラッグ関連でいうと、spaceyなんていう形容詞があり、これも連想します。こちらからは、「ドラッグに失われた世代」という解釈が出てきます。

Jack be nimble, Jack be quickは、マザーグースの以下の一節の引用です。

Jack be nimble, Jack be quick
Jack jump over the candle-stick
Jack be nimble, Jack be quick
Jack jump over the candle-stick

American Pie by Don McLean その3_f0147840_0311798.jpgマザーグースの意味なんか考えたくもありませんが、考えるまでもなくわかることは、マザーグースではジャックはろうそくを跳び越えるのに対して、American Pieでは、その上に坐ってしまうことです。ここから読み取れることは、「跳び越えそこなった」すなわち「失敗」ということのように思えます。

Jackにはいろいろなイメージがつきまとうので、なかなかやっかいです。まず確認しておくと、これはJohnの愛称だということです。しかし、辞書を見ると、「時にJames、Jacobの愛称」ともあります。ヤコブ(いや、英語ではもちろん「ジェイコブ」)か、なんて聖書にいってしまうと、いよいよ手に負えないので、この方向はこれだけで切り上げます。

Jack and BettyとかJack and Gillのように、平均的男の子のことを指す場合もあります。学校で習ったことで覚えているのは、Jack of all trades=なんでも屋です。辞書を見ていくと、まだまだイヤになるほどさまざまな意味があります。水兵、水夫、警官、憲兵、ジャッキ、機関車、金、その他もろもろ、きりがありません。好きなように解釈しろといわれているも同然です。

American Pie by Don McLean その3_f0147840_0373858.jpgしかし、Jack Flashとくれば、どうしてもストーンズの1968年のヒット、Jumpin' Jack Flashということになります。この曲は、内容的なことはさておき、ビートルズになりふりかまわず追従した姿をおおいに嘲笑されたアルバム、Their Satanic Majesty's Requestによる失墜から、「回復」の一歩を踏みだしたもの、「われに返った」ヒットでしたが、ドン・マクリーンは、どうもそんなことは気にしていないようです。

ずっともやもやと解決がつかずに悩んでいる最大のラインは、fire is the devil's only friendです。これはどこかよそでも読んだ記憶があり、引用だと思うのですが、出典がわからないのです。可能性としては聖書、ダンテの『神曲』、ミルトンの『失楽園』あたりが思い浮かぶのですが、うーん、なんでしょうねえ。どなたか解決できる方がいらしたら、ぜひぜひご教示いただきたいものです。

American Pie by Don McLean その3_f0147840_041826.jpgここでグレイトフル・デッドを連想するという意見もあちこちで読みました。当ブログでも昨秋取り上げたFriend of the Devilです。ケン・キージーのAcid Test以来のデッドとヘルズ・エンジェルズの長い付き合いは有名ですし、69年12月のアルタモント・スピードウェイ(Altamontは「オルタモント」とは発音しない。喉をつぶす「ア」の音)におけるフリー・コンサートでのエンジェルズの暴行と殺人もあるので、当然の連想だと思いますが、はて、どうでしょうか?

また、Friend of the Devilにはleveeが登場します。土手で悪魔に出会うのです。ほかに土手が出てくる歌といっても、ディランのDown in the Floodぐらいしか思いつかず(洪水なのだから、土手が出てきても当然)、この一致を偶然と見ていいかどうかは、微妙なところですが、どうも、わたしの頭のなかでは、デッドとドン・マクリーンは結びつきません。まあ、冒頭にも書いたように、バディー・ホリー・フォロワーという共通点はあるのですが、ひどく遠い血縁に感じます。

◆ 鬼道に墜ちることなかれ ◆◆
ヴァースの後半。

Oh, and as I watched him on the stage
My hands were clenched in fists of rage
No angel born in hell
Could break that satans spell
And as the flames climbed high into the night
To light the sacrificial rite
I saw satan laughing with delight
The day the music died

「ステージの彼を見ていて、ぼくの憤怒で両手を握りしめた、地獄で生まれた天使のだれひとりとして、悪魔の呪いに打ち勝つことはできない、炎が夜空高く駆け上がり、いけにえの儀式を照らし出すと、悪魔が歓喜で笑っているのが見えた、あの音楽が死んだ日に」

前半からの流れで、これはストーンズのことと解釈できます。「ステージの彼」はもちろんミック・ジャガー。彼らのSympathy for the Devilには、当時、「悪魔を憐れむ歌」といった邦題がつけられていたと思いますが、このsympathyは「共感」と訳すべきでした。sympathyには「同情」の意味はあっても、「憐憫」の意味はなく、意図的かどうかはいざ知らず、「憐れむ」という誤訳はひどいミスリードだったと思います。いや、これは脇道。

当時の印象を正直にいうと、Sympathy for the Devilを聴いて、ストーンズは「立ち直った」と思いました。We Love Youだなんていう、ふやけた偽善よりははるかにマシだと、いまでも思います。ビートルズの真似ではないことも買えます。いや、裏返しにした真似だったのかもしれません。Sgt. Pepper'sにうろたえて、ド阿呆な方向に切ってしまった舵を、あわてて反対側に切り直しただけとも見えますし。

しかし、商売の手段としてサタニズムを利用することについては、愚劣の極みだと考えます。わたしは宗教心に欠ける人間ですが、それゆえに、オカルティズムも冗談の一種としか思っていません。サタニズムを商売に利用することの悪は、それが人間の心のもっとも弱い部分を操作する行為だということにあります。とくに若者はサタニズムに傾斜しがちだと、自分の若いころを振り返っても思います。

ドン・マクリーンがアルタモント・フリー・コンサートの会場にいたかどうかは知りませんが、American Pieから読み取れることは、彼は敬虔な人間らしいということです。わたしのように宗教心のない人間でも、ストーンズがサタニズムを商売に利用し、ナイーヴな子どもたちの心を操作したことを不快に感じるのだから、マクリーンが「憤怒」したのも当然でしょう。

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以上、このヴァースは比較的あいまいなところがなく、マンソンのテイト=ラビアンカ事件とウッドストックのあった69年夏から、アルタモント事件のあった同年12月までを歌ったものと思われます。カルトのサタニズムと商売人のサタニズムが凱歌をあげた半年です。

なお、アルタモント・フリー・コンサートを「反ウッドストック」とする見方があるようですが、わたしはそうは思いません。ウッドストックとアルタモントは同じコインの両面にすぎず、善と悪という概念で見るべきものではないでしょう。まあ、わたしは、おおぜいの人間が家畜のように一カ所に詰め込まれているのを見るだけで吐き気に襲われる体質だということにすぎませんが、直感的に、ウッドストックもアルタモントも、ともにひどい間違いだったと思います。

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ウッドストックは、音楽が死んだ日ではなく、「音楽の意味がすり替えられた日」でした。いや、わたしにとって「音楽が死んだ日」があったとしたら、1969年8月16日です。あれ以後、わたしには「頼るべきものがなく」、個々のミュージシャンとの個別の取引きだけを独力でしてきたように感じます。

まだ体調が万全ではなく、写真の加工とアップロードを考えると、今日はこのへんが限界のようです。なんだか引っぱっているようで恐縮ですが、もう一回で完結とさせていただきます。残るはあと1ヴァースです。
by songsf4s | 2008-02-03 23:56 | 冬の歌