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Snow Queen その2 by Roger Nichols & the Small Circle of Friends
タイトル
Snow Queen
アーティスト
Roger Nichols & the Small Circle of Friends
ライター
Gerry Goffin, Carol King
収録アルバム
Roger Nichols & the Small Circle of Friends
リリース年
1967年
他のヴァージョン
The City, the Association
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昨日はジェリー・ゴーフィンの歌詞を霞ませてしまったものがあるといいながら、それがなにかを説明するところまでたどり着けませんでした。さっそく、そのことから。

◆ デモーニッシュなプレイ ◆◆
歌詞も歌も、そのほかあらゆることを吹き飛ばし、シティー盤Snow Queenを支配しているのは、ジム・ゴードンのドラミングです。いやもう、すげえのなんの、ジム・ゴードンはすごいと百も承知していて、それでもやっぱり、すげえなあ、と何度もため息が出る、強力なドラミングです。ピッチも悪ければ、いつもグルーヴに乗りそこなうキャロル・キングのヴォーカルなんか、ひとたまりもなくこなごなに吹き飛ばされています。

f0147840_00532.jpgハル・ブレインとジム・ゴードン、この二人の大きな違いは、ハルがおおむね安定して力を発揮するのに対し、ジム・ゴードンは調子の波が大きいことです。もともと気分にムラがあったのかもしれません。あるいは、薬物依存の結果だったのかもしれません。いずれにせよ、ジム・ゴードンというドラマーは二人います。ひとりは、この世のものとは思えないビートを叩くデーモン、もうひとりは、ごくまっとうな生業に精を出しているような、律儀で安定したビートを叩くふつうの人間です。

ジム・ゴードンがデーモンになった日にあたったプレイヤーたちは、美しいビートに涙を流しもしたでしょうが、同時に、自分がいてもいなくてもいい塵芥に成り下がったことも痛感し、彼のプレイを愛し、同時に憎んだことでしょう。

キャロル・キング、ダニー・クーチ、チャールズ・ラーキーというシティーのメンバーたちは、幸運であり、同時に不運でした。ジム・ゴードンがこれほど気分よくプレイしている日はそう多くないのです。ほかの三人は、ジム・ゴードンの光り輝く圧倒的なプレイのまえに、ジェリー・ゴーフィンの歌詞とともに、ヌルの世界に送りこまれてしまいました。I only have eyes for youではなく、I only have ears for you, Jimmyです。

だれだったか、歌舞伎役者が、歌舞伎の見得というのは、いわばズームのようなもので、観客の目をぐーっと惹きつけるためのものだといっていました。たしかに、そういうことというのは起こるようです。ジミーがデーモンになった日には、わたしにはほかの音は聞こえなくなります。

◆ ワルツ・タイム、ジミーズ・タイム ◆◆
このNow That Everything's Been Saidというアルバム全体を通して、ジム・ゴードンは好調を維持しています。しかし、つぎつぎに霊感にうたれたフレーズを、正確かつデモーニッシュに表現しているこのSnow Queenは、とりわけ抜きんでています。これほど独創的なワルツ・タイムのプレイを、わたしはほかに知りません。

f0147840_022492.jpgジム・ゴードンは、ワルツ系を好んだ形跡があります。たとえば、バーズのGet to You(The Notorious Byrd Brothers収録)でのプレイ。Get to Youはヴァースが5拍子、コーラスがワルツ・タイムという変則的な曲ですが、5拍子というのは、3+2に分解できるので、ワルツ・タイムの変形とみなすことができます。変拍子もなんのその、ジム・ゴードンはGet to Youでも、4/4の曲のようにフィルインを叩きまくっていますが、とくにコーラスでのワルツ・タイムのプレイが際だっています。

しかし、このSnow Queenでのワルツ・タイムのプレイのまえでは、Get to Youでの名演も、いささか霞んでしまうほどです。イントロからして、もう千両役者が登場したことをひしひしと感じます。なにしろ、この地球でかつてスティックを握った人間のなかで、もっともタイムがよいと目されるドラマーですし、これは彼がふつうの人間の日ではなく、デーモンに変身した日の録音なので、1小節で十分にデーモンの出現を感じとれます。すごいドラマーというのは、最初の一打からすごいのです。

f0147840_034819.jpgそして、歌が出てくる直前、開幕のベルのようなロールの美しいこと! 当ブログでは、何度かジャズ・ドラマーをボロクソにこき下ろし、できもしないくせに、汚いロールなんかやるんじゃない、と罵倒したことがありますが、その正反対の霊、じゃなくて、例がここにあります。こういうロールを聴いて育ったドラム・クレイジーが、タイムの悪い半チクなジャズ・ドラマーの子供だましプレイなんかを聴いていられるかどうか、つもってもみなさいというのですよ。

タイム・キーピング以外のことはなにもしない「空の小節」でも、うまいドラマーは聴いていて楽しいものです。「デーモンの日」のジム・ゴードンはその最右翼で、デレク&ドミノーズのLet It Rainなんか、ライド・シンバルとバックビートを聴いていれば、あっというまに時間が過ぎていきます。

f0147840_045781.jpgこのSnow Queenのようなドラミングに出合うと、微細にプレイを分析したくなるのですが、そういうことは、すでにアカウントをとってあるもうひとつのブログ、「ドラム・クレイジー」(暇になるであろう五月には店開きしたいと思っている)でやるべきことのようなので、ここではできるだけ簡単に、とくに印象的なところだけかいつまんでみます。

ファースト・ヴァースからファースト・コーラスへのつなぎ目のところ(0:55あたり)に出てくる、シンコペートしたフロア・タムの一打からスネア、そしてシンバルへというフィルインが、最初のハイライトでしょう。何度か出てくるロールは、一カ所をのぞいてどれもみごと(3:10あたりのものはちょっとミスっている)。「空の小節」と同じパターンのスネアでも、強弱を変えてアクセントをつけるプレイもすばらしく、とくに1:25あたりからはじまる、強いアクセントの左手だけによる2打からロールへという一連のプレイは、惚れ惚れします。

このアルバムから、ドラミングだけあれば、ほかのものはいらないと感じるレベルの曲をあげておくと、Why Are You Leaving(ボビー・ウィットロックのSong for Paulaを思い起こさせるタムタムからフロア・タムへのフィルがみごと)、I Don't Believe It(ジム・ゴードンのシャッフルはハル・ブレインほどいいとは思わないが、これはかなりいい部類)の2曲。

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左からChris Wood, Rick Grech, Jim Gordn, Reebop

◆ 他のヴァージョン ◆◆
この曲の代表的なヴァージョンというと、やはりシティーではなく、ロジャー・ニコルズ盤をあげるべきでしょう。ヴォーカルもアレンジもこちらのほうが上です。ドラムはハル・ブレインの可能性を感じますが、ロジャー・ニコルズ自身は後年のインタヴューで、このトラックにかぎったことではなく、アルバム全体のプレイヤーとしてのことながら、チラとも聞いたこともない名前をあげていました。

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サイドスティックのプレイなので、プレイヤーの特定は困難ですが、タイムもプレイ・スタイルも端正で、無名の人には思えません。そういうことはおいておくとしても、ヴォーカルの声(こういうことは録音の仕方にも左右される。エンジニアはラリー・レヴィン)とアレンジに雰囲気があり、総体としては、キャロル・キング盤よりこちらのほうが、上ものは楽しめます。シティー盤のほうがすぐれている点は、ジム・ゴードンのドラミングだけです。

このRoger Nichols & the Small Circle of Friendsというアルバムは、アレンジャー陣が目を惹きます。ニック・デカロ、マーティー・ペイチ、ボブ・トンプソン、モート・ガーソンと、最初の3人は、当ブログでもなんらかのかたちで取り上げた人たちです。Snow Queenのアレンジはニック・デカロによるもので、アヴェレージの出来ですが、悪くありません。

f0147840_0202417.jpgもうひとつ、アソシエイションのヴァージョンがあります。Waterbeds In Trinidadという、もうヒットが出なくなった時期の、だれも買わなかったようなアルバムに収録されたものですが、これはこれで悪くない出来です。もともと、いいとか悪いとかいったグループではなく、バックトラックはスタジオ・プレイヤー、ヴォーカルはハーモニーばかりなので、スタジオ・シンガーがかわりにやってもわからないようなもので、勝敗の分かれ目は、アーティストの状態ではなく、楽曲の出来、アレンジ、プロダクションにあります。腐った時期でも、ある程度のレベルは維持できるということです。

このヴァージョンも、シティー盤同様、やはりドラムに尽きます。こちらのドラマーはハル・ブレインと推定して問題ないでしょう。上ものが弱いときには、自分が前に出て、場をさらうことをつねとしているハルですから、ピッチの高い追加タムも駆使しつつ(時期的に、すでにオクトプラス・セットのコンサート・タムは実戦配備済み)、フィルを叩きまくっています。デーモンに変身した絶好調日のジム・ゴードンのプレイより先に出すわけにはいきませんでしたが、こちらも十分に楽しめます。
by songsf4s | 2008-01-25 23:39 | 冬の歌