- タイトル
- Snow Queen
- アーティスト
- The City
- ライター
- Gerry Goffin, Carol King
- 収録アルバム
- Now That Everything's Been Said
- リリース年
- 1968年
- 他のヴァージョン
- Roger Nichols & the Small Circle of Friends, the Association
当ブログは季節に添って歌を聴くという趣旨なので、いつも歌詞の検討をしています。季節が表現されるのは、主として歌詞だから当然のことで、イヤだと思ったことはありません。
あまりにも紋切り型で、日本語に移すのがちょっと馬鹿馬鹿しくなることはありますが、それもまた、わたしが愛したポップ・ミュージックという複雑な集合体の重要な属性です。それがイヤなら、音楽など聴かず、イェイツでも読んでいます。
しかし、できることなら、すくなくとも一行はめざましいラインがあってくれたほうが、書いていて気分が高揚します。大昔のことはいざ知らず、わたしが育った60年代の作詞家でいうと、Snow Queenを書いたジェリー・ゴーフィンは、そういうラインをいくらでも書けた人で、時代を背負って立つぐらいの位置にいました。
しかし、作詞家というのは哀しいものだ、と思うことがあります。死ぬ思いをして一行、一句を吐きだしたとしても、思わぬ方面からの一撃によって、歌詞なんかどうでもいいや、と思われてしまうのです。ゴーフィンの歌詞を霞ませた存在については、あとでふれることにします。
◆ クラブ通いをする「雪の女王」 ◆◆
ちょっとした運命のいたずらで、結果的に、あってもなくてもかまわない刺身のつまになってしまった歌詞を、まあ、ほかならぬジェリー・ゴーフィンだから、ということで、見てみましょう。ファースト・ヴァース。
From her throne she looks down at the clowns
Who think youth can be found in a fountain
High on the wings of her rhythms
She will smile at the guys who come on with their eyes
But she'll never dance with them
「雪に覆われた山の高みで、彼女はその玉座から、若さが泉のなかで見つかると思っている道化師たちを見下ろしている、下心をもって近づいてくる男たちに、彼女はリズムの翼に乗って、高みからほほえみかける、でも、彼女が彼らと踊ることはけっしてない」
泉のなかに若さが見つかる、というところは引用のような感じがし、青空文庫にいって、大急ぎでアンデルセンの『雪の女王』を拾い読みしてみましたが、どうも関係があるようには思えません。
すっきりしないまま、こんどは泉のなかからなにかが出てくる伝説があったような気がしてきて、記憶をまさぐってみました。アーサー王伝説で、泉のなかから女神が剣をもってあらわれたような気がするのですが、どうも記憶があいまい。あとで『架空地名伝説辞典』をみつけて調べることにし、ここは先を急ぐことにします。
辞書にはwith an eye toで、「……を目的として、……をもくろんで」とあるので、with their eyesは、それを複数形にしたものでしょう。
ファースト・コーラス。
A legend is built around the Snow Queen
「そして、煙が立ちこめ、増幅された音の鳴る部屋で、『雪の女王』の伝説がつくられてゆく」
ここまでくれば、アンデルセンのことは忘れていいように思います。雪の女王という異名をとった女性、おそらくはじっさいにジェリー・ゴーフィンが知っていた人物のことを歌っているだけと感じます。煙と電気的音響といえば、当然、クラブでしょう。さかのぼって、ファースト・ヴァースの「リズムの翼に乗って」も、そこから出てきたフレーズと考えられます。
◆ 舌の上で蹴つまずく ◆◆
セカンド・ヴァース。
But with her you will soon bite the dust
And discover you're just a beginner
You may not think you're a loser
But in mid-air you'll be hung
While you trip on your tongue
And it'll only amuse her
「自分のことを勝者と思っているかもしれないが、彼女が相手では勝ち目はない、自分が青二才だということを思い知るのがオチだろう、自分のことを敗者とは思っていないかもしれないが、宙に吊され、舌をもつれさせることになるだろう、そして、それは彼女を娯しませるだけなのだ」
bite the dust、土埃を噛むとは、負けるという意味の熟語。ここは変形せずに、素直に成句を使っています。
trip of tongueなら、いいまちがいのことです。なにかにつまずくことをいう場合のtripです。言いこめられてヘドモドしてしまうことをいっているのでしょう。trip on tongueと動詞化したのは、ジェリー・ゴーフィンの創意ではないでしょうか。
セカンド・コーラス。
Caught in the icy stare of the Snow Queen
「雪の女王の氷のような凝視にからめとられて、朝の冷気のなかで凍りつくことになるだろう」
ブリッジ。
Oh, my friend, there must be a place you can hide
「彼女はあなたが売り込もうとしているものなどほしくはない、どこかにあなたが隠れられる場所があるにちがいない」
前半はいいとして、後半はなんのことかよくわかりません。雪の女王の魔法から逃れたほうが身のためだ、ということでしょうか。
ややイレギュラーな構成ですが、ブリッジの直後に、まるでひとつながりのようにサード・コーラスがきます。
Knowing you lost the game
And just how she got her name of the Snow Queen
「そして、夜の闇へと消えていくことになる、ゲームに負けたことと、彼女が雪の女王と呼ばれるようになった理由を思い知りながら」
◆ ジェリー・ゴーフィンの迷い ◆◆
国内盤のライナーには「幻想的な歌詞」などと書かれていましたが、わたしにはそうは思えません。たんなる比喩として「雪の女王」といっているだけのことで、アンデルセンやその他のお伽噺とは無関係と読めます。
外見上はきわめて魅力的で、男たちを惹きつけてやまず、自分でもそれをよく承知していて、男たちに魅力を振りまくけれど、「高み」から降りてきて、賛美者と「踊ること」はけっしてない、雪のように冷たい女性の話でしょう。歌詞には幻想的なところは見あたらず、そんなものがいくぶんでもあるとしたら、アンデルセンから借用したタイトルだけです。
さすがのジェリー・ゴーフィンも時代に翻弄されて、表現方法に迷いが出たのだな、と思うだけで、出来がいい歌詞とはいいかねます。同じころに書き、バーズが歌ったGoin' Backは、素直でいい歌詞なので、腕が落ちたわけではなく、時代との関係のなかで苦しみはじめただけでしょう。
歌詞よりもずっとだいじなことがあって、この曲を取り上げたのですが、そのだいじなことは、書いても書いても終わらず、しまいには収拾がつかなくなったので、今夜は雪の女王に頭を冷やしてもらうことにし、明日以降に再挑戦ということとさせていただきます。力みは失投につながるので、冷静になって出直しです。