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Snowfall by Henry Mancini
タイトル
Snowfall
アーティスト
Henry Mancini
ライター
Claude Thornhill, Ruth Thornhill
収録アルバム
The Mancini Touch
リリース年
1959年
他のヴァージョン
Avalanches, Claude Thornhill, Doris Day, Bill May (retitled as "Snowfall Cha-Cha"), Billy May with George Shearing, Steve Allen, Jackie Gleason, Esquivel, the Soulful Strings, Malcolm Lockyer, Pete Rugolo, Dick Hyman
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以前にもいいましたが、冬の曲はつねに「危機」にさらされています。すきあらばクリスマス・ソングに取り込もうと、虎視眈々と狙っているレコーディング・アーティストやクリスマス・アルバム編集者が山ほどいるからです。

じつは本日の曲、Snowfallに関していえば、もうクリスマス・ソング側の強奪を阻止するには手遅れなのです。うちにあるこの曲の半数以上がクリスマス・アルバム収録のものだからです。でもまあ、略奪にあったようなものだから、こっちが勝手に、再度、冬の曲に奪取しても、べつに問題なかろうと考えます。

ちゃんと調べたわけではないのですが、Snowfallはたぶん、もともとはインストゥルメンタル曲で、歌詞はあとからつけられたものではないでしょうか。ここにあげたものは、ほとんどがインストです。

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◆ ひらり、ひらりと舞い落ちる単語 ◆◆
ウェブでドリス・デイ盤を見つけてしまったので聴いてみました。聴いちゃった以上、なかったことにするのもなんなので、いちおう歌詞を聴き取ってみました。わたしの聴き取りだけで、他に参照するものがなかったのですが、まあ、大丈夫でしょう。ドリス・デイのディクションはいいし、ただの単語の羅列ですから。

Snowfall, snowfall, glistening snowfall
Snowflakes falling, winter calling

Frozen lace, every place, down they come
Twirling, tumbling, lightening, brightening, lovely snowfall

Lightly, brightly, lovely snowfall
Lovely snowfall

以上、ヴァース、ブリッジ、ヴァース、すべてを書きました。やりにくいので、日本語に移すのはやめておきます。glistenは「輝く」という意味で、White Christmasにも出てきます。twirlは、「バトン・トワリング」でわかるように、くるくる廻ること。この場合は、旋回する、あたりでしょうか。つぎのtumblingと合わせて、真っ直ぐ降らずに、あちこちへ揺れ動きながら降ることをいっているだけです。

f0147840_0215225.jpgほかには面倒なことはないように思いますが、もうすこし見ておきますか。frozen laceは「凍りついたレース」、もちろん競争のことではなく、編み物のレース。down they comeは、they come downの倒置による詩的表現です。

作詞家は、こんな曲に詞をつけろといわれて苦しんだと思います。苦しんだ結果、お互いのあいだの距離を大きく開けて、ものすごくまばらに単語をぽつぽつと点綴するという表現形式を選んだのでしょう。意図したものかどうかはわかりませんが、豪雪や吹雪ではなく、降りはじめの雪のように、ときおり、ひらひらと単語が降ってくるあたり、悪くない仕事だと感じます。

ウェブでみたところでは、つぎのようなヴァリアントもあるようです。だれのヴァージョンかはわかりません。

Snowfall softly, gently drift down
Snowflakes whisper 'neath my window
Covering trees misty white
Velvet breeze 'round my doorstep
Gently, softly, silent snowfall

◆ ヘンリー・マンシーニ盤 ◆◆
さて、まだ看板を決めずに書いているのですが、だれのものがいいでしょうかね。

f0147840_239034.jpgいちばんよく聴いたのはヘンリー・マンシーニ盤です。ほかのものと比較すると明瞭になるのですが、ヘンリー・マンシーニのアレンジというのは、つねにハイパー・スムーズです。作曲家として有名な人ですし、じっさい、いい曲を山ほど書いているので、忘れそうになりますが、アレンジャーとしても第一級の腕をもっています。そうじゃなければ、映画スコアは書けないのだから、当たり前ですが。

もちろん、譜面だけでは音楽にはなりません。レコーディッド・ミュージックの歴史とは、すなわち、音の感触の変化の歴史です。スタジオとマイクとミキシング・コンソールで、どういう音のテクスチャーをつくるかが勝負なのです。

マンシーニのアルバムというのは、いわばあの時代、すなわち全盛時である50年代終わりから60年代にかけてのハリウッド音楽の精粋です。プレイヤーもエースばかり、スタジオもエンジニアも第一級、アレンジとコンダクトは当代一の映画音楽作曲家にして、一流アレンジャー、そして、人気者のバンド・リーダーなのですから、どうまちがっても、ひどいものができてしまうはずがないのです。当然、Snowfallもいつものマンシーニのトラックの水準を維持したものになっています。

◆ アヴァランシェーズ盤 ◆◆
f0147840_23125533.jpgわがアヴァランシェーズもSnowfallをやっています。ビリー・ストレンジとトミー・テデスコという、ハリウッドのギター・プレイヤーを代表する両巨頭の共演盤ではありますし、ドラムはハル・ブレインなので、この三人の活躍が目立つのですが、アルバムを通して聴くと、意外にも、キーボードのアル・ディローリーの上品な味わいのプレイが印象に残ります。

この曲では、ギターは2拍目および半拍遅れた3拍目だけを弾くコード・カッティング(彼らはこういうプレイをchinkと呼ぶ。chinkとは「チリン」「カチン」といったオノマトペ。われわれが「チャッと弾く」というのと同じ)なので、活躍しません。主役はあくまでもアル・ディローリーのピアノです。

f0147840_23135540.jpg作者のクロード・ソーンヒルはピアニストですから、もともとがピアノのための曲のように思えます。アル・ディローリーは、クロード・ソーンヒルよりも装飾音を増やしたプレイをしていて(といっても、いずれにせよストイックなプレイなのですが)、このメロディーのキラキラと輝くような雰囲気をいっそう強めています。

ハル・ブレインという人は、しばしば奇手を繰り出すところがあって、そのへんもまた大きな魅力なのですが、この曲でも、彼しかしないような変なことをやっています。スネアはギターのチンクにピッタリ合わせて、2拍目と半拍遅らせた3拍目を叩いているのですが(いや、2&4、すなわちバックビートの観点からいえば、4を早くしたとみなすこともできる)、そのあと、半拍遅らせた4拍目を、タムタムで叩いているのです。しかも、ふつうのヒットではなく、フラムを使っているのです。

フラム(昔のブラスバンドの教育では「フラ打ち」と呼んでいた)とは、左右両方のスティックで「ほぼ」同時にヒットすることをいいます。ここでだいじなのは「ほぼ」というところで、ほんのかすかに左右のヒットの瞬間をずらさなくてはいけないのです。このズレの効果に主眼があるプレイだからです。

よけいな蘊蓄になりますが、ロック・バンドはいざ知らず、ブラスバンドの世界では、フラムにもちゃんと左右の区別があります。右のスティックから先に行くか、左のスティックから先に行くかで区別するのです。子どものころ、左右交互にフラムで四分音符を叩く練習をイヤというほどやらされ、ネを上げたことがあります。しばらくのあいだはいいのですが、長時間やっていると、脚の動きを意識して階段を上るような状態になり、「踏みまちがえ」をやってしまうのです。いまでは、もうできないでしょう。

f0147840_23145779.jpgロック・バンドでは、好きなほうを使えばいいのであって、左右を区別しません。ハル・ブレインも、左右どちらかは知らず(右利きなら、たぶん右のスティックを先に下ろす)、片方のフラムしか使っていないでしょう。それでも、これは変なプレイです。たぶん、ギターのチンクのあとのほう、半拍遅れた三拍目に対するカウンターとしての効果を狙ったものですが、だれでもこういう演出を考えつくと思ったら大まちがいで、「小さな工夫、大きな親切」の人、ハル・ブレインだからこそ考えついた、ささやかな、しかし、目立つプレイです。

ハル・ブレインがフラムを大々的に使った曲としては、ほかに、サム・クックのAnother Saturday Night、フィル・スペクター(ボビー・ソックス&ザ・ブルージーンズ名義)のDr. Kaplan's Officeがあります。どちらもvery unusualなプレイで、ファンは必聴です。

◆ ビリー・メイ盤 ◆◆
ハリウッドを代表するアレンジャーにして、オーケストラ・リーダーであるビリー・メイのSnowfallは2種類あります。Snowfall-Cha-Chaと改題してあることでわかるように、チャチャチャ・アレンジです。でも、そういわれなければ、これがチャチャチャだと思う人は多くないのじゃないでしょうか。テンポはゆるめで、チャチャチャを思わせるのは、コンガとボンゴだけだからです。4拍目にアクセントを置くこともチャチャチャのスタイルなのかもしれませんが。

f0147840_23163311.jpgSnowfallのアレンジには、「フワフワ」系統と、「キラキラ」系統の2種類があります。ピアノをリード楽器にしないとキラキラ感は出ません。ビリー・メイは管(主としてフルートとクラリネット)のアンサンブルでやっているので、「フワフワ」系です。これはこれでなかなかけっこうな出来だと思います。

もうひとつ、ビリー・メイとジョージ・シアリングが共演したヴァージョンもあります。こちらのタイトルは、Snowfall-Snowfall Cha-Chaとなっていて、前半は弦のアンサンブルとジョージ・シアリングのピアノによるオーソドクスな「キラキラ」系、後半はパーカッションが加わったチャチャチャになる趣向です。こちらもなかなかけっこうな出来かと思います。ビリー・メイのアレンジはどれも面白くて、ちょっと集めたくなる人です。さすがは、シナトラのアレンジャー、ただ者ではありません。

◆ 他のヴァージョン1 ◆◆
f0147840_2333391.jpgドリス・デイのファンではないのですが、彼女のSnowfallも、なかなかけっこうなアレンジです。フレンチ・ホルンを中心にした管のアレンジにも、ドラムやギターの扱いにも、ゴードン・ジェンキンズの雰囲気があります。ジェンキンズ本人のアレンジならいいのですが、そうでなかった場合、つまり、こういうジェンキンズ・スタイルを継承した人がいるのなら、だれなのか知りたいものです。

f0147840_2333558.jpg作者であるクロード・ソーンヒルのヴァージョンは、管のアンサンブルとピアノによるものですが、フォルテシモで入ってくる管には、フワフワ感もキラキラ感もなく、わたしとしてはちょっと違和を覚えます。テーマをちょっとやると、すぐにインプロヴが混入したりするところも好みではありません。アル・ディローリーのように、あくまでもストイックにメロディーを弾くほうが好みです。毎度いいますが、インプロヴといえば聞こえはいいものの、要するに「その場の思いつき」にすぎません。練りに練り上げたメロディーとはくらべようがないのです。

f0147840_2338316.jpgスティーヴ・アレンというのは、ヴォードヴィリアン/司会者/ノヴェルティー・シンガーだと思っていたのですが、彼のSnowfallはストレートなオーケストラ・ミュージックです。アレンジャーがだれなのかわかりませんが、オーソドクスなキラキラ系Snowfallで、そのかぎりにおいては悪くないのですが、クロード・ソーンヒル同様、デカい音の管のオブリガートが不法侵入してくるところが、気分を壊します。

f0147840_23355484.jpgエスクィヴァルのクリスマス・アルバムにもSnowfallは収録されています。エスクィヴァルはいろいろ変なことをやる珍芸派ですが、Snowfallのアレンジは、あまり珍なところのない、比較的素直なキラキラ系アレンジです。ディテールが豊富で、さすがにたいしたものだと思います。こういう風に、ちょっとした細部だけにいろいろ異なった楽器を使うと、コストがかかります。その負担をいとわなかったことが、この人がいまでも一部で根強い人気を誇っている理由でしょう。

同じプレイヤーに楽器を持ち替えてもらったら、コストはかからないだろうって? 残念でした。アメリカ音楽家組合(AFM)のミュージシャンを雇った場合、楽器を持ち替えたら、2人分の料金を請求されるのです。たとえば、ハル・ブレインにドラムをプレイしてもらったあとで、マラカスのオーヴァーダブをやってもらい、トミー・テデスコにギターを弾いてもらったあとで、マンドリンのオーヴァーダブをやってもらったとしますね。これで楽器は4種類、4人のプレイヤーを雇ったのと同じ料金がかかり、ハルとトミーは一度のセッションで、通常の倍の料金を手にします。

こういうおいしい仕事の競争、つまり、一度のセッションで何倍の料金を得られるかという競争を、トミー・テデスコとやったことがあると、ハル・ブレインがいっています。やらずぶったくりのように見えますが、さまざまな楽器をプレイできるというのは、その人の能力と努力の問題なので、当然の技術料です。トミー・テデスコがいつも車に山ほど楽器を積んでいたのは、シャレでもなければ伊達でもなく、いつなんどき、なにを要求されても、即座に対応できるようにし、稼ぎを倍増、三倍増するチャンスを逃さないようにするという、プロとしての心がけなのです。

◆ 他のヴァージョン2 ◆◆
f0147840_2343435.jpgレイ・チャールズ・シンガーズ、といっても、「あのレイ・チャールズ」とはなんの関係もありません。「あのレイ・チャールズ」のバックグラウンド・シンガー・グループは、「レイレッツ」という名前なので、混同なさらないように。レイ・チャールズ・シンガーズは、要するに大人数のコーラス・グループです。こういうのが流行った時代もあったようですが、子どものころ、もっとも苦手としたタイプの音楽で、いまもって、あまりなじめません。ドリス・デイ盤のライター・クレジットは、クロード・ソーンヒルとレイ・チャールズとなっているので、よけいなお世話の歌詞を書いたのは、(「あのレイ・チャールズ」ではないのほうの)「このレイ・チャールズ」なのでしょう。

f0147840_23445550.jpgソウルフル・ストリングス盤なんていうのもあります。Space Age Pop Musicによると、チェス・レコードのサブ・レーベルであるキャデットが、リチャード・エヴァンズなるリーダーにやらせたスタジオ・プロジェクトだそうです。シカゴなんかで、こんなオーケストラを録っていたのだろうか、なんて思っちゃいますが、シカゴにはシンフォニー・オーケストラもあることですから、そのへんの人たちを雇えば、なんとかなるのでしょう。ポップ・オーケストラ・ミュージックの本場はあくまでもハリウッドですが、シカゴも健闘しています。パーカッションの扱いから考えて、ビリー・メイ盤を参照したと感じます。ちょっとチャチャチャ風味。

マルカム・ロキャ(Lockyerというスペルなのに、「マルコム・ロックヤー」なんていう、ありえない赤の他人表記をしているところがあるので、固有名詞発音辞典で確認した。アクセントは第一シラブルなので、「ローキャ」も可)なんていうひとのヴァージョンもあります。映画音楽もやったオーケストラ・リーダーのようです。他のヴァージョンにくらべてスロウで、「キラキラ」系と「フワフワ」系を融合したハイブリッド型。どちらかというと、フワフワ寄りですが。

f0147840_2346323.jpgまだあるな、まいったなあ、ですが、つぎはジャッキー・グリーソン。ジャッキー・グリーソンだから、Snowfallも当然テンポはスロウで、フワフワ・ドリーミー・アレンジです。薄いミックスながら、ヴァースではなんだかロシア民謡のような男性コーラスが聞こえ、ちょっと珍。またしても、女性ソプラノだか、テレミンだか判別のむずかしい音がしています。こちらはたぶんテレミン。ハリウッドのオーケストラ・リーダーはこの楽器を好んだ節があります。

ディック・ハイマン盤は、ピアノだけのキラキラ系アレンジ。左手のアルペジオと右手のメロディーだけのところはけっこうですが、ちょっと腕を見せようと、ハイテクニックを弄し、フォルテになったりするところは、キラキラ感、ドリーミー感をおおいに損なっていて、もっとストイックにやってほしいと感じます。アヴァランシェーズ盤のアル・ディローリーのような、リスナーが感じる気分に対する配慮がありません。

f0147840_23491840.jpgまあ、アル・ディローリーはたんなる一介のピアニストではなく、ヒットを連発したキャピトル・レコードの敏腕プロデューサーでもあるので、そういう人に負けても恥じではありませんが、でも、こういうところで、盤の作り方を熟知している人、「サウンド」というものの重要性のわかっている人と、ただプレイをすることしか知らない人との大きな落差を感じます。わたしが尊敬し、愛しているのは、すぐれたサウンド・メイカーのほうです。

いやあ、久しぶりにドカーンとヴァージョンがあって、疲れました。インストだから楽勝だと思ってとりかかったのです。古今亭志ん生いうところの「赤坂な」考えでした。
by songsf4s | 2008-01-11 23:54 | 冬の歌