- タイトル
- I'd Like You for Christmas
- アーティスト
- Julie London
- ライター
- Bobby Troup
- 収録アルバム
- Christmas Cocktails (Ultra Lounge series)
- リリース年
- 1957年
久しぶりに、歌詞が短く、なおかつ、カヴァーのない曲の登場です。わたしも大助かりですが、みなさんも長い記事の連打にお疲れで、そろそろ息抜きを必要となさっているのではないでしょうか。
昨日のBaby It's Cold Outsideに引きつづき、今日もちょっとだけ「大人」のクリスマス・ソングです。まあ、ジュリー・ロンドンですから、子どもっぽい歌なんか、はじめからありえないに決まっていますが。
Julie London - I'd Like You For Christmas
◆ クリスマスも、新年も、イースターも ◆◆
ジュリー・ロンドンがあの声で歌うから、ほほう、と思うの曲なので、音がわからないことにはどうにもならないところがあるのですが、とにかく歌詞を見てみましょう。ファースト・ヴァース。
Please make my wish come true
'Cause I trim tree and deck the hallways
If I knew you'd be mine for always
「クリスマスのプレゼントにはあなたがいいわ、あなたがずっとわたしのものでいてくれるなら、クリスマス・トゥリーの飾りつけもするし、玄関の飾りもするわ、だからお願い、わたしの望みを叶えてね」
trim treeは、庭木の枝打ちをすることではなく、トゥリーの飾り付けのことです。trimには「飾る」という意味もありますし、これはクリスマスの話ですから。
それにしても、いやあ、どうも、という歌詞です。これをあの声で歌うわけですからね。これをいわれた男は、冬だというのに、汗だくになって風邪をひいちゃうでしょう。でも、まだこんなのは序の口です。セカンド・ヴァース。
If old Saint Nick comes through
And he remenbers that I'd like you for Christmas
New Year's, Easter too
「サンタクロースがやってきて、わたしの願いを忘れずにいてくれたら、クリスマスにはブルーにならないでしょう、クリスマス・プレゼントも、お年玉も、イースターのプレゼントも、やっぱりあなたがいいわ」
アメリカに新年のプレゼントなんていうものがあるのかどうか知りませんが、イースターのプレゼントは、たとえば、映画『イースター・パレード』の冒頭、フレッド・アステアがたったひとりの女性のために、前が見えなくなるほどたくさんプレゼントを運んでいるシーンでもわかるように、歴とした習慣です。この歌のような女性が相手なら、アステアも手ぶらで彼女のところへ行けばいいので、大助かりだったでしょう。もっとも、そうなると、あの玩具屋での、ドラムを叩きながらのすばらしいダンス・シークェンスもなかったことになってしまいますが。
歌詞としては以上でほぼ終わっているのですが、バックコーラスとの掛け合いに変化させて、もうひとヴァース歌います。
Please make my wish come true
(That she trim tree and deck the hallways
If she knew you'd be hers for always)
「(彼女はクリスマス・プレゼントにあなたをほしがっている)どうかわたしの願いを叶えてね(あなたがいつも彼女のものであってくれるとわかれば、彼女はトゥリーもきれいに飾って、玄関の飾りつけもする)」
そして、セカンド・ヴァースにもどり、クリスマス・プレゼントも、お年玉も、イースターのプレゼントも、みんなあなたがいい、といって終わります。ここまでいわれちゃったらどうしよう、てな歌詞ですが、まあ、はじめからその心配にはおよばないのですよね、残念ながら。
◆ 「ほんのちょっとの声」 ◆◆
彼女のアルバムをお聴きになったことのある方ならおわかりでしょうが、ジュリー・ロンドンはじつにスペクトルの狭いシンガーです。ジュリー・ロンドン・スタイルの曲しか歌えないのです。つまり、スロウで、静かで、深夜のムードの歌ということです。でも、あれほどすばらしい声をもっていたのだから、その声に制約を受けるのはやむをえないことです。
このI'd Like You for Christmasも、テンポはゆるく、ソフトで、ふわっとした、いつものジュリー・ロンドンの歌です。しかし、なんともやは、これがじつにけっこうなのです。もっとも、残念ながら、小さなお子さんのいるご家庭向きとはいえないでしょう。あの歌い方ですからね。
ジュリー・ロンドン自身は、「ほんのちょっとの声」しかなかったので、いつもマイクにものすごく近づいて歌わなければならなかった、といっています。この制約があの独特のスタイルをつくったのだから、世の中はよくしたものです。そして、これはたぶん、ボビー・ジェントリーに影響をあたえたとわたしは考えています。ボビーも、初期は極端なオン・マイクで歌っていました。
この曲を書いたボビー・トループは、かのRoute 66の作者です。それよりも重要かもしれないのは、トループがジュリー・ロンドンの二度目の夫であり、ソングライターとして、アレンジャーとして、プロデューサーとして、彼女の成功を助けたことのほうかもしれません。
先年没したリバティー・レコードの創設者のひとり、サイ・ワロンカー(The Chipmunk Songの記事をご参照あれ)は、会社設立からまもなく、ジャズ・シンガーだったボビー・トループを自分のレーベルに誘いますが、トループはよそとの契約があったので、かわりに自分のガール・フレンドをワロンカーに紹介しました。それがジュリーです。そして、彼女のリバティーからのデビュー・シングル、Cry Me a Riverの大ヒットのおかげで、会社の基礎が固まったのです(そのつぎに登場するのが、デイヴィッド・セヴィルとチップマンクス、マーティン・デニー、それにエディー・コクラン!)。
有名になる前の彼女の歌を聴いたことがないのですが、きっと、かなり異なったスタイルだったのだろうと想像します。だれかすぐれた耳をもつ人が見いださないかぎり、「ほんのちょっと」の声しか出ないシンガーは、きっと無名なまま埋もれてしまったにちがいありません。あのようなスタイルは、半分はトループがつくったのではないでしょうか。ありがたい夫です。仲のよい夫婦だったのではないでしょうか。トループはジュリーが没した翌る2000年に亡くなっています。
◆ ほとんど会社の手先 ◆◆
I'd Like You for Christmasはシングルとしてリリースされました。ジュリー・ロンドンのさまざまなディスコグラフィーを見てまわったのですが、後年の編集盤までふくめ、彼女のアルバムにはこの曲は収録されていないらしく、いくつかのクリスマス・オムニバスにとられているだけでした。
オムニバスならば、この特集で何度もご紹介した、Ultra Loungeシリーズのクリスマス篇、Cristmas Cocktailsで入手なさるといいでしょう。わたしがI'd Like You for Christmasを知ったのは、この編集盤でのことでした。
この盤に収録された曲は、本特集ではいくつも取り上げていて、まるでこの盤を紹介するために特集を組んだような状態になっています。じっさい、これで終わりではなく、すくなくとももう一曲はご紹介する予定です。それほどよくできた編集盤なのです。
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I'd Like You For Christmas収録オムニバス
Christmas Cocktails 1