- タイトル
- I've Got My Love to Keep Me Warm
- アーティスト
- The Mills Brothers
- ライター
- Irving Berlin
- 収録アルバム
- The Very Best of the Mills Brothers
- リリース年
- 未詳(1950年代?)
- 他のヴァージョン
- Al Goodman & His Orchestra, the Avalanches, Bette Midler, Billie Holiday, Dean Martin, Dinah Washington, Doris Day, Ella & Louis, Enoch Light & His Orchestra, Erroll Garner, Frank DeVol And His Orchestra, Frank Sinatra, Julie London, Les Brown with the Starlighters, Machito & His Orchestra, Robert Maxwell His Harp And Orchestra, Sarah Vaughan & Billy Eckstine, the Ames Brothers with Sid Ramin & His Orchestra, the Creed Taylor Orchestra, The Ray Charles Singers, Tony Bennett
先週から今週にかけてのアクセス数は、当ブログ発足以来の、ちょっとビックリするような多さでした。たまには「営業」に精を出してみようと思い、人気のあるクリスマス・ソングを中心に選曲した結果ではないかと思います。ご来場いただいたお客さん方には深く御礼申し上げます。
しかし、当ブログは、ブログなのだから当然ですが、これまでずっと気ままに選曲してきたので、そろそろ本来の姿に戻そうと思います。うかうかしていると、クリスマスが来てしまいますから、お客様お迎え用のタキシードを脱いで、どてらに着替え、こたつに入って、地味なクリスマス・ソングについても語ろうと思います。
といっても、本日のI've Got My Love to Keep Me Warmは、わが家のHDDで統計をとったかぎりでは、すくなくともシンガーのあいだではそれなりに人気のある、すくなくとも「あった」曲のようです。わたしは、アーヴィング・バーリンのクリスマス・ソングとしては、White Christmasよりこちらのほうを好んでいます。明示的なクリスマス・ソングではないのですが、クリスマス・アルバムによく収録されている曲です。
White Christmasほど人気が高くないのは、おそらく、ディミニシュ・コードを使った、やや複雑なメロディー・ラインのせいでしょう。しかし、それゆえに、飽きのこない魅力があります。
◆ 手袋と愛? ◆◆
それではファースト・ヴァース。
But I can weather the storm
What do I care how much it may storm?
For I've got my love to keep me warm
「雪が降り、風が吹いているけれど、吹雪ぐらい、しのぐことはできる、嵐がどれほどひどくても、それがなんだっていうんだ? ぼくには愛があるからいつも暖かいのさ」
the snow is snowingと、あえて語を重ねたところに工夫があり、印象的な歌いだしですが、日本語でそういう感じを出すのはむずかしいようです。つづけてセカンド・ヴァース。
Just watch those icicles form
Oh, what do I care if icicles form?
Oh, I've got my love to keep me warm
「こんなにひどい十二月は記憶にない、あのつららを見てごらん、でも、つららがどれほどできたって、それがなんだというんだ、ぼくには愛があるからいつも暖かいのさ」
ファースト・ヴァースのstormとwarmの韻もなるほどと思いますが、formとwarmもなかなかのコンビネーションです。つぎはブリッジ。
I need no overcoat, I’m burning with love
「オーヴァーがなくても、手袋がなくても、どちらにしろ、ぼくにはオーヴァーなんかいりはしない、愛で燃えているのだから」
ここらで、語を重ねるのがこの歌詞の趣向なのだということが、疑いもなく明らかになります。同じ語の繰り返しでリズムをつくっていると感じます。それにしても、gloveとloveの韻には恐れ入りました。バーリンという人は、作詞家としてもなかなかなのだと思います。
最後のヴァース。
So I will weather the storm
What do I care how much it may storm?
Oh, I've got my love to keep me warm
「ぼくの心は燃えている、そしてその火は勢いを増すばかりだ、だから吹雪をしのぐことができるだろう、嵐がどれほどひどくなろうと、それがどうしたというのだ? ぼくには愛があるから、いつも暖かいのさ」
内容としてはたわいのない歌詞ですが、音韻的には非常にすぐれていると感じます。歌いやすく、覚えやすい歌詞で、そういうところもシンガーに好まれたのではないでしょうか。
◆ ミルズ・ブラザーズ盤 ◆◆
今回も非常にいいヴァージョンが二つあり、なかなか看板を決められませんでした。最終的にミルズ・ブラザーズにしたのは、この曲で彼らを看板にしなければ、たぶん、二度と看板にする機会はないだろうと考えたからにすぎません。いや、出来は非常にけっこうなんですよ。誤解なきよう。
しかし、ちょっと問題があります。わが家にあるミルズ・ブラザーズのベスト盤はいい加減な代物で(バッタものではなく、MCAとUniversalのロゴがついているが、廉価盤専用らしいHalfmoonというレーベルになっている)、録音時期が書いてないし、ライナーもあいまいな書き方をしているのです。そして、どうやら彼らは、この曲を何度か録音しているらしいのです。
最初は1930年代にこの曲を録音しているらしいのですが(アーヴィング・バーリンがこの曲を書いたのは1937年なので、発表直後のカヴァーということになる)、うちにあるのはどう考えてもそんなに古いはずがなく、50年代の再録音だと思われます。
しかし、けっして出来の悪いものではなく、オリジナルではなくても、十分に楽しめるものです。ポッドキャストのラジオ番組をはじめ、いくつか試聴してみましたが、どこも(たんにわたし同様、見識がないだけかもしれませんが)わが家のと同じテイクを使っていました。探してみると、オリジナル録音を集めたと思われる盤があるのですが、まあ、それは来年のお楽しみということにしておきます。
この再録音もいい出来です。リード・ヴォーカルの声は好みですし、古いスタイルのハーモニーも、わたしのようなロックンロール時代に育った人間には新鮮に聞こえます。バックはブラシのみのドラム、ベース、ギター、ピアノだけというシンプルな編成で、しかも地味にやっていますが、一流のグルーヴです。ピアノはかなりできる人で、楽しいオブリガートを入れています。全体的には、ちょっとライ・クーダーのアルバムJazzを思い起こさせます。アール・ハインズみたいなピアノだからかもしれませんが。
◆ ラットパック組 ◆◆
最後まで、ミルズ・ブラザーズとどちらを看板に立てるかで悩んだのは、ディーン・マーティン盤です。ディノのキャラクターに合っているし、アレンジも、バンドのプレイも、録音もすばらしく、ほとんど完璧な出来です。この曲の代表的なヴァージョンでしょう。The Best of I've Got My Love to Keep Me Warmを編集するなら、最後の最後、大トリにするべきトラックです。
ラットパック組のもうひとり、フランク・シナトラのヴァージョンもあります。不思議なことに、ディノとシナトラの両方のヴァージョンがそろうと、わたしの好みはつねにディノのほうに傾くようです。ディノのいい加減なところ、ないしは、いい加減そうによそおっているところが好みに合っているようです。二人が並ぶと、シナトラはきちんとしすぎているように感じるのではないかと、自分の心中を忖度しています。
しかし、これはこれで、当然ながら、よくできたヴァージョンです。もう同じことばかり書くのが馬鹿馬鹿しくなりつつありますが、アレンジ、バンドのプレイ、録音、すべてにわたって、シナトラの盤はつねにその時代の第一級のレベルにあります。そうなるように手配したうえで録音しているのだから当たり前ですが、この当たり前がだれにでもできるわけではないのです。
セッショノグラフィーを見ると、アレンジャーはディック・レイノルズで、シナトラはこの曲を1960年12月21日、ちょうどいまごろに録音しています。つまり、クリスマス・ソングとしては扱っていないことになります。それがこの曲の微妙なところで、クリスマス・ソングに繰り込むかどうかは「任意」なのです。歌詞がいっているのは、十二月ということだけなのですから。
シナトラを聴くたびに、一流のエンジニアを使い、まじめに録音するのはきわめて重要なことだと思います。時代やコンテクストが変わっても、シナトラのトラックがそのたびにきちんと対応でき、新たな光を放つのは、録音がいいからです。生きた音が捉えられているから、現代的なコンテクストにおいても、さらには『スペース・カウボーイ』のような宇宙空間にもちだしても、そこに生きたシナトラがやってきたような錯覚が生まれるのではないでしょうか。
◆ 歌もの各種 ◆◆
女性シンガーでは、ドリス・デイのものがいいと感じます。ドリス・デイのヴォーカルについては留保したい箇所があるのですが、バンドのプレイは申し分がなく、リラックスしたいいグルーヴをつくっています。
デビュー盤で、われわれものを知らない若造に、アンドルーズ・シスターズの魅力を教えてくれたベット・ミドラーは、I've Got My Love to Keep Me Warmでも、スウィング・バンドの魅力を現代に伝えようとしています。「再現もの」としてよくできたI've Got My Love to Keep Me Warmです。でも、残念ながら、それ以上のものではありません。
わたしはジュリー・ロンドンの大ファンなのですが、彼女のI've Got My Love to Keep Me Warmは、「微妙な」出来です。ものすごくテンポが遅く、深夜のムード、それも時計の針は文字盤の右側のほうに大きく傾いた音です。最初に聴いたときには、これはこれでいいのかもしれないな、よくわからないけれど、と思い、それからずいぶん時間がたちましたが、その感想からまだ一歩も抜けだせずにいます。
よせばいいのに、いざ取り上げるとなると気になって、泥縄でいろいろなものを試聴してしまいましたが、そのなかでトニー・ベネット盤は、イントロだけで、これはいいな、と思いました。繰り返しになりますが、録音である以上、どのように記録するかは死活的に重要です。正直にいって、トニー・ベネットの歌が好きだということはないのですが、サウンドは一流です。
ビリー・ホリデイ、ダイナ・ワシントンといった大物女性シンガーのものも聴いたのですが、このへんはもう相性が悪いとしかいいようがないみたいです。わたしには面白さがわかりませんでした。ジュリー・ロンドンのように、男ならだれも抵抗できないと思われる魅力があるわけではないし、バンドが圧倒的なグルーヴをもっているわけでもなく、だれかギョッとするほどうまいプレイヤーがいるわけでもなく、どこを聴けばいいのかわかりませんでした。歌のうまい下手は、わたしにとってはプライオリティーのきわめて低いポイントなのです。
◆ インスト盤各種 ◆◆
インスト盤としては、このクリスマス・ソング特集ですでに何度か登場している、アヴァランシェーズのものが好みです。クレジットでは、ギターはビリー・ストレンジとトミー・テデスコと書いてありますが、二人が揃っていないトラックがいくつかあり、このI've Got My Love to Keep Me Warmもそのひとつです。ディストーションがかかっているので、プレイヤーを特定しにくいのですが、6:4ぐらいの拮抗した賭け率でトミー・テデスコではないかと思います。きついツッコミがあるかもしれませんが! どちらがリードをとったにせよ、ギター好きの血が騒ぐプレイです。
ジャッキー・グリースンは、いつものように、呆れるほどスロウに、フワフワとやっています。ここまで「イージー」リスニングに徹底すると、「イージー」の向こう側に突き抜けて、薄皮一枚でアヴァンギャルド、というあたりまできているような気がしてきます。エスクィヴァルと、じつはそれほどへだたっていないのかもしれません。
よせばいいのに試聴してしまったものとしては、マチート&ヒズ・オーケストラというバンドのヴァージョンがあります。チャチャチャかマンボかわかりませんが、とにかくSouth American Wayアレンジです。この特集でも、アルヴィン・ストーラーのマンボ・アレンジRudolph the Red-Nosed Reindeerなどを取り上げていますが、こういうものは好みです。原曲のもっている味もへったくれもなくなっちゃうのですけれどね。
やはり試聴しただけですが、イノック・ライト盤も、ややラテン風味の、原曲はなんだっけ、歌詞はどういう意味だったっけ、というアレンジです。しかし、サウンドとしては楽しいもので、この人はちょっと集めてみようと思っています。
クリード・テイラー・オーケストラもまた軽快なアレンジで、インスト盤に歌詞の意味を考えろなんていっても無駄だ、と見切ってしまうなら、なかなか楽しめる出来です。
レス・ブラウン楽団もなかなかいいグルーヴで、好みです。ビッグ・バンドの管の響きには、やはり他には求めようのない無二の魅力があります。ベースもうまい。
プレイヤーはグルッと一周して、ミルズ・ブラザーズに戻りました。やっぱり、このヴァージョンが、ディミニシュ・コードの箇所(I can WEATHER A STORMのところ)の響きがいちばんきれいだと感じます。