- タイトル
- The Chipmunk Song
- アーティスト
- Alvin & the Chipmunks
- ライター
- Ross Bagdasarian, Sr.(David Seville)
- 収録アルバム
- Christmas with the Chipmunks
- リリース年
- 1958年
- 他のヴァージョン
- The Three Suns
毎日、何十種類もヴァージョンがある曲ばかりが相手では、とても身がもたないので、本日はちょっと箸休めに、カヴァーがほとんどない曲を取り上げます。
これまでは、他人の曲のカヴァーばかりでマンクスを登場させてきましたが、今日は彼ら自身の大ヒット曲、「持ち歌」であり、いまもってクリスマスの定番でありつづけているクラシックです。
どれくらい大ヒットかというと、1958年のビルボード・チャート・トッパーだから、これ以上はない大ヒットなのです。それどころか、それから毎年、62年まで、シーズンになるとチャート・インしています。ちょっとしたものです。そんじょそこらのシマリスにできることじゃありません。
いや、人間にだって簡単にはできません。一曲のヒットもなく業界を去ったシンガーやバンドがどれほどいたことか。ビルボード・チャート・トッパーを一曲もっていれば、一生食べられるっていうくらいですからね。それでチャート・トップになれるなら、シマリスになりたいと思った歌手だって、一人や二人じゃすまないでしょう。
チップマンクスは、声を聴かないことには話になりませんし、できれば、動画もほしいところです。ご心配はいりません。なんせ、ナンバーワン・ヒットはあるは、テレビのレギュラー番組はあるはの大スターですから、ちゃんとYou Tubeに、このThe Chipmunk Songを歌っているクリップがあります。
◆ アルヴィン! ◆◆
それでは歌詞を見てみます。というか、半分以上がセリフなのですけれどね。まずは歌に入る前の、デイヴィッド・セヴィルとチップマンクたちの会話から。
-I'll say we are!
-Yeah!
-Let's sing it now!
Okay, Simon?
-Okay!
Okay, Theodore?
-Okay!
Okay, Alvin? Alvin? ALVIN!
-OKAY!!!
「さあ、チップマンクたち、歌の用意はいいかな?」
「準備オーケイ!」
「いいよ!」
「早く歌おうよ!」
「よし、サイモン?」
「オーケイ!」
「よしと。シオダー?」
「オーケイ!」
「よしと。アルヴィン? あれ? アルヴィン? アルヴィン!」
「オーケイ!!!」
いたずら小僧アルヴィンだけは、ほかのことに忙しくて、歌う準備ができていません。なにに忙しかったかは、アニメのほうをご覧になれば一目瞭然です。もうクリスマス・プレゼントを開けちゃったのです。
◆ 早く来い来いおしょ……クリスマス ◆◆
アルヴィンもやっと準備ができたようなので、それではファースト・ヴァース。というか、ヴァースらしいヴァースはこれひとつなのですが。
Time for toys and time for cheer
We've been good, but we can't last
Hurry Christmas, hurry fast
Want a plane that loops the loop
Me, I want a hula hoop
We can hardly stand the wait
Please Christmas, don't be late
「クリスマス、もうじきクリスマス、オモチャのとき、お祝い気分のとき、ぼくらはずっといい子にしてた、でも、そんなこといつまでもつづけられない、クリスマス、急いで来てよ、早く来てね、グルッと輪を描いて飛ぶ飛行機がほしいなあ、ぼくはフラフープがいい、とても待ちきれない、お願いだから、クリスマス、遅れずに来てね」
ご覧のように、子ども向けの歌詞です。でも、なかなかキュートです。クリスマスが近いからいい子にしていたけれど、もうこれ以上は無理、というところが可愛いですねえ。もっとも、アルヴィンだけはいい子にしていたとは思えませんけれど。
このあいだ、近所のショッピング・モールで、フラフープをもっている五歳ぐらいの女の子を見かけました。一時期はフラフープなんていっても通じなくなっていましたが、もうあれこれいう必要がなくて助かります。わたしなんか、子どものときにもろにフラフープ・ブームにぶつかったので、懐かしい気分になります。やりすぎると腸捻転になる、なんて親におどかされましたっけ。
◆ アルヴィン!!! ◆◆
間奏のかわりに、またセリフです。
-Naturally.
Very good Theodore.
-Ahhh.
Ah, Alvin, you were a little flat, watch it.
Ah, Alvin. Alvin. ALVIN!
-OKAY.
「オーケイ、きみたち、準備して。いまのはすごくよかったよ、サイモン」
「当然でしょ」
「シオダーもすごくよかったよ」
「へっへっへ」
「えーと、アルヴィン、きみはちょっとフラットしていたよ。気をつけなさい。あれ? アルヴィン? アルヴィン? アルヴィン!」
「はあい!!!」
アルヴィンは歌どころじゃなくて、お目当てのフラフープがあるかどうかたしかめようと、片端からプレゼントを開けていたことは、すでに動画をご覧になった方はおわかりでしょう。このいたずら小僧が、「いい子にしていた」なんて、ぜったいにありえませんよ。
二番目のヴァースは、最初のヴァースとほとんど同じです。ただし、Me, I want a hula hoopというアルヴィンのパートは、I still want a hula hoop「ぼくはやっぱりフラフープがほしい」と、微妙に書き換えられています。プレゼントのなかにフラフープがないことをたしかめたので、再度要求しているわけです。
では、最後のセリフ。
-Let's sing it again! Yeah, let's sing it again!
No, That's enough, let's not overdo it
-What do you mean overdo it?
-We want to sing it again!
Now wait a minute, boys
-Why can't we sing it again?
Alvin, cut that out...Theodore, just a minute.
Simon will you cut that out? Boys...
「すごくよかったよ、みんな」
「もう一回、歌おうよ! もう一回、ねえ、もう一回」
「ダメだよ。さっきので十分さ。歌いすぎはよくないよ」
「歌いすぎって、どういう意味よ」
「もう一回歌いたいよ!」
「おいおい、ちょっと待った!」
「なんでもう一回歌っちゃダメなの?」
「アルヴィン、それをやめなさい。シオダー、ちょ、ちょっと待った。サイモン、それをやめてくれないか。おい、きみたち……」
大混乱のうちに幕。
◆ シマリス版フランケンシュタイン博士の正体 ◆◆
コメディーとして面白いというだけでは、チャート・トッパーになれるものではありません。チップマンクスのキャラクターにだまされそうになりますが、じつは、なかなかいい曲なのです。楽曲としての構造がしっかりしているから、コメディーとして楽しく、しかも覚えやすいので、だからナンバーワンになったのだと思います。
ナンバーワン・ヒットについては、アンチョコをもっていることを思いだして読んでみました。The Billboard Book of Number One Hitsという本で、長年の愛読書です。たしか、以前、邦訳もあったと思います。痒いところに手が届く名著です。願わくば、もうすこし下位の曲についても、こういう本があればなあ、ですが。
いつもいっていますが、ものごとはなんでも調べてみるものですねえ。ビックリするようなことが書いてありました。この曲のライター、そしてチップマンクスの生みの親、というか、アルヴィンたちの声も彼なのですが、そのロス・バグダサリアン(発音不明なので、以下、芸名のデイヴィッド・セヴィルに)は、なんとウィリアム・サローヤンの従兄弟なのだそうです。コメディーの才能は、血筋によるものなのかもしれません。
もうひとつ驚いたのは、デイヴィッド・セヴィルが、ローズマリー・クルーニーのCome on-a My Houseの作者だということです。大昔、売れに売れた曲じゃないですか。日本ではだれでしたっけ、雪村いづみだったかが歌ってヒットし、わたしはそちらで記憶しています。
この曲と、セヴィル自身の名義によるチャート・トッパー、Witch Doctorと、それにThe Chipmunk Songを並べて聴いてみました。なにやら共通点があります。いずれも、意味よりも、音韻としての面白さを中心にした歌詞で、コミカルな楽しさのある曲だということです。とりあえず彼の曲だと判明しているもののうち、わが家にあるのはこの三曲だけですが、なかなか才能豊かなソングライターだと感じます。美しいバラッドはありませんが、曲も歌詞もリズミカルなものを書くタイプのソングライターです。
◆ 実写版チップマンクス? ◆◆
ことの順序をハッキリさせておくと、最初にできたのは歌のほうです。このThe Chipmunk Songが大ヒットしたので、テレビ・アニメが制作される、という順序です。ウェブで、オリジナルと思われる45回転盤のスリーヴを見つけたのですが、デザインはおなじみの三匹ではなく、もろに(あまり可愛いとは思えない)シマリスなんです。
80年代に、どこかのDJが、ちょっとしたジョークとして、ブロンディーの曲を回転数を上げて放送し、チップマンクスの久しぶりの新曲、と紹介したら、リクエストが殺到しちゃったのだそうです。そこで、すでに没していたデイヴィッド・セヴィルにかわって、息子さんとその嫁さんがチップマンクスを復活させ、アルバムをつくり、さらにはテレビのほうも復活して、またヒットしてしまったのだそうです。
このとき、Chipmunk Punkというアルバムがつくられていますが、もちろん、80年代なので、50年代ののどかなワルツなどではなく、子ども向けにちょっとソフトにしたロック・サウンドです。ナックのナンバーワン・ヒット、My Sharonaのカヴァーを試聴してみました。うーん。あのマンクスの低速回転録音声は、長く伸ばしたときにいい響きになるんですよね。アップテンポの曲にはあまり向いていませんし、シャウトもうまくいかないので、こういうタイプの曲はちょっと苦しいと感じます。マンクスがパンク化したらしいアニメのほうは面白かったかもしれませんが。
話が前後しますが、初代チップマンクスはいろいろなアルバムを出しています。シングルも、The Chipmunk Songだけでなく、Alvin's Harmonicaという曲がトップ・テン入りする大ヒットになっていますし、ほかにも数曲がチャートインしています。当時の人気のほどが忍ばれます。
べつに皮肉でいうわけではないのですが、ひょっとしたら、コルジェムの関係者が、モンキーズという架空のバンドの物語を思いついたとき、ヒントになったのはチップマンクスなのではないか、なんて思いました。ほら、マンクスとマンキーズ(英語ではそういう発音)、似ているでしょ? どちらも、番組のなかで、演奏したり、歌ったり、さらにはレコーディングしたりしますしね。マンクスを実写でやってみたらどうだろう、というのがマンキーズの原点では?
◆ マンク・アラカルト ◆◆
以下、ランダムに上記アンチョコ本からこぼれ話を少々。
セヴィルの最初のビルボード・チャート・トッパー、Witch Doctorでも低速回転録音が使われています。この曲も、タイトルは知らなくても、コーラスでの、チップマンクス声のハーモニーを聴けば、ああ、あれか、と思いだす方が多いのではないでしょうか。わたしは後年、編集盤でこの曲を手に入れたとき、FENのオールディーズ番組でよくかかっていたことを思いだしました。
アルヴィン、サイモン、シオダーというチップマンクスの名前は、みなリバティー・レコード関係者の名前からとったそうです。サイモンはリバティー・レコード社長サイ・ワロンカー、すなわち、ワーナーのプロデューサーで、のちに社長になったレニー・ワロンカーのお父さん。アルヴィンはサイ・ワロンカーのパートナー、リバティーの共同設立者アル・ベネット、シオダーは、リバティーのエンジニア、テッド・キープから名づけられたのだそうです。
The Chipmunk Songのアイディアは、セヴィルの一番下の息子が、まだ九月なのに、クリスマスはまだなの、といったことによるそうです。うちの子がこういうことをいうのなら、世の中には同じことを思っている子どもが、ほかにもたくさんいるだろうと思った、といっています。「身近なマーケット・リサーチ」の勝利。
このThe Billboard Book of Number One Hitsを眺めていて、ひゃー、神話時代だなあ、と思いました。「ご近所」の顔ぶれが面白いのです。チップマンクスがナンバーワンになるためにどけてしまった前週のナンバーワンは、フィル・スペクターのグループ、テディー・ベアズのTo Know Him Is to Love Him、チップマンクスをどけてナンバーワンに坐ったのは、プラターズのSmoke Gets in Your Eyesです。
1958年に最速でトップに立った曲だというのだから、このなかでもっとも売れたのはThe Chipmunk Songのようです。同じ年に自分自身の名義によるWitch Doctorでチャート・トッパーを得ているデイヴィッド・セヴィルは、自分の創造物に負けてしまったのでした。いや、まあ、ひとりで三匹の声もやったのだから、結局、勝ったというべきかもしれませんが。