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Jingle Bells by the Singing Dog
タイトル
Jingle Bells
アーティスト
The Singing Dog
ライター
収録アルバム
The Ultimate Christmas Album Vol 3
リリース年
1955年
他のヴァージョン
無数
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◆ ドッグ・バークス ◆◆
猫のSilent Nightを取り上げておいて、犬を無視しては、片手落ちのそしりをまぬかれないでしょう。昨日の猫たちのコーラスにつづいて、本日は犬の歌。なぜか、動物園化に驀進中です。

f0147840_0182037.jpgジングル・キャッツは1993年の誕生だそうで、エンターテイナーとしてはまだペエペエです。それに対して、シンギング・ドッグは、猫たちをさかのぼること40年近い1955年の誕生。「歌う尼さん」による1963年のチャート・トッパー、Dominiqueより8年も早いのです(関係ないか)。

このシンギング・ドッグのJingle Bellsは、最近のことはいざ知らず、わたしがまだFENのリスナーだった70年代には、クリスマス・シーズンになると、かならず何回かは聴いた、ホリデイ・クラシックです。そういってはなんですが、フィル・スペクターのクリスマス・アルバム収録曲などより、はるかによく耳にしました。スペクターのものがクリスマス・クラシックとなったのは、80年代後半のことで、それまでは無視されていたという印象があります。

f0147840_0295116.jpgいや、フィル・スペクターではなく、シンギング・ドッグの話でした。1955年というと、あなた、これはもうたいへんな昔です。とくにテクノロジーの世界では、古代も古代、先史時代といっていいほどです。この盤をどうやってつくったのかと考えるだけで気が遠くなるほど、遠い遠いはるか昔のことです。

もちろん、PCなんてものはござんせん。まさかENIACの時代じゃありませんが、IBMのシステム360も生まれていないんだから、ENIACに毛が生えた程度、すなわち、真空管コンピューターの時代です。仮に1000本の真空管を使っていて、真空管の平均寿命が1年だとすると、確率的に、一日に3本は真空管が飛んで、システムを停止しなければならないのだから、えらい時代です(まあ、一日3回以上落ちるMS製OSとどこがちがうのだ、というご意見もありましょうが)。サンプルなんてものはありませんし、ディジタル・オーディオ技術の普及も未来の話です(レス・ポールはディジタル録音のアイディアをすでにもっていたそうですが、あの人は地球人じゃなくて、エイリアンですから)。

じゃあ、どうするって、あなた、これはもう、テープ・マシンとオシレーターとハサミとスプライシング・テープを主たるツールとする、正調アナログ技術でやるしかありません。それしかなかったのだから、制作者に大きな不満はなかったかもしれませんが、手間はかかったにちがいありません。

◆ ノンPCサウンド・プロセシング ◆◆
いつも同じことをいっていますが、ものごとというのはなんでも調べてみるものです。シンギング・ドッグの生みの親であるカール・ワイスマンは、犬の鳴き声を目の敵にしていたのだそうです。なぜならば、彼はコペンハーゲンのラジオ局のために、鳥の啼き声を録音をしていたので、その日常業務の最大の障碍が、鳥の啼き声を邪魔する犬の鳴き声だったからです。これはもう、典型的な犬猿の仲です。

したがって、フィールドで録音した「ワイルド・トラック」から、不要な犬の声を除去する作業が、ワイスマンのポスト・プロダクション・ワークの中心となったわけですね。お年を召した方なら、専門家でなくても、リール・トゥ・リール・テープ・マシンでの編集作業というのが、いかに面倒かをご存知でしょう(mstsswtrさん、お時間のあるときに、解説を願えれば幸いです)。

f0147840_042245.jpg不要な箇所をハサミで切り取り、残った有用な箇所だけを「スプライシング・テープ」という接着テープでつないでいく、という作業をするわけです。わたしのような、専門家でもなければ、大人ですらなかった人間にはなかなかやっかいな作業で、たまにやると、癇癪を起こしそうになったものです。

映画フィルムの「ムヴィオラ」編集機のような、録音テープ編集専用のカッティング・デスクというものがあるそうで、ワイスマンのようなエンジニアは、当然、そうした道具で作業を効率化していたのでしょうが、それにしても、PCやサンプラーでちょいちょいとやるようなわけにはいきません。

疲れるので、これ以上、技術的細部には立ち入りませんが、そのようにして、ラジオ放送用の鳥の啼き声を集めたテープがつくられたわけです。そして、放送には使わなかったゴミのテープ、すなわち、犬の鳴き声のテープが山ほど残りました。

ワイスマンはこれを捨てるつもりでしたが、そのとき、このテープのピッチを整え、Jingle Bellsをつくれば、子ども番組にもってこいのものができるだろう、というアイディアを得たのだそうです。かくしてシンギング・ドッグのJingle Bellsが誕生し、45回転盤や78回転盤やEPとして、いくつかの国でリリースされるにいたったのでした。

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このJingle Bellsがクリスマス・クラシックになったのは、調べてみると、意外にも1970年代のことなのだそうです。そういわれてみると、よくFENを聴いていたわりには、60年代にこのヴァージョンを聴いた記憶はなく、70年代に、夕方の番組Kantoh Sceneなどでかかっていたという記憶があります。これはNYのあるラジオ局のDJが、1970年に、ヘヴィー・ローテーションでこの曲を流したおかげなのだとか。かくして、誕生から15年もたって、シンギング・ドッグはホリデイ・シーズンの常連スターとなったのでした。

◆ アナログ時代のエンジニア魂の記念碑 ◆◆
切り離した犬の鳴き声のテープのピッチを整え、これをつないだり、テープ・トゥ・テープ・コピーをすることを考えると、偏頭痛が起きそうになります。だから、こういうものをつくりあげた人をそしるつもりはまったくないのですが、時代が変わり、サンプラーやPCによって編集されたジングル・キャッツの闊達自在な歌声を聴くと、かつてはスターだったシンギング・ドッグも、もう引退の時期だな、と残念ながら思います。

なにしろ、ジングル・キャッツとちがって、「ソロ・シンガー」状態ですから、それほど変化がなく、一回聴けば、たいていの人が、もう十分、というであろうほど、単調な仕上がりなのです。

ふと、ジョー・ミークがさまざまな電子音を組み合わせた、トーネイドーズのTelstarのイントロとアウトロを思いました。ああいうものは、ディジタル技術を駆使すれば、いまなら簡単にできてしまいます。でも、ミークのTelstarには、アナログ技術だけがもつ、不思議な「たくましさ」が感じられます。

f0147840_0465483.jpgジングル・キャッツがあるなら、ディジタル時代のシンギング・ドッグスもちゃんとあります。ジングル・キャッツのアルバム自体にも、犬の鳴き声がつかわれていますし、ジングル・キャッツの生みの親は、犬のコーラス・グループの盤もつくっています。また、ビートル・バーカーズという、犬の鳴き声によるビートルズ・ソングブックもあります。

f0147840_0475430.jpgビートル・バーカーズを試聴して思ったのですが、犬の鳴き声は短く、スタカートなので、「歌」にはあまり向いていません。かといって、長く伸ばした鳴き声は、要するにただの遠吠えですから、音楽的ではありません。したがって、メロディーの根幹部は、PC上で加工した、つまり、タイムをディジタル技術で引き延ばした鳴き声にならざるをえず、犬の鳴き声というより、スクラッチに聞こえてしまいます。

そう考えると、過剰な加工のできないアナログ時代の産物、シンギング・ドッグのJingle Bellsは、やはりよくできていますし、なにやら古典の風格すらもっているような気さえしてきます。悪い意味ではなく、シンギング・ドッグは「博物館入り」の「古典」となったといっていいでしょう。

◆ またしてもチョンボ ◆◆
12月に入ってからは、年内無休のデパート営業方式を志したために、このところ、日々の更新に追われ、ミスばかりやっています。

昨日取り上げたジングル・キャッツのSilent Nightで、PCのサウンド・エディターでつくったのだろうということを書きましたが、時期的に考えて、まだサウンド・エディターの普及には早すぎるようです。サンプラー(後年の主流であるPC上のソフトウェア・サンプラーではなく、ハードウェア・サンプラーという意味ですが)を使ったのだろうと考え直しました。PCを使ったとしても、ポスト・プロダクション、あるいは、マスタリングの段階でのことでしょう。そう考えるほうが、コスト面でも、操作性の面でも合理的です。あの時代のPCは泥亀なみのスピードでしたから。

昨日も同じようなことをいいましたが、本年のクリスマス特集でのJingle Bellsは、これでおしまいというわけではありません。後日、人間が歌ったJingle Bellsも、ちゃんと取り上げる予定です。


by songsf4s | 2007-12-10 00:08 | クリスマス・ソング