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Merry Christmas Baby by Otis Redding
タイトル
Merry Cristmas Baby
アーティスト
Otis Redding
ライター
Lou Baxter, Johnny Moore
収録アルバム
Otis Redding Story
リリース年
1968年
他のヴァージョン
James Brown, Louis Armstrong & Friends, Chuck Berry, Booker T. & The MG's, Elvis Presley, the Ramsey Lewis Trio, Dion
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すごく当たり前のタイトルなので、この曲には同題異曲がいくつかあります。わが家にあるものでは、ビーチボーイズとドディー・スティーヴンズのものは、それぞれちがう曲です。

ここで取り上げるのは、ブルーズのスタンダードのほうのMerry Cristmas Babyです。ただし、看板に立てたオーティス・レディング盤は、コード・チェンジを改変して、ブルーズではやっていません。

この曲を知ったのは、オーティス・レディング盤でのことなので、チャック・ベリー盤を聴いて、なんだ、ただの退屈なブルーズじゃん、と驚きました。まったく異なる曲に改変してしまった(と知ったのは後年のことですが)オーティス盤はすばらしいのです。

◆ Diamonds are a man's best friend? ◆◆
ブルーズの歌詞というのは、わたしにはおおむね退屈で、曲(と呼べるようなものがあるとは思えないのですが!)同様、好きではないのですが、そういうフォーマットになってしまったので、中身を見てみましょう。ブルーズですから、人によって歌詞はまちまちです。ここではもちろん、オーティス・レディング盤に依拠します。

Merry Christmas baby
Sure did treat me nice
Merry Christmas baby
Sure did treat me nice
Bought me a diamond ring for Christmas
I feel like I'm in paradise

「メリー・クリスマス、ベイビー、おまえはまったくよくしてくれるよ、クリスマスにダイアモンドの指輪を買ってくれるなんて、天国にいる気分さ」

f0147840_0221364.jpgなんか変だ、と感じます。まるでジゴロかホスト。でも、わが家には女性シンガーによるこの曲はないのです。オリジナルがだれかは知りませんが、女性シンガーだったのじゃないでしょうか。

うーん、でも、女性シンガーが歌ったところを想像すると、たんに「ダイアモンドをくれてありがとう」という歌になってしまいますね。意外性がないだけでなく、嫌味です。Diamonds Are a Girl's Best Friendのようなウィットがありません。やっぱり、男が歌うから面白いのだ、ということにしておきましょう。

◆ 話は古代にさかのぼり…… ◆◆
つづいてセカンド・ヴァース。と呼んでいいのかどうか。コーラスやブリッジのあるブルーズなんてないですからね。みんなヴァース。

I feel mighty fine, y'all
I've got music on my radio
Feel mighty fine, girl
I've got music on my radio, oh, oh, oh
I feel like I'm gonna kiss you
Standing beneath that mistletoe

「むちゃくちゃにいい気分だ、ラジオの音楽もあるし、すごくご機嫌さ、あのヤドリギの下でおまえにキスしたい気分だよ」

f0147840_0263930.jpg「あのヤドリギ」といっても、いま、語り手が外にいるとはかぎりません。セイヨウヤドリギはクリスマスの飾りに用いるからです。世界大百科には「欧米では、セイヨウヤドリギ V. album L.(英名common mistletoe、European mistletoe)がクリスマスの飾りに珍重され、その枝の下では女性にキスすることが許される習慣がある。しかし、祭礼での使用の起りはキリスト教以前の神話にもとづくもので、ヤドリギは古くから神聖な植物とされていた」とあります。したがって、「I feel like I'm gonna kiss you」は、そうした習慣を前提としたラインだということになります。

わが愛読書『花の文化史』の著者、湯浅浩史は、「ニッポニカ」百科事典のヤドリギのエントリーに、以下のように書いています。

落葉した木に着生し常緑を保つヤドリギは、古代の人々にとって驚きであったとみえ、ヨーロッパ各国でセイヨウヤドリギの土着信仰が生じ、儀式に使われた。その諸例はフレーザーの『金枝篇』で取り上げられている。古代ケルト人のドルイド教では年初の月齢6日の夜、ヨーロッパナラに着生したセイヨウヤドリギを切り落とす神事があった。北欧では冬至の火祭りに光の神バルデルの人形とセイヨウヤドリギを火のなかに投げ、光の新生を願った。常緑のヤドリギを春の女神や光の精の象徴として室内に飾る風習は、クリスマスと結び付き、現代に残る。

オーティス・レディングから、『金枝篇』だの、ドルイド教だのにジャンプするとは思いませんでした。

さて、最後のヴァース。いや、オーティス盤ではちょっと変更して、ストップ・タイムも使い、ブリッジのように扱っています。

Santa came down the chimney
Half past three, y'all
Left all them good ole presents
For my baby and for me, ha, ha, ha

「三時半になると、サンタが煙突を降りてきて、ベイビーと俺のために、すごいプレゼントをおいていってくれる」

ほら、たいした意味のある歌詞じゃないといったでしょう? まあ、当たり前のことを書けば、歌詞になることもある、ということを示していますが、それにしても、もうすこし作詞家には仕事をしてもらいたいと思います。

◆ 華やかなサウンド ◆◆
歌詞はどうでもいい代物ですが、オーティス・レディング盤Merry Cristmas Babyの音は、なかなかグッド・グルーヴです。ほかのヴァージョンは、みなかったるいテンポで、かったるくやっていますが、オーティス盤は軽快で、クリスマス・ソングらしい華やかな雰囲気があります。

f0147840_028544.jpgコード・チェンジも改変しています。セヴンスではなく、ふつうのメイジャー・コードにして、しかも、Bbだけでことがすむのに、Bb-Ebという形にしています。Ebは飾りのコードです。もちろん、3度あがってEbにいくと、Eb-Abというパターンになるわけですが。

華やかな雰囲気を演出しているのは、主としてブッカー・T・ジョーンズのオルガンのサウンドとフレージングですが、スティーヴ・クロッパーの変てこりんなギター・アルペジオも、いつものように魅力的です。なんにもいわれなくても、あ、スティーヴ・クロッパーだ、と3秒でわかっちゃう、独特のラインの取り方です。5、4弦の使い方に特長があり、この曲もそのパターンでやっています。

f0147840_03019100.jpgキーがBbであることからわかるように、ホーン・セクションも重要な役割を果たしています(ただし、途中で半音転調して、Bになっちゃいます。ホーン・セクションとしては、いらんことせんといてえな、でしょうが)。昔読んだインタヴューで、スティーヴ・クロッパーが、オーティス・レディングのホーン・アレンジにふれていました。ホーンはいつもオーティスが自分でアレンジしたそうで、それも「口移し」だったのだとか。つまり、たとえばまずバリトンに、おまえはこうやれ、と口笛でやってみせ、つぎにテナーに、おまえはこう、という風に、譜面なしで各パートにラインを伝えたというのです。

いかにもシンガーらしいやり方で、ほとんどコーラス・グループのアレンジ手法(というほどの大げさなものではないですが)です。ブライアン・ウィルソンのアレンジ・スタイルと同じですね。頭のなかでは、ちゃんとハーモニックに音が鳴っているけれど、それを伝える譜面という手段をもたない、「たたき上げ」の現場の人間のやり方です。

Indian Summerのときに、デューク・エリントン・バンドのメンバーの多くが、サイト・リーディングが不得手だったということを書きましたが、案外、そういうプレイヤーは多かったのかもしれません。それなら、各パートを口笛でやってみせるオーティスの方法は、むしろ理にかなったやり方というべきでしょう。スティーヴ・クロッパーは、ホーン・アレンジについては、すべてオーティスから学んだといっていました。

◆ その他のヴァージョン ◆◆
さて、他のヴァージョンですが、うーむ、今日ははやっかいです。ブルーズ嫌いを臨時に棚上げして、できるだけ無心に聴くと、ひどい、というものはありません。そりゃそうですよね。ビッグ・ネームばかり、ずらっと顔をそろえているのですから。これだけの「名代役者顔見せ興行ソング」はそうあるものではありません。

f0147840_0363059.jpgしかし、「無心」などというものがあるはずもないので、できるだけブルーズのうっとうしさがない、「色気」のあるものを選ぶとすると……まずは、ジェイムズ・ブラウン盤でしょうか。管のアレンジに色気があります。またいつかと同じことをいいますが、日活映画サントラ風の管です。ジェイムズ・ブラウンの歌い方も脂っこいものではなく、好みです。弦を入れたところもいいですねえ。

f0147840_0365868.jpgつぎはルイ・アームストロング盤でしょうか。アレンジとサウンドの比較をやっているだけなんですがね。サッチモ盤もやはり管のアレンジがグッド・フィーリンです。イントロから、お、かっこいいホーンだな、と感じます。サッチモ・ファンからは、当たり前だろ、と怒られるでしょうけれど。ヴァイブラフォーンの間奏もまたけっこう毛だらけ。

f0147840_0372251.jpgあとは、あまり面白いものがありません。エルヴィス盤は、なんだかスティーヴ・クロッパー風のギターが入っています。セッショノグラフィーを見ると、71年5月にナッシュヴィルのRCAで録音されています。ギターは3人で、ジェイムズ・バートン、チップ・ヤング、チャーリー・ホッジ。当然、この曲のリードはジェイムズ・バートンです。エルヴィスが、ソロの前に、Take it Jamesとかなんとかいっています。スティーヴ・クロッパー風だと感じたのは、二人ともテレキャスター・プレイヤーだからです。

エルヴィス盤については、面白いと感じるのはギターだけです。ドラムは好かないなあ、と思ったら、ケニー・バトリーの名前がありました。どうりで。この時期のエルヴィスのツアー・バンドは強力なのですが、そのメンバーからはバートンしか参加していなくて、あとはナッシュヴィルのプレイヤーばかりのようです。バトリーじゃなくて、ロン・タットだったらもっといいグルーヴになっていたでしょう。

f0147840_0375642.jpgチャック・ベリーは、ときおりやるのですが、チャック・ベリー風のアレンジではなく、ただのスロウ・ブルーズです。こういう文脈では、彼のギターはあまり面白いものではありませんし、ヴォーカルも、ちょっとなあ、です。

f0147840_0383077.jpgMG'sとラムジー・ルイスの2種のインストも、とくに工夫したわけではなく、ふつうにブルーズをやっています。歌詞がないと、ただのブルーズだから、どんなタイトルをつけてもかまわないと思うのですが? ラムジー・ルイス・トリオのドラマーは、だれだか知りませんが、あまりうまくありません。ロールを使っているのですが、ハル・ブレイン、ジム・ゴードン、B・J・ウィルソンといった、美しいロールをやるプレイヤーを聴き慣れていると、こういうぞんざいなロールにはムッとなります。できないなら、やるんじゃない、です。

f0147840_0391499.jpgスティーヴ・クロッパーは、ソロをとったときよりも、バッキングのほうで冴えを見せるので、この曲はそれほど面白くありません。このメンバーでオーティス盤のバッキングをしているのですが、MG's盤は、オーティスのようなコードの改変はしていません。ただのブルーズ。

こうしてみると、どこといって特長のないブルーズを、クリスマス・ソングらしい華やかなものにしてみせたオーティス・レディングは、やはりたいしたものだと思います。ただ歌っていたわけではないなく、サウンド作りに関しても、ちゃんと考えていたのだと、改めて感じました。
by songsf4s | 2007-12-08 00:06 | クリスマス・ソング