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Rudolph the Red-Nosed Reindeer by the Temptations
タイトル
Rudolph the Red-Nosed Reindeer
アーティスト
The Temptations
ライター
Johnny Marks
収録アルバム
Christmas Card
リリース年
1970年
他のヴァージョン
Billy May, the Crystals, Ray Charles, Fats Domino, Dean Martin, Alvin & the Chipmunks, Gene Autry, the Ventures, Paul Anka, the Cadillacs, Willie Nelson, the Melodeers, Lynyrd Skynyrd, Burl Ives, Vaughn Monroe & His Orchestra and so many others!
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Summertimeのときも、ついこのあいだのSleigh Rideのときも、ヴァージョンが多すぎるとボヤきましたが、このRudolph the Red-Nosed Reindeerの検索結果を見て、ひっくり返りました。なんと35種ももっていたのです。たくさんあるだろうとは思っていましたが、まさかこれほどとは思っていませんでした。よく考えもせずに集めてはいけない、という教訓ですので、以て他山の石となしてください。

しかたがないから、とにかく、ひととおり聴いてみました。上記の「その他のヴァージョン」にあげたものは、一部にすぎません。全部書けば、どこかでぜったいにスペルをまちがえるにちがいないし、お読みになる気も起きないだろうと考えたしだいです。これ以外にも、退屈なヴァージョン、馬鹿馬鹿しいヴァージョン、その他いろいろありますが、世の中には、知らないほうが幸せ、ということがらもあるのです!

(2011年12月追記 出来がいいので、無理矢理ここにクリップを押し込みます)
Jingle Cats - Rudolph and Santa Cat


◆ サンタ一家外伝 ◆◆
子ども向けの曲ではありますが、いちおうストーリーらしきものがあるので、歌詞を見てみます。看板に立てたテンプテーションズのヴァージョンは、一般的なものとすこし異なっています。調べてみたら、親切に、だれがどこを歌っているかまで書いてあるものがあったので、それを利用させていただきます。

クリスマス・ソングにはいくつかそういうものがあるのですが、このRudolph the Red-Nosed Reindeerにも、通常、ポップ・ミュージックの世界でいう「ヴァース」とは意味が異なる、前付けの独唱部という意味でのヴァースがあります。略すシンガーも多いのですが、テンプスはちゃんとこの前付けも歌っていますし、ここが彼らのヴァージョンのハイライトのひとつでもあります。では、その前付けのヴァースから。

Paul:
You Know there's Dasher and Dancer and Prancer and Vixen

Dennis:
Comet and Cupid and Donner and Blitzen

Eddie:
Oh, but do you recall

Otis:
The most famous reindeer of all?

Eddie:
Whoa-o-o-o-o

Melvin:
His name is...

「ダッシャー、ダンサー、プランサー、ヴィクセン、コメット、キューピッド、ドナー、ブリッツェン、いろいろなトナカイがいる、でも、あらゆるトナカイのなかでいちばん有名なトナカイを覚えているかい? その名前は……」

ダッシャーは「ダッシュする」のdashに-erをつけたもの、pranceは踊り跳ねること、vixenは辞書では「口やかましい女、がみがみ女」となっています。でも、色っぽい女性のこともvixenといいます。ドナーは不明。辞書で調べても「サンタクロースのトナカイの伝説的な名前」とあるだけです。おいおい。昔からそうなっているということなので、あきらめてください。

Rudolph the Red-Nosed Reindeer by the Temptations_f0147840_1454284.jpgブリッツェンはドイツ語らしく、意味はわかりませんが、「電撃」という意味のblitzからきているのでしょう。例のナチス・ドイツの「電撃作戦」は、ドイツ語では「ブリッツクリーク」といいますが、それと同じ根の言葉だと思います。

ルドルフは「サンタクロースの9番目のトナカイ」だそうですから、サンタのトナカイには、ルドルフの先輩にあたる8頭のトナカイがいることになり、わたしは寡聞にして知りませんが、ダッシャーだのダンサーだのは、その名前なのでしょう。なんだか、浪花節の『清水次郎長外伝』みたいだなあ、と馬鹿馬鹿しい連想をしました。次郎長外伝の三十石船でしたか、あの「寿司食いねえ」のくだりで、森の石松が出てくるまでにずいぶん手間がかかるのと、この歌の独唱部はよく似ています。

Rudolph the Red-Nosed Reindeer by the Temptations_f0147840_1411223.jpg各ラインでリードをとっているシンガーのフルネームを書いておくと、登場順に、ポール・ウィリアムズ、デニス・エドワーズ、エディー・ケンドリクス、オーティス・ウィリアムズ、メルヴィン・フランクリンです。デイヴィッド・ラフィンは68年に抜け、この70年リリースのRudolph the Red-Nosed Reindeerのときにはすでにいません。

◆ はぐれ者からヒーローへ ◆◆
さて、ようやくのことでファースト・ヴァースへ。ここからはテンプス版ではなく、一般的な歌詞を使います。テンプスは、ちょっとアドリブが入ったり、割り台詞のようにリードをまわしたり、コール&レスポンス風にしたりといったアレンジをしています。

Rudolph the red-nosed reindeer
Had a very shiny nose
And if you ever saw it
You would even say it glows

「赤鼻のトナカイ、ルドルフはピカピカ光る鼻をしていた、もしも実物を見れば、燃え立つほど光っているといいたくなるかもしれないほどさ」

前付けのヴァースの「その名前は……」から、直接にルドルフにつながっています。つづいてセカンド・ヴァース。

All of the other reindeer
Used to laugh and call him names
They never let poor Rudolph
Join in any reindeer games

「ほかのトナカイはみな、彼をあざ笑い、はやし立て、可哀想なルドルフをトナカイ仲間の遊びにいれてやろうとはしなかった」

「call one names」は成句で、悪口をいうことを意味します。童話によくあるパターンに感じますが、それもそのはず、赤鼻のトナカイは「醜いアヒルの子」をベースにして書かれたのだそうです。

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キャプションは歌詞をそのまま引用して「ほかのトナカイはみな、彼をあざ笑い、はやし立てたものだった」となっている。ただし、「だった」がイタリックで強調されている! 壁のトナカイの剥製にはネーム・プレートがあり、Dasherからはじまる8頭の名前がきちんと書いてある。


クライマクスのブリッジへ。

Then one foggy Christmas Eve
Santa came to say
"Rudolph with your nose so bright
Won't you guide my sleigh tonight?"
Then how the reindeer loved him
As they shouted out with glee
"Rudolph the red-nosed Reindeer
You'll go down in history"

「でも、ある霧の深いクリスマス・イヴのことだった、サンタがやってきて、『ルドルフ、そんなに光り輝く鼻をもっているんだから、ひとつそれで、今夜は橇の先導をしてくれないか?』といった、それからはほかのトナカイたちもルドルフのことが好きになり、大喜びで『赤鼻のトナカイ、ルドルフ、おまえは歴史に名を残すだろう』と叫んだのだった」

ちゃんと起承転結があって、いまどきの小学生の作文じみたポップ・チューンなどより、よほどよくできた歌詞です。昔の作詞家というのは、基礎ができていたこと、職人芸をもっていたことを、こういう歌詞を聴くたびに痛感します。

◆ テンプテーションズ盤 ◆◆
ヴァージョンがたくさんあると、だれを看板に立てるか迷うことが多いのですが、この曲については、はじめからテンプス盤と決めていました。わたしはテンプスがとりわけ好きなわけではありませんし、スモーキー・ロビンソンが楽曲提供とプロデュースしていた時代はともかくとして、ファンクに傾斜してからのテンプスにはまったく興味がなく、盤もあまりもっていません。でも、このRudolph the Red-Nosed Reindeerを聴くと、ひとりひとりの声が素晴らしくて、ボケッと曲をもらって歌っただけでナンバーワンR&Bコーラス・グループになったわけではないと、当たり前のことを改めて思います。

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このMotown Christmasというオムニバス盤にも、テンプスのRudolph the Red-Nosed Reindeerは収録されている。

もうひとつ、テンプス盤が面白いのは、ヴァースのメイジャー・コードをセヴンス・コードに変更していることです。この曲のヴァースは、キーがCだとすると、C-Gを往復するだけの単調なもので、あまり面白いとはいえません。これがたいていのヴァージョンに退屈してしまう理由です。C-Gでは和声的な面白みをもたせることができず、アレンジャー泣かせの曲です。じっさい、アレンジャーの苦闘がにじみ出ているヴァージョンがかなりあります。

ヴァースの2つのコードをセヴンスにすることで、コード・チェンジはシンプルなままでも、R&Bらしいグルーヴをつくりだす土台ができるわけで、テンプス盤のアレンジはクレヴァーな変更だと思います(ほかに、レイ・チャールズ盤もセヴンスでやっている。レイ・チャールズのコードの変更については、Rainy Night in Georgiaでもふれた)。

Rudolph the Red-Nosed Reindeer by the Temptations_f0147840_147145.jpgじっさい、前付けの独唱部は、それぞれの声のよさとヴォーカル・テクニックの魅力で惹きつけ、ヴァースに入るとバンドのグルーヴで惹きつけるわけで、テンプス盤は群を抜いてよくできています。メンバーは不明ですが、1970年リリースだから、まちがいなくハリウッド録音で、ドラムズはポール・ハンフリーに聞こえます。ベースは微妙なところですが、キャロル・ケイより、ボブ・ウェストに近いと感じます。

40種類近いヴァージョンを聴かなければならないのだから、てんてこ舞いなのに、ほかのヴァージョンはほったらかしにして、すでに何度も聴いているテンプス盤を、今回も繰り返し聴いてしまいました。Rudolph the Red-Nosed Reindeerを聴かなければならないなら、テンプス盤しかありません。

◆ アルヴィン・ストーラー盤 ◆◆
とはいえ、ほかのヴァージョンがすべて退屈なわけではありません。つぎに好きなのは、ドラマーのアルヴィン・ストーラーのヴァージョンです。これはマンボ! じつに楽しいアレンジです。

アルヴィン・ストーラーはビッグバンドの時代から活躍していたドラマーで、50年代にはハリウッドでスタジオ・ワークをするようになったそうです。シェリー・マン、ジャック・スパーリング、ラリー・バンカーなどよりひと世代上の、ジャズ・オリエンティッドなスタジオ・ドラマーということになります。

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アルヴィン・ストーラーのRudolph the Red-Nosed Reindeerを収録したUltra Loungeシリーズのクリスマス篇、Christmas Cocktails Part One。このUltra Loungeのクリスマス篇は、毎年、シーズンになるとよく聴いている。

ビッグ・バンド時代には、ベニー・グッドマン、トミー・ドーシー、ハリー・ジェイムズなどの一流オーケストラでプレイし、スタジオ・プレイヤーとしては、ビリー・ホリデイ、メル・トーメ、フランク・シナトラ、エラ・フィッツジェラルドなどのレコーディングに参加したと資料にあります。

面白いのは、バディー・リッチのヴォーカル盤(そういうのがあるのです。盤はもっていませんが、バイオ・ヴィデオで歌っているのを見ました。本気でシンガーに転向するつもりだったとか! 変な人です)でストゥールに坐ったのが、アルヴィン・ストーラーだったことです。

歌をうたうと決めたら、ドラムを叩かないバディー・リッチも面白いのですが、この傑出したドラマーが、自分の歌のバッキングに選んだドラマーがストーラーだったということは、彼が信頼できるプレイヤーだったことを証明しています。ジャズ・ドラマーのなかには、手数ばかり多くて、ドラマーの基本であるタイムがまるでなっていない人がけっこういるのですが、バディー・リッチは素晴らしいタイムをしています。そのバディー・リッチが選んだのだから、ストーラーのタイムのよさはおわかりでしょう。

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ちなみに、バディー・リッチが娘のデビュー盤をプロデュースしたときに、彼が選んだドラマーはハル・ブレインです。ついでにいえば、パーカッションはミルト・ホランド。一流は一流を好むのです。ミルト・ホランドは、リッチが自分で叩かないことを不審に思い、仕事のあとで、なぜハルなのだと訊ねたそうです。彼はひと言「I want the best」と答えたとか。もっとも、このエピソードを文字にしたのは、ハル・ブレイン自身なのですが!

ともあれ、バディー・リッチを信用するなら(わたしは彼のファンなので信用します)、アルヴィン・ストーラーは、50年代のハル・ブレインだったことになるでしょう。そういう人の経歴の詳細もわからなければ、写真すら見つからないのだから、イヤな気分になります。光を当てなければいけないプレイヤーが、まだまだたくさん隠れているのでしょうね。

★★★ 12月22日追記 ★★★
MP3タグの表示をもとに、「アルヴィン・ストーラーのRudolph the Red-Nosed Reindeer」としましたが、久しぶりにライナーを見たら、アーティストの名前はビリー・メイとなっていました。ストーラーはこの曲ではヴォーカルとしてクレジットされています。謹んで訂正いたします。


◆ その他のヴァージョン ◆◆
Rudolph the Red-Nosed Reindeer by the Temptations_f0147840_2162527.jpgつぎにくるのは、やはりフィル・スペクターがプロデュースした、クリスタルズのヴァージョンでしょう。ドラムはもちろんハル・ブレイン。バックビートを叩かず、フィルばかり叩く異例のプレイです。ハル以外にもだれかが、コンサート・ベース・ドラムをマレットで叩いているようで、変なアレンジです。12弦ギターのリックがフィーチャーされていますが、これはスペクターの全カタログのなかでも異例のこと。

Rudolph the Red-Nosed Reindeer by the Temptations_f0147840_2173968.jpg当たり前のものはあまり面白くないのですが、オリジナルのジーン・オートリー盤はなかなかけっこうで、大ヒットもうなずけます。声もよくて、なるほど一時代を画した人だと感じます。

いい加減なクリスマス・オムニバスに入っていたもので、録音時期がよくわからないのですが、ファッツ・ドミノ盤も好みです。音は新しめですが、歌はいつものファッツのスタイルで、雰囲気があります。

Rudolph the Red-Nosed Reindeer by the Temptations_f0147840_221442.jpgディーン・マーティン盤も、オーソドクスなつくりですが、なかなか楽しめます。声がいいんだから、当たり前です。

Speedoのキャディラックスは、R&Bコーラス・グループなので、初期のドリフターズを思わせるような、ドゥーワップ・アレンジでやっています。ドラムが下手で、グルーヴはいただけませんが、ヴォーカル・アレンジは好み。

ポール・アンカ盤はビッグ・バンド・アレンジで、サウンドとしては申し分ありません。クリスマス・ソングには、ビッグ・バンド・スタイルは合っていると思うのですが、なぜか、わが家にはそういうものがすくなく、これから鋭意博捜したいと思っています。だれだかわかりませんが、ドラマーはおおいに好み。

Rudolph the Red-Nosed Reindeer by the Temptations_f0147840_225522.jpgレイ・チャールズ盤は前述のようにヴァースのコードをセヴンスに変更していて、それ自体はけっこうなのです。でも、リズムも8ビートにしているのですが、それがピタッとしなくて、いいグルーヴとはいいかねます。彼が50年代、60年代にいっしょにやったバンドにくらべると、数段落ちる、二流のバンドの音です。

スリー・サンズ盤は、毎度申し上げるように、チューバにめげるのですが、ギターはさすがのプレイ。

オーケストラものでは、うーん、とくにいいものはないのですが、しいていうとパーシー・フェイス楽団でしょうか。パーカッションの扱いが面白く感じます。ヘンリー・マンシーニも悪くはありませんが(ドラムが素晴らしい)、いつものアレンジの冴えは感じません。C-Gというか、I-Vなんていうコード進行の曲は、オーケストラ・アレンジには向かないのです。

Rudolph the Red-Nosed Reindeer by the Temptations_f0147840_227491.jpgレーナード・スキナード盤は、全盛期ではなく、比較的近年の録音ですが、このバンドらしく、ギターがごり押しするところは楽しめます。似たような位置にあるシカゴ盤より上出来。

わが家にはないのですが、You Tubeで見た、というか、聴いたというべきでしょうが、ドン・マクリーン・ヴァージョンも悪くありません。ギター一本で歌っているのですが、コードの扱いにセンスが感じられます。

◆ 「売り子」としての一生 ◆◆
書き落としがあるような気もするのですが、このへんでもういいでしょう。

赤鼻のトナカイの物語は、デパートがクリスマス商戦の宣伝として、無料で配った絵本として生まれたものだそうです。商品を売るための材料だったものが、いつのまにか、なにやら神話じみたものになってしまったところに、アメリカらしさがあらわれているように思います。いや、まあ、日本だって、そちらの方向に傾いているような気がしなくもないのですが……。

Rudolph the Red-Nosed Reindeer by the Temptations_f0147840_230591.jpgキャラクターができあがれば、当然、物語のほうも発展し、さまざまなメディアで、さまざまな「外伝」がつくられています。そういう物語を盤にしたものもあり、ウェブで見つけたものを聴いてみました。ルドルフがサンタのところのきた哀れな少年たちの手紙に心動かされ、彼らのさびれたサーカスに、犬のように鳴く猫とか、猫のように鳴く犬とか、そういう、ルドルフと同類のはぐれ者を集めて送り込み、おおいに繁盛させる、なんていう物語が収録されていました。

デパートの宣伝キャラクターという出自だから、そういう話にならざるをえないのでしょうね。もはや夢多き子どもではなく、ちょっとシニカルな大人になったわたしは、そうか、アメリカ人のいう機会均等とは、結局、商売のことなのだな、などとしょーもないことを思ったのでありました。

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by songsf4s | 2007-12-03 00:07 | クリスマス・ソング