- タイトル
- Christmas Island
- アーティスト
- The Andrews Sisters
- ライター
- Lyle Moraine
- 収録アルバム
- Their All-Time Greatest Hits
- リリース年
- 1946年
- 他のヴァージョン
- The Lennon Sisters
クリスマス・ソング特集はまだ二曲しかやっていないのに、すでにヴァージョンのあまりの多さ、歌詞の馬鹿馬鹿しさにへこたれています。そこで、ヴァージョンがすくなく、歌詞に多少は意味のあるものをあれこれ選った結果、この曲がよかろうと考えました。
◆ ジングル・ベルも雪ももううんざり ◆◆
以下の歌詞は、わが家にあるアンドルーズ・シスターズ盤とはいくぶん異なる、ジミー・バフェット盤の歌詞を参照し、前付けの部分を加えたものです。
Let's get away from snow
Let's make a break some Christmas
Dear, I know the place to go
「スレイ・ベルはもうたくさん、雪もうんざり、クリスマスの休みにはどこかへいきましょう、いいところがあるのよ」
ここまでの4行はアンドルーズ盤にはありません。よけいな説明といえばそうなのですが、あってもわるくない前付けだと思います。スレイ・ベルには、わたしも少々うんざりしていますし、年をとって、どんどん気温が下がっていくいまの時季も、ちょっとつらく感じるようになったので、こういう歌は当方の気分にも合っています。
The Andrews Sisters - Christmas Island
あまりやりたくはないのですが、アンドルーズ・シスターズ、レノン・シスターズという、いにしえの「ガール・グループ」(とは当時はいわなかったでしょうが)に敬意を表し、今回は女言葉でいきます。では、アンドルーズ盤の歌い出しの部分を。
How'd you like to spend the holiday away across the sea?
How'd you like to spend Christmas on Christmas Island?
How'd you like to hang a stocking on a great big coconut tree?
「クリスマス島でクリスマスを過ごすのはいかが? クリスマス休暇に海を渡って遠出をするのはいかが? クリスマス島でクリスマスを過ごすのはいかが? ものすごく大きなココナツの木にストッキングを吊すのはいかが?」
ストッキングを吊すといっても、もちろん洗濯をするわけでもなければ、昔のハリウッド映画にあったような、色っぽいお誘いでもありません。いうまでもなくサンタ・クロースへのお誘いです。クリスマス島については後段で。
◆ ところ変われば、乗り物も変わる ◆◆
以下はコーラス。
Wait for Santa to sail in with your presents in a canoe
If you ever spend Christmas on Christmas Island
You will never stray for everyday
Your Christmas dreams come true
「島の人たちみたいに、遅くまで眠らず、サンタがプレゼントをカヌーに載せてやってくるのを待つのはいかが? 一度でもクリスマス島でクリスマスを過ごせば、二度と夜遊びをすることもなくなるわよ」
サンタクロースの乗り物というのは、ノヴェルティー系のクリスマス・ソングでは重要な趣向のひとつです。すぐに思い浮かぶものでも、ホットロッド、ロケット、象など、さまざまな乗り物が登場しています。
strayは迷うこと、彷徨うことをいいますが、女性が男に向かっていうのだからして、midnight paradeのことをいっているのだろうとみなしました。降誕祭という名前の付いた場所なのだから、という心ではないでしょうか。
管のアンサンブルによる間奏をはさんだあとは、ブリッジの繰り返しですが、最後に「止め」の一行が加えられています。
Wait for Santa to sail in with your presents in a canoe
If you ever spend Christmas on Christmas Island
You will never stray for everyday
Your Christmas dreams come true
◆ Discover Christmas Island (but which?) ◆◆
まず、クリスマス島とはどこのことなのか、という問題について。辞書で見るかぎりでは、クリスマス島という島は二カ所あります。ポリネシアのキリバス共和国はライン諸島にあるものと、オーストラリア領のものです。アメリカに近いという単純な理由によりますが、この曲が想定しているのは、キリバス共和国のクリスマス島のほうだと思います。なんだか地理のお勉強みたいですが、以下に世界大百科のクリスマス島の記述をコピーしておきます。
「中部太平洋、キリバス共和国のライン諸島中の環礁(北緯1"59'、西経157"30')。周囲約160kmにおよび、純粋のサンゴ礁島としては世界最大。面積364平方キロ、人口1288人(1978年)。1777年にキャプテン・クックにより初めて西欧人の知見に入った。当時、島に多数の住居址はあったものの、無人であった。島名は、クックがここでクリスマスを過ごしたことによる。1888年英領となった。19世紀半ば以降グアノが採掘され、20世紀に入ってからはココヤシのプランテーションが始まった。1956‐58年にイギリスの、62年にはアメリカの、それぞれ核実験場とされた。キリバス独立後は、漁業を中心とする同国の経済センターの一つとして発展している」
たしかに、サンゴ礁島としては大きいと思いますが、人口は少ないですねえ。従業員1300人なんて工場は、日本中にざらにあるでしょうし、それくらいの人が働いているオフィス・ビルもかなりあるでしょう。「西欧人の知見に入った」という生硬な表現は、おそらく「発見」という不正確な表現を避けたためのものと思われます。昔、「コロンブスの新大陸発見」といっていたことは、近ごろの学校ではどう教えているのでしょうか。
なんだって、ポリネシアの島にクリスマス島などという名前がついているのかという謎は、キャプテン・クックで氷解です。いまになると、なにを好き勝手なゴタクをほざいているのやら、と思いますが、島の名前を聞こうにも、無人ではどうにもならないですね。
子どものころにこの島の名前を聞いた覚えがあったのですが、核実験場としてニュースで見たのだということがわかりました。この歌ができたころには、まだそんな未来は予見できなかったわけで、結果的に、ちょっと皮肉な歌詞になってしまったようです。
よせばいいのに、いろいろ読んでみたところ、キリバス共和国のスペルがなぜKiribatiという妙ちきりんなものなのかという理由がわかりました。キリバスの言葉にsの音をあらわす文字がないため、tiで代用しているのだそうです。キリバスというのは、Gilbertの意味だそうです(昔、ギルバート諸島といっていたのをご記憶でしょうか)。
で、クリスマス島を現地ではKiritimatiと書き、kee-rees-massと発音するというのだから、カタカナにすると「キーリースマス」あたりということになります。あんた、発音、なまってるよ。
◆ 真贋の謎 ◆◆
アンドルーズ・シスターズは1930年代終わりから1950年代はじめにかけて活躍した、ミネアポリス出身の3人組女性コーラス・グループです。わたしよりふたまわり上の音楽ファンは、こういう説明を読んだら、ビートルズとは何者かと説明するような愚劣なことだ、とお怒りになるでしょう。それくらいに無数のヒットのある人たちです。
わたしはアンドルーズが活躍した時代には生まれていないので、彼女たちのことを知ったのは、ベット・ミドラーのBoogie Woogie Bugle Boyのカヴァーを通じてのことでした。その後、ベスト盤を手に入れ、いい曲ばかりなのに驚きました。Boogie Woogie Bugle BoyやBeat Me Daddy Eight to the Barのような「リズムもの」だけでなく、ミディアム・バラッドもうまくて、なるほど、第二次大戦をはさんだ時期、グレン・ミラーと並ぶトップ・アーティストだったというのも当然だと納得しました。
このChristmas Islandは、第2次大戦終結の翌年、1946年9月の録音で、その年のクリスマスにヒットしたそうです(B面はWinter Wonderland)。でも、問題があります。わたしが所持しているMCAの2枚組CDには、再録音ヴァージョンが多数混入しているのです。Christmas Islandも、1946年、すなわち、アンペクスのテープ・マシンが登場する以前の、ダイレクト・カッティング時代の録音にしては、音がよすぎるように感じます。
Billboard Greatest Christmas Hits 1935-1954という編集盤に収録されたChristmas Islandも同じテイクなので、ひょっとしたら、もとから非常にいい音で、それをディジタル技術でクリーンアップしただけかもしれませんが、どなたかご存知の方がいらしたら、ご教示を願いたいものです。オリジナルのSPを確認しないといけないので、むずかしいでしょうが。
レノン・シスターズ盤は、アンドルーズ盤よりテンポを速くし、歌詞の設定に忠実に、ハワイアン風にやっています。といっても、ウクレレとスティール・ギターの飾りをつけただけのことです。わたしは大昔の女性コーラス・グループにはコロッとやられる傾向があるのですが、だれでもいいというわけではないことが、レノン・シスターズのChristmas Islandで確認できて、ホッとしました。残念ながら、アンドルーズやキング・シスターズのように、すばらしい声の人はいませんし、圧倒的なアンサンブルでもありません。
こうした「シスターズもの」(と昔の日本のジャズ・ファンは呼んでいたとか)の声のブレンドがつくりだす独特の味わいは、エルヴィス以後の時代には、みごとにこの地上からかき消されてしまうわけで、いま、こうして彼女のたちの歌声を聴き、ゆらりゆらゆらと南国気分にひたれるのはまことにありがたく、録音技術というものに感謝したくなります。
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アンドルーズ・シスターズ&ビング・クロスビー
A Merry Christmas with Bing Crosby & The Andrews Sisters