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Coney Island by Van Morrison
タイトル
Coney Island
アーティスト
Van Morrison
ライター
Van Morrison
収録アルバム
Avalon Sunset
リリース年
1989年
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◆ 島といってもいろいろあって…… ◆◆
ヴァン・モリソンの秋の歌は非常に多く、Raincheckにつづくもう1曲をどうしようか迷ったのですが、結局、このConey Islandにしました。その理由はあとで述べることにして、さっそく歌詞を見ていくことにします。いや、この曲には、バックに流れる音楽があるだけで、ヴァン・ザ・マンは歌っていません。ただ、語っているだけなのです。したがって、ヴァースだの、コーラスだのという風には分けられないので、適当なところで分割することにします。

では、最初のブロック。

Coming down from Downpatrick
Stoping off at St. Johns Point
Out all day birdwatching
And the craic was good
Stopped off at Strangford Lough
Early in the morning
Drove through shigly taking pictures
And on to Killyleagh
Stopped off for Sunday papers at the
Lecale district, just before Coney Island

「ダウンパトリックを出発して、セント・ジョンズ岬に立ち寄り、一日中、バードウォッチングで過ごした。気分は申し分なし。早朝にストラングフォード入江で休み、シグリーを通り抜けながら写真を撮り、キリライに向かった。ルカール地区で停まって日曜版を買った。コニー・アイランドまであとわずかだった」

アイルランド観光案内みたいな歌だなと思い、いろいろ読んでみました。まず、タイトルになっているコニー・アイランドですが、すでにおわかりのように、ニューヨークのコニー・アイランドのことではありません。地名ですらなく、したがって島でもなく、「actually a group of cottages which are just off the winding road between Ardglass and Killough」つまり「じっさいには、アードグラスとキローのあいだの曲がりくねった道の周辺にあるコテージ群のこと」なのだそうです。源頼朝が流された蛭ヶ小島が島ではなく、真田昌幸、幸村親子が流された九度山が山ではないみたいなものです。調べてみるものですねえ。

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20世紀初頭のコニー・アイランド・コテージ

そういえば、ランゲルハンス島なんていう、およそ観光には不向きな「島」もありますね。あの「島」を観光できるのは「ミクロの決死圏」(古い!)とナノ・ロボット(新しい!)だけ。

改めて辞書でislandを見ると、「島 《略 is.; cf. →INSULAR a.》; 島に似たもの、孤立した丘。【道路】→SAFETY ISLAND, →TRAFFIC ISLAND, _大草原中の森林地; オアシス; 孤立(民族)集団[地域]; 【解】《細胞の》島、細胞群; 【海】《航空母艦右舷の》アイランド《艦橋・砲台・煙突などを含めた構造物》」とあります。こうしてみると、Coney Islandは「孤立(民族)集団[地域]」ではないかと考えられます。

craicは、アイルランド独特の言葉で、「クラック」と発音し、(場合によってはアルコールや音楽を伴う)娯楽、遊び、楽しみ、仲間、ゴシップなど、さまざまな意味があるのだそうです。ずいぶん語義と用途の広い言葉で、ここでは「気分は申し分なし」としておきました。

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シグリーは地名とみなしておきましたが、ほんとうのところはわかりません。歌詞はオフィシャル・サイトからいただいてきたのですが、大文字になっていないのが気になります。たとえば、草原であるとか、森林であるとか、そういうものを指すアイルランド独特の言葉である可能性もあります。

キリライは、ヴァン・モリソンの発音では「キラライ」に聞こえますが、これは大文字になっているから地名で、地図でも確認しました。海岸線が入り組んで、景色がよさそうな土地に見えます。

◆ 陽光のなかの永遠 ◆◆
二番目のブロック。

On and on, over the hill to Ardglass
In the jamjar, autumn sunshine, magnificent
And all shining through

Stop off at Ardglass for a couple of jars of
Mussels and some potted herrings in case
We get famished before dinner

「アードグラスへの丘をえんえんと走っているあいだ、車のなかにはすばらしい秋の陽光が射しこみ、まばゆく輝く、アードグラスで車を駐め、夕食までに飢えたりしないように、ムラサキイガイとニシンの缶詰を食べる」

缶詰のニシンだから、たぶん、レストランに立ち寄ったのではなく、野外で食べたのでしょう。ひょっとしたら、アイルランドでは缶詰のニシンはごく当たり前で、レストランのサラダに缶詰のアスパラガスが載って出てくるようなものかもしれませんが、この曲のムードからいうと、眺めのよいところで、秋の陽射しを浴びながら、ときおり笑い声をあげ、静かに食事をしている、というほうがふさわしいように感じます。

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最後のブロック。

On and on, over the hill and the craic is good
Heading towards Coney Island

I look at the side of your face as the sunlight comes
Streaming in through the window in the autumn sunshine
And all the time going to Coney Island I'm thinking
Wouldn't it be great if it was like this all the time.

「コニー・アイランドを目指し、えんえんと丘を行く、気分は申し分なし、窓から陽光が流れこんできて、わたしはきみの横顔を見る、コニー・アイランドまでの道すがら、ずっと思いつづけている、いつもこんな風だったら素晴らしいではないか、と」

ヴァンが歌いもせず、ただ語るだけのこの曲を選んだ理由は、この最後のブロックにあります。いや、もちろん、おだやかな心と風景と行動をとらえた、秋の旅行の描写もじつに好ましいのですが、「いつもこんな風だったら素晴らしいではないか」というラインには、まったくだ、と深く同意します。われわれの人生にも、そういう日、そういう瞬間があるじゃないですか。

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Dennis Shaw "Coney Island"

◆ ド・セルビー式アイルランド旅行 ◆◆
若いころ、アイルランドの作家、フラン・オブライエンFlann O'Brienの『第三の警官 The Third Policeman』という長編を読みました。不思議な論理に貫かれた小説で、いつか読み返そうと思い、まだ売り飛ばさずに、どこかにしまいこんであります。

たとえば、「不可視の槍」のエピソードなんていうのが出てきます。穂先が極度に細く研ぎ澄まされていて、肉眼では先端が見えないのです。だから、まだ穂先はずっと向こうだと思っていると、もう刺されちゃっているのです!

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この小説の重要な登場人物、ド・セルビー教授(だったと思いますが)は、旅ということに独特の観念をもっています。「旅で得るものはなにか? 断片的な記憶である。そんなものを得るために、わざわざ苦痛に耐えて家の外に出ることはない。家にこもって、絵はがきを見ているだけで、旅をしたのと同じものが得られる」というのです。これは1967年に出版されたそうですが、いまになると、おそろしく先見的な作品に思えます。

と、長い前置きでしたが、この曲を聴き、この記事を書くためにいろいろ調べていたら、なんだか、ド・セルビー教授になったような気がしてきました。ベルファストを出発して、セント・ジョンズ岬で灯台の写真を撮り、しばらくバードウォッチングを楽しみ、途中、ダウンパトリック・ロードに入りこんでアードグラスに立ち寄り、間道を抜けて、またキロー・ロードに戻り、コニー・アイランドの不思議なコテージ群を見て、昔の人々の生活に思いを馳せ、ただいま帰りました。ニシンの缶詰があるとよかったのですが。

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◆ 自家製ヴァン・モリソン秋の組曲 ◆◆
ヴァン・モリソンの秋の歌の一覧をつくり、検索をかけて、つぎつぎにプレイヤーにドラッグしました。その結果、Coney Islandのつぎには、同じアルバムの秋の歌、Orangefieldがくることになりました。偶然ですが、この並びは非常にぐあいがよく、このアルバムをお持ちの方は、曲順を替えてお聴きになるようにお奨めします。Coney Islandが、Orangefieldの長い前奏曲のように聞こえ、Orangefieldがよりドラマティックに感じられるでしょう。

その理由はじつに単純です。Coney IslandのキーはGで、コード・チェンジといってもG-Fと二つのメイジャー・コードをいったりきたりするだけの、テンポが遅めの、ゆるやかな環境音楽のようなものです。それに対して、Orangefieldはミディアム・テンポで、キーはやはりGです。同じ時期に同じプレイヤーで録音した曲で、サウンドのテクスチャーも同じ、スロウからミドルへの移行だから、まったく違和感なく、きれいにつながるのです。

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Dennis Shaw "Cottages Portaferry"

九月のどん尻に取り上げたWhen the Leaves Come Falling Down、ほんの数日前のRaincheck、そして本日のConey Islandとつづいたヴァン・モリソンの秋のソングブックは、今年はこれで終了です。まだ数曲残っていますが、先述のOrangefieldも含め、あとは来秋のお楽しみとします。秋の歌特集も今週いっぱいで終了の予定です。
by songsf4s | 2007-11-22 23:51 | 秋の歌