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The Things We Did Last Summer by Frank Sinatra
タイトル
The Things We Did Last Summer
アーティスト
Frank Sinatra
ライター
Sammy Cahn, Jule Styne
収録アルバム
Best of Columbia Years 1943-1952
リリース年
1946年
他のヴァージョン
Lesley Gore, Dean Martin, Shelley Fabares, the Beach Boys
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この曲のタイトルには「夏」とありますが、last summerというのだから、夏以外の季節に時季が設定された歌だということははっきりしています。では、その時季はいつかというと、晩秋または初冬ではないかと考えられます。歌詞の内容から、それがうかがえるのです。

◆ 避暑地の遊びのフラッシュ・イメージ ◆◆
では、ファースト・ヴァース。

The boat rides we would take
The moonlight on the lake
The way we danced and hummed our favorite song
The things we did last summer
I'll remember all winter long

「ぼくらが好きだったボート遊び、湖を照らす月の光、ダンスをし、お気に入りの曲をハミングしたっけ、今年の夏にしたことは、冬のあいだずっと忘れないだろう」

ボート遊びのwouldは習慣などを示すものなので、一度や二度のことではなく、何度となくボートに乗ったということをいっています。

last summerは、その時点から見て「最後の夏」にすぎませんが、これから冬が来る、または、いまが初冬であることがこのヴァースの最後のラインで明示されているので、「今年の夏」でしょう。

つづいてセカンド・ヴァース。

The midway and the fun
The kewpie doll we won
The bell I rang to prove that I was strong
The things we did last summer
I'll remember all winter long

「中道での遊び、賞品のキューピー人形、力が強いところを見せようと鳴らしたベル、今年の夏のことは、冬のあいだもずっと忘れないだろう」

midwayというのは、適切な日本語がないようなのですが、遊園地などで、娯楽施設や屋台などが両側に並んだ道のことです。映画ではおなじみですし、日本の場合、温泉街や観光地などにもそういう通りがありますね。南関東でいうと、いまはどうか知りませんが、昔は江ノ島や熱海や伊東にいくと、夜は両側に土産物屋、食べ物屋、射的場、スマートボール場(なんてゲームはまだ存在しているのでしょうか?)などが並んだ通りをそぞろ歩きしました。

f0147840_23561361.jpgキューピーは、wonというのだから、たぶん射的の賞品でしょう。「ベル」というのは、ハンマーで土台を力いっぱい叩くと、なんというのでしょうか、錘の逆のようなものが跳ね上がって、機械のてっぺんに取り付けたベルを鳴らす、というあの遊具のことです。アミューズメント業界でなんというのかちょっと調べてみましたが、arcade hammer game machineとかなんとか、説明的な名前で売っていました。とくに通りのいい一般的名称はないのでしょう。

湖ばかりではなく、そういう施設があるということから、語り手が回想している土地は、おおぜいの人が集まる有名な避暑地だと想像がつきます。


◆ プロの作詞家の技 ◆◆
以下はブリッジ。

The early morning hike
The rented tandem bike
The lunches that we used to pack
We never could explain that sudden summer rain
The looks we got when we got back

「早朝のハイキング、レンタルの二人乗り自転車、よくランチをつくってもっていったっけ、あの突然の通り雨だけは、どうにもわけがわからなかった、帰ってきたときのぼくらの恰好ときたらひどいものさ!」

早朝のハイキングといっても、暑い日中を避けて昧爽から出かけた、ということで、朝のうちに帰ってくるようなら、ハイキングではなく、散歩です。

f0147840_00751.jpg日本の観光地でも最近はレンタ・サイクルが増えたようですが、まだ二人乗り自転車のレンタルというのは見たことがありません。そもそも、タンデム・バイク自体、めったにお目にかかれません。

f0147840_1141258.jpgWe never could explain that sudden summer rainというラインには、サミー・カーンの技が如実にあらわれています。ここで伝えようとしている「事実」は、雨具を用意せずに出かけて、突然のどしゃ降りにあってしまった、ということにすぎません。以上のわたしのセンテンスは事実経過の説明にすぎず、「表現」にはなっていません。「あの突然の雨ばかりは、どうにも説明のつけようがなかった」と表現されたことによって、どれほど二人があわてふためき、同時に笑い合い、それが忘れられない思い出になったかということが、ダイレクトに、ある情景として視覚的に伝わってきます。

うまい、ということは、考えようによっては、あざといということですが、あざといといわれるくらいの技をもっていなければ、プロの作詞家の資格があるとはいえません。ビートルズ以降の素人作詞家全盛時代にあっては、こうした昔のプロフェッショナルの技が慕わしいものに感じられます。

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アメリカのランチ・ボックスというと、こういうオールド・ファッションドなものを思い浮かべる。上の丸い部分にはカチッとポットがはまるので、冷たいレモネードなどを入れる。下段にはサンドウィッチ、果物、ポテトチップスの小袋などを入れる。しかし、これはひとり用なので、この歌に出てくるのは、下の写真のようなバスケット・タイプだろう。

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◆ 秋景色のようにうつろい ◆◆
サードにしてラスト・ヴァース。

The leaves begin to fade like promises we made
How could a love that seemed so right go wrong
That things we did last summer
I'll remember all winter long

「ぼくらが誓った愛と同じように、木の葉の緑もうつろいはじめている、あれほどうまくいっているように思えた恋が、どうしてこんな風にまずくなってしまうのだろう、今年の夏にぼくらがしたことは、冬のあいだずっと忘れないだろう」

というわけで、ブリッジまでずっとつづいた、楽しい夏の出来事の数々は、みな復らぬ昔の話、ああ、儚いなあ、と振り返っている歌だということが、このサード・ヴァースで明示されます。

木の葉がbegin to fadeというのだから、土地によってはいま時分のことではなく、十月ぐらいの歌と受け取ったほうがいいのかもしれません。南関東では、ちょうどいまの時季にピッタリだと感じますが、この歌が書かれた1941(昭和16)年(太平洋戦争開戦の年ですねえ。あちらはのんびりしていたわけで、経済封鎖ですでに物資不足に陥っていたという当時の日本とは別世界)には、たぶん秋の訪れは当今より早かったのではないでしょうか。

サード・ヴァースはちょっとしたダウナーですが、しかし、ブリッジまでの、スライド・ショウでも見るような、動詞すらほとんど使わない、簡潔なthings we didの描写はなかなかみごとで、さすがはサミー・カーンだと感じます。

◆ 格別な味の「若さ」 ◆◆
看板に立てたフランク・シナトラのヴァージョンは、セッショノグラフィー・サイトによると、以下のようなメンバーで、1946年7月にハリウッドで録音されています。

Frank Sinatra(ldr), Axel Stordahl(con, a), Heine Beau, Herbert Haymer, Jules Kinsler, Fred Stulce(sax), Fred Dornbach(sax, per), Don Anderson, Ray Linn, Rubin "Zeke" Zarchy(t), George Jenkins, Edward Kuczborski, Bill Schaefer(tb), Richard Perissi(frh), Dave Barbour(g), Philip Stephens(b), Mark McIntyre(p), May Cambern(hrp), Ray Hagan(d), William Bloom, Harry Bluestone, Werner Callies, Sam Cytron, Peter Ellis, Sam Freed, Gerald Joyce, George Kast, Morris King, Sam Middleman, Mischa Russell, Olcott Vail(vn), Paul Robyn, Stanley Spiegelman, Dave Sterkin(vl), Cy Bernard, Fred Goerner, John Sewell(vc), Frank Sinatra(v)

Stormy Weather その2 by Django Reinhardtのときのように、だれか「知り合い」のお父さんでもいるかと思いましたが、さすがに知っているプレイヤーはゼロ、なじみの名前はアレンジャー/コンダクターのアクスル・ストーダールただひとりです。

アクスル・ストーダールの実力のほどは、Moon of Manakoora by Dorothy Lamourのときにご紹介したアルバム、Jasmine Jadeでよくわかっていますが、これだけ時代が古いと、アレンジの出来がどうこうといえるほど、バンドの音は聞こえません。

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フランク・シナトラとコンダクトするアクスル・ストーダール(1944年11月)

だれであれ、大歌手の若いころの歌声というのは、なかなか印象的なものですが、1940年代の若いシナトラの声はまた格別で、この時代にこだわるシナトラ・ファンが多いのもうなずけます。なるほど、「アイドル」だったのだと納得します。

リプリーズ設立以後、いや、キャピトル時代後半あたりからのシナトラは、スロウ・バラッドになると、ときにくどくなることがありますが、このThe Things We Did Last Summerは、流麗に歌っても、まとわりついてきたりはしません。若いというのはありがたいものです。

◆ レスリー・ゴア盤 ◆◆
この曲はなかなかいいヴァージョンがそろっていて、じつは、看板をだれにするか、最後まで迷いました。もうひとりの候補はレスリー・ゴアでした。

レスリー・ゴア盤は、セッショノグラフィーを読むと、どうやらアルバム・トラックだったようで、シングル・カットされた形跡はありませんが、じつに惜しいことをしたものだと思います。いや、彼女のアルバム・トラックの多くは、シングル曲並みにていねいにつくられていることが、ここでも証明されたというべきかもしれません。

夏の歌の特集をやっているころ、九月のはじめにでも、このThe Things We Did Last Summerを取り上げようかと思い、レスリー・ゴア盤もプレイヤーにドラッグしたまま、ほかの曲といっしょによく流していました。レスリー盤のイントロが流れるたびに、いい音だなあ、と感じ入りました。ギター、ベース、ドラム、ストリングスだけのシンプルなイントロですが、どの音もじつに鮮やかなサウンドになっているし、リー・ハーシュバーグがやったのかと思うほど(いや、たぶんちがいますがね)、みごとなバランシングになっています。これだけ気持ちのよいサウンドになっていれば、歌はいらないかも、といいたくなるほどです。

f0147840_0353663.jpgいや、わたしは昔からレスリーのファンです。70年代に、同時代の音楽にうんざりして、昔のものを聴きたくなったとき、最初に思い浮かべたのは、彼女のIt's My Partyだったほどで、音楽を聴きはじめたころから好きな声、好きな歌い方の人でした。

毎度毎度、同じ歌ばかりうたって恐縮ですが、バラッドのときでも湿度が低く、まとわりついてくるいやらしさがないところが、やはり60年代のスターらしいと感じます。「わたしの時代」には、力強く歌いあげたり、ねちっこく歌ったり、歌のうまさをひけらかすことを優先して、われわれが楽曲のよさを味わうのを邪魔するパアなおばさんジャズ歌手など、まったくお呼びじゃなかったのです。

そして、もうひとつ同じ歌になりますが、声の若さというのは格別なものだなあと、レスリーのThe Things We Did Last Summerを聴いても思うのでした。

このヴァージョンは1965年の録音で、そろそろレスリーと縁が切れかかったクウィンシー・ジョーンズのプロデュース(ひょっとしたら、レスリーとの最後の仕事)です。残念ながら、スタジオはもちろん、アレンジャーやエンジニアの名前もわかりません。

63、4年なら、クウィンシー・ジョーンズのプロデュースの場合、アレンジャーは自動的にクラウス・オーゲルマンと考えて大丈夫なのですが、レスリーの65年は微妙な時期で、この直前のものは、ジャック・ニーチーのプロデュースによるハリウッド録音です。クウィンシー・ジョーンズは、このころから映画の仕事のためにハリウッドに拠点を移していたということですが、The Things We Did Last Summerについては、なんとも判断がつきません。たぶん、ニューヨーク録音じゃないでしょうか。ハリウッドでは書類が残っているので、録音場所および日時がレスリーのボックスにも明記されていますが、ニューヨークは書類が不備なので、ほとんどデータが記載されていません。それから考えれば、このThe Things We Did Last Summerにも記載がないので、ハリウッドではないと推測されます。

◆ ディーン・マーティン盤 ◆◆
年をとるにつれて、だんだんディノという人が好ましく感じられるようになり、最近はよく聴いています。このディーン・マーティン盤The Things We Did Last Summerもなかなか悪くない出来です。しかし、シナトラとレスリー・ゴアのように、どちらを看板に立てようか、などと迷うほどの出来でもありません。

f0147840_038142.jpgこの人がもっとも魅力を発揮するのは、二、三杯はいって気持ちよくなったから、ちょっと歌うか、といった調子で、ひどくノンシャランに、そして、ちょっと面倒くさそうに、たんなる酔余の気まぐれという雰囲気でうたったときだと思います。そういう基準からいうと、The Things We Did Last Summerのディノは、微妙に「きまじめすぎる」と感じます。たんなるわたしの好みにすぎないのですが、もっと投げやりな味が入ったほうが、ディノらしいと感じます。でも、悪くない出来だ、と繰り返しておきます。

f0147840_0392152.jpgシェリー・ファブレイ盤は、うーん、べつに悪くもないけれど、とくによくもない、という感じです。サッド・ソングなのに、アレンジが元気よすぎるのじゃないでしょうか。ヴァイオリンのピチカートと、バックの女性コーラスのアレンジ(タリランとかなんとかいうナンセンス・シラブル)はかなりマヌケです。

ただ、ドラム・クレイジーとしては、この極度にストイックなドラミングにはちょっと惹かれます。二拍目にハイハットの8分2打が入るのですが、これがじつに不思議なサウンドなんです。たぶん、ブラシでハイハットの中心近くを叩いているのではないかと思うのですが、よくわかりません。8分音符の1打目はクローズド、2打目はオープンと、やるべきことをちゃんとやったプレイです。プロ! ご参考までに申し上げれば、シェリーの最大のヒット曲であるJohnny Angelで、極度にストイックなハイハットのプレイをしたドラマーはアール・パーマーです。

◆ ビーチボーイズのボツ・トラック ◆◆
ビーチボーイズ盤は、ボツ・トラックが、ボックスで生き返ったものですが、なるほど、ボツだと感じます。いや、まじめにつくったもので、けっしてデモのレベルではありません。ファンの方なら、クリスマス・アルバムのB面のスタイル、といえばおわかりでしょう。ビーチボーイズにしてはビッグ・プロダクションです。

f0147840_0413683.jpgわたしは、ビーチボーイズのクリスマス・アルバムはA面しか聴きません。B面の時代錯誤なフォー・フレッシュメン・スタイルをまったく好まないものですから、同じようなサウンドのThe Things We Did Last Summerも、同じように好みません。

デイヴィッド・リーフのライナーによると、ブライアンの記憶では、なにかの映画のために録音したけれど、映画そのものが流れたためにお蔵入りしたのだそうです。眠らせたままのほうがよかったかもしれません。ボックス・セットだの、ボーナス・トラックだのというのは、ときにひどく迷惑なものです。

書き忘れていたことがひとつあります。レスリー・ゴアとシェリー・ファブレイは、The bell I rang to prove that I was strongのところのIをyouに変更して歌っています。女の子が「力が強いところを見せるために」ハンマーなんかをガーンとやったら、たちまち男が逃げ腰になってしまう時代だから、これはやむをえない措置でしょう。

でも、女の子がハンマーをふるって、カーンとベルを鳴らしても、わたしなら、アメリカの女の子らしいや、と笑って聴いたでしょう。それはそれで可愛いんじゃないでしょうか。

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by songsf4s | 2007-11-16 23:56 | 秋の歌