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Autumn Almanac by the Kinks その1
タイトル
Autumn Almanac
アーティスト
The Kinks
ライター
Ray Davies
収録アルバム
Singles Collection
リリース年
1967年
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このところ、歌詞の解釈をしなかったり、楽な曲を取り上げたり、休んだりしていた理由は、400ページを超える(訳せば1000枚超)レイ・デイヴィーズの大部な自伝を読むのに忙しかったせいですが、それもようやく終わりました。じつに不思議な自伝で、自伝的小説ないしは彼の世界観のひどくひねくれた表明、ぐらいに受け取っておいたほうがよさそうです。たしかに「非公認自伝」とでも名づけるしかないと納得しました。

f0147840_23504739.jpgそれはそれとして、ポップ・スターの自伝として事実を拾うこともできます。たとえば、Waterloo Sunsetの歌詞と録音にどれほど手間をかけ、どれほどだいじに、だいじに、つくっていったかということも語られています(プロデューサーのシェル・タルミーすら排除して、RD自身のセルフ・プロデュースによることが明かされている)。彼にとって「生涯の曲」は、Waterloo SunsetとDaysのようで、ジュリーという女性とこの曲については何度も言及されています。

ということは、あの視点の移動、一人称から三人称への転換は、「たまたまそうなった」のではなく、意図的におこなったことにちがいありません。なぜ、ああいうイレギュラーなことをしたかについては、残念ながら、なにも言及されていないのですが。

本日は、Waterloo Sunsetの直後に録音された、きわめつけの秋の曲、歌詞も曲もじつに不可解な、いかにも1967年のレイ・デイヴィーズらしいスタイルでつくられた、かのAutumn Almanacを取り上げます。秋の歌特集は、あくまでもこの曲を取り上げることを目的としているので、ほかの曲は露払い、付け足り、脇役にすぎません。

◆ 「スイッピンミマサ」 ◆◆
それではファースト・ヴァース、といいたいところですが、なにがヴァースやらコーラスやらブリッジやら、よくわからない曲なので、適当と思われる場所で、任意にブロック分けしながらやっていきます。以下は、通常の曲ならたぶんファースト・ヴァースに相当する部分です。

From the dew-soaked hedge
Creeps a crawly caterpillar
When the dawn begins to crack
It's all part of my autumn almanac
Breeze blows leaves of a musty-coloured yellow
So I sweep them in my sack
Yes, yes, yes, it's my autumn almanac

「夜明けとともに、露に濡れた生け垣から、いも虫がモゾモゾと這い出してくる、これもまたわたしの秋の暦の一部、風が黄色い朽ち葉を吹き飛ばすので、わたしは落ち葉を掃いて袋に入れる、そう、これがわたしの秋の暦」

この曲は、シングルのみのリリースで、同時期のアルバム、Something Elseには収録されず、アメリカではヒットしなかったので、わたしが聴いたのは70年代はじめにリリースされた、The Kink Kroniclesという編集盤でのことでした。

f0147840_23523091.jpgこのダブル・アルバムではじめて聴いた曲のなかでは、Autumn Almanacは出色の出来だと思いましたが、なにをいっているのかさっぱり聴き取れず、往生しました。ファースト・ラインなんて、ぜんぜん聴き取れなかったし、sweep them in my sackも「スイッピンミマサ」と聞こえて、単語に分離することができませんでした。RDのディクションも、コクニーがひどいのでしょうが、ヴォキャブラリーが流行歌の歌詞にはないものだということも影響しています。レイモンド・ダグラスというのは、「そういう人」なのです。

いも虫は暖かい時分のものだろう、という方がいらっしゃるかもしれませんが、そうとはかぎりません。つい昨日も、わが家の柚子の木で這っているのを見ました。一昨年の十月には、本葉が出て、育ちはじめた水菜を黒いいも虫に全滅させられたこともあります。秋にも、さまざまないも虫がいるのです。

◆ カラント・バン ◆◆
以下は、冒頭のヴァースのようなものとは、メロディーもコードも異なる第二ブロック。そういうものは、ふつうなら、コーラスまたはブリッジのはずですが、どちらとも判断できません。どんどん相貌が変化していく曲なのです。

Friday evenings, people get together
Hiding from the weather
Tea and toasted, buttered currant buns
Tryin' to compensate for lack of sun
Because the summer's all gone

「金曜の宵になると、ひどい天気から逃れてひとびとが集まり、お茶と炙ってバターを塗ったカラント・バンで、太陽が顔を出さないことのかわりにしようとする、夏はもう遠い話だから」

f0147840_23552118.jpgcurrantは干しぶどう、レーズンのことなので、currant bunとは、要するにぶどうパンなのですが、bunとあるので、日本でよく見る食パン型のぶどうパンではありません。bunは丸い形のものですが、hamburger bunのように大きなものではなく、もっと小さなもののようです。

ここは比較的よく聞こえるところなので、昔からいっしょに歌っていましたが、バタードのあとが、やはりよくわかりませんでした。currant bunsなんて言葉が出てくる歌は、あまりないでしょう(検索すると、ピンク・フロイドがむやみに引っかかるので、彼らの曲にそういうタイトルのものがあるのかもしれません)。こんな言葉にも、RDの食べ物に対するこだわりがあらわれています。

people get togetherとhiding from the weatherは、この曲のなかで、いっしょに歌っていていちばん気持ちのよいラインです。ということは、たとえ文字でどのように見えようとも、すぐれた韻だということにほかなりません。

f0147840_23563921.jpg歌詞サイトによっては、tryin' to compensateをcan't compensateとしているところがあります。じっさい、聴き取りにくいところなのですが、歌詞の出来として、can'tでは平板で、あまりよろしくないと感じます。tyrin' toのほうがずっと上等です。ここでは、『The Kinks: The Official Biography』という本に掲載された歌詞にしたがっておきます。オフィシャルというのだから、RD本人ではなくても、だれかキンクス側関係者がチェックしたものだろうと思うからです。

なお、この本では、ここまでの二つのブロックをひとつのものとして書いています。それがRDの意図かもしれません。

◆ 背中の痛みと悪夢 ◆◆
以下は短いものですが、オフィシャル本では、単独のブロックがあたえられています。メロディーとしては、第一ブロックの「So I sweep them in my sack/Yes, yes, yes, it's my autumn almanac」と同じで、印象としてはコーラスに聞こえるパートです。

Oh! my poor rheumatic back!
Yes, yes, yes, it's my autumn almanac
Oh, my autumn almanac
Yes, yes, yes, it's my autumn almanac

「ああ、リューマチの背中が痛む! それもわたしの秋の暦」

おそろしく短いブロックですが、「ララ、ラーラ、ラーララ」などといったナンセンス・シラブル(メロディーは第一ブロックの「Breeze blows leaves of a musty-coloured yellow」と同じ)でつないでいます。

レイモンド・ダグラスは、子どものころにトラック競技で背中を痛めて以来、大人になっても、しばしばこの痛みに悩まされたようです。それがこの、歌としては異例の「季節表現」につながったと思います。古傷をもつ人なら、この「季節感」は身に染みるでしょう! こんなことを歌にした人はRDしかいないのじゃないでしょうか。

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左からレイモンド・ダグラス、甥っ子のテリー(Waterloo Sunsetに登場する)、弟のデイヴ。この写真の表情が、すなわちRDという人物の生涯をあらわしているような気がする。

しかし、「背中」はRDのパラノイアの対象でもあり、このAutumn Almanacの語り手のだいじな属性でもあるようです。前述のオフィシャル本によると、この曲のモデルとなったのは、当時のデイヴィーズ邸の庭師で、彼はせむしだったのだそうです(いま辞書を引いたところ、せむしのpolitically correctな表現は「脊柱後彎」のようです。表現ではなく、たんなる病名じゃないか、といいたくなりますが)。

RDはこの人物を小さなころから知っていて、彼の悪夢の登場人物であり、子どものころに背中をケガしたときは、せむしになるとおびえたということが自伝に出てきます。

それはともかく、庭師だとわかれば、冒頭に出てくる、生け垣の毛虫や落ち葉の掃除は、当然のラインなのだとおわかりでしょう。いきなり出てくるから、戸惑うだけなのです。いや、まあ、それが「表現」というものなのですが。

◆ 食べ物に対する偏執 ◆◆
以下は、これまでは出てこなかったメロディー、コード・パターンで、ブリッジのように聞こえます。

I like my football on a Saturday
Roast beef on Sunday's all right
I go to Blackpool for my holidays
Sit in the open sunlight

「土曜にはサッカーを楽しむことにしている、日曜のロースト・ビーフも悪くない、休日にはブラックプールに出かけ、外に坐って陽の光を楽しむ」

脊柱後彎の庭師の生活には思えない描写ですが、モデルが庭師だということなど、作者だけが知っていたことで、それを知らなければ、べつにおかしくはありません。じっさい、ここはRD自身の生活の描写でしょう。

RDはサッカーきちがいで、自分でもプレイし、オフィシャル本にも、メロディー・メイカー・イレヴンというクラブ(音楽誌の「メロディー・メイカー」関係者のクラブということでしょう)での写真が載っていますし、ショーン・コネリーらがいる芸能人クラブでもプレイしたと自伝にあります。

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メロディー・メイカー・イレヴン。前列左から二人目にレイモンド・ダグラス、後列右から二人目がデイヴ・デイヴィーズ

また、ワールド・カップの決勝(イギリスで開催されたときのことのようなので、サッカー・ファンなら時期を特定できるでしょう)にイングランドが進出したときは、夜のライヴ・ギグのスケデュールと重なってしまい、テレビ観戦を優先したために、ひどいトラブルになったことも自伝に記されています。

ロースト・ビーフの登場は、当然、RDの食べ物への偏執があらわれたと、長年のファンには感じられます。このころから食べ物が歌詞に登場しはじめ、Alcohol、Skin and Bones、Hot Potatoes、Motorwayといった(まだほかにもいくつかあったはずですが)、RCA時代の飲食物の歌へとつながっていきます。

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レイモンド・ダグラス(左端)、その背後にピート・クエイフ、ストゥールにミック・エイヴォリー、そしてデイヴ・デイヴィーズ(右端)

まだ歌詞もやっとなかばを過ぎたばかりですが、残り時間僅少で、これから画像のスキャンもしなければならないので、歌詞の後半、そして摩訶不思議な展開をする複雑な曲とコードについては、明日以降に(ひょっとしたら、さらに2回に分けて)検討することにします。


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The Kinks
Ultimate Collection
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by songsf4s | 2007-11-13 23:21 | 秋の歌