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Halloween Theme by John Carpenter
タイトル
Halloween Theme
アーティスト
John Carpenter
ライター
John Carpenter
収録アルバム
Halloween: 20th Anniversary Edition [OST]
リリース年
1978年
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コミック・ソングのほうのきわめつけは昨夜やったので、今夜は本気で怖いほうのきわめつけ、ジョン・カーペンター監督が自作『ハロウィン』のために書いたテーマ曲の登場です。

これを書いているのは深夜、いま、わが家のスピーカーからこの盤が聞こえてくるのですが、怖いですよー。こんなに怖い音楽は、バーナード・ハーマンですらつくらなかったのではないでしょうか。

◆ 先見的恐怖映画 ◆◆
1978年に製作された『ハロウィン』は、典型的な低予算映画で、製作日数約3週間、製作費わずか30万ドルで、700万ドルの興行収入をあげる、きわめて効率のよいヒット作となり、同時にジョン・カーペンターの出世作となりました。

f0147840_0222768.jpg両親が留守のあいだに、家にボーイフレンドを呼んで楽しんでいた姉を、そのベッドで刺殺し、病院に収容された6歳の少年マイケルが成長し、15年後のハロウィーンの日に病院を抜けだして故郷に戻り、殺人を繰り返す、というこの物語の設定は、いまになると、なんともアクチュアルで、その先見の明に驚きます。少年の殺人、家族に対する性的妄執、いずれも今日、われわれが新聞雑誌で目にする事件の「テーマ」です。

予算のない分、カメラワークに工夫を凝らした演出は、若手監督たちに刺激を与えたにちがいありませんし、観客であるわたしも、内臓はなし、血もごく少量なのに、こんな怖い映画はないと感じました。この作品以降、恐怖映画は新たな段階に入り、ふたたび隆盛を迎え、いくつものシリーズものが製作され、ヒットすることになります。

ただし、後続の監督たちがどう逆立ちしても、ジョン・カーペンターの真似をしたり、追い越したりできない、絶対的な「お家の芸」が、この監督にはありました。音楽です。

◆ ミニマルな音、マキシマムな効果 ◆◆
ジョン・カーペンターは、シンガー・ソングライターならぬ、コンポーザー/プレイヤー/ダイレクターという、ほかに例を知らない、めずらしいマルチ・タレントです。

チャップリンが自作のために挿入曲を書いたり(ただし、本職の作曲家のクレジットを盗んだだけという有力な説がある)、クリント・イーストウッドが自作曲を作品に使った(ただし、ギターによる短いリックを引き延ばしただけ)例もあるので、長いハリウッドの歴史では、ほかにも自作のために自分でスコアを書いた監督がいるかもしれませんが、これほど多くのスコアを書いた映画監督はまずいないでしょう。

最初期の彼の監督・音楽監督作品『ダーク・スター』は、ヴィデオを見たのに、音楽の記憶がありません。そのつぎの『要塞警察』(Assault on Precinct 13=13分署襲撃)は、『ハロウィン』に驚いてから、さかのぼってヴィデオで見ましたが、ここでも音楽の使い方に感嘆しました。

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スペース・サーフィン! 『ダーク・スター』より

初期のカーペンター音楽の特長は、コスト・パフォーマンスの高さです。『ハロウィン』で使われた楽器は、ピアノ、アナログ・シンセ、リズム・ボックスの三つだけ、プレイヤーはおそらく監督ひとりでしょう。その直前の作品である『要塞警察』もアナログ・シンセ、リズム・ボックス、エレクトリック・ピアノだけで、これまたすべてをカーペンターがプレイしたと思われます。

つまり、すこしでもいいから製作コストを圧縮したいという、貧乏ゆえの監督自作スコア、セルフ・レコーディングだったのです。しかし、才能というのは、いろいろな意味で恐ろしいもので、彼のもっともすぐれたスコアはこの時期に集中しています。それだけならまだしも、映画作家としても、この時期のほうがよかったと、わたしには思えます。

◆ ひとひねり入った複雑な変拍子 ◆◆
『ハロウィン』のテーマは、「いい曲」といっては語弊があるかもしれませんが、映画を見終わったあとも、長いあいだ耳の底で鳴りやまない、きわめて印象的な楽曲であり、アレンジであり、サウンドであり、やはり、ある意味で「いい曲」といってよいだろうと思います。速めの5拍子に、半音進行のピアノ・リックを載せるという、不安定な要素ばかりをそろえてきたことだけでも、カーペンターの音楽の基礎教養のほどがよくわかります。

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いま、ピアノがどういうプレイをしているか説明しようと思い、カウントしているうちに、わけがわからなくなりました。最初は4分3連×2プラス4分×2と思ったのですが、それでは5拍子ではなく、4拍子になってしまいます。マクロにはまちがいなく5拍子なので、カウントをまちがえているにちがいありません。何度も聴いて、やっとのことで、8分×6拍プラス4分×2拍、ただし、最初の8分×6のアクセントのつけ方で3連×2の響きにしているのだとわかりました。ギターでやろうとすると、ピッキングが面倒な理由がやっとわかりました。

いや、恐れ入りました。やっぱり、ただ者ではありません。おそらく、意識して変拍子にさらにひねりを入れようとしたわけではなく、自然にそういう奇妙なリズムになってしまったのでしょう。それがプロの音楽家というものです。

f0147840_0534011.jpgここにアナログ・シンセ独特の太い音でコードと、ドローンのようなシンセ・ベースが入ってくるわけで、この音楽を聴いているだけで、ナイフをもったマイケルが背後の暗闇からあらわれなくても、十分に恐怖を味わえます。非常にドラマティックで、すばらしいテーマ曲だと、映画を見たときも感じましたし、いま聴いても、すくなくともホラー映画という分野においては、将来も参照されるであろう傑作スコアだと感じます。

リズム・ボックスという楽器は、子どものころからありましたが、なんともチープな音しか出ない、困った代物だと思っていました。しかし、ジョン・カーペンターは、そのチープさを逆手にとり、単調なリズムの繰り返しだけで、サスペンスを生むのに成功しています。

リズム・ボックスに関しては、『ハロウィン』よりも『要塞警察』のほうが効果的に使われています。なにしろ、しばしば、リズム・ボックスの、おそらくは「ブラシ」の音しかしないのですから、ミニマリズムというか、コスト圧縮の極致です。それでも、この音が聞こえるたびに、悪い奴らがあらわれそうで、サスペンスは高められました。

◆ 音楽による時間表現 ◆◆
ジョン・カーペンターはいまも第一線で作品を撮りつづけているので、たぶん、わたしの印象のほうがまちがっているのでしょうが、その後の作品は感興の薄いものばかりで、最近は見ていません。『遊星からの物体X』は恐ろしい映画でしたが、それは主としてロブ・ボーティンの特殊メイクの力によると感じました。

音楽的にも、他のプレイヤーも使えるようになり、ひとりで多重録音する加重労働に悩まされずにすむようになったのですが、その分だけ、凝縮された緊迫感は薄れ、『要塞警察』や『ハロウィン』のときのように、緊迫した場面でも耳は音をきちんと捉え、「うまい!」と拍手するようなこともなくなりました。

このあとのカーペンター映画で音楽に拍手したのは、スティーヴン・キングの妙ちきりんな原作(悪霊に取り憑かれた車が人を襲う!)による、怖い場面でも思わず失笑しそうになる、妙ちきりんな恐怖映画『クリスティーン』のタイトル・バックだけです。

f0147840_0572816.jpg一度も見返していないので、初見の古い記憶で書きます。まちがっていたらご容赦を。タイトル・バックはモノクロで、たしか、デトロイトの自動車工場でクリスティーンが「生まれる」過程が描かれます。音楽はバディー・ホリーのNot Fade Away。バディー・ホリーが活躍していた時代、つまり1950年代終わりのことだよ、という意図でしょう。そして、車が走るところのドライヴァーの「見た目のショット」に切り替わり、すっとモノクロの絵に色が付いた瞬間、Not Fade Awayも、バディー・ホリーののどかなヴァージョンから、ディストーション・ギターがギュイーンとうなる、現代的なヴァージョン(調べると、タニア・タッカー盤らしい)へと切り替わります。

これはみごとでした。50年代と80年代では、同じ曲をやっても、まったくスタイルが異なることを知っている人でなければ、こういう演出はできません。カーペンターの父親はウェスターン・ケンタッキー大学の音楽の教授だそうで、シンプルなスコアにも、そういうバックグラウンド、現代音楽的要素があらわれていますが、同時にロックンロール世代の感覚も色濃く反映されています(たとえば、邦題失念のBig Trouble in Little Chinaの派手なテーマ曲)。

そもそも、自分でスコアも書くことにしたのは、ロックンロール世代的な感覚からきたもののような気がします。トッド・ラングレンがすべての楽器とヴォーカルをひとりでやってアルバムをつくったのと同じようなアティテュードで、ジョン・カーペンターもまた、スコアとスクリプトの両方を書く監督になったように、わたしには感じられます。

同世代としてひと言でいえば、「カッコいいなあ、俺もそういう、歌って踊る、じゃなくて、撮って演る映画監督というのになってみたかった」です。これであとは、歌えて、ドラムが叩ければ、わたしが十代のころに夢想したすべてを手にした、世界一クールな男が出現するのですが!

◆ 監督、スコアを回想する ◆◆
ジョン・カーペンターは、充実したオフィシャルサイトをもっています。前ふりのFlashがゲーム形式で、なかなか中に入れてもらえない(しかも十六歳以下お断り)のが難ですが、内容はカーペンターの映画のファンも、カーペンターの音楽のファンも満足させるものになっています。あとは、サンプル・フッテージを盛り込んでくれれば、いうことがありません。ハロウィーンのテーマも、一瞬ですが、サンプルを聴くことができます。

ゲームが嫌い、簡単な謎解きも面倒、時間がない、怖い場面はイヤという方は、『ハロウィン』のスコアに関する回想なんていう裏口をお使いください。

これ読むと、やはり、あのときは「わたし自身を雇うのが、もっとも安上がりで手っ取り早かった」から、『ダーク・スター』『要塞警察』『ハロウィン』といった初期の低予算作品でスコアを書いたのだと語っています。

もうひとつ、やっぱりな、と思ったのは、バーナード・ハーマン(とりわけ『サイコ』のスコア)と、エンニオ・モリコーネに強い影響を受けたといっている点です。

f0147840_125895.jpgまた、『ハロウィン』のシンセサイザーのプログラムは、ダン・ワイマンという人が担当したそうで、カーペンターは彼のことをおおいに賞揚しています。ご記憶の方がどれほどいるか、経験者がどれほどいるか、じつにおぼつかないのですが、アナログ・シンセサイザーというのは、パッチで音をつくっていくので、ものすごく煩瑣なだけでなく、偶然を頼りにやっていたのでは、なかなか望みのサウンドが得られないものでした。プログラマーの助けがないと、いいサウンドを得るのは困難だったので、こういう協力者がいて当然なのです。70年代のさまざまな盤にも、プレイヤーのみならず、プログラマーの名前がしばしばクレジットされていたものです。

「ハロウィーン・テーマ」(「ハロウィン」というまちがった表記は大嫌いなので、映画タイトル以外はこちらを使わせてもらいます)は、子どものころに父親から教えられた、ボンゴで4分の5拍子を叩く練習法から思いついたそうです。たんなる5拍子よりも、ひねくれたリズミック・センスだと思いますが。

f0147840_164231.jpgまた、音楽スタジオでは、フィルムを参照できなかったということもいっています。つまり「ブラインド」で、あるいは、記憶に頼って、各シーンの音を録っていったことになります。これは大きなハンディキャップですが、それがかえって好結果につながったようにも思います。現在はもちろん、ヴィデオに合わせてプレイしているそうです。

最後に、stingerないしはcattle prodを録音したといっています。つまり、殺人者がドアの陰からいきなり襲いかかってくるときなどに、「ジャーン!」とフォルテシモかつスタカートの音で脅す例のサウンド・イフェクト的な音楽です。「いまでは、stingerを使いすぎたことを恥じている」とカーペンターはいっています。でも、カーペンターのstingerの使い方は、かなりうまいとわたしは思います。OSTアルバムを聴くと、強いものと軽いものを使い分けていることに気づき、改めて感嘆します。

◆ 信じられない改変 ◆◆
中子真治著『フィルム・ファンタスティック 第6巻』の『ハロウィン』の項を読んでいて、仰天しました。この映画の日本での公開にあたって、配給会社は新たなスコアをつくったのだそうです。

どうやら、カーペンター監督がいう「minimalistic, rhythm-inspired score」の楽器の少なさを、そのまま、スコアの出来の悪さと受け取ったようです。古今亭志ん生なら「馬鹿が凝りかたまっちゃったよ、この人は」と嘆くことでしょう。

この映画から、カーペンターのミニマル・ミュージックをとったら、後続の『13日の金曜日』や『エルム街の悪夢』とそれほど懸隔のない、通俗ホラー映画に見えるのではないでしょうか。わたしにとって、ジョン・カーペンターは、つねにshoot and playの人です。それがこの人と他の映画監督が決定的にちがう点であり、彼を特別な人にしている重要な要素です。世の中には、音楽の力を知らない人がたくさんいるのはわかっていますが、カーペンターのスコアのすごみにまったく反応しない人が、映画配給会社にいたというのは、悪夢のようなミスキャストです。

もちろん、いまリリースされているDVDに、日本製のくだらない音楽などはかぶさっていないでしょう。今夜はもう10月31日の殺戮は完了し、マイケルは続篇にそなえてどこかへ消えてしまったので、間に合いませんが、来年の10月31日には、ジョン・カーペンターの究極の恐怖音楽を絵とともにお楽しみあれ。怖いですよ~。

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by songsf4s | 2007-10-31 23:56 | Evil Moonの歌