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Stormy Weather その1by Lena Horne
タイトル
Stormy Weather
アーティスト
Lena Horne
ライター
Harold Arlen, Ted Koehler
収録アルバム
Sentimental Journey: Pop Vocal Classics Vol. 1 (1942-1946)
リリース年
1942年(録音は41年12月15日)
他のヴァージョン
Frank Sinatra, Jackie Wilson, Joni Mitchell, Gladys Knight, Diana Ross, Django Reinhardt, Earl Grant
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毎度、どの特集でも、避けて通れないスタンダードが待ちかまえていて、じつにもって困ったものです。なにが困るといって、スタンダードの場合、ソングライターおよび楽曲の周囲に長い歴史がぶら下がっていて、当方はそのあたりのことにはくわしくないため、いちいち調べる(ということはつまり英語の長い文章を読む)必要に迫られることです。

f0147840_0131232.jpg今回のStormy Weatherにも、いろいろストーリーがあるようですが、そのへんのことは後回しにします。いろいろなヴァージョンのなかから、リーナ・ホーン盤を選んだ理由は、もっとも出来がよいと感じたからにすぎず、このヴァージョンが、いわばこの曲の決定版と一般にみなされているからではありませんが、ひねくれ者のわたしにしてはめずらしく、世間と意見が一致したようです。

これがエラ・フィッツジェラルドだの、サラ・ヴォーンだのといった、リスナー/オーディエンスおよび音楽そのものすらナメきっている、不快きわまりないジャズ歌手だったら、名前を見ただけでパスです。でも、リーナ・ホーンは声も心地よく、昔の有名な歌手にしては、自分が偉大だと勘違いしている節もなく、歌のうまさをストリッパーのようにひけらかすエラやサラのような耐えがたい下品さもなく、いたって控えめにして上品、それでいて、なかなかセクシーでもあるのです。歌手にも、「ほんの粗末なものですが」といって歌を差し出す礼儀は必要だと、かつて礼節の国と呼ばれた場所に生まれた人間は思うのであります。

◆ 無情の雨 ◆◆
それではファースト・ヴァース。

Don't know why
There's no sun up in the sky
Stormy weather
Since my man and I ain't together
Keeps rainin' all the time

「どうして空に太陽がすがたを見せないのだろう、荒れ模様の空、彼と別れてからずっと雨が降りつづけている」

ここは解釈上の問題が起きる箇所ではなく、そもそも、長い歌詞なので先を急ぐことにします。セカンド・ヴァース。

Life is bare
Gloom and misery everywhere
Stormy weather
Just can't get my poor self together
I'm weary all the time, the time
So weary all the time

「人生は無情、悲しみと苦痛ばかり、荒れ模様の空、あわれな自分の心を抑えることができない、気持ちはいつも滅入ったまま」

f0147840_0385185.jpgここはいろいろあります。まず、「このbareはなに?」と思います。ふつうは「裸の、むきだしの、あからさまな」という意味で使われるわけで、「bare fact=むきだしの事実」なんて用例があります。ちょっとだけ迂回路を通れば、「無情」にたどりつけるかな、と考えました。

「get oneself together」という熟語は、それなりによく見かける言いまわしで、辞書では「自制する、自制心を働かせる」などと定義されています。つまり、すくなくとも表面的には平常の状態を保つということで、ここでは、それすらもできず、内面の荒れた感情が立ち居振る舞いにもあらわれてしまう状態をいっているのでしょう。

◆ 長雨のように降りやまない歌詞 ◆◆
サード・ヴァース。まだ中盤です。

When he went away
The blues walked in and met me
If he stays away
Old rocking chair will get me
All I do is pray the Lord above will let me
Walk in the sun once more

「彼が去ると、かわりに憂鬱がやってきた、彼がいなければ、わたしはロッキングチェアにつかまることになるだろう、ただ、天にまします主に、また太陽のもとを歩ませてください、とお祈りするばかり」

f0147840_0141171.jpgこのヴァースの1行目は、なかなか英語的で面白いのですが、日本語ではどうにもなりません。「彼が去ると、入れ替わりにブルースがやってきて、わたしに出会った」といっているんですから。いや、ブルースといっても、人名のBruceじゃなくて、「ブルーズ」ですが。

ロッキングチェアのくだりはよくわかりません。憂鬱にとりつかれると、一日中揺り椅子に坐って、物思いにふけってしまう、という意味なのだろうと想像しますが、なにかわたしの知識に欠落があったり、なにか勘違いしていたりする恐れもあります。

フォース・ヴァース。まだ終わりではありません。

Can't go on
All I have in life is gone
Stormy weather
Since my man and I ain't together
Keeps rainin' all the time
Keeps rainin' all the time

「もうダメ、なにもかも失ってしまった、荒れ模様の空、彼が去ってから、ずっと雨が降りつづけている」

やっとブリッジです。

I walk around
Heavy-hearted and sad
Night comes around
I'm still feelin' bad
Rain pourin' down
Blindin' every hope I had
This pitterin', patterin', beatin'
And spatterin' drives me mad
Love, love, love
This misery is just too much for me

「重い心と悲しみをかかえて、わたしは歩きまわる、夜がやってきても、気分はよくならない、まだどしゃ降りのまま、雨がかつての希望を覆い隠す、バラバラ、ザーザーとたえまない雨音がたまらない、愛、愛、愛、この惨めな気分にはもう耐えられない」

バラバラ、ピチャピチャといったオノマトペ的動詞のあとに、love、love、loveという繰り返しが出てくるのは、雨音がlove、love、loveと聞こえるといいたいのだと思います。

ここでフォース・ヴァースにもどり、うまくつながってエンディングとなります。

◆ 日本的な「ブルース」 ◆◆
このリーナ・ホーン盤を聴いて思いだしたのは、淡谷のり子の「別れのブルース」です。メロディーが似ているわけではありませんが、どちらもオーセンティックな12小節のブルースではなく、ブルージーなスロウ・バラッドであるという共通点があります。この曲のオリジナルは1933年、日本でいうと昭和8年、服部良一は、ひょっとしたら、この曲の古いヴァージョンを聴いていたのではないか、などと想像して、ニヤニヤしてしまいました。

f0147840_0402361.jpgいつなのかデータがわからないのですが、リーナ・ホーンが後年、再録音したものもあります。でも、こちらはまったくいただけません。声に衰えや大きな変化はないのですが、最初の録音のように素直に歌っていなくて、ジャズ・シンガーによくある、悪ずれした「歌いまわし」をしているのです。

そういうのがお好きな方もいるでしょうが、何度も書いているように、わたしの信念は「まわすな、こなすな、素直にやれ」なので、こういうのは虫酸が走ります。どんな分野でも、まわしたり、こなしたりするのは二流、三流。ほんものの一流は素直にやるものです。いや、超一流になったら、まわそうが、こなそうが、なにをしてもいいんですけれどね。

むやみに長い歌詞だったので、本日は他のヴァージョンに到達できず、残りについては、この曲の由来とあわせて、明日以降に検討させていただきます。

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盤が大ヒットしたのだろう、Stormy Weatherはすぐに映画化されている。共演はビル・“ミスター・ボージャングルズ”・ロビンソンとキャブ・キャロウェイ。

by songsf4s | 2007-10-14 23:55 | 嵐の歌