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Moonraker by Shirley Bassey
タイトル
Moonraker
アーティスト
Shirley Bassey
ライター
lyrics by Hal David, music by John Barry
収録アルバム
The Best of James Bond 30th Anniversarry Collection
リリース年
1979年
他のヴァージョン
Neil Norman
f0147840_1195477.jpg

昨夜はまだ満月に思えないこともない丸さだった月が、今夜はもう明らかにwaneしています。「この世をば我が世とぞ思ふ 望月のかけたることもなしと思へば」なんて、藤原道長もくだらないことをいったものだなあ、月の満ち欠けの原理を知っていれば、そんな馬鹿な歌はつくれなかっただろうに、てえんで、科学教育の重要性を再認識しちゃったりしています。

理性の世界は退屈ですが、神秘主義で社会を運営されては平安京に逆戻り、藤原氏以外の大多数の人間にとっては非常に不幸なことになるでしょう。先祖の供養を怠ったせいで不幸になったとかなんとかいう、藤原道長の世界観と懸隔のない番組を、これからの日本をつくっていく子どもたちがテレビの前にいる時間帯に流すのは、犯罪行為じゃなかろうかなんて思った、月の欠けはじめた金曜の夜でした。

月のからんだ曲というのは、どうもオカルティズムへの傾斜、あるいは少なくも親和性を見せるようなところがあり、ちょっと疲れてきました。まあ、月の「魔力」を恋に利用しているあいだは平和なのだ、と思うことにしましょう。

◆ ウェイスト・ボールの一曲 ◆◆
ここにいらっしゃるお客さんのなかには、tonieさんのように、今後登場するであろう曲の予想を立てる方がいらっしゃるので、こちらとしては、いきおい、予想を外すことにささやかな楽しみを見いだしています。

中秋の名月の夜は、tonieさんが真ん中の速球を待っているところに、こちらも真ん中の速球を投げざるをえないことになりましたが、今夜はもう欠けていく月、この曲は球種もコースも予想外だっただろうとニヤついています。ま、背中を通っていくような、ひどいボール球かもしれませんが。

f0147840_1554799.jpgシャーリー・バッシー(インチキな表記だなあ、と思って調べましたが、蓋然性として、こういう場合は「バーシ」に近い発音になるだろう、というところまでしかたどり着けませんでした。たぶん、「バーシ」または「バーシー」で当たりでしょう。英語は跳ねない、跳ねそうなスペル、つまりダブル・レターは「直前の母音を伸ばす」と思っておけば、90パーセントのケースで当たっています)は、あまり好みの歌い手ではないのですが、ジェイムズ・ボンド・シリーズのテーマはいつも楽しみにしています。ざっと見て、3割前後の高打率じゃないかと思います。この曲も、シングル・ヒットはしませんでしたが、悪くないと感じたテーマのひとつです。いちおう歌詞など見てみましょうか。

Where are you? Why do you hide?
Where is that moonlight trail that leads to your side?
Just like the moonraker goes in search of his dream of gold
I search for love, for someone to have and hold

f0147840_1573677.jpg「あなたはどこにいるの、なぜ隠れているの、あなたのいるところへと導いてくれるあの月の光はどこにあるの、ムーンレイカーが黄金の夢を追うように、わたしは愛を追う、この手に収め、抱きしめるためのだれかを」てなあたりです。どうも、ジェンダーを変えて日本語を書くのはイヤなものです。そもそも日本語も、ジェンダーによる表現の差が小さくなっちゃっていますからね。

いや、まあ、そんなことはどうでもいいのですが、moonrakerは、辞書には「密輸業者」とあります。「密輸業者」なんて日本語は歌詞のなかでは収まりが悪いので、そのまま「ムーンレイカー」としました。英語は「月追う者」だなんて、ずいぶんまた叙情的な言い方だなあ、と笑っちゃいます。NRPSのWhiskeyのところで、密造酒をmoonshineと呼ぶということをご紹介しましたが、これはそれと似たようなmoonの使い方です。要するに「夜行性」ということですね。

◆ 1キスぶんの距離とはどんな距離だ? ◆◆
以下はファースト・コーラス

I've seen your smile in a thousand dreams
Felt your touch and it always seems
You love me
You love me

くだらないし、退屈だから、日本語にするのはやめておきます。女言葉でこんなことを書くのは願い下げです。

つづいて、セカンド・ヴァース。

Where are you? When will we meet?
Take my unfinished life and make it complete
Just like the moonraker knows
His dream will come true someday
I know that you are only a kiss away

「あなたはどこにいるの? いつになったら会えるの? わたしの未完の人生に結末をつけて、ムーンレイカーがいつか夢の実現する日がくることを知っているように、あなたはほんのキスひとつ向こうにいることをわたしは知っている」

f0147840_1595080.jpgなんじゃこりゃ、という日本語ですが、英語もあまりよくはないですねえ。take my unfinished life and make it completeなんて、生硬で、詩的響きがありません。よって、最後のコーラスは略します。

たとえば、just a smile away「1微笑ぶんの距離しか離れていない」なんていうawayの用法は、じつに英語的で面白いと思うのですが、日本語にはしにくいケースがほとんどだと感じます。

◆ エンディング後の満足 ◆◆
歌詞はくだらなくて、ゴミ箱行きだと思いますが、サウンドは久しぶりにムードがあるなあ、と思いました。ま、たしか、宇宙から見た地球の絵から、カメラがティルト・アップして、トライアングルの音が入ってくるといった感じで、うまく絵と合致したからでもありますが、『二度死ぬ』以来のいいエンド・タイトルだと、当時は感じました。

ジョン・バリーは、弦の低音部、ヴァイオリンではなく、ヴィオラやチェロが担当する部分の扱いがうまいのですが、この曲のアレンジではその特長が出ていますし、そこにからんでいく、フレンチ・ホルンを中心とした管もまたけっこうな味を出しています。

f0147840_231992.jpg『007は二度死ぬ』は、映画そのものは箸にも棒にもかからない出来で、ボンド・シリーズに追従したお笑いエスピオナージュものを、ボンド・シリーズ自体がなぞっちゃったみたいな馬鹿馬鹿しさでしたが、はじめと最後の2度登場する、ナンシー・シナトラが歌うテーマはじつにいい雰囲気で、とくにエンド・タイトルはため息が出ました。

(『二度死ぬ』の脚本はロアルド・ダールで、映画の取材で来日し、そのときのインタヴューが「ミステリ・マガジン」に掲載されていました。短編作家としてのダールは、なかなかいいものを残したと思いますが、シナリオ・ライターとしては、さあて、どんなものだろうか、です。ヒチコックが、シナリオ・ライターとしてのレイモンド・チャンドラーをボロクソにいっていましたが、ダールも同類じゃないでしょうか。考えてみると、ダールがいいといっても、秀作がそれほどたくさんあるわけでもないですしね。)

f0147840_251991.jpgボンド・シリーズでは、この2曲が、独特のムードをもっていて、とくに出来がいいと思いますが、もちろん、Goldfinger、Thunderball、Diamonds Are Forever、Nobody Does It Betterなども好きです。いや、映画のなかでかかるぶんには、License to Kill、All Time Highなども悪くないと思いました。イントロだけなら、For Your Eyes Onlyも佳作ダッシュぐらいの評価はしてもいいと感じます。

シャーリー・バッシーのプロデュースは、ジョージ・マーティンが担当していたのですが、あるとき、ちょっとした手違いで、ビートルズのレコーディングとシャーリー・バッシーのレコーディングが重なってしまい、マーティンはバッシーのほうをキャンセルせざるをえなくなったのだそうです。これで彼女はカンカンになってしまい、マーティンとは縁を切ったのだとか。まあ、やむをえないですねえ。ビートルズを抱えたプロデューサーは、すべてをそれに捧げるしかありません。

◆ 女なくしては日の暮れぬ…… ◆◆
f0147840_271023.jpgやはり、わたしは、女性シンガーのほうがジェイムズ・ボンド・シリーズには向いていると思います。それについては、『死ぬのは奴らだ』のスコアを担当したジョージ・マーティンが書き残しています。

ポール・マッカトニーがこの映画の主題歌を書くように依頼され、ジョージ・マーティンはできあがった曲のオーケストレーションを担当しました。その結果、スコアそのものもマーティンに依頼するという話が持ち上がり、マーティンはプロデューサー(映画のほうの)のハリー・サールツマンと会うことになりました。サールツマンは、主題歌の出来はおおいに気に入ったといったあとで、マーティンにこういったそうです。

「ところで、この曲をだれに歌わせるのがいいと思うかね?」

マーティンはI was completely aback「思いきりコケた」といっています。そりゃそうでしょう。全盛期のポール・マッカトニーが歌った盤を、デモ扱いされたのですから。

「そのー、おっしゃる意味がよくわからないのですが……すでにポール・マッカトニーが……」

「うんうん、それはおおいにけっこう。だが、問題は映画ではだれに歌わせるかということだ」

「失礼ながら、まだお話が飲み込めませんが?」

「女の子が必要じゃないか。そうだろ? テルマ・ヒューストンなんかどうかね?」

f0147840_2101595.jpg「たいへんけっこうかと思います。しかし、すでにわれわれはポール・マッカトニーを確保しているわけでして、彼女に依頼する必要はないのではないでしょうか」

なんてコンニャク問答をえんえんとつづけたあげく、マーティンはどうにかこうにか誤魔化して、ポール・マッカトニー作、ポール・マッカトニー唄のボンド・テーマを実現することができたのだそうです。

でも、わたしはチラッと、このわからず屋の映画プロデューサーに同意したくなります。やっぱり、ボンド映画には女性シンガーじゃないでしょうかね。

◆ 来年の今月今夜の月は? ◆◆
軽い曲を軽く書いてすませるつもりが、時計を見ればすでに遅刻。月の歌特集ハーヴェスト・ムーン篇は、これにてフェイドアウトとします。予定していた曲がまだ山を成して残っていますが、一部は来月のハンターズ・ムーンで取り上げ、大半は来年の六月の「幸せのジューン・ブライド特集」にまわすことにします。来年があるといいのですがねえ! とりあえず、来月はまだサイバースペースにしがみついている予定です。

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by songsf4s | 2007-09-29 01:20 | Harvest Moonの歌