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Oh You Crazy Moon by Frank Sinatra
タイトル
Oh You Crazy Moon
アーティスト
Frank Sinatra
ライター
Johnny Burke, James Van Heusen
収録アルバム
Moonlight Sinatra
リリース年
1966年
他のヴァージョン
Wendy Clare, Wes Montgomery
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Moon River、Blue Moonときたのだから、つぎもヘヴィー級の曲を予想されたかもしれませんが、すこし軽いものを選びました。

軽いといっても、ジミー・ヴァン・ヒューゼンの曲ですし、フランク・シナトラとウェス・モンゴメリーがやっているぐらいで、吹けば飛ぶような曲というわけでもありません。たんに、ヒットしてから70年近くたったので、忘れられてしまっただけです。Blue Moonのつぎにこれをもってきたのには、それなりの理由があるのですが、それは歌詞を見ていけばおわかりになるでしょう。

◆ ブルームーンを脇から見れば ◆◆

When they met, the way they smiled
I saw that I was through
Oh, you crazy moon
What did you do

「あの二人が出会ったときの、あの微笑みを見て、ぼくはもうおしまいだと思った、まったく、この気のふれた月めが、いったいなにをやらかしてくれたんだ」という歌詞なので、いや、すでにタイトルだけで想像がつくでしょうが、ちょっとオフビートで、変わっています。

Blue Moonにも出てきますが、月は男女を結びつけるもの、という常識があることになります。なんだか、六月に取り上げたJuneとMoonの連想にすぎないようにも思えますが、彼らがそう考えているのだから、わたしがなにをいってもはじまりません。

Blue Moonでは、語り手は願いが叶って、最後には月が金色になってしまうのですが、こちらは逆で、月がその魔力でよけいなことをしたために、割を食ったほうが、月に文句をつけているという趣向です。この曲が書かれた1930年代終わりの時点でも、こういう裏返しが、ちゃんと裏返しのシャレだと通じるほど、月で男女が結ばれるという曲が山ほどあったのだと想像できます。

And when they kissed, they tried to say
That it was just in fun
Oh, you crazy moon
Look what you've done

「あの二人はキスしておいて、ほんの冗談だなんていってた、この気のふれた月めが、自分のやったことを見ろっていうんだ」

なにも説明の要はないとみなし、ブリッジへいきます。

◆ 裏を行くワン・アイディア・ストーリー ◆◆

Once you promised me, you know
That it would never end
You should be ashamed to show
Your funny face my friend

「けっして終わるようなことはないって約束したじゃないか、よく平気でそのヘンテコな顔をさらせたものだな」なんてあたりでしょう。どのツラさげて俺のまえにあらわれやがった、といいたいのであります。

And there they are, they fell in love
I guess you think that you're smart
Oh, you crazy moon
You broke my heart

「あの二人を見ろよ、すっかり恋に落ちちゃったじゃないか、おまえ、してやったり、なんておもってるんだろう、まったくもう、この気のふれた月めが、おまえのおかげこっちは失恋だ」

というわけで、Blue Moonの裏返しというか、立場を変えて、「月の魔力」について語った曲と読み取れます。

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ジミー・ヴァン・ヒューゼン(ピアノ)とフランク・シナトラ

西欧文化では、月は人を狂気へと誘うものとされていて、lunatic=気違いじみた、という単語は、見ればおわかりのように、月の女神lunaからきています。lunaticが意味するのは、月の影響で人がそうなるということにすぎず、月そのものが狂的だというわけではないのですが、この歌では、月そのものがクレイジーとされ、語り手が、あんな馬鹿なことをしやがって、と責めたてるわけで、一般の月の歌、愛の女神への感謝の歌の裏をいったところが、唯一のアイディアであり、趣向となっています。この曲をとりあげた動機もその一点にありました。

◆ ビッグ・バンドを録る最後のチャンス ◆◆
f0147840_0455123.jpgこの曲のシナトラ盤は66年のリリースですが、録音は65年の終わりで、アレンジャーはネルソン・リドルです。この時期、つまりシナトラが徐々に回復し、Strangers in the Nightの大ヒットで完全復活を遂げ、その余勢を駆って、ナンシーとのデュエットによるSomethin' Stupidまでチャート・トッパーになるという時期にあって、ネルソン・リドルがヒットにからめなかったのは、彼の腕が落ちたわけではなく、時代との波長がすこしだけズレたにすぎません。これだけ時が過ぎれば、そんなことは気にならず、ただただゴージャスなアレンジを楽しめばよいと感じます。

お持ちの方はよくご存知のように、そりゃもう、リプリーズ時代のシナトラだから、サウンドは素晴らしいものです。リドルのアレンジも手に入ったもので、こういうゴージャスな管のアンサンブルはそうそう聴けるものではありません。ローウェル・フランクという人の録音もたいしたものです。

おそらく、この時期のシナトラというのはあまり注目されていないのだろうと思いますが、ビッグ・バンド・スタイルの音楽をやるにはほとんど最後のチャンスといってもいいくらいの時期で、出来のよいアレンジ、ハイ・レベルなプレイとアンサンブル、すぐれた録音技術がそろって、間然とするところがありません。

ドラマーも、なにをするというわけでもないのに、なかなか印象的なグルーヴで、ぜひ名前を知りたいものだと思います。アクセントで入れるライド・ベルのフィルなど、あざやかなものですし、間奏でのサイドスティックによる2&4も端正で、好みです。きっと名のあるプレイヤーでしょう。

◆ Aチーム ◆◆
しかし、ウェンディー・クレアという女性シンガーによる、この曲のオリジナル・ヒット・ヴァージョン(1939年、すなわち昭和14年リリース)を聴くと、なるほど、本来はこういう曲か、と納得がいきます。上述のような歌詞なので、やはり女性シンガーが歌ったほうが、可愛らしく月に文句をいっているような感じになって、曲の趣向が生きていると感じます。

戦前のビッグ・バンド音楽の第一の存在意義は、ダンスのバック・ミュージックを提供することにあるので、このウェンディー・クレア盤も、シナトラ盤よりややテンポが速く、踊れるようになっていますが、そのなかでも、ある種の雰囲気をうまくつくっていて、なるほど、ヒット曲だったのだな、と思います。

f0147840_0471446.jpg古いことになると、なかなか調べがつかず、ウェンディー・クレアというシンガーについてはよくわかりませんでしたし、現在、手に入る編集盤に収録されるのも、この曲ともう一曲だけのようです。でも、好みの声、好みのシンギング・スタイルです。かろうじて一枚だけ見つかった写真を入れておきますが、歌もこの写真から受ける印象とズレのないものです。

ライターの片方、作曲をしたジミー・ヴァン・ヒューゼンはいまさら説明の要もないほどで、主としてハリウッドで映画の主題歌や挿入曲を、それもとりわけビング・クロスビーのために書いた人で、数々のヒットがあります。シナトラが歌ったジミー・ヴァン・ヒューゼンの曲の一覧というのがありますが、このOh You Crazy Moonをはじめ、なんと合計84曲もあります。これを一堂に集めると、Sinatra Sings Jimmy Van Heusenというソングブック・ボックスができてしまうわけで、シナトラがもっともたくさん歌った作曲家にちがいありません。

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Aチーム ジミー・ヴァン・ヒューゼン(左)とジョニー・バーク

作詞家のジョン・バークは、調べてみると、アーヴィング・バーリンのシカゴ・オフィスの営業からスタートして、そこでソングライティングをするようになり、やがてハリウッドに移り、ヴァン・ヒューゼンとのコンビで数々のヒット曲を生むことになったのだとか。サミー・カーンは彼らのことを「Aチーム」と呼んだそうですが、彼らの曲のリストを見ると、なるほどAチームだったのだろうと思います。

でも、わたしのような後年の人間が見ると、目を引くのは、シナトラもカヴァーしましたが、ハーパーズ・ビザールのセカンド・アルバム、Anything Goesに収録されたPocketful of Miraclesも彼らの作品であることです(フランク・キャプラが自作『一日だけの淑女』を戦後にリメイクした『ポケット一杯の幸福』の主題歌)。

もうひとつ、バークはMistyの作詞家といわれて、ああ、そうだったのか、と驚いたことも書き加えておきます。

f0147840_0545957.jpgわが家にはもうひとつ、ウェス・モンゴメリーのヴァージョンがあります。ウェスが完全にイージー・リスニングのプレイヤーとなってからのアルバム、California Dreamingに収録されたもので、それ以上でも、それ以下でもない出来です。つまり、聴いていて不快ではないし、オクターヴ奏法によるサウンドからは初期にはあったノイズがすっかりとれ、きれいなプレイですが、それ以上のなにかを感じるわけでもありません。

わたしの苦手なグレイディー・テイトが、スティックではなく、ブラシでプレイしているので、アクセントのつけ方がダサいとか、タイムがあまりよくないといった彼の欠点がこの曲ではめだたず、ドラマーのやり方が疳に障ると、その曲全体が丸ごと不愉快になる、わたしのような人間には福音ではありますが。

ウェンディー・クレアのヴァージョンを収めた戦前ヒット曲集のライナーによると、ほかにグレン・ミラーやメル・トーメがカヴァーしているそうですが、わが家にはなく、聴くことができませんでした。
by songsf4s | 2007-09-15 23:58 | Harvest Moonの歌