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Wonderful Summer by Robin Ward
タイトル
Wonderful Summer
アーティスト
Robin (Jackie) Ward
ライター
Gil Garfield, Perry Botkin Jr.
収録アルバム
Wonderful Summer
リリース年
1963年
Wonderful Summer by Robin Ward_f0147840_2353018.jpg

ロビン(ジャッキー)・ウォードのWonderful Summerは、一部方面では隠れた大ヒット曲でして、ガチガチのクラシック、裏スタンダード、ま、なんでもいいのですが、かなり有名な曲で、いまさらこれをやるかよ、といわれそうでもあり、逆に、またいで通ればトーシロー扱いという、やっかいな代物なのです。

すでにWonderful Summer文献は汗牛充棟、下のほうは腐りかけているぐらいで、その上に載っかるのは申し訳ないようなものですが、まあ、「ホームグラウンド」でおなじみの人たちがつくった盤なので、楽をしたい一心で、今夜はこれ、と決めました。なにも目新しいことは書きませんので、あまり期待しないでください。そういう材料は、数年前に某BBSで出尽くしてしまったのです。今夜はそういうものの二番煎じ(にはちょっと季節が早すぎますが、って、落語のことですけれど)、寄せ集めのベスト盤みたいなものです。ちゃんと手元の材料は全部使って、これひとつあればほかはいらない、という決定版を目指して書きますが、「目指す」と「実現する」では天と地の開きがあるのです。「目指せ! 安値世界一」と叫んでいる電気店があるじゃないですか。目指すのは自由なのです。

◆ シャイな男の子のドリーム・ガール ◆◆
この曲はペリー・ボトキン・ジュニアとギル・ガーフィールドのサウンドと、ジャッキー・ウォードのヴォーカル、そして、もうひとりのシンガー(ジャッキー・アレンという名前だとか)の声がすべてで、歌詞は付け足りのようなものにすぎませんし、大人にはそれほど面白いものではありませんが、少年少女および若者向けのものとしては、わるくない仕上がりです。

I want to thank you for giving me
The most wonderful summer of my life
It was so heavenly
You meant the world to me
And anyone could see that I was so in love

「一生でいちばん素晴らしい夏を過ごさせてくれてどうもありがとう、天に昇ったような心地で、あなたがこの世のすべてだった、だれが見てもわたしが恋をしていることがわかったでしょう」

I'll Think of Summer同様、おーい、だれか受付かわってくれ、といいたくなるような甘さです。ともあれ、ジャッキー・ウォードは「ロビン・ウォード」という架空のキャラクターを「好演」しています。もちろん、スタジオ・テクニックの助けがあってのことですが、そういうことはすべて後段で。

I want to thank you for giving me
The most wonderful summer of my life
I never will forget
That summer day we met
You were so shy and yet you stole my heart away

Wonderful Summer by Robin Ward_f0147840_012045.jpg最初の2行はファースト・ヴァースと同じなので省略して、「わたしたちが出会ったあの夏の日のことをけっして忘れない、あなたはシャイだったのに、そのくせしっかりわたしのハートを盗んでしまった」てなあたりです。

ここがこの曲のフック・ラインのひとつと感じます。これを聴いたシャイな男の子はちょっと安心したでしょうし、シャイじゃない女の子のほうは、そうそう、そういうのっているのよ、と納得したでしょう。いやはや、男が書いた曲だから、当然そうなるでしょうが、それにしても、このしおらしさは非現実的で、やっぱり昔はこういう子が「ドリーム・ガール」だったのでしょうね、自分が昔どう思っていたかはさておき。

◆ やっぱりひと夏の恋 ◆◆
以下はブリッジ。

We strolled along the sand
Walking hand in hand
Then you kissed me and I knew
That I would love you my whole life through

なんだか性転換したみたいで気色が悪いので、女の子っぽく書くのはやめにして、たんなる説明だけにします。ここは手をつないで砂浜を歩き(Summer Wind同様、strollを使っています)、チャンスを狙っていた男が、ふと、立ち止まり、どうしたの、と見上げた彼女に……といった「通常の手順」をいっているのでしょう。

その瞬間、「一生、あなたのことを愛しつづけることになるとわかった」とくるわけですが、まあ、若いうちというのは、多くの人間がいろいろ面でピュアリストだから、あながち、そんな馬鹿な、とも責められません。とはいいつつも、このように感じるのは各人の裁量に任されてはいますが、それが結果につながるケースは、丼勘定でいって、一千分の一もないでしょう。

I want to thank you for giving me
The most wonderful summer of my life
And though it broke my heart
That day we had to part
I'll always thank you for giving me
The most wonderful summer of my life

また最初の2行は同じで、別れはたまらなくつらかったけれど、一生でもっとも素晴らしい夏をプレゼントしてくれたことは、いつまでも感謝する、というわけで、やっぱり多数派のケースだったわけです。まあ、歌としては、その後、二人は幸せに暮らしましたでは、B面までいってもエンディングにもちこめませんから、ソングライターの都合からいっても、そうならざるをえません。

◆ どっぷりじゃぶじゃぶのリヴァーブ漬け ◆◆
歌詞については、まあ、そういう感じなので、こちらもしらふではやっていられず、いろいろおちょくるようなことをいいましたが、音のほうは強烈です。聴いた瞬間に、フィル・スペクターよりリヴァーブが深いのじゃないかと驚いたのは、この曲と、ガールフレンズのMy One and Only Jimmy Boyぐらいです。それくらい極端なリヴァーブ漬けで、ひとつひとつの音はなんだかよくわかないまでにボカされちゃっています。

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ペリー・ボトキン・ディスコグラフィー1 ボトキンがアレンジをしたニルソンの初期の2枚、Pandemonium Shadow ShowとAerial Ballet

試みに楽器を数えると、ドラム、ベース(スタンダップ、あるいはユニゾンでフェンダーもかぶせたか?)、リズムギター(×2?)、ファズ・ギター(?)、トライアングル(ヴァースのみ)、ウッドブロック(ブリッジのみ、つまり、たぶん、ひとりのプレイヤーがトライアングルとウッドブロックを持ち替えた)、あとはカルテット程度の弦、ジャッキー・アレンのハーモニー(ダブル、一部はトリプルか)、それに波の効果音、といった編成でしょう。

クウェスチョン・マークがあちこちについてしまったのは、リヴァーブのせいです。また、ファズ・ギター風の音ではあるものの、ふつうのファズにも聞こえないので、なにかべつのものかもしれません。効果音的に薄くミックスされているだけですし、リヴァーブでなにもかもぐずぐずに溶けているため、よくわかりません。

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ペリー・ボトキン・ディスコグラフィー2 ボトキンがアレンジしたニルソンの後期の2枚、Du It on Mon DeiとSandman

これだけ深いリヴァーブがかけられるスタジオは、世界でもそうたくさんはありません。まずゴールド・スターと考えて大丈夫です。ずっと昔、この曲のレコーディング・シートはゴールド・スターのものだという話を聞いたような気がするのですが、脳軟化がはじまっているので、たしかではありません。でも、このリヴァーブは書類が不要なほど、ゴールド・スター丸出しです。

ドラムは、この曲からは判断しにくいものの、アルバムのほかの曲から考え、ほとんど、またはすべてハル・ブレインがプレイしたものでしょう。これまたずっと昔、キャロル・ケイとロビン・ウォードのことを話し合ったことがあるのですが、CK氏がプレイしたかどうかは忘れてしまいました。日本では彼女は、ジャッキー・ウォードとしてではなく、ロビン・ウォードとしてかなり人気がある、Wonderful SummerがLPとCDの両方で再発されたくらいだ、といったら、ちょっと驚いていました。

◆ スタジオ・シンガーという職業 ◆◆
Wonderful Summer by Robin Ward_f0147840_23552929.jpgジャッキー・ウォードというシンガーは、ロビン・ウォード名義ではアルバムを一枚しか残していませんが、そのキャリアはじつに長く、カラフルで、数年前、正体が判明したときは、われわれの仲間内ではちょっとした騒ぎになりました。

この盤に使った「ロビン」というファースト・ネームは、彼女の娘のものだそうです。ティーネイジャー向けの盤には、ジャッキーよりロビンのほうがそれらしいから、といっています。つまり、この曲を録音したときは、すでに娘役は無理、お母さん女優に転身中みたいな年齢にあったことになります。ペリー・ボトキンとギル・ガーフィールドは、彼女の声を若返らせるために、かなりスピードを遅くして録音した、なんていう眉唾の噂まで流れています。45回転盤を33回転にして聴いてみろ、というのです。いまどきのサウンド・エディターはピッチを落とすくらいのことは簡単にできるので、その気になれば、いまからだって確認できるのですけれどね。なぜやらないかというと、この噂にはサゲがあって、スピードをノーマルに落とすと、ブライアン・ウィルソンの声が聞こえるというのです!

俳優の吹き替えをしたシンガーのリストを見ると、ウォードの一番古い映画は、このリストでは1953年のPeter Pan、アレンのほうは1954年のAthenaという映画で、二人ともWonderful Summerの録音の10年前から、第一線のスタジオ・シンガーとして働いていたことになります。

ウォードがそういうシンガーであることがわかったのは、ここにもときおりコメントを書き込まれるオオノさんが、パートリッジ・ファミリーのウェブ・サイトでジャッキー・ウォードのインタヴューを見つけたからです。ウォードはジャネット・リーやナタリー・ウッドといった歌えない女優の声の代役をやっただけでなく、スタジオ・シンガーとして、さまざまな盤で歌っています。彼女は、パット・ブーン、フランク・シナトラ、ナット・コール、ビング・クロスビーなどの名前をあげています。パートリッジ・ファミリーのサイトに彼女が登場したのも、この番組の出演者のスタンドインとしてたくさん歌ったからです。もっとも、彼女は、テレビのペイはよくなかった、レコーディング・デイトとコマーシャルで稼いだといっていますが。

彼女のキャリアのことを書いているとキリがなくなるので、これでおしまいにしますが、ハル・ブレインやキャロル・ケイやトミー・テデスコやビリー・ストレンジといった、スタジオ・ミュージシャンと同じように、ジャッキー・ウォードやジャッキー・アレンのようなスタジオ・シンガーがいないと、ハリウッド音楽界は立ちいかなかったのです。

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カリフォルニア・ドリーマーズというグループの名義で、ウォードがコーラスで参加した盤。左がトム・スコットのThe Honeysuckle Breeze、右がガボール・ザボのWind Sky and Diamonds。ともに、ほぼ同時期に、ほぼ同じメンバーで録音され、キャロル・ケイやジム・ゴードンもプレイしているし、トム・スコットのほうにはグレン・キャンベルも参加している。

肝心のこの曲について、彼女がどういっているかを書き落とすところでした。ペリー・ボトキンとは何度も仕事をしたことがあり、この曲ができたときも、デモの依頼を受けたのだそうです。ボトキンの歌い方はブロードウェイ・ミュージカルのようだったけれど、彼女は、ティーネイジャー向けの曲に思える、わたしはそういう風に歌えるといってやってみせ、そのデモが結局、リリース・ヴァージョンになったというしだいだとか。プロですねえ。あとで、十代の男の子からファン・レターがきて困ったそうです。というわけで、アルバムのジャケットで、可愛らしいティーネイジャーの女の子がニッコリ笑っていない不思議も、これで氷解でしょう。

◆ ペリー・ボトキン超簡単プロファイル ◆◆
ペリー・ボトキン・ジュニアもまたカラフルな履歴をもつキャラクターですが、そろそろ時間切れとなってきたので、ほんのすこしだけ。この曲では、ソングライター、アレンジャー、プロデューサーの三役をしていますが、このうちのどれが本業かというと、アレンジャーというべきでしょう。オフィシャル・サイトに、ずいぶん抜けの多いディスコグラフィーがあるので、ご興味のある方はご覧になってください。

わたしがボトキンの名前を覚えたのは、ハーパーズ・ビザールのセカンド・アルバムAnything Goes収録のChatanooga Choo Choo(この曲もハル・ブレインの仕事で、こちらは豪快に叩きまくっている)のアレンジャー・クレジットを見てのことです。それ以前に、ボビー・ジェントリーのLocal Gentryでボトキンの名前を見ているはずですが、そのまえのDelta Sweeteでのジミー・ハスケルのアレンジのほうが強く印象に残り、ボトキンの名前は記憶しませんでした。

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ペリー・ボトキン・ディスコグラフィー3 ボトキンがアレンジしたハーパーズ・ビザールの最初の2枚、Feelin' GroovyとAnything Goes

父親のペリー・ボトキン・シニアもハリウッドで活躍したミュージシャンで、えーと、ギタリストだったと記憶していますが、こうしているいまも脳細胞がどんどん死滅している最中で、記憶が定かでないため、次回、ボトキンの曲が登場するときまでに調べておくことにします。

もうひとつ、書くべきことがありました。じつは、わたしはジャッキー・ウォードより、うしろで歌っているジャッキー・アレンの声のほうが好きなんです。リヴァーブのおかげもあると思いますが、素晴らしい声をしています。でも、こういう風に、うしろでチラッと聞こえるせいで、よけい魅力的に感じるのかもしれません。

ふと思いだすのは、TボーンズのNo Matter What Shape (Your Stomack's In)の女性コーラスです。あれももすごく魅力的ですが、これまたペリー・ボトキン・ジュニアのアレンジなので、コーラスもジャッキー・アレンである可能性が考えられます。

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by songsf4s | 2007-09-06 23:56 | 過ぎ去った夏を回想する歌