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Ice Candy by ナンシー梅木
タイトル
Ice Candy
アーティスト
ナンシー梅木
ライター
三木鶏郎
収録アルバム
トリロー・コレクション(5CD Box)
リリース年
1994年(録音は1951年)
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ナンシー梅木が活躍したのは、わたしが生まれる以前、および、音楽などろくに聴いていなかった幼年期のことなので、さかしらなことは申しません。なにも知らないも同然なのです。ウェブで検索すれば、(どうひいき目に見ても、きわめて啓発的とはいいがたい)記事に山ほどぶち当たるでしょう。

わたしにわかるのは、この三木鶏郎作のIce Candyというのは、じつになんとも味のある曲であり、ナンシー梅木という人は、この曲を歌うにはもっともふさわしい歌手であったということだけです。

三木鶏郎資料館というオフィシャル・サイトにも同様のものが掲載されていますが、この曲が収録されたボックス・セットのライナーによれば、これは1951年の作品で、ラジオ番組「日曜娯楽版」のためにつくられ、放送されたものだそうです。のちにLPボックス、さらに後年、CDボックスに収録されただけで、シングル盤というか、SP盤としてリリースされたことはないようです。なんとも、もったいないことをしたものです。ヒット・ポテンシャルはあったのではないかと、わたしには感じられます。

◆ 三色の人工着色料 ◆◆
短いものなので、以下にヴァース/ヴァース/ブリッジ/ヴァースという構成のすべての歌詞を書き写します。

Ice candy, ice candy
真夏の海の色、懐かしいこの色、青いice candy

Ice candy, ice candy
すべるヨットの影に、あの帆を夢見た、赤いice candy

(bridge)
波も揺らぐ浜辺、風のそよぐ森に、
月は淡く照らす、二人の影

Ice candy, ice candy
寄り添う君の肌、チョコレート色した、甘いice candy


Ice Candy by ナンシー梅木_f0147840_23441998.jpgとくにすぐれた歌詞ではありませんが、曲調とナンシー梅木の声が相まって、なんとも懐かしい雰囲気のある曲です。自分が生まれる以前の曲だからノスタルジックに感じるのではなく、はじめからノスタルジーを表現しようとした曲であることは、ファースト・ヴァースから明らかです。

青、赤、チョコレート色と三色のアイス・キャンディーが登場しますが、淡い色を思い浮かべるべきではなく、いまでもかき氷のシロップに使われているような色を思い浮かべるべきでしょう。赤は氷イチゴ、青は「ブルー・ハワイ」(なんていうフラッペは一般性はないのでしょうか?)の色にちがいありません。

◆ トリロー伝棚上げの弁 ◆◆
わたしは三木鶏郎の自伝も読みましたし、CDもそこそこ集めているので、したり顔でなにかいってもいいのかもしれませんが、所詮、「日曜娯楽版」という番組をリアルタイムで聴いたわけではなく、あとからテープと文字で知っただけですから、わざわざここでなにかいうほどのこともありません。

ただ、毎週の番組で流されるだけの曲を、つぎつぎに書いていき、このIce Candyのような隠れた佳曲や、大ヒット曲も生んだ「腕力」は、当時を知らない人間であっても、感心するしかありません。ソングライターというのはそういう過酷な職業なのでしょうが、苦しい状況のなかでのトリローの高打率は、さすがは一世を風靡しただけのことはあると思います。

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日曜娯楽版公開放送風景 つねにライヴ放送だったのだから、昔の人たちは偉いものです。中央は三木のり平、マイク前右端は千葉信男、その左が丹下キヨ子、左端は河井坊茶か。肝心のトリローが見えないが、右端、白いスーツのコンダクターらしき人物があるいはそうかもしれません。

三木鶏郎の楽曲は、放送のために書かれたというのがおもな理由なのでしょうが、季節をあつかったものが多く、今後も何度か取り上げることになると思いますので、ここではトリローの人となりには踏み込みません。ひとつだけいえることは、わたしにとって、もっとも興味深い昭和の日本人のひとりであり、今後もなにかが発掘されれば、手に入れずにはいられないであろう重要人物であるということです。

◆ 180度ねじれたエキゾティカ ◆◆
三木鶏郎ボックスではじめて聴いた曲のなかで、聴いた瞬間に、これは素晴らしいと感嘆したのは、このIce Candyであり、ナンシー梅木の歌でした。いま聴き直しても、バラッドとしては、トリローが書いたもっともすぐれた曲のひとつだと思いますし、ナンシー梅木の歌い方も申し分がありません。わたしのもっとも好きなタイプの声です。

ナンシー梅木同様、進駐軍廻りでスタートした江利チエミ、ペギー葉山、雪村いづみといった女性歌手群というのは、子どものころから聴いていて、ゴメンナサイしてしまうような歌が多く、いい印象はもっていません。江利チエミについては、後年、若いときの歌を聴いて、なるほどスターになったのもそれほど不思議ではないか、ぐらいのことは思ったのですが、いずれにしても、みな古くさいと思っていました。

しかし、ナンシー梅木は、この同世代の歌手群といっしょにするわけにはいかないことが、このIce Candyをほんの数小節聴いただけでわかりました。要するに、一目惚れというヤツです。みごとな声、みごとな歌いっぷりで、子どものころに感じていた日本人歌手への不満はまったく感じませんでした。あまりにもこの曲の出来がいいので、その印象を壊すのがイヤさに、ほかの盤にはいまだに手を出していないほどです。

ナンシー梅木というと、自動的に「フラワー・ドラム・ソング」という言葉が頭のなかで返ってきたので、調べてみると、このミュージカルのブロードウェイ版に、梅木美代志として出演したのだそうです(アメリカではナンシーの名前を捨てたのは見識だと思います)。このあいだ、新聞で井原高忠が、アメリカに渡ったナンシー梅木が、考えられないほど高いピッチで歌わされた、というエピソードを語っていたのは、このときのことのようです。

Ice Candy by ナンシー梅木_f0147840_2353447.jpg彼女のナチュラルな歌い方は、女性としてはかなり低音、ややハスキーで、高いピッチで歌ったときの声は想像できません。ピッチを上げられたのは、劇場での声の通りを配慮してのことだそうですが、西洋人というものをまったく信用していないわたしは(いや、それをいうなら日本人もまったく信用していませんが!)、昔のハリウッド映画で見た、とんでもないキンキン声で歌う中国人女性のことを思い浮かべました。キンキン声ではない東洋人は、アメリカの無知な大衆には、東洋人らしく見えなかったのではないか、と疑念を感じています。

梅木美代志は、日本人としては唯一のオスカー女優だそうですが、そのオスカーを得た『サヨナラ』(1957年)を見ずに乱暴なことをいうと、彼女がアメリカで活躍したのは、マーティン・デニー、レス・バクスター、アーサー・ライマンらのエキゾティカ・ブームの時期と一致することを思い起こします。他の呆れかえった映画にくらべれば、この映画で描かれた日本は噴飯ものというほどではないそうですが、原作がジェイムズ・ミッチェナーというだけで、もうダメだと観念するしかありません。

そもそも、近年の『ラスト・サムライ』ですら、爆笑するような明治時代が描かれていたくらいで(まあ、それをいうなら、日本人が描いたって、大河ドラマを筆頭に、時代劇というのは、その発生のときから、まともな常識をもつ人間が笑い死にするような歴史理解の上に成り立っているのですが)、1950年代後半のハリウッドから見た日本が、エキゾティカのレベルを出ていたとはとうてい思えません。

「エキゾティカの延長線上にいるアメリカの日本人歌手兼女優」というのは、その存在自体、すでにきわめてクリティカルで、じつに興味深く、とてつもなくイマジネーションを刺激するのですが、上述のように、一目惚れの印象を壊すのがイヤで、彼女がアメリカで録音した盤はいまだに聴いていません。

◆ 架空シングル盤の捏造 ◆◆
わたしは音楽に関するかぎり極楽トンボなので、この曲はジム・ゴードンが叩くべきだったとか、ハル・ブレインが叩くべきだった、と思うと、ちゃんとハルやジム・ゴードンのドラミングによって、タイムとフィルインを修正されたヴァージョンが頭のなかで鳴り響くという、幸せな才能をもっています。

この異能をもってすれば、理想の音楽を出現させるなどというのはわけもないことで、レス・バクスター・オーケストラをバックに歌う、梅木美代志のエキゾティカ(手はじめに、「夜来香」と「Yellow Bird」というカップリングのシングルはどうでしょうか)が頭のなかでフェイドインしてきます。うーん、すばらしい。われながらいい企画だと思うのですが、提出が半世紀ばかり遅かったようです。

検索をかければわかることですが、梅木美代志は、引退どころではなく、遁世してしまったようで、現在はいっさいの取材に応じないだけでなく、アメリカのどこかに住んでいるということぐらいしかわからないそうです。原節子もそうですが、やはり、スターには遁世してもらいたいもので、あの1951年の歌声同様、晩節もきれいさっぱりしていて、ナンシー梅木という歌手がいっそうゆかしく思えてきます。どこかの日本人女優がオスカーを取り損なったくらいの、三日たてばだれも覚えていないような些事のたんなる付録あつかいで、この素晴らしいシンガーの静かな生活を乱す必要など毫もありません。

ゲスなマスコミに発見されないよう、そして、またどこかの日本人女優がオスカーにノミネートされたりして、梅木美代志のことをマスコミが思いださないよう、影ながらお祈りしています。
by songsf4s | 2007-08-15 23:55 | 夏の歌