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Old Cape Cod by Patti Page
タイトル
Old Cape Cod
アーティスト
Patti Page with Vic Schoen & His Orchestra
ライター
Claire Rothrock, Milt Yakus, Allan Jeffrey
収録アルバム
A Golden Celebration
リリース年
1957年
 
 
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以前、友人に、フィルコの電蓄でパティー・ペイジのTennessee Waltzを聴かせてもらったことがあります。衝撃を受けました。LPとはまったくちがう音で鳴っていたのです。こういうものは、CDはおろか、LPで聴いてもダメだ、蓄音機か電蓄で、SP盤を聴かなければいけないのだ、と思いました。SPに閉じこめられていた「音の手ざわり」が、真空管アンプならではのやわらかさで宙に解放された一瞬の感動は忘れがたいものです。

しかし、わが家には蓄音機も電蓄もないので、わたしは、ときおりCDを引っ張り出して、(あろうことかBOSEのスピーカーで)パティー・ペイジを聴きます。前言を翻すようですが、CDでもやっぱり、ほかでは味わえない雰囲気が感じられます。もちろん、SPで聴ければ申し分ないのですが、CDでも、独特な音の手ざわりがそこにあります。パティー・ペイジというのは、はじめからそういうシンガー、リアルタイムで聴いても懐かしい人だったのではないでしょうか。パティーの懐かしさは、Tennessee Waltzよりも、むしろこの曲に凝縮されていると思います。

◆ タラの岬にて ◆◆
このOld Cape Codという曲には季節は明示されていません。なぜ夏の歌にくりこんだかはあとで説明するとして、とりあえず、ファースト・ヴァースを見てみましょう。

If you're fond of sand dunes and salty air
Quaint little villages here and there
You're sure to fall in love with old Cape Cod

砂丘と潮風が好きなら、そして、ここかしこに古風な可愛い村がある風景がお好みなら、きっと懐かしいコッド岬に惚れ込んでしまうでしょう、って、なんだか不動産屋の手先みたいな歌詞です。じっさい、わたしは不動産屋のサイトをたくさん見てきました。コッド岬は「アメリカン・ドリーム・ハウス」がたくさんあることで有名だからです。

リーダーズ英和辞典を見てみましょう。
Cape Cod
_n. ケープコッド, コッド岬 《Massachusetts 州の砂地の半島》

ファースト・ラインに砂丘が出てきた意味がこれでおわかりですね。地理のサイトまでは見なかったので、なぜ砂地の岬が形成されたかは知りません。いえ、まだ辞書を閉じないでください。つぎのエントリーも重要です。
Cape Cod cottage
_n. ケープコッドコテージ 《一階[一階半]建ての木造小型住宅で傾斜の急な切妻屋根と中央の大きな煙突を特徴とする》

建築史では、この「ケープ・コッド・コテージ様式」というのは、りっぱな一人前の術語です。アメリカ人が「あんな家に住めたらなあ」と夢想するスタイルなのです。いったことはないので、講釈師の張り扇にすぎないのですが、コッド岬にはまだこの様式の古いコテージが数多くあるのです。

どういえばいいんでしょうねえ、京都郊外の古い一郭、たとえば嵯峨野あたりを、伊豆半島の先端にもっていって、軽井沢みたいにした、という感じでしょうか。いや、伊豆は温暖だから、もっと北ですね。北海道のどこか、としておきましょう。そのような土地です(って、どのような土地?)。講釈師の張り扇が破れかかっているので、この話題はうやむやにして逃げます。

◆ 歴史的建築様式 ◆◆
ついでだし、歌の内容にもまんざら無関係ではないので、建築も見ておきましょう。

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これは新しいものかもしれませんが、チムニーが幅をきかせているところが独特

f0147840_204497.jpg壁面と屋根のテクスチャーを整えてあるのですが、その調和のさせ方に独特の味を感じます。ドーマー・ウィンドウがまた独特。壁面は煉瓦なのに、ここは下見板を使うこのセンス。味わいがあります。

f0147840_20434449.jpgこれもなかなか。下見板がよいのですが、最初のものを見ても、これを見ても、どうもふつうの下見板とは印象がちがいます。板幅に独特の標準があるのかもしれません。

f0147840_20431853.jpgこれは実在のものではなく、開発業者が典型化した様式。傾斜の強い切妻、大きなチムニー、あまりにも紋切り型ですが、お客は、いかにもこれこそケープ・コッドだ、と納得でしょう。

写真を見て、チムニーが特徴だと辞書にあるとおりだ、なんて納得してはいけません。チムニーのあるものを選んだのです。情報操作の初歩です。じっさいにはチムニーのないものもかなりありました。写真を見て思ったのは、屋根は天然スレートかもしれない、ということです。もうちょっと研究したくなりました。

と、引っ張り回されて、混乱したところで、2行目を見直してください。いや、わたしがコピーして進ぜます。

Quaint little villages here and there

建築のお勉強をしたので、この行の意味はおわかりいただけましたね。以上のような様式の可愛らしい建物がぽつりぽつりと建つ村々の風景をいっているのです。quaintは、「古風」と解釈するより、「風変わり」という語義を採用したほうがいいかもしれません。

◆ あざといセールストーク ◆◆
セカンド・ヴァースにいきます。

If you like the taste of a lobster stew
Served by a window with an ocean view,
You're sure to fall in love with old Cape Cod

こんどはレストランの宣伝です(って、ちがうだろーが)。コッド岬の名物はロブスターのシチューなのでしょう。よけいなお節介かもしれませんが、キングコングのように巨大なロブスターが屋根で暴れている、いまどきのわが国の郊外レストランは思い浮かべないほうがいいと思います。コッド岬は古風な土地ですから。

以下はブリッジ。

Winding roads that seem to beckon you
Miles of green beneath the skies of blue
Church bells chiming on a Sunday morn
Remind you of the town where you were born

こんどは教会の宣伝、ではないでしょうね。「曲がりくねった道はまるであなたに手招きするよう 青空の下には何マイルもつづく緑の森 日曜の朝ともなれば教会の鐘が響き 生まれ故郷のことを思いだす」と、あざといといえば、宅地開発業者の豪華カラーパンフレットの「ご挨拶」みたいにあざといのですが、あざとくない作詞家は、あざとくないコピーライター同様、まず成功の見込みはありません。

これを聴いていると、なんとなく里心がついてしまいます。望郷の念に駆られるといいますか。いえ、わたしは生まれ故郷に住んでいるので、望郷の念なんてないんですが、そこはそれ、「エスキモーに北極を売りつける」辣腕不動産業者の技というべきでしょう。いえ、作詞家ではなく、パティー・ペイジの歌い方のことですが。ホントに、わたしの故郷はコッド岬かもしれないと思いこみそうになります。

f0147840_20422031.jpgフロリダのパティー・ペイジ。ドラマーはハル・ブレイン。パティー・ペイジの夫君、チャールズ・オカーランの推薦で、ハルはエルヴィス・プレスリーの映画挿入歌の録音に参加し、ついでに映画そのものにも出演しました。不世出の大スタジオ・エースが、その仕事場をステージからスタジオへとかえる直前の姿。

mornという見かけない単語は、morningの詩語です。本朝でいうと、たとえば、里俗では「幼い」というところを、雅語では「いとけなき」とする、とまあ、そのようなニュアンスです。そのほうがよければ、落語の「たらちね」を思いだしてくださってもけっこう。あの千代女だったかなんだかは、やたらと雅語や漢語を振りまわして、亭主を混迷に陥らせていたでしょう? 要は、古風な海辺の村を表現するために、morningのかわりに、mornという古風な単語を使ったのです。

わが国にも、このmornに対応するような「朝」の雅語はあります。同じ字ですが、「あした」と読むと、雅語になります。わたしは浄土真宗なので、「あした」というと、「朝(あした)の紅顔も夕べには白骨となり」という「法語」の一節を思いだしてしまうのですが、雅語では、夕方といわずに、「ゆうべ」というということもわかったりします。えーと、なんの話でしたっけ?

◆ 避暑地の歌 ◆◆
サード(ラスト)・ヴァースにたどり着きました。

If you spend an evening, you'll want to stay
Watching the moonlight on Cape Cod Bay
You're sure to fall in love with old Cape Cod

こんどは、差詰め、パンフレットの最後のページの写真というところ。夜の湾にきらきら輝く月、とくれば、ふつう、抵抗できないでしょう。どこまでもあざとく、途中でいらぬ反省などせずに押し通してくれました。

以上、ヴァース/ヴァース/ブリッジ/ヴァース、すべての歌詞を並べました。

「あれ? どこが夏なんだ」とお思いかもしれません。しかし、不動産業者にきけばわかりますが、コッド岬はヴァケーションをすごす土地らしいのです。最初に「軽井沢みたい」といったのは、そういうことです。わたしはウェブで、コッド岬の貸コテージの広告をたくさん見ました。

たとえそういう土地だとしても、避暑地とはかぎらない、避寒地じゃないのか、という疑い深いあなた、コッド岬のあるマサチューセッツ州の緯度を地図でご覧ください。冬にはあまりいきたくないところです。まあ、北海道観光は冬が最高という方もいらっしゃいますが、もう一度、ファースト・ラインを見てください。いえ、わたしがここにペーストします。

If you're fond of sand dunes and salty air

砂丘と潮風が好きならばって、これが冬のイメージですか? 北島三郎や森進一なら冬のイメージかもしれませんが、パティー・ペイジですよ。わたしは断じて夏の歌だと主張します。そういっているのはわたしだけではありません。この曲が夏の歌だいうことを当然の前提として踏まえ、べつの曲をつくった人がいるのです。でも、それはまたの機会に。

◆ Patti Page with Patti Page ◆◆
レス・ポールにいわせると、パティー・ペイジが史上初のダブル・トラックをやったのではない、わたしのほうが先だ、ということになるのですが、大ヒット曲と泣く子と地頭には勝てないのでありまして、レス・ポールのほうが先だなんてことを知っている人、覚えている人は、ほとんどいません。いまここで、史上初の多重録音はレス・ポールが実現したと記憶することをお奨めしておきます。

この開発競争については、べつのところの記事をどうぞ。彼女の最初のダブル・トラックのエンジニアはビル・パトナム(「Summer Means Funその2」を参照)だったようです。レス・ポールとパティー・ペイジの競争というより、レス・ポールとビル・パトナムという、レコーディング技術の大先覚者の対決だったわけです。レス・ポールはインストゥルメンタルでやったので、ヴォーカルものとしてはパティー・ペイジのWith My Eyes Wide Open I'm Dreamingが最初なのでしょう。そして、1950年のTennessee Waltzの爆発的ヒットのおかげで、パティー・ペイジとダブル・トラックは、永遠のセットになったのでした。

f0147840_2041418.jpgOld Cape Codを収録したライノのアンソロジーSentimental Journey: Pop Vocal Classics Vol.4 (1954-1959) ライノだから信頼できる編集で、われわれロックンロール・キッドのなれの果てには、老後の指針、もとい、1940年代、50年代の音楽への扉を開くキーになってくれます。

じっさい、このダブル・トラックのヴォーカルの心地よさは、たとうべきものなし、というしかありません。ダブル・トラックの曲は星の数ほどありますが、つねにパティー・ペイジがダブル・トラックの女王でありつづけたのは、この摩訶不思議な声のブレンドが世にもまれなる響きをもっているからでしょう。

コッド岬の不動産屋は、この曲を聴いた瞬間、あちこちの放送局に電話をかけて、この曲をリクエストしたことでしょう。これを聴いたら、だれだってコッド岬にいきたい、できればひと夏を過ごしたい、と思うにちがいありません。それだけで、トップ40入りは保証されたようなものです。いや、ビルボード・ピーク・ポジションは3位。大ヒットしたのです。

これほど説得力のある宣伝はめったにあるものではありません。わたしにそれだけの金があれば、いますぐ手金を打って、ケイプ・コッド湾を見下ろす家を手に入れます。もちろん、大きなチムニーのある下見板の家を。
by songsf4s | 2007-07-12 20:59 | 夏の歌