人気ブログランキング |
Summer Means Fun その3 (by Jan & Dean)
タイトル
Summer Means Fun
アーティスト
Jan & Dean
ライター
Phil Sloan, Steve Barri
収録アルバム
The Little Old Lady from Pasadena
リリース年
1964年
他のヴァージョン
Bruce & Terry, The Fantastic Baggys
f0147840_20433988.jpg

Summer Means Funその2よりつづく)

◆ 「互換性」のあるヴォーカル ◆◆
これを書くためにかなり真剣に録音デイトを調べたのですが、よくわかりませんでした。ブルース&テリー盤だけは1964年4月24日録音と明記されています。Summer Means Funが収録されたジャン&ディーンのアルバムThe Little Old Lady from Pasadenaのリリースが64年9月とジャン・ベリー・オフィシャル・ウェブサイトではいっています。フィル・スローンのインタヴューによると、日付は不明ですが、バギーズ盤が最初に録音されたのだそうです。ということは、64年はじめの録音なのでしょう。

Summer Means Funその1」で、ジャン&ディーンのSurf Cityのリード・ヴォーカルは、ジャンでもディーンでもなく、ビーチボーイズのブライアン・ウィルソンだということにふれました。匿名で友人のセッションに参加したり、グループ名をいろいろ変えて、適当な盤を出すというのは、この時代の流行病といってもいいほどで、わけがわからなくなります。

バギーズの二人(ジャケットにもう二人写っていることは忘れてください。グループらしく見せるために適当な人間を入れただけで、実態はスローンとバリーのデュオです)は、この時代、ジャン&ディーンのハーモニーをやっていました。だから、彼らはバギーズ盤とジャン&ディーン盤の両方のSummer Means Funで歌っています。

f0147840_20443449.jpgファンタスティック・バギーズはこの時期にいくつかべつの名前で盤を出したようですし(バギーズのバイオを参照)、ブルース&テリーも、リップコーズをはじめ、さまざまなグループ名を名乗ったといっています(ただし、リップコーズ自体は実在した。テリー・メルチャーが、ブルース&テリーよりも、リップコーズの名前を使ったほうが売りやすいと判断して、ある曲をそちらの名義にしてしまっただけだとか)。

話がよけいなところにいきましたが、ブルース&テリー盤のヴォーカルは、二人だけでオーヴァーダブを繰り返したことが、ブルースの談話でわかっています。バギーズもおそらくブルースたちと同じように、スローンとバリーだけで歌ったのでしょう。

◆ レイ・ポールマン王朝 ◆◆
3ヴァージョンの、というか、2つのトラックを比較すると、だいたい同じメンバーだろうと想像がつきます。ドラムはどちらもハル・ブレインです。ベースもレイ・ポールマンの音です。ブルースは前出の談話でポールマンの名前をあげています。

この時期のハリウッドのフェンダー・ベースは、ポールマンがほとんど一手に引き受けていました。そろそろキャロル・ケイが、数々のヒット曲にいろどりを添えた彼女のエピフォン・エンペラー・ギターから、フェンダー・プレシジョンへとメインの楽器を換える時期ですが、彼女はフラット・ピッキング、ポールマンは親指フィンガリングなので、サウンドもプレイも大きく異なります。

ヴェンチャーズに似ているって? それなら、レイ・ポールマンがヴェンチャーズの録音のレギュラーだったと考えるのが論理的思考というものです。ビーチボーイズのほうが似ているって? そりゃそうでしょう。ポールマンはビーチボーイズ初期のレギュラー・ベーシストです。しかし、彼はそろそろテレビの仕事が忙しくなるので、このあたりから、次の世代が登場しはじめます。キャロル・ケイ、ジョー・オズボーン、ラリー・ネクテルたちです。でも、それはべつの話。この時期は、フェンダー・ベースに関するかぎり、レイ・ポールマン王朝です。

◆ ギタリストの問題 ◆◆
スローンは前出のインタヴューで、金がなかったので、ファンタスティック・バギーズのギターはすべて自分が弾いた、1963年製フェンダー・ジャズマスターを使った、といっています。たしかに、バギーズ/ジャン&ディーン盤のSummer Means Funの間奏はジャズマスターの音に聞こえます。

ブルース&テリー盤の間奏はだれだかわかりません。グレン・キャンベルあたりでしょうか。われこそと思う方は、どうぞ、コメントに推測なり断定なり憶測なりを書き込んでください。

リズム・ギターについては、ブルース&テリー盤と、バギーズ/ジャン&ディーン盤を比較すると、ブルース&テリー盤のほうが血湧き肉躍るすばらしいカッティングをしています(というより、それを強調するミックスになっています)。ブルース&テリー盤Summer Means Funの特徴は、このリズム・ギター部隊だといっていいほどです。左チャンネルに一体化されてしまっているので、分離はむずかしいのですが、すくなくとも4本、ひょっとしたら5本のギターが入っているでしょう。

1本または2本は、低音弦を8分でストロークし、チャック・ベリー・スタイルで5度と6度の音を交互に入れています。2本ないしは3本は高音弦まで鳴らすストロークで、ときおり16分のダブル・ストロークをする、おそらくはアコースティック・ギターが印象的です。

しかし、この16分のダウン&アップは、ブルース&テリー盤ほど印象的ではありませんが、バギーズ/ジャン&ディーン盤でもちょっと使われています。スローンという人は、わたしが思っていたより、ずっとすばらしいリズム・ギタリストなのかもしれません。

◆ クレジット―信ずべきか、信ぜざるべきか ◆◆
じつは、わたしはスローンの言葉を百パーセント信じる気にはなれないのです。ほんとうに金がないなら、オフにミックスされ、ほとんど聞こえないピアノなんか、いらないじゃないか、50ドル節約しろよ、と思います。

プレイヤーの料金など、たかがしれているから、あってもなくてもいいけれど、あれば音にすこし厚みを加えてくれるピアノを入れたのじゃないでしょうか。たかが3時間50ドルです。だとするなら、ギターだって、音質を犠牲にしてまで、オーヴァーダブを繰り返す必要はありません。もう50ドルの追加で、名うてのエースが、不平もいわずに、注文どおりにリズム・ギターを弾いてくれるのです。

その傍証になるのではないかというクレジットをお目にかけましょう。ライノ・レコードの「Cowabunga!」という、サーフ・ミュージック・ボックスに付されたブックレットに出てくるものです。

f0147840_2045183.jpg

ここにはトミー・テデスコの名前があります。バギーズのギターはすべてわたしだ、というスローンの主張を、このクレジットは否定しています。

しかし、このボックス・セットのクレジットには、納得のいかないものも散見するので、全面的に信用しているわけでもありません。たとえば、ビーチボーイズのSurfin' U.S.A.のリード・ギターがカール・ウィルソンだなんて、昔はいざ知らず、いまどきそんな「公式発言」を信じる人がいるのでしょうか。

f0147840_204682.jpgいや、昔の音楽の研究は、ウソと記憶ちがいと誇張が生み出す誤情報との終わりなき戦いなのだといいたいだけです。データより、まず自分の耳を信じましょう。耳が肯定したときに、はじめてデータが意味をもつのです。わたしの耳は、バギーズのギターはすべてオレだ、というスローンの談話を否定します。録音にかかるコスト計算からいっても、録音現場のありようからいっても、当時のハリウッド音楽界のあり方からいっても、できあがった音からいっても、スローンの談話は不合理です。誇張ではないでしょうか。

◆ ビーバップとサーフ・ミュージック ◆◆
この時代、リズム・ギターで売った人はなんといってもキャロル・ケイでしょう。彼女の教則ヴィデオとトミー・テデスコの教則ヴィデオを見ると、コードについて、同じことをいっています。ストレートなコードは絶対に使わない、かならず代用コードを使う、というのです。キャロル・ケイにいたっては、たとえばジャン&ディーンの曲ではこのように弾いた、と模範演技までやってくれています。

f0147840_20465353.jpg
キャロルのBefore and After。エピフォン・エンペラーからフェンダー・プレシジョンへ。

では、どういう代用をするかというと、ケイは、たとえば指定がG7なら、D♭7を使うといっています。ケイはビーバッパーですから(子どものころはチャーリー・クリスチャンのファンだったそうです)、5度のフラットというテンションを好みます(この音がバーニー・ケッセルのプレイを経由して、アントニオ・カルロス・ジョビンに受け継がれ、ボサ・ノヴァ独特のコード・ワークが誕生した)。Dフラットの5度はAフラット、これを半音下げれば、もちろんGです。はい、5度をフラットさせるだけで、魔法のように、D♭7がG7に近似した和声構造に化けました。

このようにして、ビーバップのジャズ・プレイヤーの和声感覚が、ハリウッドのポップ・ミュージックに忍びこんでいき、たとえばジャン&ディーンのリズム・ギターに特徴をあたえました。ちなみにトミー・テデスコもビーバッパーです。

バギーズ盤とジャン&ディーン盤のキーはGで、ブルース&テリー盤だけBフラットです。これはリード・ヴォーカル(テリー)の音域からきた変更でしょう。「Summer Means Funその1」の冒頭においた作り話で、キャロル・ケイにキーのことをいわせたのは、わたしのイタズラです。彼女が、ジャン&ディーンは同じコード進行ばかりで退屈だったとコボしていたので、それをもとに話をでっち上げました。

◆ さて、ナンバーワンの栄冠は…… ◆◆
テリー・メルチャーは、家で音楽を聴くのは好きじゃない、カーラジオで聴くのが好きだといっています。アメリカのAMラジオの主流だった、リミッターをかけて高音部が存在しないかのようにしてしまった音を好んだわけです。日本ではFENがそういう音にしていました。わたしには懐かしい音です。同じ曲でも、日本の放送局で聴くより、ずっとクールに聞こえたものです。ブルース&テリー盤Summer Means Funも、中音域と低音域にアクセントがあります。

f0147840_20472868.jpg
パサディーナの豪快おバアちゃんはCDになって縮んでしまったが、しなびたわけではない。それをいうなら、LPのときからしなびていた。

さて、そろそろどのヴァージョンがいいかを決めなければと思うのですが、はっきりいって、どれも似たようなものです。しかし、あえていうと、サウンドの手触りの差で、わたしはジャン&ディーン盤がよいと感じます。高音域が他のヴァージョンより明るい響きになっているからです。ヴォーカルのピッチの悪さがちょっと引っかかりますが、テリー・メルチャーやスティーヴ・バリーにしたって、エルヴィスでもシナトラでもないわけで、五十歩百歩です。

バギーズ/ジャン&ディーン盤は、おそらく同じトラックであることをごまかすために、音の感触を変えてあります。ミックスもバギーズ盤はトラックがオフですし、リミッターをかけて高音成分をカットしているらしく、同じトラックでも、ジャン&ディーン盤のような明るさがありません。

しかし、ほんとうに好みの問題です。わたし自身、気分によってはブルース&テリー盤の音圧の強さのほうが好ましく感じるときもあります。繰り返しますが、リズム・ギターのグルーヴで血湧き肉躍るのはこちらのほうです。後半の転調するところは、燃えます(「萌え」なんてチャチなもんじゃございません。Burnするのです)。すばらしいのひと言。

「レッキング・クルー」が、一歩引いて、たんなる「日常業務」の一環、それもあまり重要ではないものとして、軽く数テイクで生み出したトラックのすばらしいグルーヴには、いまでも幻惑させられます。こんな音があたりまえのようにつくられていた時代にもどりたいと、深夜、痛切に思うことすらあります。ほんとうにすばらしいプレイヤーたちでした。
by songsf4s | 2007-07-11 20:56 | サーフ・ミュージック