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The Thirty First of June by Petula Clark
タイトル
The Thirty First of June
アーティスト
Petula Clark
ライター
Tony Hatch
収録アルバム
My Love, The Pye Anthology vol.2
リリース年
1966年

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ペトゥラ・クラークは、本国のイギリスではもちろん、アメリカでも多くのヒット曲があり、夫君がフランスのプロデューサーなので、一時は本拠をそちらに移したほどで、フランスでのヒット曲、フランス語によるヒット曲もたくさんあるようです。

彼女がアイドルにはほど遠い年齢になってから、Downtownによってはじめてアメリカでヒットを得たのは、考えてみると不思議な現象です。ビートルズ、デイヴ・クラーク・ファイヴ、サーチャーズ、ハーマンズ・ハーミッツ、ピーター&ゴードンなどのブリティッシュ・ビート・グループが地ならししたあとに、Downtownという強力な曲を絶妙のタイミングで発表したおかげ、といった解釈しかできません。しかし、その後も続々とヒットが生み出されたことを考えると、やはり、ひとたびブレイクしたあとは、ヴェテランの大歌手の実力がものをいったと考えるべきかもしれません。

1964年のビートルズのアメリカ上陸のあと、ブリティッシュ・ビート・グループが「大人の歌手」をチャートから一掃してしまい、「メインストリーム・シンガーの真空状態」とでもいうようなものが生まれたように思われます。ペット・クラークは、ビートの時代に適合したサウンドをバックに、新たな装いのメインストリーム・シンガーとして、その真空状態を埋めた、という見方もできるでしょう。

この「6月31日」という曲は、彼女のアメリカでの2曲目のナンバーワン・ヒットであるMy Loveをフィーチャーした同題のアルバムに収録されています。ペットのパイ・レコード時代のアルバムにはずれはあまりないのですが、これはとりわけよくできたアルバムです。プロデューサーのトニー・ハッチがこのアルバムのために書いた曲の出来がいいことと、トラックのサウンド、グルーヴのすばらしさのおかげでしょう。このThe Thirty First of Juneという曲も、シングル・カットはされなかったようですが、楽曲、サウンド、ペットの歌、いずれもシングル曲にそれほどひけをとらないレベルになっています。

◆ 「6月31日」の意味 ◆◆
太陰暦ではいうまでもなく、太陽暦でも、6月は30日までで、31日は存在しないのはご存知のとおりです(そういうわたしは、呆れたことに、最初はそのことに気づかなかったのですが!)。当然、歌詞のポイントはそこにあります。

ペットの歌でいつも感心するのは、ディクションがきわめてよいことです。もちろん、ディクションの悪い大歌手というのはいませんが、女性なので、ピッチが高く、いっそう聴き取りやすく感じます。だから、長い歌詞でも、リスナーが脈絡を失う恐れはほとんどなく、作詞家は安心して彼女に「当てて」歌詞を書けたでしょう。

「6月31日」は3ヴァースとブリッジという構成で(ジミー・ウェブの本によると、こういう場合は順番も示すために、「ヴァース/ヴァース/ブリッジ/ヴァース」タイプの曲、といったほうがよいらしいのですが)、ファースト・ヴァースはつぎのようになっています。

Tears roll down my cheeks, can't you see them glisten?
I've tried to talk to you but you just won't listen
And though I wait each day and hope and pray
Your love will come on soon,
It's as far away as the thirty-first of June

だれかよく見かける男性への片想いというテーマであることがわかります。通りや駅などで見かけるのか、職場で見かけるのか、そういうディテールは最後まで明らかにされません。「あなたの愛があらわれるのを毎日待ち、願い、祈っているけれど、それは6月31日のようにはるか彼方のこと」というのは、つまり、存在しない日は永遠にこない、ということの強調表現です。

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セカンド・ヴァース後半はこうなっています。

You're always on my mind and yet I find
I'm reaching for the moon
You're as far away as the thirty-first of June

おやおや、また六月に引きずられて「お月様」が出たか、と思いますが、「reach for the moon」は慣用句で、辞書には「とうてい不可能なことを望む[企てる]」とあります。「いつもあなたのことを思っているけれど、そんなことはまったくムダなことにも思える」というわけです。

もっとも、作者のトニー・ハッチがここで「月」を持ち出したのは、たぶん、「お月様と六月の花嫁」の慣用句を連想し、リスナーの共感を得る小さな仕掛けになると考えたからでしょう。ちゃんと伝統にのっとってmoonと脚韻を踏んでいますし。

以下は、サード・ヴァースの末尾、エンディングのリフレインのところです。

And I'll be waiting here till the thirty-first of June
You're as far away as the thirty-first of June
Yes, you're as far away as the thirty-first of June

わたしは6月31日まで待ちつづける、あなたは6月31日のように遠くにいるけれど、というわけで、存在しない日まで待ちつづける、つまり、永遠に待ちつづける、と締めくくられています。

シングル・カットして、ヒットにいたったかどうかは微妙ですが(ヒットするには、もっとキャッチーで覚えやすいリフレインが必要でしょう)、アルバム・トラックとしてはなかなか魅力的です。こういう曲がおいてあると、アルバムが引き立ちます。The Show Is Overと並ぶ、彼女の隠れた佳曲でしょう。

ところで、なぜ4月31日でもなければ、9月でも、11月でもなく、6月31日なのでしょうか。やはり、トニー・ハッチも「六月の花嫁」を連想し、リスナーにも同じ連想をしてもらおうと考えたのでしょう。六月が女性にとっての幸福の象徴だから、ほかの月ではなく六月を選んだにちがいありません。

◆ ニューヨーク録音? ハリウッド録音? ◆◆
Sequel Recordsによるアルバム「My Love」のリイシューCDのライナーを読んでいて、疑問に感じた点があります。このライナーには、「彼女にとって初めてのニューヨーク・セッションののち、このセットは人気絶頂期に発売された」とありました。ほんとうにそうでしょうか?

NYのエース・ドラマー、ゲーリー・チェスターの教則本「The New Breed」に付された彼のディスコグラフィーには、ペットのDowntownがリストアップされています。この曲および同題のアルバムは1965年リリース、The Thirty First of Juneが収録されたアルバムMy Loveは翌66年のリリースです。チェスターがいつものようにホームグラウンドのNYでペットのトラックを録音したと仮定するなら(ふつう、超一流スタジオ・ドラマーは、そのキャリアのピーク時には、他国はもちろん、よその町にいくことすらめったにありませんでした)、このアルバムは「彼女の初のNYセッション」ではないと考えられます。

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ニューヨークのエース・ドラマー、ゲーリー・チェスターのディスコグラフィーにはDowntownがリストアップされている

さらにいうと、ハリウッド(いや、60年代アメリカの)のエース・ドラマー、ハル・ブレインの回想記「Hal Blaine & the Wrecking Crew」に付された彼のトップ10ヒッツ・ディスコグラフィーには、My Loveがリストアップされています。

ひとたびスタジオを押さえたら、通常は3時間のセッションをおこない、たいていの場合は4曲録音します。ミュージシャン・ユニオン所属のプレイヤーの料金は、3時間が1単位なので、たとえ3分で録音が終わっても、3時間分の料金はかならず払わなければいけないのです。したがって、1曲だけの録音というのは、当時のポップ・セッションではまれでした。My Loveでプレイしたハル・ブレインは、他の複数の曲でもプレイしたと考えられます。

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ハリウッドのドラマー、ハル・ブレインのトップ10ヒッツ・ディスコグラフィーには、My Loveがリストアップされている

たとえば、あるスタジオで収録したバックトラックのテープをもってツアーし、時間を見つけて、べつの町のスタジオでヴォーカル・オーヴァーダブをおこなう、というような場合、ヴォーカル・オーヴァーダブをおこなった土地またはスタジオを「録音場所」としているセッショノグラフィーがあります(たとえば、レスリー・ゴアのボックスに付された録音データ)。My Loveのオリジナル盤にも、そうした意味でNY録音と記されているのかもしれません。

しかし、ヴォーカルはどこで録ってもたいしたちがいはありませんが、トラックは収録した土地によって大きく異なります。プレイヤーもエンジニアもスタジオ特性も機材もちがうのだから、当然です。

ハル・ブレインがリストアップしているMy Loveのみならず、このThe Thirty First of Juneも、典型的なハリウッドのサウンド、典型的なハル・ブレインのプレイに思えます。この曲で聴かれるキック・ドラムの踏み込みによる強調や、左手がスネア、右手がフロアタムで、両手ユニゾンで叩く4分のフィルインとその抑揚のつけ方は、ハルのトレードマークです。

NYで録音したとしたら、それはヴォーカル・オーヴァーダヴのみと考えます。すくなくともトラックはハリウッド録音、ドラマーはハル・ブレインでしょう。Downtownでプレイしたゲーリー・チェスターも、My Loveはリストアップしていません。
by songsf4s | 2007-06-30 17:19 | 六月をテーマにした歌