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Rainy Day in June by the Kinks  ライター:Ray Davies
タイトル
Rainy Day in June
アーティスト
The Kinks
ライター
Ray Davies
収録アルバム
Face to Face
リリース年
1966年
 
 
 
 
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◆ 物語作家と画家の描写力 ◆◆
キンクスのレイ・デイヴィーズは、ロックンロールのチャールズ・ディケンズとも呼ぶべき作詞家で、60年代終わりから長いあいだ、アルバムを長編小説のように構成し、その各曲を章のように書きつづけました。

この曲は、初期のストレートでヘヴィーなロックンロールから、思索的な方向、物語性を強めたソングライティングへと大転換するきっかけとなったアルバム、Face to Faceに収録されたものです。レイ・デイヴィーズのソングライティングのもうひとつの特徴、視覚的情景描写だけで全編が構成されたやや異例の歌詞です。レイ・デイヴィーズの絵は見たことがありませんが、アート・スクール出身のこのソングライターが、きわめて絵心に富んでいたことは、Waterloo SunsetやAutumn Almanacのような佳曲の歌詞を聴けばすぐに了解できます。

雨というのは、ポップ・ソングでは、しばしばなにか(たとえば悲しみや困難)の象徴として利用されるのですが(たとえばCCRのWho'll Stop the Rainの「雨」は「戦争」の暗喩でしょう)、この曲はそういうことを目指したものとは思えません。悲しみや苦難をパラフレーズした雨ではなく、雨の風景の音による純粋なデッサンなのです。

◆ 日本的な六月の雨 ◆◆
この曲は六連構成ですが、その第五連、

The demon stretched its crinkled hand
And snatched a butterfly
The elves and gnomes were hunched in fear
Too terrified to cry

という描写はいかがでしょうか。悪魔はそのしわだらけの手を広げ、蝶をつかんだ、エルフやノームは恐怖にうずくまり、恐ろしさのあまり泣き声をあげることもできずにいる、というのだから、絵だとしても、これは印象派などではなく、ヒエロニムス・ボスあたりをイメージしたほうがよさそうです。エルフは妖精、ノームは辞書によれば「地中の宝を守る地の精で、しなびた醜い老人姿の小人」だそうです。デーモンとの対比でもちだされたものです。

もちろん、これは悪魔や蝶の描写ではなく、黒ずんだ雨雲が広がっていくようすの暗喩です。エルフやノームは、デーモンに導かれただけで、重要な意味はないでしょう。人々が突然の雨に手で頭をおおっているさまの暗喩ではないでしょうか。

ここに描かれた六月の雨は、日本人にはじつにわかりやすい陰鬱なものです。やはりイギリスは雨の国なのだと思いました。アメリカ人がイメージする六月とはまったく異なっています(もっとも、後年のSchool Daysという曲では、レイ・デイヴィーズ自身、Juneという言葉でまたべつのイメージを喚起しようとしていますが)。

◆ タブローへの助走 ◆◆
まだシングル・ヒットがつづいていた時期ですし、このあともLolaのような大ヒットが出ますが、もうすでに、レイ・デイヴィーズはポップ・スターではない何者かになりたくなっているのではないかと感じます。いくらアルバム・トラックでも、人気と売上げだけを重視する人は、こういう歌詞は書かないでしょう。我が道を行こうとしているように感じます。Walterloo Sunsetのような秀作タブローにはなっていませんが、レイ・デイヴィーズは、こういうデッサンを積み重ねることによって、大作の制作準備をしていたのだと思います。

雨の曲を探しているうちに、長いあいだ聴いていなかった曲に再会し、大好きな画家の知られざる習作を筐底にみつけたような気分になりました。秀作でないどころか、完成品ですらありませんが、レイ・デイヴィーズがのちに進んだ方向を、すでにして明瞭に示している小品デッサンです。こういう視覚的情景描写の実験を繰り返すことによって、ディケンズ的大伽藍を構築できるだけの「腕力」をつけていったのでしょう。
by songsf4s | 2007-06-30 17:14 | 六月をテーマにした歌