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A Salty Dog by Procol Harum
タイトル
A Salty Dog
アーティスト
Procol Harum
ライター
Gary Brooker, Keith Reid
収録アルバム
A Salty Dog
リリース年
1969年
他のヴァージョン
live version of the same artist
 
 
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◆ 詩人がつくったバンド ◆◆
ふつうのリスナーは、プロコール・ハルムの曲としては、A Whiter Shade of Pale、つまり「青い影」しかご存知ないでしょうが、このデビュー・ヒット以後もバンドは存続しつづけ、出来のよい盤もリリースしています。

このバンドは、キース・リードの悪夢のような詩を音楽にするために生まれました。それが「青い影」です。あんな気味の悪い詩の曲が大ヒットしたことも不可解ですが、それを商品の宣伝に使うなどという発想は、じつにもって驚かされます。しかし、リードはすぐれた詩人です。子どものころからリードの詩には苦しめられてきたので、目的に添って注意深く言葉が選択されていることだけはよく承知しています。

このA Salty Dogは、1969年にリリースされたサード・アルバムのタイトル・カットであり、アルバム・オープナーであり、シングルにもなりました。しかし、デビュー曲の圧倒的なヒットに災いされたアーティストの典型で、このすぐれたシングルも音もたてずに消えました。

全体的に見れば、このアルバムは彼らの代表作といっていい出来で、バンドとしてある地点にたどり着いたことがわかります。でも、同時に、3枚もやれば煮詰まってしまう、という原則も当てはめられます。これがピークで、あとはアーティスティックに見ても、コマーシャリズムからいっても、下り坂でした。

◆ 海の冒険物語 ◆◆
しかし、そういうことは、ここでは重要ではありません。歌詞、それもたった1行だけが問題なのです。キース・リードの歌詞をきちんと聴き取れたことなど一度もないので、プロコール・ハルムのオフィシャル・サイトにいって、歌詞を読みました。

1行がむやみに長いものの、形式上、4行1連の3ヴァース構成とみなしていいようですが、サウンド的には、各連の前半2行がヴァースに、後半2行がコーラスに聞こえます。コーラスでのバリー・J・ウィルソンの派手なドラム・フィルは、今聴いてもほれぼれしますが、それもここでは無関係。

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遅れてきた象徴派詩人と「ドラマー詩人」 キース・リード(左)とバリー・J・ウィルソン
このアルバム全体が、スティーヴンソンの『宝島』やジョゼフ・コンラッッドの諸作などの英国海洋冒険小説に着想を得、そうした伝統に寄り添う形で書かれた、海と航海の物語になっています。その冒頭であるこの曲の、そのまた冒頭は、海事用語を使いながら(たとえば、ファースト・ラインに出てくるAll hands on deck!というのは、「総員、甲板へ!」という海事熟語。この場合のhandは乗組員を指すそうです。明快に解決してくれた海事用語集に感謝)船出と航海のようすを簡潔に描写しています。

さて、サード・ヴァースの後半はこうなっています。苦難の航海ののちに、ある場所にたどり着いたというくだりのあとに出てきます。

Now many moons and many Junes have passed since we made land

リーダーズ英和辞典では、

make (the) land=sight the land 【海】 陸を認める, 陸地の見える所へ来る

となっているので、この行は「最後に陸地を見てから多くの月日が流れた」と解釈できます。航海の辛苦の描写を補強する一行なのです。

◆ キース・リードの「六月」 ◆◆
June NightやBoth Sides Nowに登場したmoonとJuneのように、六月の花嫁や少女趣味を連想させるものは、ここにはまったくありません。ここでの「月」はたんなる「月日」をあらわし、Juneは、moon(=month)に引っ張り出された装飾的な単語にすぎません。慣用表現を援用しただけ、文化的伝統に「半分だけ」したがったまでのことです。

「青い影」の歌詞は、なんのことかさっぱりわからず、ただ何度も繰り返される「彼女の顔が蒼白になった」(これがタイトル。青い影などというロマンティックなものではなく、顔色が悪くなるのです。伝統的英国恐怖小説を韻文化したものに思えます)という不気味な一行だけが印象に残るものでした。

それに対して、このA Salty Dogは、キース・リードにしては、意味するところを汲み取りやすい作品ですが、こういう風に慣用句をひとひねりして使ってくるところに、やはりこの人がただ者でないことがあらわれていると感じます。中学生のときから、彼の詩に「いじめ」られつづけてきたための「被害妄想」でしょうか……。
by songsf4s | 2007-06-28 23:58 | 六月をテーマにした歌